キラキラ光るお星様。瑠璃色の空に、瞬いて。 その下で、流れ出た血液は。
それでも赤く色鮮やかに視界を染めた。
浴衣を着て、夏祭り。
ずうっと昔にもあった気がする。
遠すぎて、もう、記憶の彼方に追いやられてしまったけれど。
何気ない出来事だった。
連れとはぐれて、迷子になって。
泣いている三上に声をかけて、大丈夫かと。
単純な刷り込みだ。
泣いて蹲っていたのが三上でなくても声をかけただろうとは思うけれど。
それでもどうしようもなくなっていた三上を助けてくれた。
だから思った。好きだと思った。
好きだと思って、思いこんだまま月日は経って。
想いは当初よりも深さと重みを増して。
三上から自由を奪った。
子供の思う好きとは違う、恋情に欲求は高まり、狂おしさに戸惑う。
あの日逢わなければ、というのはあまりにもありきたりなフレーズだろうか。
祭囃子が遠くで聞こえる。
口の中に、甘ったるいわたあめの味と、血の味。
一馬のの浴衣には、血がついていた。三上の浴衣にも。
赤く、赤く、暗闇の中でさえ赤く。
喰い千切って、飲み込んでしまえば三上だけのものになるのだろうか。
生暖かい空気の中で噛み付いた一馬の指は鉄の味がした。
自分だけのものにしたい。
遠く古来より染みついた動物的な欲求。征服欲、独占欲。
その瞳に誰も映しては駄目。
自分以外を映してしまうのならその瞳を抉り取って。
誰かを想う心臓なら、握り潰してしまいたい。
誰かの手に渡る前に、自分だけのものに。
血も、肉も、声も、眼も、すべて。
彼を構成するすべてを喰らい尽くせ、と三上の脳裏で誰かが言った。
「…かずま、……かーずまー…」
精液にまみれ、血でベタつく身体。
それでも三上は、不快感など微塵も感じていなかった。
寧ろ、恍惚としていたかもしれない。
何故ならそれはすべて一馬を構成するものだから。
求めて止まなかった、彼の、すべて。
妖艶な笑みを浮かべ、乱れた浴衣はそのまま、三上は動かなくなった真田の身体を愛おしそうに抱きしめた。
囓る、指。
血の、味。
真田の、
有り体に言うのなら、狂っていたのかも知れない。
いつからなのかはわからない。ひょっとしたら、ずっと前から。
一番最初、出会ってしまったときから、こうなることは決められていたのかもしれない。
なぜという疑問符は、三上の脳裏にはなかった。
ただ狂おしいまでに愛おしくて、理性もそれを修復しようとする回路もぷつりと切れていた。
「あはは…かずま、まっか、きれい、あははははっ」
子供のように、無邪気に。
壊れてしまう。いや、彼は壊れることを望んだ。
硝子の、細工品のように。
脆い、神経の、糸。
すべてを、自分のものにするために。
ぷつりと音を立てて、理性なんか、跡形もなく。
囓ったところからまた新しく肉が覗く。
ぺろぺろと血を舐め取りながら。
身体の奥深く埋め込んだ一馬を、それでもまだ喰い尽くすように腰を振る。
「ねえ、かずま」
闇の中、何も見えない。赤だけが、視界を覆う。
賑やかな祭囃子から忘れ去られてしまったように二人きりで。
ああ、なんて素敵な空間なのでしょう。
誰も邪魔しないで。
誰も取らないで、奪わないで。
口に広がる血の味は、ひどく甘く、甘い。まるで、砂糖菓子のように。
幸せそうな笑みを浮かべて、三上は物言わぬ一馬の身体に口づけた。
「……だいすき」
キラキラ光るお星様は見てるだけ。
何も言わない、叱らない。
もっとも、すでにそんな光でさえ、三上の眼には映っていなかったけれど。
ふと思い立って、読む人が気持ち悪いとか怖いとか思うようなものが書きたかった。orz
なぜそう思い立ったのかは不明。
甘いのと痛いのとの差が激しい。
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