背中合わせの恋人たち
嘘を吐く。一つ、二つ。
嫌いだと叫ぶ。顔も見たくないと言い張る。
精一杯声を荒げて叫ぶのに。

なのになんで。なんで彼は信じないのか。
気付かないように封印した胸の奥に気付かれているのか。
彼が信じなければ、嘘の意味がないのに。

嘘を吐く。一つ、二つ。
必死になって言い張る嘘が、まるで馬鹿らしくなってくる。

ああ、だからやはり、水野なんか嫌いだ。

                

             

静かなはずの真夜中に、こつん、と窓を叩く音がした。
ガラスに何か、そう、まるで小石でもあたったかのような音だ。
三上はノートパソコンから目を離して窓の方に視線を送る。
窓の外で存在を主張する人物に、三上は心当たりがある。
むしろ心当たりがあるからこそ、三上はただ窓の方へと視線を送るだけにとどまったのだ。
しばらくして、こつん、こつんという音が止み、元の静寂に包まれる。
彼は帰っただろうかと、立ち上がり、窓の外を覗き込む。
それを後悔してももう遅い。
顔を出したその先には、確信犯的な笑みを浮かべた水野が、こちらを見上げていた。

「げ、水野…!」
「やっぱり居留守使ってやがったなお前」

咄嗟にカーテンに隠れようとする三上に、水野は気にする風でもなく話しかける。
体にカーテンを巻き付けて隠れるようにしても、尚逸らせない視線。その所為で三上の心臓の鼓動が少しだけ早くなった。
そんな自分を振り切るように、三上は小さくため息を吐く。

「…あれ、今日渋沢さんいない訳?」
「なんで」
「アンタが後ろ気にしないから」

その言い草に少々苛立つけれど、実際その通りで、三上のいる部屋に渋沢はいない。
中西辺りがまた何かしらの問題でも起こしたのだろう、渋沢は数時間前に呼び出されて出ていったままだ。

「だからなんなんだよ。ウザい、お前」
「折角会いに来てやったんだからいいだろ別に」

ち、と三上は小さく舌打ちをした。
いつもいつもそうだ。三上が何か言っても適当にかわされてしまう。
水野は三上よりもそういう扱い方が上手いのかもしれない。
かわすことには慣れていてもかわされることには慣れていない三上は結局水野のペースに振り回される。
それもいつしか習慣になりつつあることが、三上にとっては何より腹立たしかった。

「折角ってなんだよ。誰が頼んだ」
「だって会いたかっただろ?」

見下ろす先にはそれこそ三上の心を見透かしたように笑う水野。
自信満々にそうであると疑わない、その傲慢さ。
水野の言動には確かに腹が立つ。
けれどそれよりももっと気に食わないのは、心のどこかで、自分も本当は会いたいと思っていたからだ。

「バッカじゃねえ?一生言ってろ」
「嬉しい癖に」

交わされる会話のうち、三上の表情がふと和らぐときがある。
それはほんの一瞬だけれど、確かに水野の目を奪う。
それが三上の本心だと水野は気付いているだろうか。
三上自身でさえ気付いていない、その表情の意味に。

しばらく窓越しに水野と話し込んでいた三上に小さな足音が聞こえた。
おそらくその足音は渋沢だ。

「…渋沢、帰ってきたっぽいんだけど」

先ほどまでの表情を消して、三上はそう言い、部屋を振り返った。

「じゃあ帰るよ。またくるから」

来なくていいよ、という言葉を飲み込んで、代わりに

「勝手にしろよ」

と笑った。

かちゃりとドアノブが動く音が聞こえて、三上は今度こそ部屋へと戻ろうと窓に手をかける。
そして未だ窓の外にいる水野に向かって手を振ろうとでもしたのだろうか、少しだけ右手を持ち上げて、それでもやはりそんな気にはなれなくて。
三上は中途半端に手を浮かせた手に視線を移して苦笑する。
その様子をみて水野がくすくすと笑っているのがまたしても三上の気に障ったけれど、渋沢の声が背後から聞こえて、なんでもない風を装うしかなかった。

「どうかしたのか?」
「別に?ただ外見てただけ」

そう。特に何もしてはないと思う。
この頃何故か来ることの多くなった来訪者が性懲りもなく、またやって来たくらいで。
三上は放りっぱなしになっていたノートパソコンに手を延ばして渋沢に視線を合わせることもせずに、なんで?と聞き返した。

「いや、なんか嬉しそうな顔をしているから」

「…………は?」

             

       

嘘としての価値は、いつからなくなってしまったのだろう。
嘘を吐いても交わされる。
その奥にある何かを見透かされる。

それなのにどうして待ってるのだろう。

嘘としての意味はもうずっと前からない。
きっと三上の嘘を、彼は信じていない。

けれど三上だって、この感情がなんなのか、まだわからないのだ。

             

今は未だ発展途上な想いを抱えて日々は過ぎる。
素直になることはできない、意地っ張りな心。

背中合わせの恋人たちはもしかしたら自分の抱く気持ちにも気付いてないのかもしれない。

            

気づかないふりを、しているだけかも知れないけれど。

               


三上と水野の場合、王道が三水だったので、それに反旗を翻すがごとく水三を布教してやる!と意気込んでた(遠い目)

               

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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