ハッピーエンド
ペルソナを操るようになって、ベルベットルームに訪れるようになって、イゴールとも補佐役のテオドアとも親しく話すようになった。
特にテオドアには時折頼まれて唯の世界の色々な場所を案内もした。
ベルベットルームにいる時の彼はいつも落ち着き払っていて如何にも仕事が出来るタイプの人間だったが、ひとたび外へ出て知らないものに見て触れた時の彼は、唯よりもおそらく年長であろうというのに妙に子供っぽく見えた。
瞳をきらきらと輝かせてあれは何ですかと聞く姿も、得意げに間違った知識を知ったかぶって説明する姿も、ベルベットルームで見る彼とはまったく違うものだった。
だんだんとそんな姿を見るのが楽しみになって、いつしか依頼に応える義務ではなく彼に自分の世界を見せたいと思うようになっていた。
たとえばよく行く商店街だとか、たとえば自分の通う学校だとか、たとえば小さな神社だとか。
そういうところに連れ出すと、やたらと彼は嬉しそうで、けれどその内、どこか悲しそうな顔をするようになった。
それがどんな意味を持つのかその時の唯は知らなかった。
ただその頃には唯は自分の内にある感情が恋であると気付いていて、無心に恋心にしたがって行動していた。
普通の女の子がそうであるように、ただ彼を好いて、ただ彼の傍にいたかった。
彼が交わってはならぬ世界の住人であることも忘れて、ただ共に在りたいと願っていた。
その、よく言えば屈託の無さ、悪く言えば無神経さがテオドアを傷つけ、また癒し、罪を犯させ続けた。双方がそれに気付いた時にはすでに遅く、後戻りの出来ないところまで来てしまっていた。
それを知らぬふりをしようとした唯と、戻れない道をどうにか戻ろうとするテオドアとの間に決定的な差異が生まれていた。

「これで最後です」

そう言って彼が唯の部屋に訪れた時、唯もある種の覚悟を決めていた。
何故最後なのだと問えるほど、無知な子供ではいられなかった。

「永遠に貴女だけを愛し続けます」

けれどこの想いは罪だから、これ以上は共にいられない。最初の頃のようにただの補佐役と客人に戻りましょう。
彼にとって、これ以上ないほど苦しんで、これ以上ないほど哀しんで、悩みぬいた末の結論だったのだろう。
だから唯には何も言えることはなかったし、何を言ったところで彼を苦しめるだけだとわかっていたので想いが唇から言葉となって溢れ出ることは無かった。
伸ばされた手が怖々とした様子で頬を撫でる。最後ならば最後らしく、けれど一生の思い出になるように。
制服のボタンにかけられた指先にも唯は何も言わず目を閉じるだけに留めた。

「今だけは、何も考えないでください」
「今だけは、何の制約もないただの恋人みたいに傍にいて」

それは恋だった。
けれど許されぬ恋だった。

必要以上に干渉してはならないはずの世界に興味を持ってしまったテオドアが悪か。そのテオドアに好意を寄せた唯が悪か。それに倣うようにテオドアが唯に好意を寄せたのも、恋心が故に無心に彼を望んだ唯もどちらも何も悪くはない。
ただ、世界が違いすぎ、恋い慕う気持ちだけではどうにもならない壁が二人の間には横たわっていた。

最後だと言ったテオドアの言葉も、そう言わざるを得なかった彼の気持ちも、わからぬ訳ではなかったが、それでも一縷の望みを託して唯はベルベットルームに訪れる度、テオドアを外へと誘った。
障害があればあるほど燃える、というような可愛らしいものではなく、ただ悲痛なまでに彼と共に過ごしたいと思うが故の我侭だった。
けれどその我侭は叶えられることはなく、悲しげに微笑むテオドアに唯はその内外へ誘うことはしなくなった。
なかったことには出来ない気持ちを押し隠し、当初のように客人と補佐役に戻ったふりをして日々を過ごした。

世界が死に飲み込まれる。
宣告者が訪れ、絶対の者が降りてくる。
最後の最後、意識を失う寸前、思い出したのは悲しげな微笑みと壊れ物を扱うように触れてきた少し温度の低い指先だった。

(ここ…ベルベットルーム…?)

