たんぽぽ |
どこにだってある花だけど、どこにだってある花だからこそ。 ただそれだけでその花には価値がある。 ただ、そこにあるだけで安らげる。
「あ、たんぽぽ…」 練習を終え寮へと続く坂道の途中、三上がふと足を止めて呟いた。 「たんぽぽ?」 三上の視線の先を追っていくとそこには無機質なアスファルトとアスファルトの間、風に揺れる小さな黄色いたんぽぽがあった。 「こんなとこに咲いてたんだな。全然気付かなかった」 三上が小さく頷く。 「あれ、三上たんぽぽ好きだったっけ?」 三上の『嫌いじゃない』はイコール『好き』ということ。 いつも通りの帰り道。 根岸がぼんやりとその黄色を目で追っていると不意に制服の裾が引っ張られる。 「…帰ろっか、三上」 そっと制服の裾を掴んでいた三上の手を放させて代わりに根岸自身の手でそれを包んだ。 「…」 根岸が一歩歩き出すと三上も一歩歩き出す。 「ねえ三上」 同じ歩調で歩いていく。 「じゃあさあ、」 根岸が三上の方へ振り返る。 「………俺は?」 決してつまらないとは言わないけれど何でもない日常。 その中のちょっとした変化と発見。 どこにだってある、でも少しだけ特別な。
「…嫌いじゃないけど」
三上は自分の言う嫌いじゃないという言葉が好きだということだと気付いていない。
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