罪という名の…
好きという言葉は簡単に言えるように思えて、けれど本当はとても重い言葉。
軽々しく言っていい言葉じゃなくて、とても、とても重い言葉。

…人を好きになるということは、難しい。

         

好きになってはいけない人を、好きになってしまった、なんて。よくある話と思う。
けれど、決して許されることはない、話。
噂話の好きな人間や、恐ろしくそういうことに寛容な人間には許されても、本当の意味で許されることのない話。

その言葉を口にすることの重さを、知っていて。
けれど、口にせずにはいられなかった。

それは、幼さゆえだろうか。

教師と、生徒。男同士。
立場や常識が、責め立てる。詰る。
頭狂ってんじゃねーのって、誰かが嗤う。

泣きそうになって、実際悔しさのあまりに泣きもした。
好きになってしまった。
ただ、本当にただ、それだけのことなのに。
何を望んだ訳でもない。
ただ好きだと認識してしまっただけ。
ただそれだけが、それだけで異常者扱いの対象になった。

気持ち悪いと誰かが言った。
汚物でも見るかのような眼で哂った。
唾を吐きかけられた。
それが当然の仕打ちだと言わんばかりの顔で。

…何が間違いだと考えればすべてが間違いだったのだろうと思う。
あの人と出逢ったことも、あの人を好きになったことも、すべて。
すべて間違いだったと、口にすれば戻れるだろうか。
想いに蓋をしてなかったことにすれば。

神様は言う。
天国の門を通りたければ罪に濡れた場所を捨てろと。
手が汚れているのなら、その手を捨てて。
眼が汚れているのなら、その眼を抉り取り。
そうして罪を犯した体を捨て、汚れていない魂で天国の門を通るのだと。

ああそれでも。

自分はきっとすべてが汚れているから。
天国の門は開いてはくれない。
慈愛に満ちた天使すらきっと、詰り、嗤うだろう。
異端は、排除される。

腕を切り落としても。
足を切り捨てても。
たとえ心臓を抉り取ったとしても。

もう、罪をなかったことには出来ない。

          

たった一つ、救いがあったと言うのなら、それは、彼が哂わなかったこと。
殴られて、蹴られて、血と泥にまみれたまま、掠れた声で呟いた、告白とも言えない呟きを。
彼だけは嗤わなかった。
傷を手当てして、大丈夫かと撫でてくれた。

それだけで、もう。充分だった。
他に何も、望みはしなかった。

…彼がそれまで築き上げてきたものを壊すつもりなんて、これっぽっちもなかったのに。

         

人を好きになるということは、どうしてこんなにも難しいのだろう。
それは自分がただ、好きなってはいけない人を好きになってしまったせいでそうなっただけなのだろうか。
異性であり、赤の他人であり、同年代であれば、もっと簡単なことだったのだろうか。
それでも好きになってしまって、気が付いたらどうしようもなくなっていて、常識がどうの、ではないところまできてしまっていた。

何か道はあっただろうか。

何が正しいことだったのだろう。

          

思春期にありがちな一過性のものだとか、ちょっとした勘違いだとか、そんなものではなかった。
そうでなかったから苦しんだ。
そうであったらいいと思い、そうであると言い聞かせた。
苦しんで、苦しんで、呟いてしまった言葉が、大きな間違いだったのか。

       

どうして。

      

「かんとく……」

元々の持病に加えて過度のストレス。ストレスを増やしたのは、他の誰でもない自分のせいだ。
そう、負担を増やしたのは自分のせいで、思い浮かべれば、原因はすべて自分に行き当たる。

その人の元奥さんが泣いていた。

あなたのせいよ、と俺を詰った。

穏やかな笑みを浮かべていたところしか見たことのない人が、眉間に皺を寄せて泣き叫ぶ。
それもすべて、自分が犯した罪のせい。

          

好きになっただけなのに。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
どうしてこの世には何故禁忌があるのだ。
どうして好きになってはいけない人がいるのだ。

どうせ好きになってはいけないのなら、最初からこんな感情を与えなければよかったのに。

         

何も望みはしなかった。
ただ好きになってしまっただけ。自分ではどうすることも出来ない恋情が、彼に向いてしまっただけ。
けれど、その好きになったという事実だけで。

それはもう名前を罪と変えてしまう。

       

誰もが哂う。詰る。残酷な言葉を吐いて。
殴られても、蹴られても、唾を、吐きかけられても、それを甘受するしか自分には道がなかった。
身体も悲鳴をあげなかった。
ただそれと反比例して、心だけが激痛を訴えた。

その人の息子が俺を嗤う。
何処かの誰かと同じような科白を吐いて、同じように詰る。
気持ち悪いと、頭オカシイんじゃないかと。
あいつの考えることはわからないと。
酷薄な笑みを浮かべ、獲物をいたぶるように哂いながら、さも面白そうに。

締め切った室内で、もう動かないあの人の目の前で。

          

数える程もないくらい、ほんの数回、彼に抱かれたことがある。
彼の中にあるものが、自分と同等の感情ではないと思いながら、彼の腕を知るものが、自分だけでないとわかっていて。
それでも抱いてもらえたことは嬉しかった。

だって、その瞬間だけは何も考えずに済んだから。

痛みも悲しみも苦しみも、忘れることが出来たから。
彼に触れられるのが好きだった。

       

人を好きになったこと、本気で人を好きだと思ったこと。
それを後悔したことはなかった。
どれだけ傷を負っても、悔やんだりはしなかった。
ただ、そのせいで彼にかけた負担に、そのせいで彼を苦しめてしまったことに。

多大なる絶望と後悔を抱く。

           

揺さぶられる身体に、響く水音。
翻弄される熱に、ああ親子なんだ、とぼんやり思った。
生理的な物なのか、哀しくて零れるのか、涙は幾つもの筋をつくり頬を伝い落ちていく。
涙の理由はいくつもあって、彼以外に触れられることが、信じられないくらい気持ち悪くて。

このまま死んでしまえたらとまで。

          

好きだと言う言葉を、軽々しく吐いたことなど一度もなかった。
彼に告げたときだって、そうだ。
本当に限界まで苦しんで、張り裂けそうな胸を、必死で覆い隠して、それでも零れてしまうくらい想いが強かったから。

その重さを、ひしひしと感じながら伝えて、伝えた後も、その重みに潰されそうになりながら、耐えてきた。

         

この気持ちの名前が、罪以外に名付けられなかったとしても。
それでも、それでも、彼が、

         

「監督……っっ」

        

それでも本当に、好きだったんだ。

        


おやこどんぶり(こら)。
好きってどういうこと?とか思い悩んでた時期のものだと思われる。(何その感想)(わかりません)
多分に天禁の影響を受けてる感がある。天国の門の辺。

               

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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