習慣になっている寝る前の読書に没頭していたはやては、
ふと誰かの気配を感じて顔をあげた。
「ヴィータ、どないしたん?」
いつの間に部屋に入ったのか、入り口に人形を抱き締めた
ヴィータが突っ立っていた。お気に入りの大きな人形に顔を
うずめたヴィータは、上目使いではやてをじっと見つめてい
る。
「うんと……眠れなくて」
もじもじと人形に指をはわせるヴィータ。何度か口を開こ
うとしては閉じ、はやてと目を合わせられなくなり、視線が
ふらふらと部屋の中をさまよう。
「……はやて、一緒に寝ていいか?」
子供扱いされるのが嫌いなヴィータからは考えられないよ
うな言葉だったが、はやてにだけは恥ずかしがりつつも甘え
られるようだ。
幼くして両親と死別し、これといった親しい人間がいない
はやてには、このように頼られるのは新鮮でくすぐったかっ
た。
「ええよ、一緒に寝よ。この本もう少しで終わりやから待っ
ててくれる?」
「うん!」
はやての返事を聞いたヴィータは、曇った顔を晴らして元
気良くはやてのベッドに飛び込む。
「あはは、あまり暴れるとシグナムに怒られるよ」
「うっ」
はやてのことを第一に考えているシグナムがこれを知った
ら、「主の邪魔をするな」と諭すだろう。はやて自身が邪魔
と思っていなくても、病を抱えた幼い主になるべく負担はか
けたくないのが彼女たちの思いだった。
「大丈夫よ、あたしがかばってあげるから」
「えへへ」
はにかむ少女の頭をなでる。ヴィータは見かけだけならは
やてよりも幼いが、闇の書と共にある騎士には人としての年
齢は当てはまらない。だが、それはささいなことであり、は
やてにとって大事な家族であることには変わりない。
「そうだ。途中からだけどヴィータも読む? この本おもし
ろいよ?」
「うぅぅ、本は……いい」
苦いコーヒーでも飲んだかのような顔をするヴィータ。闇
の書の騎士だから他の本を読めないとか、その宿命故に本に
関することにかかわりたくない訳でもなく、単に好みではな
いのだろう。
「そか。じゃあ、読み終わるまでちょっと待っててな」
はやてが本に目を戻すと、ヴィータははやての足元で人形
を抱えてチョコンと丸くなった。
今読んでいるのも児童向けの推理小説で、オーソドックス
に読者への挑戦状なるページもある。はやてはストーリーに
没頭するたちなのでメモを取って推理などしないが、その次
から話の主役である名探偵の種明かしが始まると思うと胸が
高鳴る。そこを読み始めると本当に読むのに没頭してしまう
ので、いったん手を止めて待っているヴィータを見た。
(……ヴィータ?)
ヴィータは先程と同じ場所で丸くなり、うっとりと目を閉
じて何かの匂いをかいでいた。顔をはやての下腹部に近づけ
て。
(もしかして、臭うん? ちゃんと洗ってるつもりなんやけ
どなー)
一緒に暮らすようになってから風呂はシャマルらと一緒に
入るようになったが、自分で洗いにくい場所以外は今までど
おり自分で洗っている。最初はすべて洗ってもらったりもし
たが、すぐに止めてもらい自分で洗うようにした。はやてが
欲したのは主従という関係ではなく、家族だったからだ。
「……ヴィータ。わたし、もしかしてくさい?」
幼いとは言え、はやても女の子である。臭いのは恥ずかし
いし、ちゃんと洗えてないのはみっともない。
「ううん、はやてはとてもいい匂いだ」
「そ、そうなん?」
思ってもいなかった答えだが、よくよく考えてみればヴィ
ータの顔に不快な色はなく、はやての勘違いだったらしい。
少し腑に落ちないこともあったが、臭いわけじゃないと知っ
てほっとした。
(石鹸かなぁ? でもみんなおんなじの使ってるし)
「ねぇ、もっとかいでいい?」
「……へ?」
「はやての匂い、好き。とても落ち着く」
眠れないと部屋に入ってきた時のような不安げな様子はな
く、はやてを見上げるヴィータの瞳は潤んでいるものの安ら
いだ表情が浮かんでいる。
(ちょっと恥ずかしいけど、減るもんでもないし)
