第五十六話 生きていられないほど。
醒めないでくれと願った。醒めない夢などないと知りながら、夢の中で何度も。
それが自分の作り出した都合のいい幻影だとわかっていて、それでも醒めずにいたかった。
だって、そこはとても居心地がよかったから。
自分で作り出したからこそ、自分に優しいものばかりで埋め尽くされていて、目覚めたあと見つめなければいけない現実を直視することが怖かった。

だって、だって、そこには彼がいた。
今はもういないはずの彼が。
三上を守り、文字通り体を張って守って命を散らした、辰巳が。
それが夢だと気づかないくらいの精巧さで、辰巳は存在した。
プログラムなんて最初からなかったかのように、いつも通りの日常がそこにあった。
そして周りにはいつもと同じように見慣れた顔ばかりがあって、自分も同じように笑っていた。

助けてと叫び、闇の中から現れた作り物の日常は、逆に三上に現実を突きつける。
それが夢だと。現実は違うと。自分があるべき場所はここではなく、目覚めなければいけないのだと。
だからこそ、醒めないでくれ、と三上は願った。それは願いを通り越して、祈りであったかもしれない。

けれど覚醒は訪れてしまう。それが当然だと言わんばかりに。
三上の祈りは、届けられることはなかった。

            

ゆっくりと、必要以上に緩慢な動作で目を開く。
寝起きの悪い三上にしては珍しくすでに脳は活動を始めている。それでも目を開けるということは、現実と相対するということで、それを恐れるあまり目を開けることが出来なかった。
明かり一つさえない室内は、明かりをつけられない状況だから。
それがひどく寂しくて、見ていた夢と現実の落差に愕然とする。
だから醒めないでと願ったのに。
開いたときと同じだけの時間をかけて、もう一度目を閉じると、瞳の端から生暖かい水が伝い落ちていく感触がした。

静まり返った部屋。肌にかかる布の感触でベッドに寝かされていたのだと知る。
それと同時に、そうなっている原因を三上に突きつけた。
やはり夢の中は作り物で、現実に辰巳はいないのだと。
それを現実であり事実だと理解している自分と、そんなはずはないと主張するもう一人の自分がいる。
当たり所のない悲しみは、ベッドのスプリングに拳を叩きつけても消えることはない。
三上にとって辰巳の存在は大きすぎた。
不意に泣き喚きたい衝動に駆られて、それなのに声も涙も、もう流れてはくれなかった。

心だけが、子供のように泣き叫んでいた。

上半身だけをベッドから起こして膝を抱える。
泣けないほどの悲しみを、その喪失を、どうにかやり過ごさなければいけないのに。
一生埋まることのない大きな穴を、それでもどうにかして生きなければいけないのに。
そうでなければ、辰巳が、三上に最後まで望んだ願いを叶えられないのに。

手が勝手に動く。
三上の手はズボンのポケットを探り、装飾に引かれて思わず買った、折り畳み式のナイフを取り出そうをしていた。
無意識だった。一種の意識障害になっていたのかもしれない。
現実を受け止められるだけの余裕がなかった。辰巳の死が、三上からそれを奪った。
かちゃりと音を立てて、それは元のナイフとしての姿を形成する。
次の瞬間には、刃を手首に当てていた。

体温であたたまっていた所為か生ぬるい感触がする。
流れている血管に垂直になるように位置をずらして、思い切り引いた。
いっそ笑えるほどの血が手首から流れてシーツに落ちる。それはまるで、人が流す涙のようでもあった。

           

そこでようやく意識が戻る。完全にとはいかず、ああ、やってしまったとぼんやりと手首を見つめるだけだったけれど。
彼は怒るだろうか。命をかけてまで守ろうとした命を、三上自身が粗末にしたことを。
彼はそれを怒ることさえ出来ない。死んでしまったから。
そんな当たり前の、どうしようもないような現実が、それこそどうしようもなく悲しくて、生きていられないと思った。

意識が遠くなっていく感覚を、三上はぼんやりとした頭で感じていた。

命を賭して守ってくれた。やけになるなと言ってくれた。
三上を奮い立たせていたのは、態度や言葉ではなかった。存在だった。
だからもう、無理だと思った。
四肢を引き千切られたような心の痛みが、悲しすぎて表に出せない叫びが、涙が、内側にばかり溢れて苦しい。

さよならなんて、一生来ないと思ってた。
有り得ないと信じ込んでいた。
生きていることがこんなにも苦しいのに、どうして生き抜く勇気が持てると言うのだ。
本当なら、それを持つことは三上の義務だったけれど。
逃げ出そうとする三上を止める人間はそこにはいなかった。

           

夢を、もう一度見させてほしい。
二度と醒めることのないように深く沈んでいきたい。
呆れるほど平和で、泣きたくなるほど優しい、嘘で固めた夢を。
作り物でも、彼に会いたい。
そうして怒鳴ってほしい。

