オリジナルブレンド
買い物の邪魔にならない程度に洋楽のBGMが流れる、アンティークな雰囲気の珈琲専門店。
三上のために煎れる珈琲豆を買いに幾度か訪れたことのある辰巳は、慣れた動作で綺麗に陳列された棚から珈琲豆の袋を次々とカゴの中に入れていった。
一方珈琲の味には煩いくせに豆の種類には無頓着な三上はそんな辰巳の姿をぼんやりと隣に立って見ている。
学校帰りの、ちょっとした寄り道。

         

いつからだったか。辰巳が三上に珈琲を煎れてやるようになったのは。
気が付けば味に煩いと自他共に認める三上の口から『美味い』という言葉を言わせられるくらいに上手に煎れられるようになっていたし、わざわざ自分からこんな店に足を運ぶくらい、珈琲を煎れることが辰巳の趣味になっていた。

そう。珈琲豆の種類だって最初は何も知らなかった。

その辰巳が自分でブレンドして、それを三上に飲ませ、尚且つ三上を納得させられる味になっているから、つくづく人間とは進歩の生き物だと思う。

それはきっと、…そう。

喫茶店を経営している知り合いが飲ませてくれた珈琲を、気まぐれで、なんとなく、自分でも煎れてみたいと思って。
そしてそれを実際に見よう見まねで煎れてみたことが始まりだったと思う。
当然その珈琲は苦くて飲めたものではなかったけれど。
豆を挽いて湯をかける。ただそれだけの作業が、どれだけ単純でそれゆえにどれだけ難しいか思い知らされた。
それが悔しくて、何度かやり方を教わって煎れている内に、最初よりはマシな味になったそれを三上に飲ませてやった。
たぶんその時に三上が口にした『まあまあイケるんじゃねえ?』の一言を『美味い』してやりたくてここまで続けてきた気がする。
だって本当においしいものを口にしたときの三上は、それこそ本当に嬉しそうに顔を綻ばせるのだ。
わざわざ辰巳の部屋に珈琲をたかりにくる友人もいるけれど、ともかく。
そんな単純な動機から数ヶ月。
二日に一度は三上に珈琲を淹れて、二、三週間に一度はこの店を訪れていた。

         

珈琲専門店だけあって豊富に種類を取り揃えてあるこの店には、何度か三上も連れてきたことがあった。
基本的に豆の切れる頃合いを見計らって生き抜きにと辰巳が連れ出しただけなのだが、三上だって、この店が嫌いな訳ではないと思う。
辰巳の勘で言えば、好きな部類に入ってると思っていた。
でなければ、いくら辰巳が一緒に行こうと誘ったところで、ついてくるはずがないのだ。
それでも長時間ともなれば、三上は手持ち無沙汰になる。
珈琲豆を選ぶ辰巳とは違って、その隣でただ見ているだけなのだ。三上が暇を持て余すのも仕方がない。
けれどこの辺りのタイミングも辰巳はすでに心得ている。
ひとしきり豆を選び終わる頃を見計らって延ばされるだろう手とかけられるだろう言葉を予想することはそれほど難しいことではない。
過ごしてきた年月が長ければ長いほど尚更。
手に持っていた豆をカゴの中に入れて辰巳が豆を選び終わると、案の定三上は辰巳の服の袖を引っ張って自分の方へ向かせる。
辰巳の用事が終わるまで口に出さないあたりが、どうしようもなく愛しかった。

「なあ、俺ヒマなんだけど」
「ああ」
「……」
「もう終わったから。珈琲、飲むだろ?」

三上がこくりと頷いたのを確認して、自分の服を引っ張っていた手を取り、店の一角にあるカフェスペースに連れていく。

何一つ、小さな頃から変わらない三上の態度。

辰巳が小学生の頃何かの漫画にハマって読みふけっていたときもそうだった。
その時も夢中で本を読む辰巳の横でじっと座り、一巻分を読み終わった頃、辰巳の服を引っ張ってつまらないと口にした三上。結局、その手を取って遊びに出かけたような気がする。