好きと言われれば嬉しいし、どんなことでも家族に何かし
て上げられるならそうしたい。
「そんなんで良いなら好きなだけかいでええよ」
「ありがと、はやて!」
ヴィータは言うが早く、大胆にはやての足に抱き着いて顔
を押し付ける。太ももや下腹にほおずりし、クンクンと匂い
をかぐヴィータの仕草が子犬のようで可愛く、そのくすぐっ
たい感触も伴ってはやては頬をゆるめた。
(でも、これって前にみた本のことみたい)
それは、まだ闇の書が目覚める前のこと。
図書館の本棚に紛れていた怪しい文庫本。表紙に裸の女性
が描かれた、幼い少女には理解しがたい内容の本。パラパラ
と中を見たはやては驚いてすぐに本棚へ戻したものの、周り
に誰もいないのを確認してそっと手に取った。
はやてはとりわけ好奇心が強い少女ではないが、生まれ育っ
た環境ゆえの本好きの心は未知の本への誘惑に勝てなかった。
再び誰にも見られていないことを確認し、こっそりカバンに
紛れ込ませて持ち帰った。
(これが……大人の……)
本来ならオシベとメシベぐらいしか知らない年頃だが、辞
書を片手に大人向けの百科事典やら何やらを一通り読破して
いたはやては、子供をつくるには性交するといった知識は頭
にあった。もちろん知識として知っているだけで、性器の断
面図など見ても実際の行為については想像も付かなかったが。
(…こんなこと…するんだ……)
その本にはあまりハードな描写はなかったが幼い少女には
十分強烈な内容で、その中でも特にはやてが引き付けられた
のが、男達に凌辱された仲の良い姉妹が互いに慰めあう場面
だった。
(あそこ……なめるなんて……)
ろくな愛撫も受けず散らされ、破瓜の血と男達の精液で汚
れた性器をなめあって清める姉妹。男達にはただ苦痛しか感
じなかった行為でも、愛する姉妹からなら極上の快楽が生み
出される。その描写にはやては心を奪われた。
(好きな人だと気持ちええの?)
そのページだけを、何度も何度もめくっては読み返す。読
むたびに、鼓動は高鳴り、体は火照り、息が弾む。
(そんなに、気持ちええ……の?)
スカートをまくり、そっと下着のクロッチに指をはわせる。
そこは風呂上がりのように熱く、漏らしてしまったかのよう
に濡れていた。
「……っ!」
指がもたらす初めての刺激に、幼い身体がビクッとはねる。
痺れるような、熱いような、不思議な刺激。
(これが……気持ちええ……ってこと?)
はやての指がパラパラとページをめくる。話はクライマッ
クスを向かえて名探偵が犯人を暴いたところだったが、目は
文字の上を滑るだけで何の感銘も受けなかった。仕方なく、
あきらめて本を閉じたはやては大きなため息をつく。
「……ね、ねぇ、ヴィータ」
「ん?」
顔を上げたヴィータは、美味しいものを食べた時のように
うっとりしていた。それを見て、はやては自分がこれからし
ようとすることに躊躇する。それでも、心の奥底にずっと押
し込めていたものを止めておくことはできなかった。
「もっと、ええ匂いがあるんやけど……」
「はやて?」
普段とは違うもじもじと挙動不審なはやての様子に、ヴィ
ータは不思議そうに首をかしげる。疑いのない真っすぐな瞳
に、はやての心は揺らいだ。
(やっぱり変かなぁ。でも、でも、ヴィータなら……)
はやては体を起こし、自分を見つめるヴィータの頬をなで
る。その手にヴィータの暖かい手が重なった。
「かいでいいの?」
「ええよ。……でも」
「でも?」
もったいぶるように、ためらうように、恥ずかしがるよう
に、はやては自分の思いを口に出した。
「ヴィータの匂い、あたしもかぎたいな」
「もう少し腰を落として」
仰向けに寝ているはやての顔を、下着を脱いで下半身裸に
なったヴィータがまたぐ。はやてもヴィータに手伝ってもらっ
て下着を脱いだ。
「こう?」
大きく開かれたヴィータの股間がはやてに迫る。風呂でヴィ
ータの裸は見慣れているが、こんな間近で女性器そのものを
見ることはない。その迫力にはやては圧倒される。
