第143章



 由紀が結衣香の衝撃のプリントを目にする半日ほど前……。


 結衣香が生徒手帳検査を受けた後、制服を身に着け、そして自分が粗相した跡を片付けて、ようやく一息ついたときには30分ほども経過していた。
 そして、結衣香が撒き散らしてしまったオシッコの跡を拭い、そしてその小水をかけてしまった女性教師の靴は、より丹念に拭っていった。
 わずかに雫がかかっただけの被害が小さな靴は、ハンカチで拭うことでほとんどその痕跡を消すことができたが、たっぷりとかかってしまい、オシッコまみれになってしまった靴に関しては、拭いた程度で跡を消すことなどできようはずもなかった。

 その靴というのは2足……、2年生の担任である北島玲子と、紺野亜紀子の靴であった。
 これは、男子生徒が言ったとおり直接謝りにいかなければならないだろう。
 たとえ、それが結衣香の意思で汚されたものではなかったとしても、汚してしまったことには変わりがない。
 結衣香は、ふたりの教師に謝りに行くことにした。

 しかし、それよりもまずしなければならないことがある。
 先ほど男子生徒が言っていた、「生徒手帳検査強化週間」なるものの施行を、このままにしてはおけない。
 学園長の名の下で発布されているものである以上、それを完全に覆すことはできないとしても、わずかな期間短縮や内容の修正など、生徒会長の権限ででき得る限りのことをしなければならない。
 結衣香は、その決意を胸に学園長室へと足を向けたのだった。

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 結衣香は、何一つ成果が上がらないまま、学園長室を後にすることしかできなかった。
 忸怩たる思いはあるものの、この結果は、ある程度は予想されていた。
 これまでに何度も、生徒会長の権限でもって、さまざまな学園の決まりごとに対して異議を申し立ててきたことがあるが、実質的に功を奏したことはほとんどない。
 とはいえ、ほんのわずかではあるが、これまでにかすかな負担軽減を勝ち取ったことも、少なからずあるのは確かである。
 そのため、結衣香は学園で新たな辱めの罠が女子生徒に降りかかろうとしたときには、必ず異議を申し立てるようにしているのだった。
 だが、今回、約1時間にもおよぶ話し合いに見合う成果は、何一つ得られなかった。
 既に施行されてしまっていることもあり、撤回や改正はまったく通らず、先ほど結衣香が男子生徒に見せられたとおりの形で効力を発揮することになってしまったのだった。


 徒労に終わった学園長との対談を後にして、結衣香はもうひとつの懸案事項に取り掛かる。
 先生方の靴を汚してしまったことの謝罪である。
 学園長室を後にして、今度は職員室へと向かう。

 運よく誰にも会うことなく、下級生たちに比べれば幾分速いペースで三角棒を渡りきった結衣香は、職員室へと足を踏み入れる。
 そして目的とする玲子と亜紀子の姿を見つけると、そちらに向かい歩いていく。
 ふたりは、同じクラスの担任と副担任ということで隣同士の席配置になっている。
 そして、手前側に座っていた亜紀子のところに行き、声をかけた。

「あの……亜紀子先生……」

「……ん?
 あらっ、結衣香ちゃん!」

 亜紀子は、結衣香の呼びかけに大きなリアクションを見せる。

「びっくりしたわ。
 今、あなたを呼びに行こうと思っていたところだったのよ」

 亜紀子は、今まさに呼びに行こうとしていた結衣香があまりにタイミングよく現れたために驚いていた様子だった。

「……あのね、結衣香ちゃん、実はね……」

 亜紀子が、声を押し殺して結衣香に何かを告げようとしたとき、

「ちょっとお待ちなさい、紺野先生」

 亜紀子の言葉をさえぎって後ろから亜紀子の後ろから声が飛んできた。
 結衣香が顔を上げると、亜紀子の後ろに玲子が立って、結衣香をにらむように見つめている。
 亜紀子は、困ったような顔をして、指先で結衣香指さすような仕草をしながら「ザンネンデシタ」と声に出さずに口を動かした。
 そんな亜紀子と結衣香のアイコンタクトを無視して、玲子は結衣香に向かって詰問口調で声をかけたのだった。

