第六話 さよならばいばい、また明日? |
「じゃあ水野くんから出ていってもらうけど、その前に政府から支給されるバッグの中身について説明をするわね。地図と食料、時計に…あとはコンパスが入っています」 ほら、と西園寺は、サンプルと大きく文字の書かれたバッグの中からそれらを出して見せる。 「みんな、気になってるでしょう?武器のこと」 武器。 「中に入ってる武器はそれぞれ違うの。何が当たるかは運次第。誰に何が当たっても文句は言わないでね?運も実力のうちだから。…ハズレも確かにあるけど…あら、これはアタリみたい」 誇るように西園寺が持ち上げたのは、自分たちには名前さえわからない大きな銃。 「あ、そうそう。時間事に増える禁止区域っていうものが前まであったんだけど、会場自体が狭範囲ということもあって今回それはなくしてあるわ。好きなところで好きなようにプログラムを楽しんでちょうだい。…でもこのプログラム自体のタイムリミットもあるし、24時間誰も死ななかったらみんな一斉に天国行きになっちゃうからね。気を付けて」 一方的にそう言い放つと、西園寺は並べてあった参加者配布用のバッグを手に取り、どす、と重たげな音を立てて水野の前に置き、まるでテスト用紙か何かを配るように一人一人にバッグを手渡していった。 「いい?水野くんが教室を出たらこのプログラムは始まるわ。後の子は出席番号順に二分間隔で出ていってもらいます。名前を呼ばれたら元気良く返事をして出ていってね。…それから、」 細かな説明を続けようとした西園寺の言葉を遮るように、水野は声を発した。 「…何かしら?」 侮蔑の念の込められたその一言は、ありったけの勇気を込めた、水野なりの反抗だ。それは死に近づく危険を伴っていたけれど、それでも。 殺されるかも知れない。 それでもよかった。 「なんでもアンタらの筋書き通りに事が運ぶと思うなよ。俺たちだってバカじゃない」 西園寺の瞳が冷える。空気が、先ほどまでと違う。それでも水野は西園寺を見据えて言葉を吐いた。 「もう説明は終わりだろ?」 西園寺から背を向けて、水野はスタートラインに立った。 (さよなら) (ばいばい) (また、いつか、……会えたらいいね。)
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第二話 それは、箱にしまい込んだままの |
水野が出ていった二分後、潤慶も同じように支給バッグを抱えて教室を出ていった。 浮かべていた表情は、少し違ったけれど。 若菜結人(出席番号31番)はその表情を思い返しながら、自分の名が呼ばれるのを待っていた。 後、一分ちょっとの安息。 安息。そう口にすれば、少しは聞こえがいいだろうか。 西園寺は脳天気にも、後少しだからみんな我慢してね、などと笑顔を振りまいている。 一生来なくていいよ、そんな順番。 バッグを抱え、扉の前へと出ていった潤慶の顔を、結人はきっと、一生忘れることは出来ない。 そんなに気がかりなんだ。 「若菜結人」 名前が、呼ばれた。 「会えるといいわね?大切な人」 気分最悪。 「憶えていてくれるといいわね?あなたたちの宝物」 西園寺が口にした言葉は、それを向けた結人にも、教室の誰にも、拾われることなく空気の中に融けていった。
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第八話 変わらずにいて |
「次、井上直樹」 金に近い髪色をした、短髪の少年は、眉間に皺を寄せたまま、西園寺を視界に入れることさえもせず、扉の前に立った。 「またな!」 誰に向けて発された言葉なのか、何を思って彼がそう口にしたのか、尾形智(出席番号3番)にはわからない。 しばらくしてタイマーが鳴り、上原敦(出席番号2番)の名前が呼ばれる。 「大丈夫だよ、桜庭」 柔らかく笑んだ。彼は確かに、愛おしそうな、安心させるような優しい目で。 自分に出来るだろうか。自分の大切な人に対して、彼らのようなことが。 小さく溜め息を吐いて、尾形は自分の席の反対側に座る早野雅司(出席番号25番)の方へと視線を向けた。早野も、尾形の方を見ていたのだろうか、はた、と視線が合う。 大丈夫。きっと、多分俺、大丈夫だよ早野。 名前を呼ばれて西園寺の前に出ていき、扉の前に立つ。 だからどうか、お前も変わらずにいて。
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第九話 奇跡よ、起これ |
煩わしいタイマーの音が、まるで死刑執行の合図のようで嫌な気分になる。 しんとした教室内は疑心暗鬼に満ちていた。 誰が何を考えているかなんてわからない。誰がやる気で、誰が敵で、なんて、そんなことはわからない。 英士は教室に残ったメンバーの顔を気付かれないように窺った。この中で英士が確実に信頼出来る人間はもう、一馬と、後はもう一人だけしかいない。 「次。郭英士」 名前が呼ばれ、英士は立ち上がる。その瞬間、英士は手にしていた小さな紙くずをそっと一馬の席に乗せた。 ああけれど。 どうか。…どうか。 奇跡を願うことしか出来ない自分が、ひどく愚かしく思えて、英士は唇を噛んだ。
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第十話 特別な人 |
笠井竹巳(出席番号5番)は困っていた。 次々と名前を呼ばれて出ていく様を見守りながら、これから自分がどうするべきなのかを。 人を殺す気はもちろんなかった。今の段階では、だけれど。 けれど、自分の命が脅かされてまで善人ぶる気は毛頭なかったし、まして面識もない人間の命を構って大人しく殺されてやるような気は、それこそ爪の先ほどもなかった。 自分が可愛い。それはきっと誰だってそうだ。先に出ていった潤慶が悩んでいたのと同じようなことを、笠井もまた悩み、考えていた。 もっとも、潤慶が自分と同じように悩んでいたことなど彼の存在すらよく知らない笠井には知るよしもなかったけれど。 「次。笠井竹巳。前に出て」 名前を呼ばれ、席を立つ。 殺す気はない。 たった一つ例外があるとするのなら、それは三上だ。笠井にとって、三上は、ひどく特別な存在だった。 矛盾した考えだ、と苦笑が浮かんだ。
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