有害物質
山になった灰皿をぼんやりと見る。
吸いすぎたかな、と思うけれど、タバコを咥えていないと落ち着かなくて、気づけば咥えて火をつけていた。
一体いつからだろうか。こんな風になったのは。
身体に有害だとはわかっているし、ツナにだって注意されている。背が伸び悩んでいるのだって、きっとタバコの所為だ。
けれど獄寺はタバコをやめられない。
癖になっているのだと思う。タバコには微量ではあるが麻薬と同じ効果があったはずだ。
ならばやめられないのも無理はない、と獄寺はまたタバコを手に取った。

吸う人間にとっても吸わない人間にとっても有害でしかない紫煙をそっと吐き出して天井を仰ぐ。
紫煙とはよく言ったもので、吐き出した煙は薄く紫がかって見えた。
ツナに普段から言われているように、確かにこの煙は有害だ。吸う人間だけでなく、副流煙は周りの人間の身体をも蝕む。けれど獄寺はこの紫煙を好きだった。
吸わずにいることは無理だったので、なるべくツナの前では本数を控えたし、誰かが隣にいる時は断りを入れるようにした。
有害でしかない煙をきれいだと思う自分の感性に呆れながら、紫煙の行方をただ目で追った。

「オレ有害なもんが好きなのかな」

呟くと、コーヒーを淹れていた骸がキッチンから戻ってきて笑った。

「隼人君はタバコ無しでは生きていけそうにないですよね」
「そーだな」

マグカップを受け取り、一口口に含む。インスタントコーヒーは安っぽい味だが嫌いではない。お湯を注ぐだけで出来る、というのは家事の苦手な獄寺にとっても都合がいい飲み物だ。
専ら、それを用意するのは骸なのだけれど。
一週間に一度か二度、骸はこうして現れた。クロームに身体を借りて、何が面白いのか獄寺の家にやってくる。最初は警戒していた獄寺だったが、マフィアでない時の自分に危害を加える気がないというのがわかってからは好きにさせていた。

「タバコとコーヒーって合うよなあ」
「そうですか?」
「ああ、お前吸わないんだっけ」

タバコを指に挟んだままマグカップに口をつけ、上目で訊ねる。
同じようにマグカップに口をつけたまま、骸は、うーん、と首を捻った。

「実は吸ったことがないんですよね。吸ってみたい気もしますけど」

へえ、と片方だけ眉を上げる。
骸のような人間は、人体に害のあるものになんか興味を持たないと思っていた。
吸ったことがないだろうということは予想がついていたものの、吸ってみたい、とは。
なんとなく思いついて、まだ半分程度残っていたタバコを持ち、骸との距離を詰める。
そっと唇に差し込むと、骸は少し驚いたようにして、獄寺の手の上に自分の手を添えた。

「どーだ?」
「あまりおいしくはないですね」
「でも咽ないんだな。大抵初めて吸う時って咽るって言うけど」
「そうなんですか?」
「そう。それに回数重ねるとうまくなるんだよ」

すっと手を抜いて、自分はまた新しくタバコを吸い始める。
使い慣れたジッポの蓋を開けたり閉めたりしていると、骸は吸い終わったようで、灰皿に吸殻を押し付ける。
初めて吸った割に、その仕草は妙に様になっていて、苛立つより先に呆れてしまった。

「初めて吸ったように見えねえ」
「初めてですよ、やだなあ」

紫煙を燻らせてそれを視線で追っていると、骸の手が伸びてきた。
何だろう、と思いながら視線を骸に移す。先ほどしたように骸は獄寺の手に自分の手をそっと重ねて、タバコをとった。

「回数重ねるとおいしくなるんですよね?」
「だったら新しいのくれって言えばいいだろ?」
「隼人君が吸ってるとおいしそうに見えるので」

骸は理解不能な理屈を盾に奪ったタバコを口に咥える。
獄寺は仕方なくもう一本新しく取り出して火をつけた。
ふぅ、と紫煙を吐き出す音だけが部屋を満たす。空気清浄機のおかげで部屋はクリーンなままだ。紫煙もすぐに消えていく。それを少し惜しく思った。

「タバコって、隼人君みたいですよね」
「は?」
「最初会った時の印象最悪だったのに、いつの間にか、僕はこうして君の傍にいることを好むようになった。回数重ねるとおいしくなるんでしょう?タバコって」
「あー…でもさ、だとしたらお前だっておんなじだぜ」
「え?」

骸の言うように、お互い第一印象は最悪で、ボンゴレの敵で、骸にとって獄寺は憎むべきマフィアだった。
有害だとわかっている。タバコも骸も。けれど、一緒にいると妙に落ち着くし、それを当然視している自分がいる。獄寺にとってタバコはなくてはならないものだ。骸がそうであるかと言えば、一概にそうとは言えないのだけれど、彼と過ごす今のような時間を気に入ってはいるので。

「きっと有害なもんが好きなんだよ。タバコとか、…お前とか?」

に、と笑って言ってやると、フィルターギリギリになっていたタバコを骸は揉み消して、先にしたように獄寺の手からタバコをとる。
けれど先と違ったのは、

「…ん、」

目的がタバコではなかったこと。
唇を重ね合わせて、ふっと笑う。
タバコも骸も同じくらい獄寺にとっては有害だ。タバコは身体を蝕むし、骸は心を蝕む。
けれど紫煙を好むように、骸とこうしているのは好きだと思う。
精々、タバコはともかく骸依存症、なんてくだらないものにはならないようにしないと、と苦味のあるキスを交わしながら獄寺は目を伏せた。

                


タバコ中毒者な佐倉さんは獄寺のヘビスモっぷりにすげく共感。
さすがに何本も咥えたりはしないけど。
有害ってわかってるんだけど吸っちゃうし、有害ってわかってるんだけど、タバコって落ち着く。
それを骸さんに置き換えてみた。
自分のタバコを吸わせる獄寺が書きたかったんです…。

2010/11/01 改訂

               

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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