なぜ、ここにきた、と。

固く目を閉じて、三上は手に持ったままのナイフで傷口を何度となく傷つけた。

             

                           

 

 

 

第五十七話 生きろ。
扉を固く閉ざした。上着を脱がせて、ベッドに横たえて。
そして、少しだけ躊躇して額を撫でた時。
目の前の人は愛おしそうに、哀しそうに、自分ではない人の名前を口にした。
眠りは、優しい夢を届けてくれたのだろうか。それとも悲しみを再認識させただけなのだろうか。それは一馬にはわからないけれど。
泣きながら、もう世界中のどこを探してもいない人の名を呼んだ。
何度も、何度も。

だから、きっとその夢が優しくても、哀しくても、三上は辰巳に会えたのだ。

たとえ夢でも。

             

泣きながら眠る三上の側に居ることがどうしても出来なくて、そのすぐ隣の部屋へと半ば逃げるように移動した。
床に打ち付けた時に出来た痣が少しだけ痛む。
突き刺さるような痛みを訴える左胸の奥や三上の受けた痛みに比べれば、なんてことのない痛みではあったけれど。

ここまで自分が情けないと思ったのは初めてだった。
泣きながら眠る大切な人に何もしてやれないばかりか、自分はそこにいて、自分の痛みが増幅する辛さに負けて逃げたのだ。
唇を噛み締める。手のひらを握り締める。眉間に皺を寄せて瞳を固く瞑った。
そんなことをしたって痛みは引かないし、現実は現実のままだ。
それは十分わかっていた。それでもそれくらい、せずにはいられなかった。

なぜ、辰巳は死ななければならなかったのだ。
なぜ、三上がこんなにも傷つかなければならないのだ。
なぜ、それなのに自分は何も出来ないのだ。

それが政府の言う正義か。勝手な大人の、勝手な理想の大人に、これでなれと言うのか。

             

扉を背に座り込んだまま数時間が過ぎる。
いつの間にか夜も更けてしまっていて、窓から見える民家の外はただ闇が広がっているばかりだった。
それでも誰かに見つからないよう明かりを消したままの室内は、月明かりが差し込まない分、外よりも暗かったけれど。
ただ、目が慣れていたのと、数時間をそこで過ごした事実が、外よりずっと民家を安全な場所にしていた。

目を覚ましてほしいという気持ちと、ずっと夢の中にいてほしいという気持ちが一馬の中に同居する。
そして、一生三上と本当の意味でまみえることがないのではと恐れる気持ちがあって、闇の中とても長い時間を動けずに過ごした。
時間を無駄に出来るような余裕はなかったけれど、今費やしている時間が、決して無駄なものでないこともわかっていた。

            

ぎし、と小さく、静寂の中にあってようやく聞こえるような音が、遠慮がちに三上のいる部屋から聞こえた。
目を覚ましたのかと、落胆なのだか安心なのだかよくわからない感情が浮かんで、一馬の顔が変な形に歪んだ。
扉のノブに手をかけて、ため息を一つ零す。

この扉を開いて、三上が本当に目を覚ましていたとして、では自分はどんな顔で、何を三上に言ってやればいいのだろう。
それは些細な躊躇だった。ほんの少しの戸惑いだった。

けれどそれは、扉一枚隔てたその部屋の中で起こっていることを考えたら、あまりにも軽い悩みだった。

           

少しの時間を無駄に過ごし、それでもなんとかキィ、と音を立てて扉を開く。
開いた扉に手をかけたまま、一馬は目を見開いた。

「な……っ」

視界に入ってきたのは、薄い色をした布団にかかる、濃く暗い水滴。
ぽたりぽたりと音を立てて、しずくが流れては落ちていく。
どこから、なんて考えるより早く叫んでいた。それは一馬の直感と、三上がそうなっても仕方がない過程を予想出来てしまっていたから。

「止めろ!」

叫んだ。
大きな音を立てて誰かに見つかるかも知れないだとか、そんな悠長なことは言ってられなかった。
そんな余裕はどこにもなかった。
機械的に腕を振り上げ、部屋に入ってきた一馬に気付きもせず、三上は手首を傷つけている。
必死になって手を伸ばし、振り下ろそうとしていた三上の腕をぐっと掴んだ。
ナイフを持つ右手を掴んだ瞬間、三上は泣いているかのような悲鳴をあげた。

「いやだ、嫌、離せ…!」
「止めろって、止めるんだ!落ち着けよあきっ!なあ、頼むから…っ」
「嫌だ…っ!!」

三上は泣いていた。
涙が零れていた訳ではない。けれど、彼は泣いていた。

どうして死なせてくれないのと。

それほどまでに辰巳の存在が三上の中で大きかったのだと思えば、抑えきれない憤りが一馬の脳裏に浮かぶ。
辰巳を死に追いやった人間にも、こんなプログラムを作った政府にも、辰巳にすら怒りがこみ上げた。三上を置いて、なぜ死んだ、と。
自分が三上にとってどれほどの存在か知らなかったのか。どれほど失って傷つくか考えなかったのか。
そんな立場にすらなれない一馬の、それは理不尽な怒りだったけれど。
それでもどうにか手首を切ることだけでも止めさせなければと、掴んだ手首を強く引いた。
けれど三上も同じ男だ。
そして形振り構わない抵抗が衰弱しているはずの三上の力を強大にさせる。
一馬がほんの少しでも気を抜けば、すぐにでも自傷は再開されてしまうだろう。