気付いた時にはベルベットルームの椅子に腰をかけていた。
ニュクスと戦っていたはずなのに、と慌てる唯の肩にひんやりとした手がぽん、と置かれた。
目の前にはイゴール。背後を振り返ると、複雑そうな表情をしたテオドアがいた。

いくつかのやりとりの後、渡されたユニバースのカードを手にベルベットルームから出ようと椅子から立ち上がる。けれどその足は数歩歩を進めただけで立ち止まってしまった。
こんな時なのに彼ともう少しの間共にいたいと思ってしまったのは、唯がただの少女であったからだ。
たとえ世界の命運を託されていようと、世界を飲み込むほどの死と戦おうとしていようと、彼女はどこにでもいるただの少女だった。
もう二度と逢えないかもしれない。元々住む世界の違う人だ、それも仕方がない。そう思うのに、それを納得出来ない恋心が、世界を救うより何より、ただ一人の人を求めてしまった。
扉を前に振り返らないまま唯は言う。

「ねえテオ…もし、もし戻ってこられたら、唯と、…もう一度だけでいいから、」

一緒に出かけてね。一緒に、前みたいに、デートしてね。
それは言葉にならなかったけれど、耐え切れず振り返って見たテオドアは悲しそうに悲しそうに、けれど優しく微笑んでくれた。
背後のイゴールもただ優しく笑うだけでそれを叱責することもない。優しいベルベットルームの住人たち。
ニュクスと、死と戦うのは、大事な友人たちとその世界を守りたいから。けれど生きて戻りたいと思うのは、やはりただ一人の為だった。

「行って来ます」
「いってらっしゃいませ、唯様」
「お気をつけて、稀有なお客人」

今度こそ振り返らず扉に手をかけて、戦いの場に戻った。

  

それからどれだけの月日が流れただろう。
世界には平穏が戻り、人柱よろしく世界に溶けた唯を救う為、今度はテオドアが奔走した。
イゴールもそれについては特に何を言うでもなく、新たな客人には新たな補佐役を据え、テオドアが望むようにするといいと言って背を押してくれた。気難しげな外見に似合わず、ベルベットルームの主はそういった面については寛容だった。
文字通り東奔西走して世界と同一の存在になった唯を救い出すには相応の時間と労力を費やした。
唯が生きていた世界では唯は死亡したこととなり、元の生活に戻ることは出来そうになかったし、さすがにそこまで元通りに出来るほどの力量をテオドアは持ち得なかった。
けれど、最後の戦いの折に見せた泣き笑いの表情で交わした約束だけでも叶えたかったのだ。

(おかえりなさい、今度こそ、私の腕に)

必死になって唯を求めた。
不可能を可能にする為には短くはない時間が過ぎてしまって、久しぶりにその身体を抱きしめた時には、あまりの懐かしさと愛しさに我知らず涙を流してしまったほど。
おかえりなさい、と言ったテオドアに、唯は戸惑ったように瞬きをして、それから春の訪れがそこにあるようにふうわりと笑って、ただいま、と言った。
唯が唯の世界での居場所をなくしたことが幸いしたと言ったら不謹慎に過ぎるかもしれない。
けれど、だからこそテオドアは彼女と共に寄り添うことが許されたのだ。

今唯はテオドアやその姉たちと同じく青を基調とした服に身を包み、以前の彼女と同じように現れた客人をもてなしている。
罪でしかなかったはずの恋心が幾つもの偶然と必然により奇跡を呼んだのだと言ったら、余りにも陳腐な表現かもしれない。
けれどそれでもいい。どんなに傍から見て陳腐であろうと滑稽であろうと当人たちはいつだって必死だ。臆面も無く奇跡と言う言葉を使ってしまえるほど。
今はもう、繋いだ手を咎めるものはない。

               


ごっつごうしゅぎぃー!!(ご都合主義といいたい)
いやほら、P4の世界を救うために人柱になった者を救うため云々の辺りをテオと唯に置き換えてさ、巧くいって救い出したとしても葬式とか済んで戸籍ないのに元の生活には戻れないよねって思って、だったらテオと一緒にベルベットルームの住人になったらいいのにと…。
それが唯一テオハムのハッピーーエンドかなと。もっとどろどろぎすぎす痛い感じでもいいんですが、うちのハム子は唯ちゃんなのでそれは合わないなと。これがまた違うおうちのハム子でテオハムを考えたら違うんだろうけど。

               

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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