飼育係



 聖女学園には、飼育係と呼ばれる係がある。
 それは、主に廊下の水槽やプールなどで飼育されているウナギや魚たちの餌やりを中心に飼育し世話をする役目を担う係である。
 この飼育係は、1回あたりの任期が1ヶ月となっており、毎月担当者が交代する特殊な係となっている。
 毎月、女子生徒の中からひとり、係の担当が選出され、選ばれた女子生徒は1ヶ月の間、飼育係を務めるのである。
 なお、飼育係の仕事の中には、ひとりではできないものや、力作業を必要とするものなどもある。
 そのため飼育係には、常に複数の男子生徒が飼育係補助として参画することになっており、補助係となった男子生徒は、飼育係の女子生徒をサポートする ことで、円滑な係活動ができるようになっている。
 この補助係となる男子生徒は、各学年から数人ずつ集められ、適宜メンバーを変えながら飼育係をサポートしていく。

 飼育係の選出は、その月のはじめに男子生徒による投票で決められることになっており、1年生から3年生までの女子生徒の中から毎月ひとりが選ばれ る。
 そのため、毎月、全学年の女子生徒全員が飼育係となる可能性を秘めており、選出結果が伝えられるまで、女子生徒たちは誰がその月の飼育係となるのかわか らない。
 そして、選出結果が伝えられると同時に、飼育係に指名された女子生徒の係就任が決定するのである。


 そして今月……、ひとりの女子生徒が、飼育係に選ばれた。
 それは、今年、聖女学園に転校してきた女子生徒――由紀であった。



 飼育係の一般的な実施要領は、以下のように定められている。

■ 飼育係の役割

 飼育係は、学園の水槽、プール、その他の場所において飼育してい るウナギや魚といった、聖女学園特有の品種改良された水棲生物への給餌や飼育等の世話を担当する係である。
 日常的な業務として、主に2階廊下に設置されている水槽で飼育しているウナギを中心に世話をすることになっているが、必要に応じて他の場所における飼育 生物への世話をすることもある。
 飼育係の業務内容には、ひとりではできないもの、力作業を必要とするもの等もあるため、必ず複数人の男子生徒が飼育係補助(補助係)として付き添うこと になっており、随時、飼育係をサポート する役目を担っている。
 2階廊下の水槽で飼育しているウナギの世話については、基本的に飼育係が1週間に3日(月、水、金)、放課後に餌当番を務める義務を負っている。

■ ウナギの餌

 2階廊下の水槽で飼育しているウナギは、聖女学園において特殊な 品種改良がなされており、女子の愛液や尿、潮、恥垢などを主食として生息している。
 そのため、飼育係たる女子生徒には、餌当番を担う際、これらのものを餌として提供しなければならない。
 ただし、飼育係となった女子生徒は、餌当番を担う際、これらの一般的な餌に加えて、より栄養価の高い膣内分泌液である「本気汁(子宮頚管粘液)」を餌と して提供する義務を 負っている。

■ ウナギへの給餌方法

 飼育係をになる女子生徒は、栄養価が高く高粘度な本気汁を分泌 し、その本気汁を膣内から直接ウナギに摂取 させなければならない。
 餌として粘度の高い膣内分泌液を膣内から直接給餌するため、飼育係となった女子生徒は、膣をクスコ等を用いて大きく開き、膣奥の子宮口まで露出させる必 要がある。
 その上でウナギが膣内に侵入するのに邪魔とならないように、飼育係となった女子生徒は下半身を持ち上げ、両太ももを腋の下で抱えるようにして脚を頭 の後ろまで回すマングリ返し体勢をとらなければならない。
 飼育係の女子生徒が両脚を頭の後ろに回し、太ももを腋下で抱えるマングリ返し給餌姿勢をとったら、体勢を固定するために両手首を膝を抱えたまま背中側で 縛るとともに、両足 首を頭の後ろで交差させた状態で縛り、給餌姿勢が不意に解除されないようにしなければならない。
 マングリ返し給餌姿勢が完成したら、飼育係の女子生徒を水槽の上に吊るし、開口した膣穴を水中に浸るまで下ろして、ウナギが餌を求めて膣穴に来るのを待 つのが、ウナギへの一般的な給餌方法である。
 マングリ返しの姿勢をとり、その体勢で手脚を縛ること、そして水槽の上に身体を吊るして、水槽の中に陰部を浸すこと……といった作業は、飼育係の女子生 徒ひとりではできないため、補助係の男子生徒が随時サポートすることになっている。
 補助係のサポートを受ける飼育係の女子生徒は、補助係を担う男子生徒の指示に従い、すみやかに給餌準備をする責務を負っている。

