バレンタインデーとは思い人にチョコを捧げるなんとも甘ったるい一日である。
しかし実際チョコばかりあげているのはこの日本だけであろう。実際は花、ケーキ、カードなどを恋人に贈るのが通例である。
どの道、恋人達が愛を誓い合うという意味では全世界共通の記念日であることに変わりはない。
「今年はたくさん作らないといけないかなぁ」
カレンダーの赤丸を眺めていると自然と笑みがこぼれてくる。
「お兄ちゃんにお父さんに松尾さんにザフィーラさん、アレックスさんランディさん、あとクロノくん……」
兄や父、翠屋で働くスタッフ、さらにアースラで働く局員。
魔導師となってなのはの世界は急激に広がった。それは同時に沢山の友や仲間ができたことでもある。
「義理チョコだからって手は抜けないからね」
翠屋の時期二代目になるであろう身としてはお菓子作りにだけは絶対の自信がある。それは時空管理局に属する身となった今でも揺るがない信念。
「あとは……」
顔の温度が幾分か上がった。
例年とは違うのは何も数だけでない。
「えへへ」
ベッドの上でなのはの体がコロンと転がった。
「……ユーノくん」
好きな男の子を思い浮かべて赤面を枕に埋める。それでも気持ちが抑えられないらしく足だけはひっきりなしにパタパタ動く。
時折枕から漏れる唸りと笑いが複雑に入り混じった声は傍から聞くなら少々不気味だ。
「ユーノくんユーノくんユーノくんユーノくんユーノくん……」
新しい魔法の呪文ではないのであしからず。
今のなのはならその気になればこれでスターライトブレイカーでも何でも出来そうな勢いだが。
「はぁ……」
上げた顔は夢心地。溢れる笑みは至上の喜び。
誰もが見慣れた高町なのはは遠い地平の遥か彼方。ユーノに恋する少女が一人、ベッドの上で悶え転がっている。
そもそも二人の関係が変わったのはちょうど一ヶ月前に遡る。無限書庫の司書として本局へ勤めることとなったユーノが会う機会がないとか――実際はフェイトやはやてに押されてだが――云々で一念発起。
やる気になったユーノは強かった。正月気分覚めやらぬ三が日明け、ユーノはなのはに告白。
『なのはの全部守りたい! なのはが誰よりも好きだ!!』
口火を切ったユーノ一世一代の大告白。本当は一晩寝ずに考えた言葉があったのだが、なのはを目の前にしてユーノの理性はショート。結局真正面から馬鹿正直に気持ちを打ち明けた。
だがこれが裏目に出るどころか気持ち良いほどになのはの乙女を覚醒させた。
『えっ!? あ、ゆーのくん……? あ、え、う、へ!?』
ちなみになのはに恋愛の免疫はない。九歳だから当然だ。
今まで彼女がユーノに抱いてきた感情は固い信頼。しかし実際の所、その一部分は異性に対する好意そのものであった。
好意は信頼に擬態し、目覚める時まで己の存在を着々と拡大させていった。彼女自身、恋というものがよく分からなかったことが拍車をかけにかける。
『わたし……あの、その……えっと……』
言葉の楔はいい目覚ましだった。飛び起きた好意はなのはの心に恋という感情を一気に爆発させる。
カートリッジロード――I love ユーノセットアップ!
