透き通った青い瞳、と彼がバジルの瞳を指して言った。
いつものように眉間に皺を寄せた表情ではなく、ただ淡々と。
だからバジルは、宝石のような翠の瞳、と獄寺の瞳を表現して笑った。二人の瞳がもし混ざり合ったら、それはきっと、嘘のようにきれいな海の色になるのに。
絵の具ではないから混ざらない。それを残念に思う。
たとえ眼球を刳り貫いても混ぜようもない。
彼はとてもきれいな色彩を持っていたけれど、その中でも瞳の色は本当にきれいな色をしていた。
自分の瞳の色も嫌いではない。けれど青みがかった瞳の色は慣れ親しみ過ぎて何の感慨も浮かばないだけだ。
反して獄寺の色は店に並べられる宝石のように価値のあるように思った。自分の瞳の色を言われるまで、彼の瞳の色を気にしたことはなかったのだけれど。
「緑と青って混ぜたらエメラルドグリーンだよな」
紫煙と共に吐かれた獄寺の台詞に、そうですね、と返す。
そう。エメラルドグリーン。宝石の色。海の色。同じことを思ってくれたことが何故か嬉しくてバジルは笑った。
それに獄寺は少し怪訝そうな顔をしたけれど、すぐに眉間の皺は解かれた。
「嘘みたいにきれいな海の色になると思うんですよね」
「何が?」
「拙者の瞳の色と、獄寺殿の瞳の色を混ぜたら」
頭の中で想像してみたのか、やや間があって。
それから獄寺は彼にしては珍しく、ツナ以外の人間に対して屈託なく笑った。
「そうだな」
さすがに瞳の色は混ざらないけど、と続ける獄寺に、バジルは混ざればいいのにと思った。
ふと思いついて、獄寺との距離を縮める。
バジルよりも少し高い位置にある瞳がバジルを映した。緑色の中にいる自分。
じっと瞳を見つめるバジルに不思議そうに獄寺が問う。
「何してんだ?」
「獄寺殿の瞳に映る拙者の瞳の色を見てました」
「は?」
「すごく小さくて見づらいけど」
彼の瞳に映る自分の瞳は、決して混ざることのないバジルと獄寺の色が混ざり合っている。
それには獄寺も興味を惹かれたようで、口に咥えていたタバコを手にとって遠ざけ、バジルの瞳を覗き込む。
距離が縮んだ所為で獄寺の瞳の中のエメラルドが少し大きく見えた。
さらりと顔にかかる銀の髪が少しくすぐったかった。
「あ、ほんとだ」
「でも少し残念です」
「なんで」
「だって、せっかくの色なのに、こんなに近くでよく見ないと見られないなんて」
「ああ、確かに」
小さく見える、エメラルドグリーン。
たとえばこれが恋人や家族の持つ色彩ならその瞳を覗き込むことも容易いけれど。
獄寺とバジルはそんな関係ではないし、そこまで親しい訳でもない。
今こうして瞳を覗きあっていることだって不思議なくらいなのだ。次はいつ見られるかわからない。やはり残念だ、とバジルは思った。
「また見てえな」
「え?」
「お前の言う『嘘みたいにきれいな海の色』見るの、結構めんどいだろ」
「そうですね」
「金かかったり、時間かかったり、とにかくそんな海見るのって大変だろ」
けど、と獄寺は言う。
「色見るだけなら、こっちのが手軽で安上がりだ。お前、たまに面貸せよ」
そう言って獄寺は笑った。
その所為で瞳の中の色を見ることは出来なくなったけれど、惜しいとは思わなかった。
貴重な彼の笑顔を見て、何故か鼓動が跳ねたけれど。
帰り道、ふと思い立って絵の具とパレットを買ってみた。
緑と青を混ぜてみたけれど、彼の瞳の中で見た色ほどきれいな色にはならなかった。
なぜこんな茨道コンビ!(驚愕)
そして思った以上にすらすら書けた衝撃の事実。
2010/11/01 改訂
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