窓際の席、日の光が当たり三上の髪はキラキラと光って見えた。
隣の席というすばらしい位置条件にこっそりと感謝する。
暖かな日差しの中で眠る三上を渋沢は微笑ましげに見つめていた。

いつの間に鐘がなったのだろう。黒板もノートもすっ飛ばして三上ばかりを見ていた渋沢にはわからない。
気が付くと授業は終わり、休み時間になっていた。
いつまで経っても目を覚まさない三上と、それを飽きることなく見つめる渋沢。
同じクラスの中西や辰巳が冷やかすようにその場に集まってきた。

「よ、渋沢」
「何、まだ寝てんのコイツ。いい度胸じゃん。うりゃ」

そう言って中西が頬をつついても、三上はただ呻るだけで目を覚まさない。
普段の三上ならその時点で不機嫌そうに目を覚ますはずなのだが。
渋沢は辰巳と不思議そうに顔を見合わせた。

「なあなあ、三上どうしちゃったわけ？全然起きねえじゃん」

三上がこれほど眠りこけることなど滅多にない。
大抵は鐘の音や周りの喧騒で起きてしまうというのに、珍しく今回は眠ったままだ。
それを見て、悪戯心が芽生えてしまったとしても仕方のないことかも知れない。

「落書きとか、しとくべき？」
「ほっぺにうずまきとかか？」
「いや、王道は肉だろう」
「じゃあ、ほっぺにちゅうとか」
「それは却下だな」
「何で」
「三上は俺のだから」
「渋沢〜…」

そんなくだらない会話を交わしている間に、ようやく目を覚ましたらしい三上は、脱力しきっている中西と辰巳を見て首を傾げている。
何やってんの、と。
三上が起きてしまったことに、幾分つまらなさそうに舌打ちした中西だったが、それで引き下がるような殊勝な性格を彼はしていなかった。

「三上、三上」

三上の座っている椅子のちょうど真横にしゃがんだ中西はちょいちょいと手招きをして三上を自分の元へ招き寄せる。
まだ起きたばかりで頭が上手く働いていないのだろう、中西の顔は明らかに意地の悪い形に笑っているのに、三上は素直に中西の言うことに従ってしまった。
渋沢の脳裏に嫌な予感が過ぎり、中西を止めようと、…したのだが、後一歩遅かった。

ちゅう。

「…！！！！」

何とも可愛らしい音を立てて中西が三上の頬にキスをしていた。
渋沢にとって、それは少しばかり、悪戯で済ませられるようなものではなかった。
隣で同じように三上と中西を見ていた辰巳が、ふむ、と何か考えるような動作をして床に膝をつく。
またしても嫌な予感が渋沢を襲うが、先ほどの衝撃の所為で動きが鈍っている。気付いた時には、すでに遅かった。
辰巳が中西のした方とは逆の頬にキスをしていた。
覚醒しきっていない三上は何が起こったのかいまいち理解できずに目を瞬かせている。

「…あ…？」

授業開始の鐘がなり、中西と辰巳は何食わぬ顔をして各々の席に戻っていく。
残された渋沢はにっこりと、けれど決して裏がないとは言い切れないような笑みを浮かべて三上を見た。
その視線にようやく自分の置かれている状況を認識したらしい三上は、青ざめた顔をしてこちらを見ている。
授業が始まり、渋沢は三上に小さなメモを渡す。
そのメッセージを受け取った三上は渋沢を怯えたように見つめ返した。
視線が『俺は悪くない』と訴えていたが、もちろんそんな視線には構いもせず我ながら一部の隙もない完璧な笑顔でもって返しておいた。
夜が楽しみだなあ、と小さく、三上にしか聞こえないほどの声で呟いた言葉に、また少し青くなった三上が可笑しくて渋沢は少し笑みを濃くした。

…補足するならば、三上の睡眠不足の原因は実は渋沢にあったりする。

けれど穏やかな昼下がり、昨夜の悪事を省みない渋沢の頭の中を支配していたのは授業の内容などではなく、今夜三上をどうするかということだけだった。

渋沢＝黒い。が定説だと思っていた。
いい思いしてんなあとは思いますが、本気で中西と辰巳の場合はいたずらです。
次の日げっそりしてまた爆睡するだろうことくらいわかっていて、わざとやってます。（えー）