「三条院結衣香さん……、あなた今までどこにいましたか?」

「え……、今まで……ですか?
 今までは、学園長室に行っていました」

 質問の意図がわからず、正直に答える結衣香。

「……そうですか……。
 ……これ……、あなた見覚えはあるわね」

 そう言って玲子が結衣香に見せたのは、濡れた2足の靴だった。
 それは、つい1時間ほど前に、結衣香が男子の罠にはまってオシッコで汚してしまった玲子と亜紀子の靴である。
 今まさに、その靴の件で結衣香はふたりに謝りに来たのである。
 その靴が、今、目の前に差し出されていたのだった。
 まだ靴全体が濡れており、黄色いシミとかすかな匂いが残っている。

 自らの恥ずかしい液で汚してしまった靴を見せられて、結衣香は思わず目をそらしてしまう。
 その様子を見ていた玲子は、冷たい視線を結衣香に向けた。

 結衣香は、なぜその靴が今ここにあるかはわからないまでも、早く謝罪してしまおうと口を開いた。

「あ、あの、実は先ほどとある事情で先生方の靴を……」
                             「見覚えはあるの?!」

 謝罪の言葉を述べようとした結衣香の言葉を、玲子が一刀両断に遮った。
 事ここにいたり、結衣香にも、今の状況がおおよそわかってきたのだった。

「……あ、あります……でも、それは……」
                     「黙りなさい! やはりこれは、あなたの仕業だったのですね!」

「だからそれは……」
        「黙りなさいと言っているのです!」

 会話の雲行きが怪しくなっていくのを感じ取り、結衣香は話を着てもらおうと口を開こうとするものの、それを玲子に冷たく止められる。
 そして、玲子は結衣香に話し始めた。

「実は先ほど、ある男子生徒からひとつの報告が上がってきました。
 教員の靴をオシッコで汚している女子生徒がいたというのです。
 そんな馬鹿なことを……と思いましたが、その男子生徒が、この靴を持ってきました。
 これは私と、そして紺野先生の靴です。
 まさか、中学生にもなって、教師の靴にこのような『いたずら』をする生徒がいるとは思いませんでした。
 しかし、その男子生徒は、こんな写真まで持ってきたのです」

 そう言って玲子が掲げたのは、つい1時間ほど前に、結衣香が「生徒手帳検査」を受けて、教員用靴箱に向かって開脚放尿しているところを取った写真であった。

「……っ!
 そ、それはっ!!」

 あまりの羞恥シーンの写真に、思わず結衣香はその写真を玲子から奪おうとしてしまう。
 しかし、タッチの差で写真は玲子の手に残り、その写真をチラつかせながら、話を続けたのだった。

「……やっぱり……ね。
 あなた、今この証拠写真を取り上げようとしたわね。
 つまり、私たちの靴にオシッコをかけるという、この馬鹿げたいたずらの犯人は、三条院結衣香さん、あなたという訳ね。
 あなた、それでも生徒会長としての自覚はあるの?
 それとも、生徒会長になったら、教師の靴にオシッコをかけてもいいとでも思ったのかしら?」

「ちっ、違います!
 私は、その靴を汚してしまったことを謝ろうと思って、ここに来たんです。
 わざとやったのでもなければ、いたずらでもありません。
 説明を聞いてください」

 結衣香は、ようやく釈明の言葉をつむぎ、そして玲子と亜紀子の靴を小水で汚すに至った経緯を説明したのだった。
 とはいえ、その説明は自らの「生徒手帳検査」の内容を説明するということと同義であり、自らの恥態を語らなければならない羞恥に、唇を噛みしめながら話すこととなった。


