じゅうよんぶんのに。
「お迎えにあがりました〜」
「うーっす」

妙に明るい声が第二土曜日前夜の賑やかな松葉寮にこだまする。
本来なら部外者は立入禁止だったし、門限時間を過ぎてからの来訪者は門前払いをくらうはずなのだが、どうやら先ほど無駄に明るい声で挨拶をかました二人の男は、寮母さんから気に入られているらしく、特に咎められたりはしなかった。
毎週、とまではいかなくとも連休前には必ずやってくるので、寮母さんにも松葉寮の住人たちも、その来訪を当たり前のことと感じるようになっている。
それどころか来ない時は、何があったんだ、とか、そろそろ来るころだぜ、とか色々と話題に上るようにまでなっていた。

「よ。飽きもせずよく来るな、お前ら」

最初にその来訪者に話しかけたのは近藤で、半ば冷やかすように二人に向かってそう訊ねた。
半分は実際に冷やかしだが、残りの半分は本気でよく来るなあと感心していたのだけれど、そんな近藤には構うことなく先の質問に対して二人は思いの外真剣な顔で答えてくれた。

「飽きるわけ無いですよね。ケースケ君」
「これに飽きたら俺多分生きてけねえよ、スガ」

ほとんど同時に発せられたその言葉に堪えきれず近藤をはじめとした数人が笑い出した。
今の笑うところじゃないですよ、と笑顔で返す須釜に、奥にいた中西が笑いの収まらない様子で話しかける。

「お前らのオヒメサマならもうすぐ来るんじゃねえ? さっき辰巳が呼びにいったから」

言うが早いか否か。
その当の本人が中西の後ろから辰巳と一緒に歩いて来た。
先ほどの会話が丸聞こえだったらしく、かなり不機嫌な様子が見て取れた。

「誰が、誰の、何だって…?」

凄みのある声で中西に詰め寄ろうとした瞬間、それを須釜とケースケが阻んだ。
もちろん中西の為などではなく、約二週間ぶりとなる再会の喜びの表現によって、だ。

「三上っ」
「お久しぶりです〜」

標準よりも大きな男二人に巻き付かれて、元々フィジカルの強くない三上は簡単にその場に倒れ込んだ。
三上と一緒に来たはずの辰巳もすぐそばにいたはずの中西もちゃっかりと避難済みだ。
毎度毎度繰り返されるこの再会の挨拶を、またやってるよ、で終わらされる辺りが自分の不幸体質を表しているようで、三上は少し情けなくなった。
それよりもこんな騒ぎなのに、寮母さんが怒り出さないことの方が不思議といえば不思議だったけれど。

「苦しいっつんだよこの馬鹿!!」

会って初っ端の三上のそんな言葉にもめげずに、二人はいつものように口説き始める。
会えない間どれだけ想っていただの、昨日は眠れなかっただの、延々と言い出だすものだから、三上は頭を抱える他に出来ることがない。
おそらくこの騒動に慣れていない者からすれば、人目を気にしろというだろうが、ともかく松葉寮の二週間に一度の恒例行事として周りの人間は認識してしまっていて、どんな騒ごうが気にもとめず、各々の雑談に戻っていた。
それは三上の不機嫌に拍車をかけた。
そんな三上の様子を察知した二人は、アイコンタクトを交わし、三上の手を取って立ち上がる。

「ちょっと借りてきますね」
「お邪魔しましたー!おばちゃんまたねー」

まるで台風のように、その言葉だけを残して松葉寮を出ていく須釜とケースケ(+三上)を見送りながら松葉寮の寮母と住人たちは、三上のこの後を案じて、心の中で合掌をした。

「消灯までには帰ってこいよ」

聞こえている訳はないと思いつつも、一応寮長としての立場上、形ばかりではあったが、三人の後姿に辰巳はそう言って声をかける。
胃薬、残ってたかな、と呟いた彼の言葉は、松葉寮の喧騒にまぎれて誰の耳にも入らなかった。
今日も今日とて辰巳は太田胃散と仲がいい。

           

          