『わ、わたしも好きです! ユーノくんよろしく!!』
勢いギガントシュラークでユーノに頭を下げるなのは。しかしこの時はパニック起こして実は全くわかってなかった。
それが家に帰って反芻して、今までを思い返して、ユーノのことを再認識して――。
その過程で彼の優しさ、頼もしさ、それにちょっとのかっこよさがなのはの心を揺さぶりかけ――。
気づけばなのははベッドから転げ落ちていた。
「うん! 頑張らないと」
起き上がるなのは。両手は胸前で拳を握り見るからに本気のオーラを漂わせる。
しかしなのはがこうやってユーノのためにいろいろしてやれるようになったのは最近のこと。付き合い始めの一週間なんて、会うたびにリンゴが二つ並ぶ有様である。
熱が冷め、冷静になって始めて似合いの二人となったわけだ。雰囲気も以前のような落ち着いた感じになっている。
まぁそれでも甘える時はしっかり全力全開甘えるのがなのはなわけで。
「でも……やるからにはユーノくんすっごく喜ばせたいなぁ」
ただチョコを渡すだけではつまらない。なにかもっと、もっと彼の心を虜にしてしまうようななにか。
「どうしようかな……」
何分かそうやって悩んだ結果
「まずは義理チョコ作っちゃおう!」
目の前の雑務だけを片付けてしまえ。メインディッシュは最後の最後まで取っておくのが吉。
「じゃあさっそくなの!」
テーブルの上にはボールやミキサー、ありとあらゆる道具がひしめき合っていた。揃えに揃えた武器を前になのはは腕まくり一つして準備万端なご様子。
流石二代目エプロン姿も様になっている。お菓子作りは魔法以上に緻密で繊細。
故に油断は即チョコの死に繋がる。
「えっとまずは」
目線の先は褐色の塊が重厚な雰囲気と共に鎮座している。
例年好例の翠屋バレンタインデー限定メニューのために桃子がわざわざ海外から取り寄せたというそれはそれは高級なチョコ。そこらのスーパーで売ってるものとは各が違う特級品だ。
「食べやすい方が良いよね、そうするとなにがいいかな」
義理といえどなのはにとっては日頃の感謝を込めた大事な贈り物。まさかただ溶かして成型したチョコを渡すなんてことはなんとしても避けたい。
イメージ通りのチョコはないかとお世話になっている桃子直伝のレシピをめくっていく。
「……これならいいかも」
丁寧な線で描かれたスケッチに目が止まる。絵の下には母の字で名前と材料、それになにやらいろいろなことが書き込まれていた。
最後の所には『バレンタインには最適ね』と書かれてるおまけつきだ。
「うん! これでいこう!」
これを元に自分なりのアレンジを加えれば完璧だ。頭の中には早くも完成図が出来上がっていた。
薬缶がぴーっと嘶き始まりを告げる。
まずはチョコを砕いて湯銭にかけて、それから生クリーム。隠し味は父の洋酒を少々拝借すれば万事オッケー。
小さなパティシエ高町なのはの戦いの幕が上がる。
「できた……」
この上ない達成感に包まれたため息。大きなこと成し遂げた時の疲労感はなんと心地よいものだろう。
テーブルの上に整列した高町なのは珠玉の一品。下手すればこれでもう本命チョコではないかと疑るくらいの出来だ。
「後は包装すれば完成なの」
隣に母がいたらきっと褒めてくれるだろう。そんな自画自賛もしてしまうくらいうまくいったのだ。
これも高町桃子の血を引く娘のなせる業であろう。
料理の方はあまりまだ得意ではないのだけれど。
「じゃあ次はユーノくんのチョコを……」
しかしどうすればよいものか。
ここまで出来たものを作ってしまうと逆にこれ以上のイメージが全くといっていいほど沸いてこない。
後回しにしたおかげで本命に対して意欲がいつの間にか燻っていた。
「……どうしよう」
レシピをめくってみてもこれ以上を要求するものはケーキやクッキーなどの一つ上のものしかない。
やろうと思えばできる。だがなのはには純粋にチョコで勝負したい拘りが邪魔をする。潜在化で暗躍するパティシエのプライドはなんともはた迷惑なことをしてくれた。
「う〜ん……」
頭を傾げても、ひたすら唸っても、なのはには全くと言っていいほど名案が浮かばなかった。
「思いつかないよ〜」
万策尽きたか音を上げるなのは。