 一通り説明を聞いた玲子は、腕を組んで結衣香を見据える。

「……つまり、三条院さん、あなたの言い分では、私たちの靴にオシッコをかけてしまったのは、こういうことかしら?
 『生徒手帳検査』を受けている最中に、排尿回数の誤記を検査員に指摘され、その誤記ペナルティのためにその場で放尿しなければならなくなった。
 そして検査員である男子生徒の指示にしたがって放尿したところ、たまたま教員用靴箱にかかり、私たちの靴があなたのオシッコで汚れた……と。
 しかも、今、施行されている『生徒手帳検査強化週間』も、その内容に異議があり是正が必要と考えている……。
 つまり、今回の件はすべて生徒手帳検査員である男子生徒に責任がある。
 ……そういうことかしら?」

「……は、はい、そうです……」

 自らの恥ずかしい放尿のことを改めて言われて一瞬頬を染めてしまったが、その内容は玲子が復唱したとおりのものである。

「そのような訳で、先生方の靴を汚してしまいました。
 本当に、申し訳ありませんでした」

 結衣香は、続けて靴を汚してしまったことへの謝罪を述べ頭を下げたのだった。
 仮に、自分には責任がないことであろうとも、この聖女学園においてはその責任を女子生徒が一方的に負うことは日常茶飯事である。
 しかも、自分の尿で汚してしまったのは事実であるのだから、結衣香としても謝罪の言葉を述べること自体を避けることはできない。
 その思いから、結衣香は毅然とした態度で、謝罪したのだった。

 しかし……次に玲子が続けた言葉を耳にした結衣香は、自分の考えが甘かったことを痛感することになる。

「……どうも、私たちがさっき男子生徒から受けた報告の内容と、食い違いがあるわね……」

「……っ!!!」

 その瞬間、結衣香は、頭を下げた状態で、またしても男子生徒の後手に回ってしまったことを悟ったのだった。

「さっきの男子生徒の話ですと、あなたは『生徒会長特権』を利用してこれまで『生徒手帳検査』を随分とサボってきたために、生徒手帳の中の記載に非常に多くの誤記があったそうね。
 にもかかわらず、その非を認めようとはせずに、あたかも『生徒手帳検査員』である男子生徒の測定方法に問題があったかのような発言があったと聞いています。
 さらに、排尿回数に誤記があったにもかかわらず、その誤記を認めようとはせず、検査員の男子生徒と口論になった。
 最終的には、排尿回数の誤記を認めたものの、それまでのあなたの非協力的な態度に、検査員の男子たちは、教育的指導が必要ではないか……と感じたそうです。
 とはいえ相手は学園を代表する生徒会長。
 多少のわがままは大目に見てあげようと考えた男子生徒は、仕方なく玄関脇の側溝で用を足すように促したものの、あなたは言うことを聞かず、その場で大きく股を開くという女の子にあるまじきはしたないポーズを取って、あまつさえ教員の靴箱に向かって小便を垂れ流した……。
 そう聞かされたのですけどね……」

「そ、そんなでたらめっ!」

 あまりに事実を曲解したその発言に、結衣香は言葉を荒げる。

「あなたは、この男子の発言がすべてでたらめだというのですね……。
 では、確認します。
 どこがでたらめだというのですか?
 まず、あなたが『生徒会長特権』を利用してこれまで『生徒手帳検査』をサボっていたというのは?
 あなた、3年生になってから今まで、一体何回『生徒手帳検査』を受けたのかしら?」

「…………きょ……きょうが、初めて……です……」

「つまり、今までずっと『生徒手帳検査』をサボっていたという訳ね。
 では次に、生徒手帳の記載に多くの誤記があったというのは?
 生徒手帳の中のあなたの身体データと、きょうの検査員の測定データで一致した数値は何個ありましたか?」

「そ、それは……あんな測定方法では正確な……」
                          「私は、一致した数値が何個あったのかを聞いているのです!」

「…………ひとつも……ありませんでした……」

「排尿回数の誤記を認めようとせず、検査員の男子生徒と口論になったというのは?」

「……じ、事実です……」

「……あらあら……さっきあなたが『でたらめ』と言っていた男子生徒の発言は、随分正確だったようね……。
 では、あなたが教員用の靴箱に向かってはしたなく股を開いて放尿したというのは?」