「止めろって、落ちつ、…っあきら!!」

何を言っても耳を貸してくれない。
何度も何度も首を振り、三上はただただ死なせてくれ、と態度で訴える。
傷ついた左手首からは今も血が滴り落ちていて、このままでは本当に出血多量で死んでしまう。
そんなことはさせない。させたくない。
辰巳のためではなく、自分がそれを許せなかった。
それは、三上に辛い選択をさせるのだとわかっていたけれど。

早く、早くどうにかしなければ、三上が。

そう思った時だった。
どうにかしなければと思い、今まで以上に力を込めて掴んだ瞬間、呆気ないくらいに三上の腕の力が抜けた。
え、と思った。
元々無理をして一馬の力に対抗していたのだと、すぐにわかった。
ただ、その元凶のナイフを、自分は巧く処理出来なかった。

「ぐ…っ!!」

手首への軌道を外させようとしていたナイフは、一馬の力にそのまま従った。
けれど三上の手首から離そうとしていた一馬は、自分の側へそれを引いていて、力の抜けた三上の、ナイフを握った手ごと引いてしまっていて。
ナイフはその刃の部分まるごと、一馬の腹に埋まっていた。
小型とはいえ、磨かれ、刃こぼれもないまっさらなナイフだった。引き寄せた力が強かったことも起因しているかもしれないが、何の抵抗もなく服ごと裂いた。

キーン、と、何か、耳鳴りのようなものがした。

三上も一馬も、一瞬呆然として、顔を見合わせる。
けれどそれも一瞬で、三上はひどく狼狽した表情を浮かべた。

「かずまっ、一馬あ!」

ああ、壊れてしまう。このままでは。
大切な、大切な目の前の人が。ずっと、幼い頃から大切に思ってきた人が。
三上が生きていけるのなら、なんだってしてやれるのに。
立場は違えど、辰巳と同じくらいの覚悟が一馬にもあった。

片方の手をナイフから離し、強引に三上の手もナイフから外させる。
刺さったままの、その小さな、けれど殺傷能力は馬鹿に出来ないナイフを、ぐっと力を込めて引き抜いた。
蓋をしていた刃の部分が抜けて、血がまるで水飛沫のように腹から散る。
それは三上にもかかってしまったけれど、ナイフを生やしたままの自分を見せるより、幾分かマシだと思う。
痛くない訳はなかったけれど、痛みなんてどうでもよかった。
自分がこのあと生きられるかどうかさえ、どうでもよかった。

「あき、
「や、嫌だ、ごめん、嫌だ、どうして、」
「あき」
「俺が、俺が一馬に、」
「あき!いいから聞け!!」

傷口を片手で被い、なるべく三上の視界に入らないようにして、一馬はもう片方の手で三上の肩を掴んだ。
まっすぐ、痛みなんてどこにもないんだと言うような顔を貼り付けて、三上を見つめる。
自分が一馬を刺したと思っているのか、三上はひどく怯えていて、きっとそれは人を殺してしまうのではないかとか、一馬を他でもない自分が殺してしまうのではないかとか、あるいは人が死ぬということ自体を拒絶しているのかもしれない。

ただ怯える子供がそこにはいた。

           

「いいか、良く聞くんだ…っ」

「お前は、何も、してない。」

           

ひとことひとことを区切るように、小さな子供に言い聞かせるように。
三上がこれ以上傷つかないように。

         

「お前は、何も、してないんだ。」

「俺が…死ぬのは。……俺の、所為であって、絶対に、お前の、所為じゃ…ない。」

「でもっ
「お前は何もしてないんだ!この傷はお前の所為じゃない!!…俺が、うまくやれなかっただけ」
「一馬…!」
「俺、は…俺は、多分、…生きられない。でも」

       

どうか、この言葉を鵜呑みにして。
自分は悪くないと、一馬が悪いと、頼むから正当化してほしい。
そして生きて。

どうか、生きて。

             

