「…ねぇ、すずかちゃん、どうしよう…」
困った顔で囁いてくる、なのはちゃんの吐息が耳元に心地よい。
「うーん…」
目を瞑ってその感触と共に紅茶を一杯味わった後、私は片目だけ開けて、波乱含みのティーパーティーの参加者へとそっと視線を走らせた。
まず、新メンバーのフェイトちゃん。実は、こちらはそれほど問題ない。一見、冷たい無表情のように見えるけれど、不慣れな場と相手に戸惑っているだけ。
やっぱり最大の問題はアリサちゃんか…。こちらは対照的にとってもわかりやすい。嫉妬の炎を剥き出しにして、フェイトちゃんを睨み付けている。
決して脅えたわけではないようだけれど、原因不明の敵意に戸惑ったフェイトちゃんが、ほんの少しだけなのはちゃんの方に体を寄せ、それがまたアリサちゃんの嫉妬の炎に油を注いだ。
やっぱり…まずはアリサちゃんからね。大まかに計画を立てた私は、そっとなのはちゃんの耳元に口を寄せた。
「え? そ…そんなので…大丈夫かなあ?」
「大丈夫!」
「う…うん…」
躊躇いがちな駒が(ごねんね、なのはちゃん!)動き出したのを見届けると、私はさりげなくフェイトちゃんの方へ体を寄せた。
「ご、ごめんね、アリサちゃん…えいっ!」
「な、なのは? …ひゃっ! あは、あはは! ちょ、ちょっとなのはっ!?」
いきなり脇をくすぐられ、戸惑った笑い声をあげたアリサちゃんは、慌ててなのはちゃんの魔の手から逃れようと身を捩った。
「な…何してるの?」
完全に呆気にとられ、目をぱちくりさせたフェイトちゃんにむかって、私は軽くウインクしてみせた。
「あれはここでの友情表現なのよ、ね、なのはちゃん♪」
「そ、そーなのっ!」
引きつった笑顔で頷くなのはちゃん。しかし、それは大きな隙を作ることになってしまった。
すばやくなのはちゃんの手の中から抜け出すアリサちゃん。
「あ…あれっ?」
「な〜の〜は〜」
ぴくぴくとこめかみを痙攣させて怒りをあらわにするアリサちゃん。
でも…私にはわかる。あれは、実は内心とってもご機嫌のサインだ。
「じゃあ、あたしもたっぷり友情お返ししてあげるっ!」
「え?え?嘘っ!?」
なのはちゃんがようやく事態の深刻さに気付いたのは、がしっ、とアリサちゃんに体を掴まれてからだった。
「ご…ごめん…アリサちゃん…た…助けて、すずかちゃんっ!」
私はもう一度のんびりカップを手に取ると、ゆっくり微笑んでみせた。
「す…すずかちゃん!?」
なのはちゃんの顔が絶望に凍り付いた。
「あ…あははは…やめて…許して…アリサちゃん…あはは…」
笑い転げながら必死で逃げようとするなのはちゃん。
でも、それを予想していたアリサちゃんはなのはちゃんの体をがっしり掴んで逃がさない。
それを後目に、私はカップを置くと、そっとフェイトちゃんの後ろに忍び寄って手を構えた。
「!」
すぐに気付いてびくんと体を震わせるフェイトちゃん。
「…逃げちゃ、だめよ?」
「え…」
耳元に悪戯っぽく囁きかけると、フェイトちゃんは戸惑ったように動きを止めた。
期待通り、さっきのでまかせを信じ込んで、友情を拒否するのは悪いと思ったのだろう。
なのはちゃんとはまた違った形で素直な子だ。
「ん…く…」
そっと軽くくすぐり始めると、フェイトちゃんは唇を噛みしめて堪えた。
「う…ふわっ! あ…う…」
じわじわとくすぐりを強めて行くに従って、自分では押さえようもない衝動に、時折ぴくっと体を震わせ、身を捩るようになってくる。
「ひ!…う…あ…ふふ…」
ついに口元がほころび出した。もう勝ったも同然である。
「ふふ…あはは…だ…だめ…も…もうやめて…」
「だーめ。だって、フェイトちゃん、こんなに可愛いんだもん」
「そ…そんな…あはは…あははは!」
ついにフェイトちゃんは大口を開けて笑い出してしまった。
「あはは…お願い…アリサちゃん…も…もう死んじゃうよお…あははは」
「あはは…だめ…も…もうだめ…あははは」
なのはちゃんとフェイトちゃん。二人を向き合わせてくすぐりながら、私はふと目があったアリサちゃんにウインクしてみせた。
一瞬怒ったように目を反らしたあと、アリサちゃんは照れくさそうに頷いて、ウインクを返してくれたのだった。
−終わり−