「……た……確かに、そのとおりですが、自分から進んでではなく、男子に強要され……」
                                                 「事実なの?!」

「……は……はい……、放尿したのは……事実です……」

「ふーん……。
 つまり、さっきあなたが『でたらめ』と評した男子生徒の発言は、そのほとんどが正確な事実を表しているというわけね。
 ただ、『自ら進んで』ではなく、『強要されて』……と。
 唯一事実と異なる可能性がある点としては、その一点だけ……というわけね」

「な……そ、……そうではありません。 あの検査自体がそもそも……」
                                   「おだまりなさい! 事実かどうかを聞いているだけです」

 結衣香は、玲子のあまりの論述に、まるで自分がうそを言っているかのような印象を植え付けられていくのを実感した。
 実際には、男子生徒の言い分は先ほど行われた「生徒手帳検査」における男子にとって正しいとされる部分のみを抜き出したものであり、到底「生徒手帳検査」全体を表現するような内容ではない。
 しかも、その正しいという部分も、聖女学園特有の男子生徒優先の決定権の中で定められたものであり、本当の事実とはまた食い違うのである。
 さらに、そもそも発言自体が認められない状況を強要され、意見を述べることすら認められない。
 結衣香も、立場が対等な人との議論であれば、こうも一方的に話を押し切られることはないだろうが、この聖女学園において、女子生徒が教師に面と向かって歯向かうことは許されていない。
 それは、生徒会長である結衣香であっても同様で、逆に生徒会長であるからこそ、一般生徒以上に教師との距離感には慎重にならなければならないのである。
 何しろ、生徒会長の立場を盾に取られると、全校の女子生徒全員に及ぶ連帯責任さえも発生する可能性があるのだから……。

「……その相違点のことについては、ちょっと後回しにしましょう。
 では三条院さん、あなたに聞きますが、自分の責任ではなく私たちの靴を小便で汚したというのであれば、なぜすぐに事実を告げ、謝罪しに来なかったのですか?」

「……そ、それは今まで学園長室に行っていたために、こちらに来るのが遅れてしまったのです」

「学園長室へは、どんな用で行ったのですか?」

「それは……、きょうから施行されたという『生徒手帳検査強化週間』の内容について、見直しを申し出るため……です」

「ふーん……、あなたは、私たち教員が議論して決定し、学園長の承認も得られて既に施行された学園の決まりに対して、いち生徒の個人的な判断で異議を申し立てようとした……そういうことですね。
 あなた、一体何様のつもりなのかしら?
 確かに、生徒会長には学園の校則や決まりごとに対して異議を申し立てる権利があり、意見を具申することは校則でも認められています。
 とは言え、それは本来学園の生徒全員の総意としての意見を取りまとめて、代表して申し立てる権利ということであって、むやみやたらに、あなた個人の勝手な意見を言うための権利ではありません。
 もちろん、運用上の機微も考慮して、校則ではそこまで細かく規定を定めていませんが、あなたが生徒会長になってからの異議申し立ての頻度は、歴代の生徒会長と比べて目に余るものがあります。
 しかも、今回は自分が『生徒手帳検査』を受けたからといって、その直後に『生徒手帳検査強化週間』の撤回を申し立てるなど、個人的な腹いせとしか思えません。
 あなたは、そんな自分勝手な言い分を学園長に申し立てることを優先して、本来真っ先にやらなければならない、私たちへの謝罪を後回しにしたということですか?
 ましてや、すぐに連絡して来てくれた男子生徒から、30分以上も遅れてやってくるなど……とても誠意ある行動とは思えませんね。
 あなた最近、自分が生徒会長だということで、その特権に溺れてしまっているのではなくて?
 そんな状態で、自分と男子生徒とで食い違った意見で、自分の言い分を信じてほしいなんて……一体どういう了見かしら?
 一応、あなたが生徒会長だということに免じて、あなたの言い分も聞いてあげようと思ってみましたが、とても、それには値しないようですね。
 ……ところで三条院さん、3年生のあなたなら、この聖女学園において、男子生徒と女子生徒の言い分が食い違った場合に、どちらの意見が優先とされるか……もちろん知っているわよね?」