「お前は生きるんだ。絶対に!」

自分が作り出せる中で、最上の笑みを浮かべて三上を見る。
生きてほしいから。命をかけてもいいと思えるほど、大切だったから。
きっと、それは辰巳もそうだった。

「お前に、看取ってもらえるだけ、あいつより幸せだよ…」

抱きしめる。
血まみれの身体で。服が汚れることには、構ってやれなかった。
震える三上の身体を、うまく動かせない身体で抱きしめる。

最初で最後の抱擁。

背中をぽんぽんとあやすように叩いてやると三上はひどく悲しそうに唇を噛んだ。
きっと自分を責めている。
三上は何も悪くないのに、三上はきっと自分を責めてしまっている。
ただ生きてほしくて勝手にやって、勝手に死のうとしているだけなのに。
もっと他に、巧いやり方で三上を止められたら、もう少しの間、一馬は三上を守れた。
それが悔しくて、三上に自身を責めさせてしまったことが悔しくて、歯噛みする。
けれど一馬にはもう時間がない。
痛みに気を失ってしまいそうな身体を必死に叱咤して、どうにかこれだけは、と口を開いた。

           

「生きるんだ、…あきら」

          

生きて。
(愛しているから)

壊れてしまわないで。
(お前は何も悪くない)

傷つかないで。
(誰よりも愛しているから)

         

最後までそれを口にすることなく、一馬は息を引き取った。
涙も流さず泣く、三上の腕の中で。

               

                           

 

 

 

第五十八話 さよならが言えない。
会えない。ああ。もう、会えないんだ。
大好きな人の顔を、最後まで見ることが出来ない。

痛いとか、苦しいとか、そんな思いより先に、会えないということが頭の中全部を占めてしまった。
痛みなんか後回しにしか感じなかった。
会えないと思ったその瞬間、言葉には表せないほど大きな虚無と絶望が早野を襲った。
それでどれだけ自分が尾形を好いていたか、思い知らされる。
脳裏に浮かぶのは教室で見せた不安そうな顔。
安心させてやれもしないで、このまま、会えないまま自分は死んでいくんだと感じ、悔しさに歯噛みして傷口を押さえる。

本当に痛いのは傷口ではない。

撃たれた傷口より、転げ落ちて出来た打撲傷より、尾形を置いて死んでいかなければならないという事実の方が痛かった。
とても優しい人だから、彼はきっと泣いてしまう。苦しんでしまう。

それがとてつもなく嫌なのに。

だけど。撃った相手を憎むことも出来ない。
それは気付いてしまったからだ。厳しさと自分への殺意の奥に隠していた必死さを。
早野を睨み付けていたその瞳の奥にある明らかな怯えを。

畏れていたのだ、彼も。

壊されることを、無くしてしまうことを。
きっとだから自分が話をしていた少年は、彼の大切な人だったのだろうと思う。
そう思ってしまったら、その気持ちを見つけてしまったら。
それに、ほんの少しでも共感してしまったら。

もう。
憎むことなんて出来なかった。

だから早野に出来ることは、会えないという事実を悔やみ、悲しむことしか出来ない。
まだ、だって、尾形はこのプログラムに参加させられているのに。

抱きしめてあげたかった。
抱きしめて安心したかった。

生きているのだと。

思い返して浮かぶぬくもりに取り戻せない過去を見て涙が滲む。
その間にも呼吸は浅く不規則になっていって、一歩一歩死に近づいていることを指していた。

死んでいく。
あの人を残して。
自分だけ。

「ごめん、ね…」

会えなくて。
一緒にいて守れなくて。

一度も愛してると言えなくて。

細かく震える腕をぎこちなく動かして制服の内ポケットの中を探る。
触れた機械の固まりを祈るような気持ちで開くと其処にはやっぱり変わらず圏外の表示があった。
政府が電波を遮断してるのだろう、早野が握りしめているものは最早機械の固まりでしかない、携帯電話だったもの。
半ば無意識にメールボックスを開く。フォルダ分けされたお陰で規則正しく並んだ名前に、少しだけ笑顔を作ることが出来た。
何度も送ったメール。送られてきたメール。履歴に並ぶ名前は平和だった日常の証。

今はもう、どこにもない、平穏で退屈な日常の証。

死を目前にして何を思ったのだろうか。
早野自身にもよくわかってはいない。
ただ無意識に、上手く力の入らない指先が小さなボタンを一つ一つ押していくのを、自分の指なのにぼんやりと見ていた。

伝えられなかった言葉を文章に。
きっと尾形がこのメールを読むことは無いだろうけれど。
もし何かの奇跡が起きて、尾形が生き残って、捜しに来てくれたとき、これを見ることが出来るように。

生きていた証に、大好きだった証に、…最後に一通、メールを。

気付けば覚束ない動きで、それでも懸命に文章を打っている自分がいた。

政府の奴らは笑うだろう。
出せもしないメールに最後の命を使うなんて、と。笑いたければ笑えばいい。
一番笑いたいのは早野自身だ。
こんなもの自己満足でしかない。それもわかっている。
送れもしないメールに命の残りをつぎ込んでも、死んでいく心残りを少なくしたかった。
何も残さなければ、早野がこのプログラムの中でさえずっと尾形を想っていたことを誰も知ることはない。
尾形も知ることはない。
こんなにも想っていられたと、自分で自分を誇りたかった。

         