「ヴィータのここ、すごいきれいやね」
細みだが鍛えられた健康的な太もも。その付け根にあるの
は、シグナムやシャマルと異なり一本の毛も生えていない性
器。肉付きの薄い膨らみを割るスリットは、大きく足を開い
ているせいで閉じ切らず、桜色の秘肉が見えてしまっていた。
「そうかぁ? はやての方がきれーだよ。白くて、ぷにぷに
してて、それにすげーいい匂い!」
ヴィータの顔がはやての下半身に降りてくるのが、重なる
身体の間に見える。普通じゃないことをしていると今更なが
らに意識し始めたのか、ヴィータの幼い顔は紅潮していた。
「これからもっとええ匂いするからな、あたしと同じように
してな」
「うん」
はやては左腕でヴィータ残しを抱き、右手をヴィータの股
間に伸ばした。一本だけ伸ばされた人差し指は、皮に隠れた
陰核やスリットの上をさまよう。
(ええと、こんなんでええのかな)
例の本の内容は大体覚えていたが、実際にするとなるとど
うしたらいいのか戸惑う。自分自身のは体を洗う時などに触っ
ているが、性的な意味では本を見つけた時だけで、それも下
着の上から軽く触ったけで、すぐに空しくなって止めてしまっ
ていた。
「あはっ、くすぐったいよ」
いろいろ考えた末、はやてはヴィータの太ももに指をはわ
せた。敏感に反応したヴィータもすぐに反撃にでて、はやて
の太ももをなでる。
(ヴィータに触られてる!)
ヴィータの指はくすぐったく、それ以上に心地よかった。
本に書かれていたような、姉妹で体を慰め合うことにはやて
は興奮する。二人は厳密には姉妹ではないものの、はやてに
とってはとても大切な家族だったから。
「ええよ、ヴィータ。そんな感じで少しずつ内側になぁ」
荒くなりそうな呼吸を何とか押さえ、少しずつ指を太もも
に近づけていく。不審に思われていないかと心配になるはや
てだったが、ヴィータは素直にはやての言葉を聞いて指を動
かしている。
「はやての匂い、強くなってきたよ」
「そか、まだまだやからね」
ヴィータの言葉にはやてはほっとする。はやての片寄った
知識には性的に興奮すると匂いがするとあり、子供である自
分がそうなるのか心配だったが、それに賭けてヴィータを誘っ
たのだった。
(まださわってないのに、あそこが熱うなってる。さわった
らどうなるんやろ)
足の付け根まできた指を大陰唇の輪郭に沿って動かす。ま
だ濡れている様子はなかったものの、ヴィータの下腹部もほ
んのりと紅潮している。
「ヴィータ、もし痛かったり嫌ややったりしたら嫌って言う
てな」
「子供じゃあるまいし痛いのは平気だ。それに、はやてのす
ることに嫌なこと何てねぇ」
ヴィータの強がりとはやてへの信頼。はやての行為はその
信頼を裏切ることになるかもしれない。それでも闇の書の主
とそれに仕える騎士という関係がある以上、ヴィータ達は主
と僕という冷たい関係ではやてに仕え続けるだろう。
「はやては、もっと好きにしていいんだ」
「ヴィータ?」
怖じけついたはやては、突然のヴィータの言葉に身を震わ
せた。
「はやてのやりたいことはあたしのやりたいこと。はやての
嬉しいことがあたしの嬉しいこと。あたしは、はやての喜ぶ
顔をみるのが好きだから」
重なった身体を挟んで、ヴィータがじっとはやてを見つめ
ている。気概にあふれた力強く真っすぐな瞳。
「……ヴィータ、ありがとな。ヴィータはあたしの大切な家
族だから、ひどいことはせえへん、絶対気持ち良くしてあげ
る」
傷つけないように細心の注意を払って、ヴィータの大陰唇
に指をはわせる。初めて触る自分以外の性器は、とても熱く
て柔らかかった。
「大丈夫? 痛くない?」
「平気。ちょっと変な感じだけど、悪くないよ」
ヴィータの反応は、はやての指の感触に戸惑ってはいても
不快ではないようで、はやてはほっと胸をなでおろした。
「はやてー、はやてと同じようにすればいい?」
「そでええよ。よろしくね、ヴィータ」
「おう、がんばるかんな!」
