ひととせ
普段一つに括ってあるあの人の、綺麗な綺麗な髪が解け落ちる瞬間が好きでした。
髪紐を解きはらはらと髪の毛が落ちる様がとてもとても好きでした。
気丈に振舞うあの人の、髪を解いた時に見せるあどけない顔も好きでした。

それが思慕だったのか恋情であったのか、軍略に巡らせる脳はある癖に色事にうとい私にはわからなかったのです。

ただ。

親しい者にだけ見せる素直で柔らかな笑顔を見る度、春のようだと思いました。
黙々と鍛錬に打ち込む姿や戦場に立ち武器を振るう姿を見る度、夏のようだと思いました。
哀しみを表に出すことを嫌いひっそりと憂いた表情を浮かべる後姿を見る度、秋のようだと思いました。
やりきれない怒りを抑えることが出来ずに空気が凍るような彼の眼を見る度、冬のようだと思いました。

私のひととせはそこにあったのです。

ある時、あの人から春が消えました。
秋が増え、冬を抑え、何かを振り払うように夏ばかりがあの人にありました。
それは彼の仇が自国の将となった時からです。
そして、私闘を禁じられているにも係わらず、あの人は剣舞を披露すると言って真剣を手に取り、仇に向かって行ったと言うのです。
あの人は、決してそんなことをするような人ではありませんでした。
私にとっては春ばかりを見せてくれ、夏の苛烈さも頼もしく、そして時折見せる秋に庇護欲をそそるような人でした。
私はあの人の冬を間近に見ることがほとんどなかった。
私も、あの人に接する時は自分の中にある春に近い部分ばかりを出していました。

それが何を指すのかすら、明確な答えを知らなかったのです。

ある時私はあの人に共に酒を飲みましょうと持ちかけました。
酔いが回り赤らむ頬と零れる笑顔に春の再来を見たのです。
それから何度も何度も酒をと誘いました。あの人は笑って付き合ってくれました。

お互い悪酔いをする方ではなかったので、それは終始穏やかな席でした。
最近では見せることの少なくなった春を堪能するように、酒を飲みました。
けれど何度目かもわからないほど数を重ねた酒の席で、彼はほろりと涙を見せました。
涙の意味がわからないほど、鈍くはありません。
解いて表情を隠すように降りた髪を払うようにして頬に手を伸ばしてしまったのも、酔っていたからではありません。
涙を分かち合い、笑顔に変えてあげたいと思ったのです。
過去、私が苦しんだものと、この人が今苦しんでいるものは酷似していたからです。

驚いたことに、結構な酒量を重ねていたにも係わらず、私の頭は正常でした。
頬を撫で、涙を掬い、反対の手で髪を梳きました。
くすぐったそうに泣きながらでも笑ったので、私は何も言わず彼を抱きしめました。
秋にやってくる台風のように、彼は泣きました。珍しく声を上げて、私の名前を何度も呼びました。
それに答えるように背中を軽く撫でると、涙の量が増えたようでした。
謝罪の言葉を紡ぎながら、私の名前を呼ぶ彼に、私はあろうことか口付けたのです。

その時、唐突に理解しました。
私は彼を好いているのだと。それは、思慕ではなく、恋情だと。

一瞬、彼は眼を見開き、次いでゆっくりと閉じました。
私の名を呼ぶ声も、泣き声も、消えました。
涙ばかりはどうすることも出来ないので、私はただ、抱きしめて、一晩中口付けばかりを繰り返しました。

夜が明けて、空が白む頃、秋の台風は消えていきました。
代わりに、涙で張り付いた髪の向こうに私の大好きな春がありました。
照れくさそうに、困ったように、酒の所為でなく頬を赤く染めて、花が綻ぶように笑う、彼の春がありました。

ひととせ巡るは理なれど、春ばかりであればいいと願いました。

               


一度書いて見たかった台詞も何もない一人称。
一年と書いてひととせと読みますが、春夏秋冬と書くんだと思ってひととせと読んでください(笑)。
…てゆかリントンは花が綻ぶようにってタイプじゃないよね!(書いておきながら…!)
りっくんの欲目もしくは佐倉さんの欲目だと思って軽く流してください…。

               

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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