たんぽぽ
どこにだってある花だけど、どこにだってある花だからこそ。
ただそれだけでその花には価値がある。 

ただ、そこにあるだけで安らげる。

           

「あ、たんぽぽ…」

練習を終え寮へと続く坂道の途中、三上がふと足を止めて呟いた。
他愛ない雑談の中、ぽつりとこぼされた三上の言葉につられるように根岸も足を止める。

「たんぽぽ?」

三上の視線の先を追っていくとそこには無機質なアスファルトとアスファルトの間、風に揺れる小さな黄色いたんぽぽがあった。
毎日通っているはずの道なのによく気付かなかったものだと思う。

「こんなとこに咲いてたんだな。全然気付かなかった」
「うん」

三上が小さく頷く。

「あれ、三上たんぽぽ好きだったっけ?」
「きらいじゃねえよ」

三上の『嫌いじゃない』はイコール『好き』ということ。
その辺りの三上の言い方が微笑ましくて、根岸は三上に見つからないように笑みを零した。

いつも通りの帰り道。
見つけた黄色いたんぽぽ。

根岸がぼんやりとその黄色を目で追っていると不意に制服の裾が引っ張られる。
慌てて振り返ると三上はまるで拗ねたような視線を根岸の方へと送っていた。
柔らかな風が足元のたんぽぽと三上の髪を揺らす。

「…帰ろっか、三上」

そっと制服の裾を掴んでいた三上の手を放させて代わりに根岸自身の手でそれを包んだ。

「…」
「ほら行くぞー。今日の夕飯はさんまだ、さんま。…腹減ったな」

根岸が一歩歩き出すと三上も一歩歩き出す。
恨めしそうな三上の視線には気付かないふりで、適当な軽口を叩いた。
夕日に照らされて辺りは橙色に染まりかけていたけれど、根岸がちらりと横目で伺った三上の顔も、夕日のおかげで赤く見える。まるで、頬を染めているように。
んな訳がない、と自分で突っ込んで、それから、思い出したように三上に訊ねた。

「ねえ三上」
「なに」
「三上はたんぽぽ嫌いじゃないんだよね」
「それが?」

同じ歩調で歩いていく。
振り返ればきっとその先にはまだ、黄色い可愛らしい花が風にそよいでいるはずの距離だ。

「じゃあさあ、」

根岸が三上の方へ振り返る。
思った通り視界の隅に黄色が見えた。

「………俺は?」

決してつまらないとは言わないけれど何でもない日常。

その中のちょっとした変化と発見。
たった一輪のたんぽぽ。

どこにだってある、でも少しだけ特別な。

          

「…嫌いじゃないけど」

               


三上は自分の言う嫌いじゃないという言葉が好きだということだと気付いていない。
だから、根岸がなぜそんな質問をしたのかも知らない。

               

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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