恋じゃないなんて。
哀しいんでしょう。と夢の中で誰かが言った。
声も出せずに頷いて、それでも獄寺は歩き続けた。
長い道のり、長い坂、それらすべてを超えたなら、いつか辿り着ける気がした。
けれど、どれだけ歩いても「そこ」へは辿り着けない。途方もない距離があるからか、一向にそこへ近づいている気配がしなかった。

    

「獄寺くんはね、とてもリボーンに憧れていたんだ。あんな風になりたいって。そして俺の役に立ちたいって」
「へえ?」
「一流のヒットマンだったしね。リボーンは」

抗争中でも、日常でも、一流のヒットマンはマフィアであることを忘れなかった。向かってくる敵は容赦なく叩き伏せ、常に余裕を見せた。ツナは彼の熟睡している場を見たことがない。眠っていても、すぐに行動出来る様に身体に染み付いてしまっているのだと言った。
ボンゴレの右腕はそれに憧れて、射撃から体術からすべてにおいて彼を目指し、必死に近づこうとした。その努力する姿は、いっそ痛々しいほど懸命で、ボンゴレ十代目として彼を気遣っても、十年来の友達として気遣っても、彼はその努力を止めなかった。

「あれはね、ひょっとしたら恋じゃないかって思ったこともあるよ」
「十年前の赤ん坊と獄寺じゃ様にならない言葉だね」
「まあね。でもそれを口にしたことはなかったし、別にそれが俺の思った通り恋でもいいと思ってた」

けれどそれを恋だとは誰も認めなかった。二人とも、そんな甘いものを求めてはいなかった。
ボンゴレに所属するヒットマンとして、ボンゴレの右腕として、ボスを守ること。ボンゴレの為になることばかりを考えていて、そんなもの見ようとしなかった。
愛人を何人も抱えていたヒットマンでさえ、本当に愛を知っているのか不思議だった。傍から見れば好意を向けられているのは明らかなのに、それを恋とも認めなかった。
もしそんな思いがなければ、獄寺はあんな風にならなかったのではないか、とツナは思う。
報告書を提出に来ただけの雲雀が沢田のこんな話に付き合っているのも、獄寺のことを多少なりとも案じているからだ。

           

とても優しい声で、誰かがまた獄寺に言った。
追いかけるの、もう止めなよ。と。
それにゆるく首を振り、また一歩ずつ歩き始める。
諦めが悪いことが自分のとりえだ。必ず辿り着いて見せる。
どこに辿り着きたいのか、何故自分はこんなにも歩き続けているのか、一体何を追いかけているのか、それすら朧気になっていたけれど。

       

いつからか、スーツを着崩すことを獄寺はしなくなった。
あれほどたくさん付けていたアクセサリの数も少なくなり、ボンゴレの右腕として動く時には黒のボルサリーノハットを被るようになった。
ボムよりも銃を使うことが増え、気配を消すことがうまくなり、表情の変化が少なくなった。

まるで、今は亡き、在りし日の彼のように。

「獄寺はちゃんとわかってるの?彼が死んだこと」

それは質問のようで、けれどその実、確認であり、諦めだった。
死んだと告げた瞬間、彼は倒れた。
起き上がった時には何も覚えていなかった。
それから何度か同じことが起きて、誰もそれを獄寺に告げようとはしなくなった。
だから彼は未だにリボーンがいないことを、死んだからだと気づいていない。

「獄寺くんね、いつも聞くんだ。こんな長期になるなんてリボーンさんも大変ですね。いつ帰ってくるんですか?って」
「ワオ。それで君はなんて答えるんだい?」
「めんどくさい仕事ばっかり次から次に頼んでるから、帰ってくるのもめんどくさいんじゃない?って」
「…そう」

いつも通り獄寺は仕事をこなし、いつも通り訓練をし、そしてやってくる。
きっと今日もやってくる。
そしてまた同じようにツナに訊ねるのだろう。邪気無く彼が訊ねてくるから、ツナも先に述べたような事実を知る者が聞けば陳腐でしかない言い訳で返すしか出来ないのだ。

「それが恋でないと言うなら、何が恋なんだろうね」

死を認められないずに帰りを延々と待ち続けて、彼のようにありたいと必死で努力する。彼をなぞるように姿かたちを整える。
心がそんなに壊れてしまうほどの想いを、ただの憧れと片付けられるのか。

        

彼はもういないんだよ。と誰かが言った。
まるで悲鳴のような声で誰かが言った。
朧気になっていた事実に気付き、必死で獄寺は首を振る。そんなことがある訳がない。あの人は一流のヒットマンで、自分の目標で、だから。
だから?
それが、どんな理由になると言うのだ。けれど。
覆い隠した事実を認識してしまったらもう、立ち上がれない気がした。
追いかける声を無視して必死で走る。あの人がいるはずの場所まで、必死で走る。
走れば走った分だけ遠のく距離の理由に、どこかで気付きながら。

        

「十代目、報告書です」
「ああ、ありがとう、獄寺くん」
「雲雀もいたのか。珍しい」
「他愛ない世間話に付き合ってくれたんだよ、雲雀さん」
「さっさと帰りたかったんだけどね」

そして一瞬の沈黙。

「あ、そう言えば十代目」
「何?」

獄寺の言葉にツナは仮面をつけた。事実を隠す為の不本意な仮面を、泣きたい思いで貼り付ける。
それを見ていた雲雀の眉間の皺が濃くなったけれど、獄寺はそれには気づかずにいつものように言葉を吐く。

「リボーンさんていつ帰ってくるんですかね?」

(ねえ、これを君たち二人は恋じゃないと言えるの?)

                


死にネタで申し訳ない。とりあえず呪いが解けておっきくなってるリボーンさんで想像してください(笑)。
恋ってもんを知らなさそうな二人が好き。
…でもなんだってリボ獄書いちゃったかなあ…好きだけど(へたり)。

2010/11/01 改訂

               

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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