※ 補足および特記事項

 【補足1】
 効率よくウナギへの給餌を行うために、補助係の男子生徒は、飼育係の女子生徒に対して必要と思われる処置を施すこ とが認められている。
 特に、ウナギへの餌として飼育係が提供する義務を負う「本気汁」の分泌を促すための手段および施策に関しては、補助係を担う男子生徒にその方法考案から 施行まで、す べてが一任されてる。
 これまで行われてきた飼育係による給餌作業において、補助係の男子生徒が発案した給餌効率化方法としては、以下のようなものが多く採用されている。
  • 飼育係女子のクリトリスやGスポット、ポルチオといった、特に敏感な性感帯にローターを取りつけ、それらの箇所を刺激しな がら給餌させる。
  • 飼育係女子を水槽に入れる前に、あらかじめマングリ返し姿勢で拘束固定した状態の女子生徒の性器を刺激し、事前に何度も潮吹 き絶頂 を迎えさせてから水槽に入れ、給餌させる。
  • マングリ返し姿勢をとった飼育係女子の、膣穴以外の性感帯である尿道、肛門にバイブを挿入した状態で水槽に入れ、バイブでそ れらの箇所を刺激しな がら給餌させる。
  • 膣穴の奥深くまで開口させる筒を膣に挿入し、ウナギを直接子宮口近くまで侵入させた上で、ウナギ自身に子宮口を刺激させなが ら給餌 させる。

 【補足2】
 ウナギがスムーズかつリラックスした状態で餌を摂取できるように、飼育係の女子生徒は、可能な限りウナギとのスキ ンシップを図り、ウナギとの親睦を深める必要がある。
 そのスキンシップ方法についても、その方法や手段は補助係の男子生徒に一任されている。
 一般に、以下のような方法により、飼育係女子とウナギとのスキンシップを図ることが多い。
  • 餌を分泌する下半身だけではなく、胸まで水の中に浸し、乳房および乳首をウナギと触れさせることによってスキンシップを図 る。
  • 餌を分泌する膣だけではなく、お尻の穴の中にもウナギが潜り込めるように、肛門もクスコ等で大きく開口させ、お尻の穴の中に ウナギを迎え入れてスキンシップを図る。
  • 給餌中、膣内に入り切れずにいるウナギが退屈してしまわないように、勃起したクリトリスや乳首で興味を引き、クリトリスや乳 首をついばん でもらうことでスキンシップを図る。
  • 給餌中に、放尿もしくは潮吹きをし、噴き出した水流をウナギに浴びせかけることでウナギの興味を引き、さらなるスキンシップ を図る。

 【補足3】
 飼育係となった女子生徒は、水槽の中にいるすべてのウナギに、餌である「本気汁」を提供し、摂取してもらうことが 求められている。
 すべてのウナギに対して公平に餌を与えるために、本来であればウナギを1匹ずつ膣内および子宮口へと誘導し、餌を与えたウナギを数えながら給餌すること が望ましい。
 しかし、空腹状態のウナギ、および餌の接近を察知して興奮状態にあるウナギは、一斉に飼育係である女子生徒の膣内に潜り込もうとする傾向が強い。
 そのため多くの場合、常に複数のウナギが膣内に潜り込み、中で動き回りながら餌である「本気汁」を摂取することになる。
 そのような状況では、餌を与えたウナギと、まだ餌を与えていないウナギの数を正確に把握することは困難である。
 そこで、そのような状況になった場合には、『すべてのウナギが満足して飼育係である女子生徒の身体から離れるのを待つ』というのが、もっとも適当な処置 となる。
 とは言え、餌を摂取した後のウナギが、飼育係である女子生徒とのスキンシップを図り、飼育係の身体から離れないことも多々あるため、すべてのウナギに餌 が与えられたかどうかの判断は、水槽の中に飼育係女子を吊り下げ、水槽全体のウナギの動きをもっともよく把握できる立場にいる補助係の男子生徒が下すこと になっている。
 したがって、基本的には『補助係である男子生徒の判断によって、給餌の継続および終了を決める』ということになり、給餌作業の終了タイミングは、補助係 の男子に委ねられている。
 少なくとも、水槽の中にいるすべてのウナギが、餌を摂取したと見なされるまでは、飼育係の女子生徒は、給餌作業を継続しなければならない。