これからすることには似つかわしくない掛声をあげるヴィ
ータ。しかし歴戦の騎士であるヴィータでもこれは初めての
こと、「えーと」と迷いつつおっかなびっくり指先ではやて
の大陰唇をなでる。
「んっ」
甘く痺れるような指の感触。指が通り過ぎたあとが、じわっ
と熱くなる。ずっと待ち焦がれていたヴィータの指に、はや
ての胸は嬉しさでいっぱいになった。
「えっ、痛かった?」
しかし、はやての声に驚いたヴィータはすぐに指を離して
しまう。まだまだ、騎士として主を傷つけるなどもってのほ
か、という意識が強いのだろう。
「ううん、そやなくてヴィータの指がとても気持ちえかった
から。あたしも頑張るからもっとしてな」
「うんっ」
はやての言葉にほっとしたヴィータは、自信を持ったのか
積極的に動き始める。まだはやてがしていないのでスリット
には触らないものの、指で閉じたり押し広げたり指の腹で全
体をこすったりと、思いつくままに指を動かしていく。
「す、すごい、ヴィータ。あたしも」
はやても負けじと指を動かすが、まだ性的な感覚に疎いヴィ
ータと比べてなまじ知識がある分、ちょっとしたものでも頭
の中で補完して余計に感じてしまう。さらに足が動かせない
はやては、一時的に身動きして強い快感から逃れることも出
来ず、真っ正面から受け止めるしかない。
「んっ、ぁ……はぁぁ」
呼吸が粗くなり、額を汗が流れ落ちる。下腹部は火がつい
たかのように熱い。
「ヴィータ…え、ええよ……え?」
突然ヴィータの指が止まる。
「は、はやて。えーと、その、ぉ、おっ……」
身体の隙間に見える、ヴィータの困った顔。はやては自分
の状態と本から得た知識を照らし合わせ、一つの結論を出す。
「それはね、ヴィータの思っているようなのやないの。女の
子は好きな人にこうされると気持ちようなって、近くにある
別のとこからアイエキゆーのが出るの」
「すきな、ひと?」
「そうや。大好きで大切な人に気持ちようされて嬉しいって
いう証拠なんよ」
「大好きで…大切な…」
一言一言噛み締めるようにヴィータはつぶやく。
「あたしはヴィータが好きで、大切で大事な家族だから、気
持ちようしてもらって、とても、とても、嬉しいの」
はやての嘘偽りない思い。それを伝えることが出来ること。
つまり伝えられる相手がいること。
(あたし、いま、すごい幸せや)
「…ぁ…あの、はやて……」
「なんや、ヴィータ」
顔を背けたのか、頭を起こしてもヴィータの顔は見えない。
「あたしはどうなってる?」
この場でどうとは一つのことしかない。はやてはそっとヴィ
ータのスリットを開く。
「んー、少しは湿ってるかな。ごめんね、ヴィータ。あたし
がヘタやから気持ちようなってなれへんのね」
「そんなことないっ、はやてはギガうまいよ!」
がばっと体を起こすヴィータ。だがはやてと目があったと
たん、トマトのように真っ赤になってうつむいてしまう。
「あたしもはやてが好きだからっ、でもはやてはヘタじゃな
いし、だから、そのっ」
好きだから気持ち良くて濡れる。濡れないのは好きじゃな
いから。好きだけど濡れないのは下手だから。でも下手なん
てことは言えない。
「ええよ、ヴィータ。ありがとな」
あまり濡れていないことを気に病むヴィータの体を、そっ
と抱き締める。
「気に病むことはあらへんよ。人それぞれ個人差ゆうのがあ
るし、あたしもヴィータも成長期の途中なんやし、まだまだ
身体の準備ができてへんのや。大きくなる頃にはきっと大丈
夫だよ」
「……はやて」
「そやね、ヴィータは可愛いから、大人になったらきっとシ
グナムやシャマルみたいな美人さんになるよ」
人並みに生きてきたとは言えないはやてからみても、ヴィ
ータ達がまともな暮らしをしてきたとは思えない。かい摘ま
んで聞いただけでも、いくつ命があっても足りそうにないく
らい。
(守らなくちゃ、ヴィータ達を守れるのはあたしだけなんだ
から)
はやてが望んでいたささやかな願いは、もう両手の中にあ
