しあわせな気持ち
唯は料理を作るのが好きだ。
特に誰かの為に料理を作ることはとても楽しい。
おいしい、と言って欲しい、笑顔になって欲しいと願い、その人を思い浮かべながら料理を作るのは、何よりも楽しいと思う。
自然と笑顔を浮かべていたのだろうか、部活の朝練の為に出かけようとしていたゆかりが足を止めて不思議そうに唯を見た。

「あれ、今日は二つ作ってるの?」

目ざとく二つ並んだ弁当箱を見つけたらしいゆかりに問われ、唯は笑顔のまま、うん、と頷いた。

「ちょっと、誰のよー?まさか男?」
「生徒会のお友達と食べようと思って」
「ふうん…?ただの友達の割には気合の入ったおべんとじゃない?」

ゆかりが含みのある言い方をするのは完全に疑っているからだろう。
事実好きな相手に弁当を作っている身としてはその疑いの眼差しをどうすることも出来ず、曖昧に微笑んで誤魔化そうとするのが精一杯だ。
それを見抜いたゆかりは最早部活の練習時間などどうでもいいらしく、にやりと笑って距離を詰めてくる。

「好きな相手に作ってるってのはわかるのよ」
「ええ?」
「だって女の子の友達とか大してなんとも思ってない男に作ってやるおべんとにそんなこまごましたことめんどくさくてあたしだったら絶対しないし」

そう言って指差された半分ほど中身のつめられた弁当箱の中には唯が朝から一つ一つ丁寧に作り上げたおかずが数点。栄養も彩りも考えて、出来るだけ色んな味を楽しんで欲しくてたくさん詰め込もうとしたのだが、それでは重箱でも足りそうに無かったので仕方なく一つ一つの大きさを小さく変えた。
已むに已まれずそうなっただけなのだが、どちらかと言えば大雑把なところのあるゆかりからしてみれば、めんどくさそうとしか思えないのかもしれない。弁当箱を覗き込むゆかりの表情は感嘆とも呆れともつかない微妙な表情だった。

「…ていうかさ、生徒会の男であんたが仲がいい相手って一人くらいしか浮かばないんだけど…」
「男の子限定なんだ」
「絶対男。あたしの勘がそう言ってるもん!」

誰とでも愛想良く柔和な態度で応える唯は確かに人気が高い。が、それゆえに高嶺の花扱いで一定以上距離を縮めようとする男子生徒は意外と少ないのだ。
だから、とゆかりはアタリをつける。
ここまできたら誤魔化すのは無理か、と唯はゆかりが口にするより早くその名を告げた。

「小田桐くんにだよ」
「……」
「ゆかりちゃん?」
「な、なんでまたアイツなの…!?あんたなら他にもほら、美鶴先輩男版みたいなのだって狙えるでしょー!?」

いきなり肩を掴まれてがくがくと揺さぶられる。
あんたと大して背も変わらないし、学校での評判だって悪いし、カッコいい訳でもないじゃないー!と本人が聞いていたら相当に失礼なことを並べ立ててゆかりが訴えてくるけれど、唯にしてみればそんなものはどうだっていい。
ゆかりがあげたそれらがたとえ学園の女生徒の中では共通とも言える見解だとしても、たとえ不思議がられたとしても、唯が彼を好きな事実に変わりはない。

「どこがいいのよ、あんな奴…」
「真面目すぎて不器用なとこ。あと優しいよ?」
「あたしにはさっぱりわかんないわ…」

はあ、と盛大な溜息をついてゆかりが項垂れる。
それでも唯は彼のことが好きだし、彼だって自分を好いてくれている。ただ、彼の中で、まだそれを望んではいけないと律しているから、未だ友達のままに甘んじているだけだ。

「でもね、ゆかりちゃん。小田桐くんはいつかきっとね、びっくりするくらいかっこよくなるよ」

そう言ってとびきりの笑顔で返せば、ゆかりは少し面食らったように瞬いて、それからふっと笑った。

「ま、いいんじゃない?色々突っ込みたいとこはあるけど、あんた楽しそうだし」
「うん、今すっごく楽しい」

はい、あーん。とおかずの残りをゆかりの口元に差し出す唯は口にした言葉通りゆかりから見てもとても楽しそうだった。
差し出されたそれをぱくりと口に含んで、おいしい、と返した後、ゆかりは思い出したように時計を見る。
唯が変なこと言い出すから遅刻だよー!と朝から慌しく寮を出て行くゆかりを手を振って見送って、唯は弁当作りの仕上げに取り掛かった。
(おいしいって言ってくれるといいなあ)

    

昼休み、生徒会室に呼び出して弁当箱を差し出すと小田桐は彼にしては珍しく狼狽した様子で、差し出された包みをどうしていいか計りかねているようだった。

「おべんと作ってきたの。食べよう?」
「いや、だが、」
「大丈夫、美鶴先輩に頼んだの。誰も来ないし、誰も見てないよ」

彼はとても人目を気にする。唯はまったく気にしていないのだが、彼自身は自分が評判が良くないと思っていて、そんな自分と一緒にいては唯に迷惑がかかると言うのだ。
付き合ってはいないものの、好き同士なのだから別に一緒にいればいいと思うし、間違いなく唯は一緒にいたいと思う。
それでも彼の気持ちを無視したくはないから、唯に出来ることといえばこうして美鶴に頼んで場所を提供してもらえるよう頼むことくらいだ。
気付かれないようにそっと小さく溜息を零し、それから精一杯笑顔を作って唯はもう一度、食べよう?と言った。

「口に合わなかったらごめんね?でもがんばったんだよ」
「…そうか」
「あ、でもほんとにおいしくなかったら残してもいいからね」

しばらく食べ進めて、小田桐がぽつりと何か呟いた。

「え、なに?」

聞き取り損ねたのでそう訊ねながら覗き込むと、心なしか小田桐の頬が赤く染まった気がした。
どこか不自然な咳払いをして小田桐は先ほど口にしたらしい台詞をもう一度口にした。

「好きな人に料理をつくってもらうなんて初めてだから、…あ、いや人を好きになったこと自体君が初めてなんだが…」

そこで言葉を切り、ふっと笑った。

「こんなに幸せな気持ちになるものなんだな…知らなかった」

言われた唯の方がよほど幸せな気持ちになって、ありがとう、と返したら、小田桐も同じようにありがとうと言ったらしく声が重なる。顔を見合わせた後、思わず二人して肩を揺らして笑った。

               


リハビリに小田主。
うん、なんか、ピュアかつ不器用な感じが小田主だよなー。でも主人公ががんばらないと進まないんだよなー。ということで色々美鶴先輩にお願いしてみた唯ちゃん。
前半というかかなりゆかりが出張ってるのは女の子同士の会話が楽しくて。ゆかりからしたらなんでソコ狙い!?とか思うだろうなーと。
…てゆか、たまには押せ押せな小田桐とか書いてみたい。

               

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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