第十一話 それは、夢でなく、未来 |
順番に名前を呼ばれては立ち上がり、それぞれがそれぞれの反応をして、教室を出ていく。妙に冷静だったり、泣きそうな顔をしていたり、浮かべている表情は様々だ。各々浮かんでいる感情も様々だったろうと思う。 そんなに考え込まなきゃならないことなのかな。 ぼんやりと何を思うでもなく自分の番を待つ。スイッチをオンにするのは教室を出てからでいい。 何をそんなに悲しんでるんだろうか。 ああ、悪いけどそれは無理な話だ。 命の重み、なんて言ってられない。 誰より強く、誰より巧く。 それをこんなところで終わらせる訳にはいかない。人の命を構って自分が命を落とす訳にはいかない。 仕方ないと思って諦めてよ。
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第十二話 もう一度 |
何で俺、こんなところにいるんだろう。 胸に燻るもやもやとした名前の付けられない感情を、名前もわからないまま持て余し、呼ばれるままバッグを抱え、教室を後にした。 『バトルロワイヤル?』 いつだってそれは他人事だった。だから、本当の意味で真剣に捉えたことなどなかったし、どこか、ドラマや小説のファンタジーのような位置づけでしか、近藤の中にはなかった。 プログラム。競技だと、政府は言う。 腹は立つ。それはもう、怒りという名のゲージがあるのなら、振り切ってしまうほどに。西園寺に対しても、その上の政府にの人間に対しても。 誰かと合流する手だてをあの教室にいる間に考えられなかったのは正直痛かったけれど、だからこそ、この場で近藤も立ち止まったまま考えているのだけれど。 人の命を奪うことなんて、出来るはずがない。 ガサリ。音がした。 会わなければならない。自分は、あいつらに。 たとえば、音のした方向に誰かがいたとして、その相手に見つかったとする。その相手に殺意がなくても、きっと近藤は信用することが出来ないだろう。それが武蔵森のメンバーなら別かもしれないが、その可能性は低い。 音のした先に注意をしながら、近藤はそっとその場から走り出した。 生きて、自分の大切な人たちに、もう一度出会うために。
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第十三話 戻れなくても |
井上は、またな、と言葉を残して出ていった。 何がうれしかったのだろう。 西園寺に名前を呼ばれて出ていく瞬間、振り返り、またと口にした井上の顔がシゲの脳裏に浮かぶ。 オーケイ。 またという言葉を彼が使うのなら、自分はそれを現実にしようではないか。 死ぬ訳にはいかない。 たとえ、誰かを殺すことになっても。 「会いたいねん。もう戻られへんでも、会いたいねん、もう一度」 大切な人にもう一度会うこと。
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第十四話 裏切り者には、死を |
その日、月は無駄に明るかった。雲を通してさえその光が漏れるほど。 まるで何もかもを照らし出すように。この空の下でこれから殺人ゲームが繰り広げられるなんて誰も思わないくらいに。 思わなくとも、これは間違いなく現実だ。どれほど夢だと願っても、これは現実でしかない。 小柄な身体には不釣り合いに大きなバッグを肩にかけ、椎名翼(出席番号15番)は森の中を注意深く歩いていた。 『本気で言ってるの?玲』 向けられた銃に、迷いはなかった。 「…許さない」 獲物はただ一人。 「覚悟は出来てるよね玲?だって、この俺を裏切ったんだからさ」
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第十五話 一番最初の殺人者 |
やる気になっている、と表現されるべき人間は実際にいる。 表面上は何も変わらないように見えても、その仮面の下に冷酷な殺人者の顔を隠している人間は、実際にいる。 杉原多紀(出席番号18番)もそのうちの一人だった。 教室を後にし、充分に注意しながら外へ出ると、杉原を人影が待ち受けていた。 敵? 一瞬、杉原に緊張が走る。 「タッキー?」 敵ではないかも知れない。 けれど、そうでないとは言い切れない。 「おー、よかった!俺どうしていいかわかんなくってさ、ウロウロしてたら元の場所戻ってきちまうし…すげえ困ってたんだよ」 小岩 鉄平(出席番号9番))が出ていったのは、杉原が出る十八分も前のことだ。人数にすれば小岩と杉原の間に八人もの人間が出ていっている。 やる気になっている人間がいるとは思わないの? 普段通り、いつもと変わらない、変わらなさすぎる態度で、小岩は杉原に声をかけてきた。信用されていると言っていいのかも知れない。その逆の可能性もあるけれど。 バッグを後ろ手に持ち、支給された武器に手をかける。 「でもさー、タッキーに会えてよかったよ。ウロウロしてた甲斐があったな!俺一人じゃ、」 僕も会えてよかった。 「タッキー、何を、」 小岩の目が見開かれる。 簡単だ。人を殺すことなんて。 小岩の抱えていたバッグを一緒に担いで、杉原はすぐにその場所から移動した。 走りながらでさえ張り付いていたその笑みは、少々異質であったかも知れないけれど。 『さあ、これからどうしようかな』
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