る。それを危険に冒してまで望むものなど、何もないのだか
ら。
「はやては、もう大人なんだな」
「そ、そーかなぁ」
ヴィータの尊敬がこもった言葉にはやては照れる。大人と
いうより変にませているだけというの自覚はあるので、面映
ゆくて互いに顔を見られない姿勢でほっとする。
「だって、はやてのアイエキ、シーツにたれそうなくらい出
ているぞ」
「え? あーっ、それはあかん。シーツは汚しちゃだめ!」
元々見かけは同じ年ぐらいのヴィータだからできたこと、
シャマルやシグナムに知られるのはとても恥ずかしい。下着
を脱いだのは汚して洗う時にばれたら、という悪知恵。
「ふくもの、ふくものは……っと」
「パジャマでふいちゃダメよ……あれ、ティッシュの箱、ど
こいったんやろ」
突然のことに混乱するはやて。しっかりしていても、思い
つきで始めた事には穴ばかり。
「あーもう、はやて、ごめんっ」
「へ? ヴィーッ!!!」
爆発する下腹部。背筋を電流が走り、目の中に火花が散る。
あまりのことに、何かを吸う音は耳まで届かなかった。
「ん、んくっ……んっ、ふぅ……あ、はやて?」
ヴィータが顔をあげると、エビ反りに硬直したはやての身
体がどすんとベッドに落ちる。
「はやて! ごめん、痛かったか?」
ヴィータは初めて出会った時を思い出し、心配になって急
いでシックスナインの姿勢を解いてはやての顔をのぞき込む。
「大丈夫。いきなりやったから、ちょっとびっくりしただけ」
頬をくすぐる三つ編みをよけながら、青くなったヴィータ
を抱き寄せる。
「はや……んっ」
重なる幼い唇。重ねるだけの幼いキス。
「…ん……っ…」
重なる身体。熱い鼓動。触れあう指先。
「……んぁ……」
目を閉じ、永遠の一瞬に身をゆだねる。
「ぁっ……ぁぁ」
ヴィータが顔をあげる。ほんのり紅潮した頬。戸惑って少
し開いた唇。ただただ、はやてを見つめる瞳。
「ファーストキスやな。順番はちょっと違うちゃったけど」
唇を指でなぞる。はやてとヴィータの唾液と、もう一つの
別のもの。
「ふふっ、せっかくのキスやのに、これはあたしのなのかなぁ?」
蜜の味、甘酸っぱい味、レモンのような、等々、少し背を
伸ばして読んだ少女小説に書かれているキスの味。初めての
キスはそのどれでもなく、しょっぱかったのが何故かおかし
かった。
「ごめん、はやて……」
「ヴィータは悪うないよ。そやから……」
しょげるヴィータの頭を優しくなでる。
「もう一度しよ、ね」
ゆっくりとうなずき、怖ず怖ずとはやての両頬をはさむヴィ
ータ。はやては自分の手をヴィータに重ね、ゆっくりと目を
閉じた。
「ぁ……」
小さく開いた桜色の唇を、緊張で震える唇がふさぐ。
「ん……」
ただ触れているだけで、じんわりと熱く。
「…っ……」
小さく、ついばむように、扉をたたく、幼い舌。
「…ゃ……」
触れるか、触れないか、少しずつ、確かめるように。
「………んっ」
つついて、なめて、からんで、すって、なでて、また、つ
ついて。
「………ゃぁ」
呼吸すら忘れ、苦しいのすら心地よく、二人はひたすらに
求め合った。
「んっ……っ、はっ、はぁっ、はぁぁ」
先に離れたのはヴィータだった。
子供とは言え騎士であるヴィータはともかく、同じ年頃の
子供と比べても身体能力が低いはやての肺活量はたかが知れ
ている。ヴィータが気が付かなければ自分から落ちていただ
ろう。
「はやて、鼻で息できないのか?」
「はっ、はぁ、き、気持ちええから、はぁ、忘れちゃった」
肩で息をしながらペロリと舌を出すはやて。大丈夫そうな
様子に、はやてはほっとため息をつく。
「……あの時みたいに気絶するかと思った」
「あー、あの時はほんまビックリやったから。でも、気絶し
そうなほど気持ちええって、ほんまのことなんやなぁ」
柔道等で気絶してしまうことを言っているのだろう。
「それ、違うんじゃ……ん?」
ニュアンスで何となくはやての言いたいことを理解したヴィ
ータだったが、主への突っ込みは指一本で封じられた。