さして夜も遅いわけではなかったが、あまり遠出をする訳にはいかないので、結局近くの公園に行くことに落ちついた。
三上の手は松葉寮を出てからも、須釜に右手を、ケースケに左手を持っていかれたままで、端から見たらかなり怪しかったかも知れない。
夜の道を男が三人手を繋いで歩いているのだ。奇異に思わない方がおかしいというものだ。
けれど、怪しかろうが怪しくなかろうが、須釜もケースケも三上の手を放すつもりは無かったし、三上は三上で恥ずかしいということに変わりはなかったが。
人通りの少ない道でよかった、とその時三上は自分の通う学校寮の立地条件と、向かう先へのルート選択に心の底から感謝をした。
人目がなければ、別に三上とて手を繋ぐことが本当に嫌な訳ではないらしく、結局そのことについては何も言わず、目的地までの道のりを、他愛もない雑談を交わしながら三人仲良く手を繋いで歩いていった。

        

           

「三上何か飲む?」

公園の入り口にある自販機の前を通りがかるとケースケは三上に話しかけた。
それに便乗して須釜もにこ、と三上に向かって笑いかける。

「何がいいですか?奢りますよ」
「三上には俺が奢るって」
「じゃあ俺も奢ってください」
「嫌だ」

他愛ない口喧嘩を始めた二人を三上は馬鹿馬鹿しそうに見つめる。
そんな状況にも拘わらず、三上の手をしっかりと握って放していないのだから、三上の浮かべる表情も納得がいくというものだ。
まあそれが二人らしいと言えば、そう言えなくもない。そう認識していないと三上だってやっていられないのだ。
約二週間会わなかった、会えなかったという事実は、やはりどこか三上も引っかかっていたようで、目の前で繰り広げられる光景ですら、何かとても懐かしいものに思える。
そんな気持ちが、自然と三上に笑みを浮かべさせた。
普段の、皮肉めいた笑みではなく、邪気のない柔らかなそれに、口喧嘩をしていたはずの須釜とケースケの動きが止まる。
三上は意識して見せた訳ではなかっただろうが、それは二人のとても好きな表情で、けれど滅多に見られない代物だった。
それは多分、恋愛感情からくる贔屓目を抜きにしても可愛いと思う。
男相手に可愛いという表現もどうかと思うが、それ程に三上の見せた笑顔は二人にとって魅力的だった。
固まっていた二人は、言葉もなく、ほぼ同時にその場にしゃがみ込んだ。
二人の一連の動作と反応を見て怪訝に思った三上が二人の顔を覗き込むと、二人は少し困ったような笑みを浮かべて、頭を抱えていた。

「何してんのお前ら…」

訳がわからない、とようにため息をつきながら見つめる三上に、二人は心の中でお前のせいだよとツッコミを入れる。

「それ絶対他の奴らに見せないでくださいね〜?」
「てゆか心臓に悪いんだけどマジで。あーびびった」

しゃがみ込んだままの二人を後目に、三上がことの発端になった自販機にコインを入れる。
ガシャンガシャンと音がして出てきたジュースの缶を三上は二人の頭の上に一つずつ乗せた。

「くだらねえことやってないで、ホラ、行くんだろ?」

そう言って差し延ばされた手と三上が見せた笑みは確信的なもので須釜もケースケも何も言えなくなる。
要するに弱いのだ。二人とも。
三上が見せる表情の一つ一つにも、口にする言葉一つ一つにも。
自分たち以外の人間にそれを見せないで欲しいと無理なことを願いつつ、言うとおりに立ち上がった二人はまた三上の手を片方ずつ繋いで歩き出した。

        

        

松葉寮への帰り道。
相変わらず手を繋いだまま歩きながらケースケがふと口を開いた。

「あーなんか俺めちゃくちゃ三上好きかも」
「それは俺も同意見ですね」
「バッカじゃねえの?」

口調は呆れているように聞こえるが浮かんでいる三上の表情は穏やかだ。
中西の言葉を借りるとすれば『二人のオヒメサマ』は今とても機嫌がいいらしい。

「今めちゃくちゃ三上にキスしたいんだけど」

まったく三上のことになると須釜もケースケもよくよく気が合うらしい。
ほぼ同時に二人が口にした科白に普段なら怒り出すはずの三上も、はあ、とため息をつくだけで。

「今しなくても帰ったらいくらでも出来るだろ、そんなの」

一晩中だって、と口にした三上の顔は本当に精神衛生上よろしくない。
健康な青少年である二人にしてみれば、本当に。
思わず二人が抱きしめてしまったくらいには、確実に。

「…お前ら馬鹿?」

本来なら相手を罵倒する意味を持つはずのその音は、けれどとても優しく二人の耳に届いた。

               


キリリクもの。
須釜もケースケもキャラ掴めてない感ががっつりしますが。
いや、今だってそうですが。
とりあえず、珍しい経験をさせてもらいました。

               

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!