「……そ……それは……」

「それは?」

「それは…………男子生徒の……意見……です……」

「そうよ、今回の一件に関し、男子生徒の報告は、そのほとんどが事実だったということは、さっきあなたも認めたわよね。
 その上で、唯一の相違点についても、あなたの『男子に強要されて』という言い分は、これまでのあなたの言動からはとても信用性に足るとは思えません。
 したがって、男子生徒の報告どおり、『あなたが言うことを聞かず、その場で大きく股を開くという女の子にあるまじきはしたないポーズを取って、自ら教員の靴箱に向かって小便を垂れ流した』という意見を採用します。
 すなわちそれは、あなたが意図的に私たち教師の靴に小便をかけたということです。
 教師の持ち物を、汚らしいオシッコで汚して、あまつさえそれをほったらかして私事を優先していたのですもの……、当然、ただで済むとは思っていないわよね……生徒会長、三条院結衣香さん?」

 結衣香は、完全に男子生徒の策略にはまってしまったことを理解した。
 自分が「生徒手帳検査」を受けさせられたことも、それに合わせて「生徒手帳検査強化週間」なる規則が施行されたのも、そしてその規則を見せられた自分が 次に取る行動がどんなものであるかも、そのすべてを計算された上で、先回りした男子生徒が教師まで巻き込んで、自分を陥れるロジックを組み立てられていた ことも、すべては大きな一連の罠の一環だったのである。
 今にして思えば、学園長室で不毛な議論に時間を要したことさえ、仕組まれた罠だった可能性が高い。
 最初に亜紀子が声に出さずに行った「ザンネンデシタ」というのは、結衣香が、その罠のロジックから抜け出すことに失敗したことを告げた言葉であったということに、今さらながら気がついたのだった。
 もし、最後の選択で、学園長室ではなくすぐに職員室に来て、男子生徒たちに先んじて玲子たちに謝罪をしていれば、最後の最後でこの罠から抜け出すことも可能だったかもしれない。
 しかし、それはもはや手遅れであり、もはや自分は罠にはまった鳥でしかないのであった。

「三条院結衣香さん、あなたには、教員の所有物を自分の排泄物でいたずらに汚すという、聖女学園の生徒にあるまじき行為をしました。
 その罪により、あなたにペナルティを課すことをここに決定します。
 これは教職員からの直接命令であることから、ペナルティが終わるまでの間、この件に関し『生徒会長特権』による異議申し立ては無効です。
 また、ペナルティを受けるに際し、懲罰受刑中は、あなたの生徒会長としての権限をすべて一時凍結とします」

 玲子は職員室じゅうに響き渡る声で、高らかにそう宣言したのだった。

「まあ、今回の件は生徒会長の権限を超えた越権行為とまでは言えないため、女子生徒全員への連帯責任となる特別校則の発布はしなくてもいいでしょう。
 あと、ペナルティ期間を終えた時点で、あなたの『生徒会長特権』は凍結解除とすることを認めます。
 ……いいですね」

「…………はい……」

 結衣香は力なくうなずくよりほかはなかった。

「なお、今回の一件は、教員の所有物を汚損した罪を起こすに当たり直接的に関係が深い三条院結衣香さんの『生徒手帳検査』の中身についても考慮の範囲に含めるものとします。
 したがいまして、正式には違反申告が上がりませんでしたが、『生徒手帳検査』中の検査員に対する態度や言動において、男子生徒の意見にあった自らの非を認めず、検査に非協力的な態度や口論の内容などについても懲罰の軽重を決めるための判断材料にします」

 こうして、結衣香が3年生となってからはじめての、学園公認のペナルティ懲罰が実施されることになったのだった。


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