 【補足4】
 飼育係女子が給餌をしている最中に、稀にウナギの稚魚が尿道に潜り込んでしまうことがある。
 この場合、ストレスに弱い稚魚を無理やり尿道から追い出すことは、健全な成長を妨げる行為となり得ることから、禁止されている。
 したがって、尿道の中にウナギの稚魚が潜り込んだ場合には、以下のような方法をとることが推奨されている。
  • 尿道に潜り込んだウナギの稚魚が、自然に尿道から出ていくまで、飼育係女子はそのままの状態で待機する。
  • 尿道の奥深くまでウナギの稚魚が侵入してしまい、しばらく出てこないと思われる場合には、給餌作業を一時中断してもいいが、 その場合は、給餌を 再開するまでの間、適切な管理のもと飼育係女子の尿道および膀胱内でウナギの稚魚を保護していなければならない。
 なお、ウナギの稚魚が尿道内に入り込んでいる場合には、飼育係女子は以下のことに注意し、適切な管理状態を維持しなければならない。
  • 尿道にウナギの稚魚が潜り込んでいる間は、ウナギの稚魚を過度に刺激しないために、放尿行為をしてはならない。
  • 尿道および膀胱内でウナギの稚魚を保護する場合には、中にいるウナギの稚魚を外部要因による刺激から隔離するため に、尿道口を密閉シールで塞ぎ、外界との接触を絶った状態で、保護しなければならない。
  • ウナギの稚魚を尿道および膀胱内で保護している最中は、不用意な刺激の付与を避けるべく、ウナギの稚魚を体内で保護している ことを第三者に知らしめるために、常に密閉シールで塞いだ尿道口が見えるように、大陰唇を開いた状態を維持しなければならない。
 以上の注意事項を守らなければならないことから、ウナギの稚魚を次の給餌再開まで体内で保護することになった飼育係の女子生徒は、給餌作業を再開するま での間、放尿行為、およびシールを貼った尿道口を第三者の視界から隠す行為を慎む必要がある。


 【特記事項】
 以上のように、飼育係となった女子生徒には、さまざまな約束事や義務、推奨事項等が定められており、1ヶ月の間、 これらのルールを守って給餌作業に従事しなければならない。
 しかし、ここに記載されていない部分、および記載内容の想定範囲を超えると考えられる状況になった場合には、飼育係の女子生徒は、飼育係補助の役を担っ た男子生徒の指示および判断に従って行動することが求められる。
 したがって、何らかの問題が生じた場合、もしくは何らかの判断が必要となった場合には、飼育係の女子生徒は、補助係男子が発する指示に従わなければなら ない。
 なお、実際に何らかの問題が生じた場合に限らず、事前に何らかの問題発生が「予測される」場合、何らかの判断が必要になると「推定される」場合において も、補助係の男子生徒は、各自の勘と経験に基づいた判断によって飼育係の女子生徒に必要と考えられる処置を指示・命令する権限を有している。
 一方、給餌作業中に補助係の男子生徒から指示・命令を受けた飼育係の女子生徒は、補助係男子から提示されたすべての指示・命令に速やかに従う義務を負っ ている。



 この月、由紀が飼育係に選出された。

 由紀が飼育係に選ばれたのははじめてのことではあるが、ある意味この人選は順当なものと言えた。
 というのも、やはり飼育係は生き物を相手に世話をする……というイメージから、比較的おとなしい性格の女子生徒が選ばれることが多いのである。
 そのようなイメージからの派生で、由紀が飼育係に選ばれるというのは、それほど違和感のあるものではなかった。
 ……もっとも、実施要領に定められているように、この聖女学園における飼育係に、普通の学校でイメージされる飼育係の要素はまったく見られるものではな いのだ が……。

 それでも、飼育係というイメージが先行して、おとなし目の女子生徒が選ばれることが多いのは確かである。

 しかし、ときに男子生徒の恣意的な誘導や、見せしめ的な意図、もしくは何らかの仕返し的な意味合いなど、さまざまな邪な思惑が働くこともある。
 そしてそのような思惑が働いた場合には、おとなしい女子生徒ばかりではなく、逆に、気の強い女子生徒や、生意気な 女子生徒が選ばれることも少なくはない。

 かつて、異例中の異例ではあったが、現生徒会長の結衣香がこの飼育係に選ばれ、1ヶ月の間、ウナギの世話係を担ったこともあるのだった。


 ……そして……、由紀が飼育係に選ばれてから、数日がたったころ、学園内で1枚のプリントが配られた。
 その内容は、数日前に決定した今月の飼育係を知らせるとともに、直近の飼育係としての由紀の仕事ぶりを紹介する記事やコメントが書かれたものであった。


   さらに、配られたプリントの裏面には過去の参考事例として、先々月、生徒会長でありながら飼育係を兼任させられるという異例の人選によって飼育係と なった結衣 香の仕事ぶりを紹介する記事が記載されていた。