右の人差し指でヴィータの唇を押さえたはやて。今度は目
を白黒させるヴィータの人差し指をつかみ、棒アイスをなめ
るように口へくわえる。ヴィータもすぐに察してはやての指
を口にふくんだ。
「…ん……んくっ」
まだ二人とも指では感じるほどではないが、すぐ間近で見
つめ合いながら指をなめる行為は、いけない事をしているよ
うで胸が高まる。いけない事は既にしていて順番があべこべ
になっているが、そんなことは少女達にとってささいな事だっ
た。
「んん……んっ…と」
名残惜しそうに指を解放すると、根元まで濡れた人差し指
と唇の間に透明な糸がのびる。
「次しよっか。今度はヴィータも気持ちようなれると思うよ」
「あたしは別にいーよ。はやてが気持ちよくなるならそれだ
けでいい」
はやてが主になってから騎士らしいことはまともにやって
おらず、移住食も何もかも世話になってしまっていることを
ヴィータは結構気にしていた。それは、はやてが頁の収集を
望んでいないからだが、シャマルのように家事を手伝えず、
シグナムのように保護者として病院の診察にも付き添えず、
散歩の相手ぐらいしかできないのが歯痒い。
ただ一緒に居てくれることこそが、はやての一番の望み。そ
うと分かっていても、それで納得するにはヴィータは幼かっ
た。
「そんな遠慮せえへんでええのに。ヴィータが気持ちようなっ
てくれたらあたしも嬉しいし、気持ちようなってるヴィータ
はきっと可愛いはずや」
濡れた指でヴィータの唇をなぞる。
「見てみたいなぁ、ヴィータの可愛い顔。ね?」
「……うー、わーたよ。はやてがそう言うならそうする。で
も、はやても気持ちよくするかんな」
ヴィータはため息をつき、はやての真似をして唇を指でな
ぞる。赤らんでむっとしているのか照れているのか判断が難
しい表情はとても可愛らしく、それを言ったらごねそうなの
で、はやては心の中にしまっておくことにした。
「少しだけ離れて……そう、そのくらい、それでええよ」
仰向けのはやての上に、両肘両膝の四つん這いで覆いかぶ
さるヴィータ。
もう下半身だけでなくパジャマや下着全部を脱ぎ、シーツ
を汚さないようにバスタオルを下にひく。全裸でいるにはま
だ肌寒い季節だったが、子供であることを差し引いても、今
の二人には関係なかった。
(シグナム達にみられたら、言い訳できへんなぁ)
はやてには元より闇の書の主としては普通ではない自覚が
あるが、さらに皆を失望させてしまうかもしれない。そうなっ
ても全ての非を自分で受けて、ヴィータを守るつもりである。
「このへんかなぁ……ほな、さわるからね」
「うん」
ヴィータは少し緊張気味だった。まだ性的なことには知識
も体も未熟であり、唯一知るのは目の前のはやての反応のみ。
まだ未知の魔法を使う戦士や怪物と対峙する方が気が楽かも
しれない。
「#$%&*!!!」
衝撃。そうとしか言えない強い刺激。股間の一点から爆発
するような痛み。何とか悲鳴をかみ殺したのは騎士としての
意地だろう。
「ご、ごめんな、ヴィータ。痛かった?」
多少ませていても、まだまだ幼い子供である。ヴィータを
感じるには一番敏感なところを刺激すればいい。ヴィータの
クリトリスを触ったのそんな浅はかな理由だった。しかし先
ほどのように目の前で見ながらならともかく、幼い少女が手
探りで人のを刺激するのがうまくいくはずもない。はやての
指は思いっきりヴィータのクリトリスを引っ掻いてしまって
いた。
「ごめんな、ごめんな、大丈夫?」
「だ、大丈夫。少し驚いただけだって」
おろおろするはやてを安心させようとヴィータは強がる。
強がっているのが分かり過ぎるため、かえってはやての心は
痛む。
「ごめんな、あたしが下手やからヴィータに痛い思いさせて
しもうて」
「いいってば、そんなに痛くなかったし。でも、ここって急
所なんだな。今度から攻められないよう気をつねぇと」
ただの打撃とは異なる痛みに、ヴィータも少々考えること