駄々をこねるように動かした手が偶然にもレシピに直撃。あろうことかテーブルの上から滑り落ちてしまった。
「あっ!」
母から借りた大切なレシピ。感情に任せて自分はなにをやっていたのか。
慌ててレシピを拾う。そのときレシピの隙間からなにかが床に舞い落ちた。
「なにこれ?」
メモ帳サイズの紙切れだ。レシピのページが欠落したわけではないのだろう。
なにかのレシピの付け足しなのだろうか。やはり沢山の文字が敷き詰められている。
「えと…………ふぇ!!?」
読んでなのはは突沸した。
「こ、こんなことする……の? して……いいの?」
その内容は若干九歳のなのはにはあまりにも刺激が強すぎた。
対象年齢十八歳以上。そんな断り書きがあってもおかしくはない。
「で、でもでも、これなら……」
沸点を超えている頭に自制なんてものは存在せず。
「ユーノくんも喜んでくれるよね」
幼き日々にさようなら。大人の世界にこんにちわ。
これもひとえに彼を思う純真無垢な気持ちのなせる業だった。
次々に寄せられる検索依頼にたった一人の無限書庫司書ユーノ・スクライアは多忙に苛まされていた。
探せばなんでも出て来る無限書庫。代償は莫大な時間と手間。おかげで暇人しか利用しないという記憶の世界。
「ええと術式破壊について……」
本の迷宮を輝く鎖が縦横無尽に駆け巡る。
「これかな?」
本に触れ、鎖を通して内容をあらかた確認すると今度はその鎖で手元まで引き寄せる。
おかげで休憩以外でユーノがここを動いたことは全くなかった。
「あと凝集による魔力の変化についてなどなど?」
せめて依頼内容はもう少し明白にしてもらいたい。主といってもまだここの全てを把握したわけではないのだから。
とは言っても文句を言う相手などここに来るわけもなく。
「はぁ……疲れる」
疲労感だけがユーノの体に圧し掛かっていく。
これなら検索魔法を組み込んだデバイスにでもやらせた方がよっぽど効率がいいのではないだろうか。機械なら疲れることもないのだから。
「そういうシステム組んでみようかな……」
それで特許でもとれば収入にも困らないし、遺跡調査の資金にも出来て一石二鳥だし。
「やっぱりなのはとの将来も考えると蓄えはないとね」
すでに将来設計を始めているユーノである。
「さてとそろそろ休憩にでも――」
「ユーノくーん!」
「あれっ? なのは」
長らく本ばかり映してきたユーノの目が久しぶりに人間の姿を捉える。しかもそれはクロノみたいな目の毒ではなく恋人のなのはである。
少々生気を失っていた顔が見る見るうちに活力に溢れ輝いてくる。
「どうしたの? わざわざこんな所まで」
「そのね、ユーノくん……これ」
差し出された両手に桜色の小箱。丁寧に緑色のリボンで包装されている。
「これは……?」
「……開けてみて」
はにかみのなのはにユーノは小箱を手に取る。手が触れて二人頬を朱に染めた。
リボンを解いて蓋を開けると茶色い球体が重なり合ってユーノを見上げていた。
「……チョコ?」
無言で、なのはが小さく頷いた。
「きょ、今日はわたしの世界でお世話になった男の人にチョコを上げる日なの」
熱暴走する顔を俯かせながらしきりに下ろされた手はひたすらに揉み手。もじもじ、と擬音が見えてきそうだ。
「それで特にお世話になった……というか好きな人にはとびっきりのチョコを上げる決まりがあって」
「そう……なんだ」
聞いてユーノも熱暴走。書庫内は一定の室温に保たれているはずなのに体が凄く熱い。
「食べてみて、わたしの全力全開」
「う、うん」
一つ摘まんで口の中へ放り込む。
普通のチョコとは違ってとても柔らかい。だからといって溶けているという訳でもない。不思議な食感だった。
「なんだかすごくおいしいよ。チョコじゃないみたいだ」
「生チョコって言うの、それ」
鼻腔を通り抜けるチョコの匂いに混じって独特の香りが感じられる。覚えのある匂いと思えばラムレーズンのそれと似ている。多分隠し味にラム酒を入れたのだろう。
「生チョコか……」
「どんどん食べて」
「うん、そうする」
次いで二口目、三口目――。
六つ入っていたチョコたちは四つがあっという間にユーノの口へ消えていった。
そうやって今まで上げてきた人たちはみんな笑顔でこれを食べ終わった。つまりは義理チョコなのだ、これは。
