何気なく付けて、そのままになっていたテレビ。
代わり映えのしないニュースにアナウンサーの規則的な声音。その中で俺の興味を引いたのはぱっと移り変わったその映像。
誘拐されて、保護されたという少女がひとり。
そしてその少女を買ったという容疑者の男。
内容に耳を傾ければ人身売買で連れていかれたという。
連れていった理由は思わず笑ってしまうほど、至極簡単だった。
お嫁さんにするんだと。
馬鹿馬鹿しい。けれど、いっそ目の前の男も三上を誘拐してはくれないだろうか。
三上は別にその少女のように親に会いたいとも思わない。
今自分の手の中にあるものと引き換えに、中西とずっと二人でいられるというのなら、悪くない条件だ。
誰もいない場所へ、二人だけの場所へ、行きたいと思ってしまうのは、ずっとこのままでなんていられないことを、心のどこかでわかっているからだ。
「なぁ中西、お前さー、俺を誘拐する気ない?」
自分の隣で煙草をふかす中西に三上は呟いた。
三上の視界の先には中西の愛飲煙草のマルボロ。その箱の赤だけがぼんやりと三上の瞳に映っていた。
中西の匂いのするベッドの上で、こんな風にテレビを見るのも、いつまでだろう。
三上の今の心境を正しく評するなら、終わりを怯える子供の心境だった。
「誘拐?してほしいの?」
普段三上が浮かべる以上に人を食った笑みを浮かべて中西は三上の問いに問いで返した。
いつだってそうだ。中西はいつだって、三上の思う通りに答えを返してくれたりはしない。
気分を害されることにも慣れてしまうくらいに。
「してっつったら、どうする?」
三上にしては珍しく、素直に問うた。
それに中西は一瞬面食らったようにして、それでもいつもの笑みを浮かべて言う。
「いいぜ?」
表情ひとつ変えないまま中西は三上の耳元で囁いた。
少し掠れた声。煙草の匂い。
当たり前といえばあまりにも当たり前な中西を構成するすべて。
慣れ親しんだそれは、なくすには惜しくて、だから三上は訊ねたのだけれど。
呆気ないほど簡単に返された返事に、思わず意味がわかってないのではと疑った。
ついでとばかりに落とされたキス。
キスをされる度に感じていた苦さも、それがないキスをそれと思わなくなってしまった。
これではまるで、中毒患者だ。
「……ん…」
身体の力が、抜けていく。
中西は三上にキスをするのが好きだと言った。
三上は中西にキスをされるのが好きだと言った。
他愛ない、そんな惚気話。
中西はキスをされる時の三上の顔が可愛いからと言った。
三上はキスをしてくれる時の中西が優しいからと言った。
どれだけキスをしてても飽きないのは、きっと。
悔しいけれど、それだけ骨抜きにされているから。
「…どっか、連れてってくれよ」
「どこへでも連れてってやるよ。お前が望むなら」
誰もいないところへ、誰もいない世界へ。
そう、誰も俺たちを責めたり、咎めたりしないところへ。
そんなことは無理だとわかっている。
けれど連れて行ってほしいと思う。
煙草の味のするキスを交わして、約束だ、と中西は笑った。
書き直して書き直して、を繰り返した話。
ニュースは実際に当時やってました(笑)。見た瞬間マジか!と大笑いした。
そしてネタにした。それでいいのか自分。
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