があるようだった。
「……攻めるって、誰から? ヴィータは誰かと戦うの?」
「誰かって、えーと……」
返答に詰まるヴィータの頬にはやてが手を伸ばす。思わず
身をすくませるヴィータだったが、はやては優しく撫でただ
けだった。
「あたしはヴィータ達に危ない目にあってほしゅうない。も
う戦うとか危険なことはせえへんでいいの。ヴィータ達はあ
たしが守るから、安心して一緒にいてくれればいいの」
「……うん」
ヴィータは素直にうなずいた。
はやてを守りたいのはヴィータも一緒。闇の書と敵対する
ものがいれば、実際に守るのはヴィータ達になるだろう。そ
れでも、はやての心がヴィータ達を守ってくれるからこそ、
戦えるのだから。
「もう一度や。今度こそ気持ちようするからね」
はやての手のひらがヴィータの幼い性器をそっとつつむ。
十分に濡らした中指をスリットにあてがい、指の腹で陰核包
皮を撫でるように手を動かした。
「大丈夫?」
無言でうなづくヴィータ。少しでもはやての指を感じよう
と集中しているのだろう。
(あまり緊張しない方がええんやないかなぁ)
手を動かしながら一計を案じたはやては、おもむろに空い
ている手でヴィータの手をつかむと、自分の平らな胸にあて
がった。
「なっ、はやて?」
「ほら、すごいドキドキしとるでしょ」
薄い胸板を通じて伝わってくる熱い鼓動。火照ってしっと
りと汗ばんだ肌の感触ともあいまって、力強い命のリズムに
心を奪われる。
「ヴィータも同じくらい、ドキドキしとるよ」
ヴィータの手を自分の胸に残し、同じようにヴィータの左
胸へ手のひらをあてた。
「うん。すげぇドキドキしてる」
「ヴィータとあたしの鼓動で、リズム取り合っているみたい
やね」
「ほんとだ!」
ヴィータが笑顔を見せたその時、はやては指先に熱くぬめっ
たものを感じた。
(……あれ?)
確かめるために中指を少し強くスリットの中へ差し入れる
と、じわっと何かがあふれ出す。それは汗でも最初に指を濡
らした唾液でもなかった。
「ほんならもっとしてみよっか」
円を描くように胸に当てた手のひらをゆっくりと動かす。
乳房と言えるようなもののない薄い胸を、揉むよりは優しく
撫でるように。
「ヴィータもしてみてな」
「……こう?」
はやてに習って手を動かすヴィータ。不器用ではないがデ
バイスを扱うのは勝手が違い、直接はやての鼓動を感じてし
まうが故に、どうしても恐れ恐れになってしまう。
「ええよ、ヴィータ。はら、手のひらの真ん中に何かない?」
「え? えーと、おっぱい?」
手のひらに感じる小さな突起。平たい胸の中で自己主張す
る小さな乳首。それはヴィータの手の中だけでなく、はやて
の手の中でも。
「そや。これ、こうしたらどう?」
人差し指で乳首の頭を捕らえ、少し押し込むくらいの強さ
で指先を震わせる。
「なんか、しびれるような…じんじんするような……」
未知の感覚に戸惑いを隠せないヴィータの声。
「ほな、これは?」
勃起しても小さな乳首を指でつまむ。
「ぁっ、熱くて、へんな、感じ……」
紅潮する頬。潤む瞳。吐息は甘く、熱く。
「それが気持ちええっていうんよ」
「これが、気持ちいい?」
はやてがスリットに埋もれた指を動かすと、あふれでた愛
液が指を伝ってこぼれ落ちる。
「んんっ、やっ、は、はやてぇ」
「ヴィータ、気持ちええ?」
「ぁぁっ、ぅ、うんっ」
「あたしの指で、気持ちよう感じてる?」
「うんっ、は、はやての指で、あたし、感じてる!」
四つん這いの姿勢も辛くなったヴィータは、抱き着くよう
にはやての上へ倒れ込む。
「一緒に、気持ちようなろ」
はやては耳元にささやき、ヴィータの手を自分の足の間に
導く。
「はやて、熱くて、ぐしょぐしょだ」
ヴィータの言うとおり、はやてのあそこはそんなに触って
すらいないのに、自分で驚くほどに濡れていた。
「それは、ヴィータがとても可愛いからよ」
「は、はやてぇ」
「ヴィータっ」
急速に高まって行く幼い二人の少女。
