こどもでなくなるとき
現実を知り、こどもはやがて大人になる。

マフィアになるということは、いつか、どんな形であれ手を汚すということ。
十五の誕生日を迎えたばかりのこどもは、膝を抱えて小さく震えていた。そして人の家だというのに遠慮をすることもなく彼は一人の世界に閉じこもっている。
咥えていたタバコを灰皿に押し付けて、獄寺は一歩、彼に近づいた。
途端にびくりと肩を跳ねさせるものだから、まるで彼をこんな風にしたのは自分のような気持ちになる。いや、彼をこうしたのはマフィアの仕事の所為で、そして獄寺は間違いなくマフィアの一員で、であるなら、自分が彼を苛ませているのと同義なのかもしれない。

「ランボ」

名を呼べば案外と素直にこちらに振り返る。動作の一つ一つが幼くて、それが余計に哀しかった。
(馬鹿だな、わかってただろ、お前。マフィアが何か、わかってただろ。わかっていて、小さい頃から一流のヒットマンになるんだって息巻いてたんだろ)
理屈で思っているより、現実の感触や感情は甘くなかったのだろう。
泣き腫らした顔で獄寺を見るランボの目は、まだこどものそれだった。困惑と恐れと戸惑いと。救いを求めるようにこどもは獄寺の名前を呼んだ。

「人を殺すのは恐ろしかったか」
「…うん」
「これから何度だってそういうことが待ってんだぞ」
「わかってる」
「どうすんだ、お前」

優しい労わりの言葉でもって彼を包んでやれたなら、少しくらいは救われただろうか、ランボも、自分も。
けれど獄寺はそんな優しさを持ち合わせてはいないし、ランボだってそんなもの期待している訳ではないだろう。期待しているのだとすれば、わざわざ獄寺の家を選ぶこと自体が間違っている。
それでも冷たい声音で問うてしまったことを少しばかり後悔しながら、獄寺はランボの隣にしゃがみこんだ。
やや間があって、

「…殺すよ」

とランボは言った。諦観とも、無感情とも取れる声だった。
こどもらしからぬ言葉と表情の彼に、こどもらしい涙を流す彼に、そっと獄寺はため息を吐く。
まだもう少しの間、彼にはこどもでいて欲しかった。
獄寺は、とうの昔にこどもでなくなってしまった。ランボももう、こどもではいられない時期に来てしまったのだろう。
マフィアという括りの中にいても、ついこの間まで彼はこどもだったのに。
もう少しの間、人を殺すことなど知らずにいて欲しかった。こんな風に苛ませるのは本意ではないし、まだ本当の意味でランボも心構えが出来てはいなかったのだろう。
だからこんなにも一人で苦しんでいるのだ。
両手をついて少しずつ距離を詰める。俯いてしまったランボの表情を伺うように覗き込めば、彼の瞳はこどもの瞳のまま潤んでいた。
(ピーピー泣いて、こどものまんまで、それなのに必死で大人になろうとして)

「…馬鹿だな」

ランボの前髪を掻きあげてやって、額にキスをする。
それは親愛のしるし。母親がこどもにするように優しく口付けて、そのまま髪を撫でてやると、やけに驚いた顔をしてランボは顔をあげた。
柄でないのはわかっている。こんなことをしてやるつもりなどなかった。けれど、余りにもランボの様子が辛そうで、それを見ているこちらまで苦しくなって、だから、そう。絆されたのだ、単純に。

「隼人…?」
「泣き止めランボ。菓子買ってやるから」
「この状況でお菓子で釣ろうとするのって隼人くらいだよね」
「釣られとけ」
「…うん」

涙の筋をいくつもつけて、鼻を赤くして、笑顔を作ろうとした拍子にこぼれた、ランボのその涙を見て、彼は後どれくらいこうして泣くのだろうと思った。
もう獄寺はランボのようには泣けない。もう随分とそういうことに慣れてしまった。
けれど。獄寺がまだ大人になりきれなかったあの時、震える自分の隣で、理由もわかっていなかっただろうに、ぐずぐず泣いて、必死な目で大丈夫?と訊ねたランボ。
だから仕方がないのだ、と誰だかに向かって言い訳をして、それから、今日だけ優しくしてやろう、と心に決めた。

                


とりあえずごっきゅんの隣にランボはデフォだと思ってる。
病めるときも健やかなる時も一緒にいればいいよ!(何かが激しく違う)

2010/11/01 改訂

               

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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