ちっぽけな、しあわせ
ちいさなちいさな、しあわせ。

それは人によってそれぞれで、持つ意味も、人それぞれ。
でも、本当はそんなちいさなちいさなしあわせが、いちばん大切だと知っている人は、実は少ない。

              

「あれ、また三上寝てんの?」

図書室の扉を開いた中西がその先に光景を見た途端にそう口走った。
教室でも図書室でも部活中のちょっとした休憩時間でも、三上は寝ている気がする。
訊ねるようにちら、と視線を送ると、三上の隣にいた辰巳は、読んでいた本から目を離して苦笑した。

「ああ。また夜更かししたらしくてな…」

授業中や放課後、図書室に集まるメンバーはある程度決まっていた。
辰巳や中西、三上はその中でも頻繁に利用している部類に入る。
周囲の人間が持つイメージとは少し違うかも知れないが、三人は本を読むことは好きだったし、膨大な量の書物のおいてある図書室は格好の暇つぶし場所になっていた。
もう一つ、図書室に訪れる理由として、喧騒のない静かな部屋で誰にも邪魔されずに自分のスペースを確保できるからという理由もあったかも知れない。
それは三人が人との距離を上手く取って過ごすことができる人間だったからこそなのだけれど。

三上の横に無造作においてある大量の書物。
その中の一つは三上の枕になっていた。

「ぜってコレ跡付くよな」
「ああ」
「起こす?」
「起こしたいのか?」
「まさか」

三上が起きた後に、顔に跡が付いているといって笑うのも、それはそれで良いかも知れない。
意地の悪い笑みを浮かべて二人は声を潜めて笑った。
どこか窓が開いているのか、時折涼しげな風がそよぐ。
ぱら、とちいさな本のページを送る音と三上の寝息だけが聞こえた。

しばらくすると、ブレザーやベストを脱いで、シャツ一枚の姿で眠っていた三上が、微かに身をよじる。
寒いのかと思った瞬間、辰巳も中西も本から即座に目を離した。
決して本の続きがどうでもいい訳ではなかったが、二人とも反射的に本を閉じて顔を上げる。

「何やってんだよ」
「お前こそ」

顔を見合わせて笑い、中西は開いたままになっていた窓を閉めに、辰巳は辺りを見回しても見つからない三上の上着の代わりに自分のブレザーを三上の肩にかけた。
ふと見ると三上の顔に何処か満足そうな笑みが浮かんで見えて。

「甘いよな、お前」
「お前だって似たようなものだろ」
「辰巳には負けるよ。だって保護者じゃん」

それから、どれだけかの時間が経って、そろそろ活字を追うのにも目が疲労を訴え始めた頃。
何度目かの鐘が鳴り、その音にようやく三上が目を覚ました。
予想通りに付いた本の跡に三上を見るなり二人は笑い出してしまう。
起きたばかりにいきなり笑われて三上は不機嫌を露わにした。
しかしふと触って自分の頬にくっきりとついている跡に気付き、ぴしりと固まる。

「何だよ、起こしてくれたっていいだろ」
「いやーコレが見たかったんだって」
「悪い」
「うー…」

余程恥ずかしかったのか少しだけ三上の顔が赤くなっていた。
それを中西はにやにやしながら見つめ、辰巳は子供扱いでもするように頭をくしゃくしゃ撫でている。
二人の態度に三上は恨めしそうな視線を送った。
そんな視線を無視するくらい、二人にとって簡単なことなのだけれど。

         

ちいさなちいさな、しあわせ。

日常の中のそんなちっぽけなしあわせに、ちゃんと気付いている人はどれだけいるだろう。

大切にしなければいけないのは、そんなちっぽけなもの。
本当に大切にしたいのは、そんなちっぽけなしあわせ。

人との距離は取るけども、こういう時は別ものとして。

少しだけ、近づいて。

            

ちいさなしあわせに感謝しよう。

               


中西と辰巳と三上は三人一緒になって図書室でたむろってればいい。
本が好きな辰巳さんも、無駄知識の宝庫(勝手な妄想)な中西も、だらだら本を眺めては寝てる三上も、一緒にいればいいと思う。
ずっと一緒にいればいいと思う。

               

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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