悔しかった。
いつもなら簡単に打てていたはずのほんの少しの文章が打てない。
誤字脱字を繰り返しては必死に打ち込んでいく。

          

あ、

い、

し、

           

て、

        

『いた』と過去形には出来なかった。

        

愛してる。
愛してる。

一緒にいられなくて、ごめんなさい。

一度だって愛してるなんて言ったことはなかった。
なんとなく気恥ずかしくて、好きです、という言葉しか彼には贈らなかった。
愛なんて言葉は、まだ自分には重くて、いつも上手く言えなかった。

なのに今はその言葉がすんなりと出てくる。

今一番伝えたいのに一番伝えられない言葉はシンプルで飾りのないたった一言。
それでも精一杯の愛を詰め込んで、最後にもう一度ごめんなさい、と打った。
これがもしも送信出来たならどれだけ良かっただろうかと、自嘲的な笑みが早野の顔に浮かぶ。
諦めと、哀しみとが綯い交ぜになったような形容しがたい感情が早野の中にあった。

「…送れたら、よかったのに、ね」

早野が呟いた、その次の瞬間。
島のあちこちに設置されてあるスピーカーからもの凄い音が鳴り響いた。

          

ビィィィィィィィッッッ!!!!

          

突然の大音量のノイズに、反射することも出来ない身体は宙に目線を向かわせることが精一杯だったけれど、身体が動きさえしていたら思わずびくりと身体をすくませてしまうほどの音だった。
上手く音を関知出来ない耳にも耳鳴りのようにうるさく響くほどの音。
今更なんの嫌がらせだよと言う悪態は、頭の中で浮かびこそすれ、口に出すだけの余裕はもうどこにもなかったけれど。
そう。もうほとんど力の残っていない身体は痛みにさえ鈍感になってきたのか感覚がなくなってきている。
おそらくは生きられるのも、この島で尾形と同じ空気を吸ってられるのも後少しの時間しかない。

          

伝えたかった言葉。
愛してる。
生きては、もう会えない。

        

虚ろな目線をケイタイの画面に移してため息を吐く。
そこには必死になって打ち込んだ尾形へのメール。

…と、電波の、アンテナ。

目を見開く。
先ほどまではずっと圏外と表示されていたはずの画面にはっきりと電波のアンテナがたっていた。
なぜいきなりそうなったのか、なんてことは後回しだ。それこそ本当に死んでから何でだろうと悩めばいいくらい、些細なことだ。
今、送信ボタンを押すことに比べたら。

一本しか立ってないアンテナ。
届いてくれと、ただそれだけを思って画面を見つめる。
神様という存在がもしもこの世に存在するならと、ありもしない妄想にさえ縋りたくなった。

「とど、いた…」

早野の心中を知ってか知らずか何事もなく無事送信されたという表示が出て、それがいつもメールを送っていた時とまったく変わりなくて、呆然とする。
気が抜けたのかもしれない。
頬を一筋涙がこぼれて、早野の手からケイタイが放れた。
とさ、と地面に落ちる音。
空気はもう、肺には入ってこなかった。

              

                

           

ぴりりりりっ♪

ぴりりりりっ♪

         

「っ!?」

島に鳴り響いた大音量の騒音が止んですぐだった。
突然鳴り出した音に尾形は驚く。電波など遮断されていると思っていたのに、と画面に目をやると既に表示は圏外になっていた。
ではさっきの受信音はなんだったのだと疑問を抱くより先に目に入った、未読メールの文字。
発信者は。

「は、やの…?」

声が震えた。
指もそれに倣うように小刻みに震えて携帯電話の画面がぶれる。
そして本文を開いて、それを読んだ瞬間。

息が止まったような気がした。

否、おそらく本当に呼吸をすることを忘れていたのだと思う。
そして、心底後悔をした。
ありきたりだった日常がここにはないことなど、もう十二分に理解していたはずなのに。
それでも最後まで縋っていたかった小さな希望さえ奪い取られていくのはひどく辛いことだった。
男の癖に情けない。そう思っても止められない涙は最後の一言の所為。

”ごめんなさい”

謝らないでくれたらよかった。
最後だと言外に言い含められてるようで意思とは関係なく涙が溢れてくる。
愛してるなんて言葉も、聞きたくなかった。
一度だって口にしたことなんかなかった癖に、こんなときに、こんな風に、最後にするんなら。
一生聞けないままでよかった。
一度だって彼の口に上ったことのないその言葉は、あまりにも重すぎる。
重すぎて、涙が止まらない。

「なんで…っ」

なんで、こんなプログラムがあるの、という言葉は、嗚咽で掻き消された。

           

             

             

ねえ、尾形先輩。
たった一つ、どうしても書けなかった言葉があるんです。
愛してるも、ごめんなさいも言えたけど、本当なら言わなきゃいけない言葉がどうしても言えなかった。

だって認めたくなかったから。

認めてしまったら、もう、俺が生きた証はどこにもなくなってしまいそうで。
あなたと離れることを認めてしまったら、あなたの心から俺が消えていってしまいそうで。

       