 結衣香の飼育係選出というのは、男子生徒のさまざまな思惑が交錯した結果であるのだが、現役の生徒会長が飼育係に選出されるというのは、実は前例のない 前代未聞となる 異例の人選であった。
 これまで、生徒会役員や委員会メンバーなど、既に何らかの学園組織の活動に従事している生徒は、この飼育係に選ばれてこなかったのである。
 しかし、実際には飼育係の選出基準において、生徒会役員やその他の委員会メンバーを対象から除外するという規則はどこにも明記されておらず、飼育係から 生徒会役員などを除外して選出していたのは、ある意味で常識的な先入観が働いていた結果であった。
 そんな中、ある月の飼育係を選出する投票を行った際、男子生徒たちも意図していなかった票割れの発生と、無意識下による願望を端緒とする無責任な投票な どが重なり、男子生徒も予期しない形で、現役の生徒会長である結衣香がその月の飼育係に選ばれたのである。
 このような投票結果が発表されたものの、生徒会長であることを理由に飼育係の辞退を教職員に申し出た結衣香であったが、深夜にまで及ぶ入念な調査の結 果、明文化された規則の 中において「生徒会役員を選出対象から除く」という記述がどこにもないということが判明したことから、翌未明、結衣香による飼育係辞退の申し出は却下され ることとなった。
 そのような偶然と誤解が絡み合う複雑な経緯を経た関係で若干の遅れが生じたものの、投票結果発表の翌朝、現役生徒会長である結衣香の1ヶ月間飼育係就任 が正式に決定されたのである。
 結衣香が飼育係に就任したということは即座に全校生徒に公表され、結衣香の飼育係就任を半ばあきらめかけていた男子生徒たちは驚きと喜び、そして若干の 不安を味わいながら、その報告を聞いたのだった。


 しかし、暗黙の了解とはいえ生徒会役員――それも生徒会長が飼育係に就くことは、もともと想定されていなかったため、双方ともに放課後を主な活動時間と する生徒会業務と飼育係業務を両立させる兼任方法については、結衣香の飼育係就任後に、はじめて議論されることとなった。
 そして、生徒会長と飼育係の役務を両立させる方法論を中心として議論されていく過程において、生徒会役員が飼育係を務める際のルールが、逐次的かつ場当 たり的に構築されていったのだった。
 そしてその議論の対象が最終的に、男子生徒そして結衣香自身がもっとも気にかけていた部分――すなわち生徒会長特権にまで及んでいったのは、当然の帰結であっ た。
 その議論の焦点は、「生徒会長が男子生徒に対して発動できる生徒会長特権」と、「飼育係補助である男子生徒が飼育係に出す指示・命令」の、どちらが権限 として優先されるのか……ということであった。
 一般に、学校における生徒会活動は、他の委員会や係活動よりも上位に位置するため、生徒会長としての役割や権限の方が高い優先度を有している……という のが一般的な見解であろう。
 男子生徒も、この議論にはそれなりの時間が費やされるのではないか……と考えていた。

 しかし、長い議論が必要と思われたこの生徒会長特権に関する議論は、あっさりと決着がつくこととなった。

 臨時で開かれた職員会議において、わずか3分の話し合いがなされた結果、
「飼育係の役務は学園で定められた『義務』に相当する一方、生徒会長特権は生徒会長が有す る特殊な『権利』に過ぎない。
 学園行事などの際に生徒会長特権を発動できないのと同様、『学園で定められた義務』は『生徒会長が有する権利』よりも優先されると解されるのが妥当であ る。
 したがって、『飼育係補助の指示・命令』は『生徒会長特権』よりも優先度が高く、両者が同一環境で発動され、かつ内容に食い違いがある場合は、『飼育係 補助の指示・命令』の方が優先され、効力を発揮する」
 という公式見解が示されたのである。

 このような判断が学園公認のもとで示されたことは、結衣香を飼育係に推した男子生徒たちにとって、望外の喜ばしい結果であったことは言うまでもない。
 この「生徒会長特権」に関する議論については、当初、生徒手帳検査などと同様、「生徒会長特権で拒否できる」という判定が下される可能性が高いのではな いか……と危ぶまれており、男子生徒 たちの間でも、非常に大きな不安材料と見なされていた。
 仮に、「飼育係としての役務を『生徒会長特権』で拒否もしくは覆すことができる」と判断されてしまった場合、実質的に結衣香を飼育係として働かせること ができなくなり、事実上、飼育係不在の1ヶ月を過ごすことなってしまう可 能性もあり得たのである。
 そのため、男子生徒たちにとっても、そして結衣香にとっても、この議論の行方は非常に気になるところだった。