変わらないそんな自分たちに辰巳は小さく笑って見せた。  

普段なら嫌がるのだけれど、自分たちの他に客の姿が見あたらなかった所為か、うっかり繋いでしまった手にも三上は文句を言わなかった。

            

テーブルに腰をかけると店主が待ちかねたように珈琲を持って辰巳たちのところへやって来た。

「久しぶりだねえ辰巳くん。今日はえらく大量じゃないかい?」

人好きのするような笑顔で親しげに話しかける店主に、辰巳もここのところ練習が忙しくて来れなかったんで、と笑い返す。
先ほどから辰巳が熱心に豆を選んでいたのを見て、気を利かせて先に煎れて置いてくれたらしい珈琲を、店主はテーブルの上に乗せた。
出された珈琲を受け取り口に運ぶ三上の表情が、少しだけ不機嫌そうに曇っていたのを辰巳も店主も見逃さなかった。

「三上くんも久しぶりだね。辰巳くんとも相変わらず仲がいいようで何よりだ」

にこにことシフォンケーキを2人の前に出して店主は奥のカウンターの中へと戻っていった。
出された洋菓子は、甘いものが苦手な三上でも食べられるようにとの配慮から甘さを控えたものになっている。
これは辰巳が前もって店主に伝えて置いたお陰といえるだろう。
しかし先程の態度から三上の機嫌があまり良くはないらしいことは明白で、そんな配慮のされたシフォンケーキでさえ味がわかっているのかどうか怪しいところだ。
三上がこうやって不機嫌になるのは今に始まったことではない。
辰巳が自分以外の人間と、自分を差し置いて楽しげに話していたのが気に食わないのだろう。
まったくもって我が侭でやきもちやきなところも小さい頃から変わらない。
そしてそれを辰巳が可愛いと思ってしまうのだから、どうしようもないと思う。

「何を、拗ねてるんだ?」
「拗ねてねえよ」
「嘘つけ」
「嘘じゃねえもん」

仕方ないなあとでも言うように辰巳の顔に微笑みが浮かぶ。
この表情を引き出せるのは三上だけだ。他の誰にも引き出せない。

いつか昔やったように宥めようと三上の頭に手を延ばした。
もしもその手が辰巳でなければ、振り払われていたかも知れない。プライドの高い猫のように、三上は人を選ぶ。
されるがままに撫でられてくれるのは、自分を特別だと言ってくれているようで嬉しかった。

カウンターの奥へ入っていった店主の、アテられたように苦笑したその表情には気づいていたけれど、今は三上が優先だ。

少しの間だけ、この大切な人のご機嫌取りに集中させて。

          

ようやく機嫌の回復したらしい三上が、無意識か意識的にかいつもとは違う笑みを見せる。
この表情が見られるのも、きっと辰巳だけだ。
それくらい自惚れてもいい気がした。

「…ここの珈琲も美味いけど、俺は辰巳の珈琲のが好き」

そうシフォンケーキを口に運びながら口にした三上の言葉は辰巳にとって最高の賛辞だった。
とても、言葉には言い表せないほど、嬉しくて、思わず声を上げて笑ってしまったほどに。

「当たり前だろう。俺が淹れるのは、お前のための珈琲なんだから」

料理をおいしくするのが愛情だというのなら、珈琲だって多分例外ではない。
そして込める気持ちが味に影響するのなら、辰巳の淹れる珈琲は、三上が飲んだときに一番おいしくなるように出来ているはずなのだ。

               


辰巳さんは見た目と違って読書が趣味で、三上の珈琲とか淹れるのもきっと辰巳さんの役目で、拳法とか棒術とか習っててくれたらいいと思って遠い昔書いてたら、ファンブックに読書が趣味と書かれていて、大爆笑した記憶がある。

               

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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