…やっぱり、さよならなんて言えないよ。

            

                           

 

 

 

第五十九話 今自分がすべきこと
手首が痛い。心臓が痛い。
前が見えない。
どこへ行けばいいのかわからない。
どこへ進めばいいいのかわからない。

何をすればいいのだ。

大切なものはみんな、みんななくなってしまったのに。

               

時間が経つごとに冷たくなっていった身体。
そうして冷え切って固くなった、一馬であったはずの身体を抱えて三上はずっと動けないでいた。

           

生きろ、と彼は言った。
生きろと。
生きるとはどういうことだろう。

彼の望んだ、生きることとは、三上がどうあることなのだ。

           

一馬の望みを叶えてやりたいのに、その言葉の重みに押しつぶされそうだった。
どうせなら押しつぶされてどこか、そうこの世から消えてしまえるのならそれでも良かったのだけれど、それでは一馬の望みも、辰巳の望みも、壊してしまう。

先にしたような安易な逃げを、一馬が放った言葉が赦してくれない。

プログラムの中にあって、それはあまりにも重すぎる言葉だった。
生き死にが隣り合わせにあって、事切れた死体が腕の中にあって、それでも生きろと言う。
生きるとはどういうことだろう、という疑問がしばらくの間、三上をその場に縫いとめていた。

        

呼吸をすることか。
何かを考えることか。

…それとも、人を、殺すことか。

違う。
きっと、そうではない。
そうではないはずだ。

      

動かない一馬の身体を抱きしめる。
そういえば、辰巳の死体は見ることさえも出来なかったのだと思いだして、少し苦しくなった。
立ち上がり、壁にかけられていた自分の制服を一馬に被せる。
ここを立ち去らなければならない自分の代わりに、少しでもあたたかいように。
それは何も意味を成さないとわかっていたけれど。
とにかく三上は、もう自分の意思で死ぬことは出来ない。
それでも一人で、これからたった一人で、このプログラムに立ち向かわなければいけないのかと思うと眩暈がする。
だから、本来なら死者から物をくすねるのは良くないことなのだけれど、と頭の隅で思いながら一馬の手首に触れた。
血でぴたりとくっついた腕時計を外して、少し悩んだけれど、一馬のそばに転がっていたナイフも折りたたんで、一緒にズボンのポケットにしまった。
もう瞬き一つすることのない一馬を何度か振り返り、三上は部屋を出る。
並んで置いてあった二つのカバンを見つけて、そのうちの自分のカバンだけ三上は掴んで民家を後にした。
振り返ることは出来なかったけれど、涙ももう、零せなくなっていたけれど、心臓を衝かれたような痛みを抱くことだけは仕方ないと諦めた。

         

          

♪〜♪

        

        

民家を後にして少し経った頃、ひどく大きな音が島中を覆い尽くした。そして耳を劈くようなその音が止み、またしばらくすると今度は鳴るはずのないものが音を立てた。
制服のシャツ。胸ポケットにある、もう機械の固まりでしかないと思っていた携帯電話。
なぜ、誰が、という思いもあったが、その着信音で自分の場所を他の参加者に特定されてしまうのはまずい。
出るべきか、出ざるべきかと一瞬の葛藤の後、三上は通話ボタンを押した。
もしもここでかかってきた電話に出なければ、もう少しくらいは呑気に一馬の言葉に悩んでいられたのかも知れなかったけれど。
出てしまってからでは後の祭りでしかない。

         

「もしもし…」
『もしもし、三上くんかしら?』

        

背筋を、すぅっと何かが流れた。
ぞっとするような女の声。聞きたくもない人間の声だった。

          

「な、…んで…」
『良いことを教えてあげようと思ってね。わざわざ電波遮断を止めてまで電話してあげてるんだから切らないでね?切ってもかけ直すけど。出なかったら首輪を爆発させるけど』
「……」
『あなたの大事な人たち、たくさんたくさん死んでいったわ。ねえ、でもあなたはこれからまだまだ痛い思いをしなければならない運命にあるの。…わかるかしら?』

           

なくしてしまった、なくなってしまった、大切なもの、人。
運命の一言で片づけられてしまうような軽いものではないはずなのに。
それでもまだ足りないと西園寺は言うのだろうか。
これ以上、もっと、もっとと。
不規則になり始めた呼吸をどうにか落ち着けようと、三上はポケットの中の一馬の時計を握りしめる。
いくらかの気休めになればと思って握りしめたそれは、握りしめた途端、自分をどうにか保つ為の命綱のように思えた。

ここに生きて、ここで苦しむ意味。
自分は自分のままで、生きなければならない。

握りしめていないと自分がどこに立っているのかさえわからなくなってしまいそうなほど不安定な精神状況だった。
そして、それさえも次の西園寺の言葉で揺らぐ。

            