 しかし、この議論の軍配は、大方の予想に反して男子生徒の側に上がる結果となったのだった。
 日常的に、多くの場面において女子生徒に対して不利な裁定を下している学園ではあるが、こと「生徒会長特権」に関しては、意外と固い姿勢をとることが多いのである。
 特例的に「生徒会長権限」を制限することはあるものの、その根本を揺るがすような判断は、これまでなされてこなかった。
 したがって、今回もいろいろと特例的な処置はありながらも、大筋では生徒会長特権が優先されるという結論が出るのではないか……と、男子生徒、女子生徒双方が予想していたのである。
 そのため、この臨時職員会議で出された結論は、男子生徒にとっても、女子生徒――特に結衣香にとっても意外な展開であった。

 この裁定の背景には、前日に行われた「飼育係選出に関する規定の調査」が影響しているのではないか……という声が噂として広まっていた。
 大半の教職員を巻き込んで行われたこの調査は予想以上に難航し、「生徒会役員を選出対象から除く」という記載がないことを確認するために、翌日未明まで かかったと言われている。
 「記載がない」ことを「証明する」ためには、すべての情報に当たらなければならなかったためである。
 その徒労に終わることがわかり切った調査を徹夜で行ったことが、教職員の間に漠然とした不満として広がっていった。
 そしてその不満は、そのまま結衣香への反感として形をなし、直後に開かれた臨時職員会議における結論を左右した 可能性が高い……とささやかれているのである。
 その噂自体は、生徒間に広がった単なる憶測に過ぎないものであった。
 ……が、実は、事態の真相を的確に突いたものであった。


 実際、臨時職員会議で離された内容の大半は、前夜の調査で徹夜をした教職員たちによる
  ―― 前夜の調査は、結衣香が飼育係の辞退を申し出てきたために急遽実施することになった……ということへの不満
  ―― 記載がないことを証明するという、不毛な調査を徹夜で実施せざるを得なかった……ということへの不満
  ―― 結衣香が素直に飼育係を引き受けていれば、無駄な調査をしなくても済んだ……ということへの不満
 といった、昨夜の徹夜調査およびその原因をつくった結衣香への愚痴だけであった。
 そして、会議終了前のわずか30秒程度の時間で、特段の議論すらなされることもなく、先に挙げた公式見解が取り決められたのである。


 しかし、たとえどのような経緯や背景があろうと、学園の教職員がひとたび公式見解として示した以上、その決定事項に反論は許されず、厳然たる判例とし て、以後、校則と同等の効力 を有するとともに、類似ケースにおける判断材料の根拠となってしまうのである。
 たとえそれが、場当たり的に決められたものであろうとも、恣意的に決められたものであろうとも、一旦判断が下された以上は、もはやそれが覆ることはあり 得ないのだった。

 今回、学園の公式見解として示された判断に照らし合わせれば、

――生徒会長である結衣香が飼育係として役務に従事している間は、飼育係補助である男子生徒の『指示・命 令』 を、『生徒会長特権』で覆すことはで きない――

ということになる。
 それどころか、「飼育係 補助の指示・命令が優先され、効力を発揮する」とされている以上、

――飼育係である結衣香には、男子生徒が出す指示や命令に速やかに従わなければならない――

という明確な義務が生じるのである。
 これは事実上、結衣香の持つ生徒会長特権が一時的に無効化されることと同義であり、特定の日の放課後に限定されるとは言え、結衣香が本来持っている生徒 会長としての権限を大幅に縮小させることになる。
 男子生徒たちは、この生徒会長特権の一時的凍結という想定外の副産物を嬉々として歓迎し、そしてその恩恵にあずかろうと、入れ代わり立ち代わり、飼育係 補助 の役に立候補したのだった。

 結衣香が飼育係を務めている間、明確に人数制限が定められていない飼育係補助の人数は、一時的に増加の傾向を示すこととなり、通常5〜6人程度 であった1日あたりの飼育係補助の人数は、結衣香の飼育係就任してから1週間が経過するころには、10人を超えるのが常態化するほどにまで至ってい た……。
 それに伴い、結衣香が飼育係として給餌に従事する1回あたりの時間は、日に日に長くなっていったのだった。
 通常であれば、女子生徒が飼育係として放課後に従事する時間は、1日1時間程度であることが多いのだが、結衣香が飼育係に就任して1週間もたつころには、連日3時 間を超えるほどとなっていたのだった。
 その間、抵抗も反抗も封じられた結衣香は、男子生徒とウナギたちに、その身を淫らに弄ばれ続けることになったのである……。



 原案:鰻屋さん
 文章・イラスト:ロック


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