寒いのは、苦手だ。
冬は嫌いじゃないけれど、寒いのは苦手だった。
暖かい暖房の利いた自分の部屋をわざわざ抜け出して三上は中西の部屋に来ていた。
しかし折角来たにも関わらずこの部屋の主である中西は煙草が切れたからといって外出中だ。
ヤニ中毒が、と毒づくけれど、そんな三上の言葉も中西には届かない。
外よりは幾分かマシだとは思われる部屋の中も、自他共に認める極度の寒がりである三上にはかなり辛かった。
暖かい部屋から来ただけに更に寒く感じる。
ベッドの上の毛布を引っぱり出して、とりあえずの応急処置としてくるまってみても、それは変わらなかった。
暖房をつければいいのだが、三上とは反対に中西は暖房特有の人工的な暖かさがあまり好きではないらしくこの部屋のほとんどの暖房器具はその意味を成していない。
それを律儀に守ってしまっている辺りが、三上の三上たる所以だ。
そして間の悪いことに、この部屋で唯一使用されている暖房器具の電気カーペットもどうやら壊れているらしかった。
「あー…寒ー…」
しんとした部屋の中で無意識に口から出た言葉は、予想していたより大きく部屋に響いた。
おかげで更に寒さが増した気がして、口にするんじゃなかったと、後悔した。
いつもより寒い気がする室内は、今日の気温の所為だけではなくて、きっと一人で部屋にいるからだ。
中西がいれば多少部屋の温度が低くてもそう気になったりはしない。
それはきっと必要以上に構ってくる中西の所為だ。
だから、今三上がこんなにも寒いと思っているのも、中西の所為だ。
カチャリと音がしてドアが開く。
そこに中西の姿を確認すると三上は中西にしがみついた。
「三上?」
普段なら三上は絶対こんな出迎え方はしない。
暖房器具が帰ってきたんだ、抱きついたって仕方ない、と三上は自分勝手に解釈した。
自分が本当は寂しかった、なんて、そんな感情認めない。
「お前なんでそんなに体温低い訳?」
少し強く抱き返されて訊ねられる。
布ごしに感じる中西の体温は暖かくて、やけに心地よく感じた。
「寒い」
暖かいと思ってしまった気恥ずかしさを隠すように三上がそう口にすると、中西は三上の額にキスをして、それから少しだけ意地悪そうに笑って見せた。
その笑顔になんとなく嫌な予感を感じて自分より数センチほど高い位置にある中西の顔を訝しげに見つめる。
しかし当の中西は三上のそんな視線などお構いなしでキスの雨を降らせていた。
ドアがきちんと閉められていたのは、果たして三上にとって幸運だったのか不運だったのか。
「何してんだよ」
「や、暖めてやろうかなと」
まんざら嫌な訳でもないとしか思えないほど弱い抵抗を、やはりあっさりと封じ込めて中西はベッドへと三上の手を引いていく。
されるがままになりながら、三上はそれでもいいかと小さくため息をついた。
彼といれば、寒くないから。
寒いのは苦手だけれど。
寒い部屋は好きではないけれど。
冷えた身体が感じる彼の体温は、この上なく優しい。
当時のキリリクで書いたもの。
三上は寒がりで暑がりだと思う。
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