『渋沢くんはあなたを生き残らせる為に大勢の子を殺してまわってるわ。大切なあなたの為に、良かれと思ってね』

「…え…?」

『そうねえ…武蔵森の子で言うと…根岸くんや辰巳くんとかがそうね』

         

言葉を反芻してみる。言の葉。刃のような、それ。
痛みを生み、傷を付ける為だけに存在するような言葉という見えない凶器。

             

アナタノタメニ、ヨカレトオモッテ。

ネギシクンヤ、タツミクントカガソウネ。

         

信じられない。信じたくない。けれど否定するだけの材料を三上は持っていない。
浮かぶのは遠い日常。笑っていた仲間たち。
いつも隣にいた、大切な人たち。

           

「…渋沢が、殺ったって、言うのかよ…?!」

           

西園寺はケイタイ越しにくすくすと笑いながら、ええ、とだけ言った。
楽しげな笑い声がひどく耳障りで腹立たしい。

渋沢が三上のために、人を殺して。三上の、大切な人たちを殺して。
それでもまだ、罪を犯し続けて。西園寺の言葉が真実なら、おそらく三上以外がいなくなるまで、彼は罪を犯し続けて。
三上を生き残らせるために人を殺し続けている。

要は、そう言うことだ。

             

『壊れちゃわないでね?折角色んな物を犠牲にして生きてる命なんだから。生き残って、勝ち残って、…ここにいらっしゃいな。待ってるから』

                

ぷつり、と音がして通話が途切れる。
するりとケイタイが手から落ちていく。
握りしめた腕時計だけが、三上を『ここ』に繋いでいた。

        

「嘘だろ…」

             

小さく零れ落ちた言葉。
嘘。嘘だと思いたい。けれど嘘ではないかも知れない。
嘘だったらいい。もう見つめるのも限界だった。
それでもきっと嘘にはなってくれない。事実を西園寺は述べていただけだ。
なぜか、そう思った。
淀みない、真実のようにあの声は浸透してくる。
あの苛立たしい声の持ち主は、どうしてここまで傷を付けたがるのだろう。
わからない。
三上に出来たのはただ呆然と立ち尽くすことだけだ。
次々と浮かんでくるのは通り過ぎてきた魂の抜け殻。

誰も死んで欲しくなんてないのに。
どうすれば良かったのだろう。
開始早々どこかから身を投げて自殺でもしていればこうはならなかったのだろうか。

渋沢も罪を犯さずいて、辰巳も、根岸も、生きていたというのだろうか。

        

苦しい。
痛い。
眩暈がする。

逃避することを赦されない三上に痛みだけを与える現実。

誰も正解を持ってない。
何が正しいのかわからない。

託された、生きろという言葉。

           

では一体、自分はどうすれば。

           

          

…ドォン!!

           

「…!」

           

銃声。
もう大分聞き慣れてしまったそれにびくりと身体が竦む。
すぐ近くでしたその音に、奥深く入り込みそうになった思考回路の闇から引き戻されて、三上は慌てて辺りを見回した。

           

どこかで人が死にかけている。
無理矢理身体から引きはがされていく魂が近くにある。
人を殺している誰かが近くにいる。
哀しいだけで何も残らない殺人という禁忌を犯している誰かがいる。

             

見えない何かに引き寄せられるように三上は走り出した。
上手く力の入らない足を引きずって、走る。
その先にあるものがたとえ自分を傷付けるものであってもと。

生きろと託された言葉がある限り逃げられないプログラムは、ならば立ち向かわなければならない。
たとえ後一歩で狂いだしてしまいそうでも。
握りしめた一馬の腕時計はただ一言だけを雄弁に伝えていたから。

          

         

手首が痛くても。心臓が痛くても。
目の前がどれだけ闇に包まれていても。
どこへ行けばいいかわからなくても。
何をすればいいのかなんてわからなくても。

走らなければいけない気がした。

…大切なものを、これ以上なくさないために。

               

                           

 

 

 

第六十話 一人じゃない
生きたいか?

走り疲れて足がもつれてしまうほどに走って、走って、立ち止まった中西が口にした言葉はそれだけだった。

           

「…は?いきなり何言ってんの中西」
「いきなりじゃねえよ、ずっと聞こうと思ってた。生きたいかって訊いてんの」
「なんで」
「お前が生きたいって言うなら、俺がお前を生き残らせる。どんなことをしても」

言葉が詰まった。何を言えばいいのかわからないとかそういうことではなく、言葉すべて奪い取られていった。
見たことのない瞳の色だ。
ひどく傷だらけの、必死そうな色をした瞳が痛かった。
きっと彼は自分を探していてくれた。近藤がそうだったように、きっといっぱい傷ついて、悩んで、それでも近藤を探していてくれた。
それ以上見つめていたら、近藤の方が痛くて泣き出してしまいそうで思わず目を逸らす。
行き場のない視線。俯いて目に入ってきたのはぼろぼろの靴だった。
中西は普段、そういうことをひどく気にする質で、神経質と言っていいほどなのに。
そんなものに構っている余裕さえなかったのだろうかと思えば、表面だけ取り繕って普段通りを見せている中西が痛くてたまらなかった。
それなのに、近藤に生きるチャンスを与えようとしてる。

