月下のひと。
細い身体。月明かりに照らされた煌く銀糸の髪。傷だらけになっても尚立ち上がる気高いと言ってもいい性根。
それはまさに。

       

ネオン街でない並盛の夜は闇がすべてを支配する。
照らし出すのは街灯だけで、それすら脇道に逸れれば消え去ってしまう。それが普通であり日常だ。
けれどその日は何故か、普段は申し訳程度の明かりしか持たない月が異様なほど光を湛えていた。

その日、特筆するような何があった訳でもない。
いつものように並盛の秩序を守る為の仕事をして、いつものように歯向かう愚か者を咬み殺して、今に至る。
そんな在り来たりな日常だった。
ただふと空を見上げた時、あまりに月が輝いていたので、バイクを家とは反対に走らせただけだ。
風を切る音とバイクの唸り声だけを聞きながら走り抜ける。
気の向くままバイクを走らせ、気づけば随分と家からは離れてしまっていた。
いい加減腕が疲れてきたので、適当なところで止めて、ひとつ伸びをした。
月の明るい夜はあまり眠くはならない。普段であれば欠伸のひとつもでるところだが今日はまったくそんな気にならなかった。
なんとなく思い立ってその辺を散策してみる。民家も商家もない道はただ草木が生えているだけで何もない道だ。けれどひとつ、とても珍しいものがあることを雲雀は知っていた。
野生では稀な、月下美人という花。夜にしか咲かない、月の下の美姫。鉢植えを誰かが植えたのか、手入れをされてもいないくせに美しく咲く。
せっかく月がこんなにも主張しているのだ、それを見に行ってもいいかもしれない。

しばらく歩くと、鬱蒼と草が生い茂る道から、少し開けた場所に出た。
目的のものを探して辺りを見回していると、白い花と白銀の何かが月明かりに照らされていた。
近寄っていくと、足元に転がるダイナマイトが目に付いた。こんな場所でダイナマイトなど着火されては火事になりかねない。粛清が必要だ、と事情を訊ねてもいないのに雲雀は結論を出した。仕込みトンファーを取り出し改めて歩を進める。

「こんなところで何やってるの?」
「…げ」
「げ、とはご挨拶だね。真夜中の徘徊に危険物所持。わざわざ僕が咬み殺してあげようとしてるのに」
「てめえ自分のこと棚にあげんのかよ」

もちろん今更だ、こんな文句など。
深夜徘徊など粛清していたらキリがないし、彼のダイナマイト所持は常のことだ。けれどここにはあの花がある。それを傷つけられるのは許せない。

「僕は並盛の秩序だからね」

その言葉と同時に、獄寺も身構えた。

          

「ワオ。まだ立ち上がるんだ」
「うるせえ、…だ、まれ」

傷は決して浅くないはずだ。手ごたえも確かにあったし、流れた血も、上がった息も作り物ではないと訴えている。
なのに膝を付くことを良しとしない。大人しく這い蹲って呻いていればいいものを、と思う反面、何故かそれを好ましく思った。
月明かりに照らされた銀糸はきらきらと煌いて、傷を負った細い身体はぐらついているのに、それを億尾にも出さない強い瞳。
その姿が、そうさせたのは自分のくせに何故か哀しいくらいに凛として見えて、雲雀はトンファーを下ろした。

「…やめた」
「ああ!?」
「僕は元々花を見に来たんだ」

獄寺の背後に視線をやる。その先には夜にしか花開くことのない美しい花が咲いていた。
(…?)
傷ひとつない姿に首を傾げる。そう言えば、彼はいつもよりダイナマイトを使う量が少なかった。小さなボムばかりで、確かに一方的なのはいつものこととしても、あまりに呆気なかった気がする。
次いで気づく。その花の周りに散らばる、ダイナマイト以外のもの。ファイルとペン、バッグ。
雲雀の視線に気づいた獄寺が止めるのも構わず近寄ってそれを拾い上げる。

「これ、君の?」

ファイルには小さいけれどきれいな文字で難解な数式や理論が書かれている。もちろん学校の課題などではない。ダイナマイトの軌道と投げる強さ、その種類自体に関しての、いっそ論文と言っていいほどの文章。
振り返って訊ねれば、どこか憮然とした表情で頷かれた。
そう言えば、彼は素行はともかく、成績はとてもよかった。外見だってきれいな色彩をしていたし、粗雑な態度を改めて群れてさえいなければ、雲雀にしては珍しく好印象を持てる相手と成り得たのに。
それより、彼はこの花を知っていたのだろうか。でなければこんな人気も明かりもない場所で勉強(とは言い難いが)をするとは思えない。
ファイルとペンとバッグを適当に放り投げ、声をかけた。

「もう帰ったら?帰るほど体力があるかは知らないけど」
「くそ、」

悔しそうにぎりぎりと歯を食い縛る様は、一瞬、完膚なきまでに叩きのめしたい衝動を雲雀に与えたけれど、さすがにそこまでする気にはならなかった。
獄寺から視線を外し月下美人に向き直る。すっと手を伸ばして触れると少し乾いた感触がした。爆風やら何やらで乾燥してはいるものの、決定的な傷はない。おそらくダイナマイトを少量に留めたのは花があったからだ。彼らしくないと思うと共に、彼らしいとも思う。
月の下、白く美しい花。
(一瞬、この花のようだと思った。)
そう感じてしまったことに対して些かの苛立ちを覚え、それから少し考えてそれを振り払う。

(ああ、そう言えば花言葉は、)

                


驚くほどごっきゅん出てこねえ。
ちなみに花言葉は儚い美。他にも儚い恋、繊細、快楽。ワオ、全部獄寺じゃん!(待て)
とりあえず獄はダイナマイトでの攻撃の効率を上げる為の修行(紙とペンで)をなんとなく落ち着くからとゆー理由で月下美人のとこでしてました。投げる真似事をして放置していたダイナマイトを見咎められていい迷惑です。

2010/11/01 改訂

               

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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