指を、腕を、唇を。
薄い胸を、華奢な腰を、細い脚を。
重ねて、からめて、抱き合って、お互いを求めて。
「はやてっ、好きっ、大好き!」
「あたしも好きっ、離なさへん!」
コンコンと扉をたたく音。
「ええよ、まだ起きてるから」
「失礼します」
はやては部屋に入ってきたのはシグナムとシャマルをみて、
ちょうど読み終わったばかりの本を閉じた。
「どこに行ったかと思ったら、主のベッドに潜り込んでいる
とは」
「ごめんなさいね、すぐに連れて行きますから」
はやての横でぐっすりと眠っているヴィータをみて、申し
訳なさそうに肩をすぼめる二人。
「このままでええよ。もう寝てしまってるし、起こしたら可
哀想やろ」
はやての横では、人形を抱えたヴィータがすやすやと眠っ
ていた。
「主がそうおっしゃられるなら今夜はそのままにしますが、
ご迷惑ではないですか?」
「迷惑なんてこれっぽっちも思ってへんよ。今日だけやない、
明日も明後日も一緒でええくらいや」
「???」
はやての言いたいことがよく判らないのか、二人は顔を見
合わせる。
「知っとった? あたしは知らなかったけど、二人で寝るベッ
ドはこんな暖かいんやね」
「主……」
「はやてちゃん……」
はやてがずっと一人で暮らしていたのは聞き及んでいたが、
弱音とも言える告白に言葉を詰まらせる。
「あぁ、そんな顔せえへんでな。あたしはみんなが来てくれ
てから、すごい幸せなんやから」
二人に笑顔を見せるはやて。それは作り笑いではなく、心
のそこからの笑顔。
「なら、明日から交替でご一緒するようにします? 一緒な
ら何かとお世話もできますし」
「んー、それもええけど、きっとヴィータがすねるから堪忍
してあげて。そのうちみんなで寝ようね」
当のヴィータは贔屓してもらったことも知らず、ぐっすり
眠っている。
「判りました。明日ヴィータには、主にご迷惑をおかけしな
いよう言っておきますので」
「あんまりおいたが過ぎるのもいけませんし」
「もう堅いなぁ、二人とも……って、え?」
おいたが何を示すかに思い当たって固まるはやて。
「あっ」
「シャマル、しっ」
止めても既に遅し。
「…………」
「…………」
「……えーと、もしかして、ばれてたん?」
さきほど流した汗とは別の汗が、はやての背中を流れ落ち
る。
「すみません。覗くつもりはなかったんですが、廊下まで声
が……」
申し訳無さそうに小さくなるシャマル。ヴィータを探して
いて、たまたま気が付いてしまったようだ。
「そ、そか。シーツ汚さへんようにとか気いつけたのに、め
ちゃ恥ずかしいわ」
後悔はしていなくても馬鹿なことをした自覚はあるため、
耐え切れず赤くなった顔を両手で隠してしまう。
「ゴホンッ。ま、あのようなことに興味を持ってしまうのは
仕方がないですが、実践なさるのは主には早すぎるかと」
「うん、もうせえへんよ。ちょっと興味あっただけやから。
それにな、してみてわかったんや」
少しだけ指の間からのぞかせる、悟ったような澄んだ瞳。
「あんなことしなくても、みんながそこにいてくれるだけで、
あたしは幸せなんやって」
写真でしか見たことのない家族。
手を伸ばしてもけして届かない存在。
だが今はすぐかたわらに。
寂しかった少女の光と闇。
季節はまだ初夏、闇の書に最初の頁が刻まれるのはまだ先
のことだった。
おまけ:
ヴィ「はやてー、男と女の場合はどうすんの?」
はや「それはオシベとメシベがなぁ(ry」
ヴィ「難しくてわかんないよー」
はや「ほな、百聞は一見に如かず、かなぁ」
ヴィ「という事なんで見せて」
シグ「……は?」
はや「ほら、シグナムとシャマルって、お父さんとお母さんみたいやし」
シグ「主はやて、あのようなことはもうしないと」
はや「うん、もうせえへんよ」
ヴィ「あたしら子供だし」
はや「シグナムとシャマルは大人だから」
ザフ「確かにそうだな」
シグ「納得するなザフィーラ。シャマルも何か言ってやれ」
シャ「わ、私はシグナムさえよければ(はぁと)」