馬鹿だ。絶対。…馬鹿だよ。

必死に言葉を探して、どうにかそれを見つけて。
それでもどう言えばいいのかと少しだけ思案した後近藤は口を開いた。

「…生きたい。でも、それは一人でじゃない」
「……」
「だってさ、そしたら中西どーなんの?三上は?渋沢は?他の奴らは?俺は、…嫌だよそんなの」

声が震える。呼吸の乱れとは関係のない震え方だ。

言いたいことがあった。
そしてそれを言うためだけに近藤はここまで生きてきた。そうだ。願い、祈ったのは生き残ることではない。彼にその言葉を言うためだ。

今言わなければもうチャンスはないと思った。

「俺は、…俺は、お前のこと…好きだから、だから、その、なんだ…、…っお前が傷付くの見たくねえし、まして死ぬのなんか…」

見たくない。まっぴらだ。

そう続けることも出来ずに唇を噛み締める。
強く握り締めた拳が、震える。
自分で口にした言葉に、怯えていた。これから先、そうなってしまうのではという危惧。

生きたい。
でもそれは一人ではなくて。
出来ないことだとわかっていたけれど、みんな一緒がよかった。
きれいごとを、それでも叶えたいと思っていた。
生きて、自分だけ生きたって。
目の前の人がいなければ駄目なのに。
なぜそれが、わからないのか。

「……気、…抜けた…」

大きな溜め息と共に吐き出された言葉。
顔を上げると何とも形容のしがたい表情をした中西と目が合った。

「は?」

思わず訊ねると、中西は盛大なため息を吐いて、頭をがしがしと掻いた。

「お前…そーゆうのもちっと前に言えよ…こんなとこじゃなくてさあ…」
「うるせーよ」
「…泣くなよ、なあ」
「泣いてねえよ」
「泣いてんじゃんお前」
「……」

戻りたい。戻りたい。
あの日常に。前みたいに。
叶わないのに尽きることのない願いごと。

「…俺さ、ほんとは、…お前に『イラナイ』って言われたらどうしようって思った。俺はお前に逢いたくて、生きていて欲しくて、ここまで来たけど、もしお前はそうじゃなかったらって思った」
「…んなことねえよ」
「まあ聞けよ。だからさ、生きたいって言って、俺を殺すならそれでも良いと思ったし、お前生き残らせるためなら何でも出来ると思ったけど…」

言葉を切って中西が近藤の頭を撫でる。
ふわりとした触れ方が中西には似合わなくて、妙に胸が痛くなる。

「泣かれると、キツイよ」

そう言った中西の目からも涙が零れていて、思わず笑った。
泣き顔なんか、始めて見た。これがもし、こんな場所じゃなければ。プログラムなんかじゃなければ。
そう思って、でも少しの間くらいそれを忘れてしまいたいと思って。
わざと軽口を叩いた。

「中西だって泣いてんじゃん」
「気のせいだろ」
「泣き虫朗」
「お前のが泣き虫だろーが」

馬鹿だ。本当に。
愛すべき、大馬鹿者。
止まらない涙は愛おしさの所為。
痛みも、切なさも、哀しみも、愛おしさの所為だ。
プログラムの最中、垣間見えた一欠片の日常はひどく懐かしくて愛おしかった。

           

           

がさ。

かさ、かさ。

非日常の足音が聞こえる。
日常をもっと微睡んでいたいのに。
押し寄せる現実。
滅多に触れない中西の手を握って近藤は顔を上げた。

「抵抗、する?」
「お前は?」
「俺これがもし三上とか渋沢だったらマジやだ」
「同感」

見たくない、現実。
ひどく懐かしくて優しいのに、遠過ぎて哀しい日常を思う。
遠く離れたからこそ、懐かしく思って、愛おしくも思うのだけれど。

「でも多分これ、三上じゃないよな。歩き方からして違うし」
「渋沢だったらもっとカッコつけた歩き方だよなあ」
「あーそうそう、なんかこう、もっとどっしりした感じ?」
「ウチの守護神様だし」
「おまけに選抜の守護神様だし?」

笑っているような状況でもないのに零れてくる笑み。
出来るなら最後まで日常に浸っていたかった。

          

生きるなら、二人一緒に。
死んでしまうなら、二人一緒に。

ひとりぼっちは、ごめんだ。

          

「…随分、脳天気なんだね、武蔵森って」

場違いに和やかな笑みを浮かべた名前も知らない誰だがかそこにいて。
自分たちが想像した通り、自分たちの大切な人たちでなかったことに安堵した。
繋いだままの手を少しだけ強く握りしめる。

            

大丈夫。
俺たちは、もう一人じゃない。

                        

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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