間に合わせ、なんていうことはない。彼女にして見ればこれからが本命チョコを手渡す時なのだ。
ユーノが五つ目を口へ入れようと視線をチョコに移した瞬間、なのはは懐に隠していたあるものを口へと素早く放った。
「お菓子作りもできるなんてなのはほんとにすごいよ」
「翠屋二代目ふぇふから」
「なのは? どうしたの?」
「ん、なんでもないよ、あはは」
危ない危ない。危うく口の中のものが飛び出すところだった。
なのはの口調に少しだけ眉をひそめたユーノだが取りあえず最後の一つを口にしようと中を見た。そして愕然とした。
「チョコ……半分かじられてる?」
本当はそこにあるはずなのは多分丸なはず。だけど半円が黙ってユーノを見上げている。
手に取ってみた。断面が明らかに人の歯形で出来ていた。
「えと……これ、なのは」
なのはがつまみ食いをしてそのまま入れてしまった、わけないだろう。もしかして自分が食べようとした時ものすごい勢いでなのはが食べてしまったとか。
あるわけないだろ、そんなこと。
狐に摘ままれたような顔をするユーノになのは悪戯っぽい笑みを浮かべて僅かに口を空けた。
「えへへ、もう半分欲しい? ユーノくん」
「そりゃ、あるなら」
「じゃあ……」
言うなりなのはは目を閉じてしまった。そして次に動いたのは唇。
少しだけ突き出す様子はユーノにはどうみてもそれにしか見えない。いや誰にだって同じように見えるだろう。
「……な、なのは?」
「どうぞ……ユーノくん」
かすかに動いた唇。漏れてくるのはチョコの匂い。
「なのは……もしかして半分って」
「そうひゃよ、結構辛いんだから早くして」
「で、でもなのはそれじゃあ――」
――キスになっちゃうんじゃ。
「バレンタインデーはチョコを上げるだけじゃないんだよ。だからチョコとなのはの気持ちを」
ユーノの言葉を遮るなのはの言葉。
「上げたいの」
何かが音を立てて動き出した。
据え膳食わぬはなんとやら。気がつけばユーノはなのはの両肩に手を置いていた。
「……いただきます」
躊躇も戸惑いもない。
上気した顔に半開きの唇。チョコの香りに包まれてユーノは目を閉じた。
近づく顔と顔――。
唇と唇――。
三十センチは五秒と持たなかった。
「ん……ふ……」
くぐもった声。構わずユーノは舌を差し込んだ。
拒絶の意志はない。むしろ歓迎された。
チョコが舌に勢いよくぶつかった。押し付けるようにチョコが舌に纏わり付いていく。
「う、むぅ……んぅ」
負けじと舌でチョコを攻撃。もちろんチョコだって負けちゃいない。要領を得たのかだんだんと滑らかに、大胆に動き始める。
しばらくそうしてなのはの舌に会うことが出来た。少し苦しかったので口を離す。
少しだけ褐色にくすんだ橋が二人を繋いだ。
「もう……いいの?」
「全然」
橋が切れる前になのはを塞いだ。
まだまだチョコは残っている。全部食べきるまで今度は離さない。肩に乗っていた手が背中と頭にがっちりと回される。
なのはも応える様に腰に手を回す。
お互い何処でそんなこと覚えたのか。テレビか映画か、はたまた本能か。
「んぁ……ぅ……はぁ」
「はぅ…………んは」
嚥下する喉に通るものはチョコとそれから二人の唾液。
舌はもちろん歯に歯茎、隅から隅まで己で蹂躙し、なのはを味わい尽くす。
少年と少女でもやってることは大人の遊戯。隙間から漏れる荒々しい呼吸は果たしてどちらのものか。結局は二人を盛り上げるスパイスであることに変わりはない。
感覚を塗りつぶすチョコの匂いとラムの香り。酒に酔ってはいない。だけどキスには酔っていた。
「ぷはっ!」
「ふぅ……はぁ」
十分のように二人は三分を楽しんだ。
「……あはは、ユーノくん口の周りチョコだらけだよ」
「なのはだってひげ生えたみたいだよ」
「えぇ! そんなのやだよ〜」
茶色い髭を蓄えた顔立ちはどこぞの山賊を髣髴とさせる。それでも他が伴っていないせいで思いっきり滑稽なものであるが。
「大丈夫だよ、僕が拭いてあげるから」
そうやってユーノはなのはの口を嘗め回し、なのはも舐め返して二人の情事はしばらく続くのであった。
「いいなぁ……ユーノ」
無限書庫の入り口の影でそんな二人を見つめる赤い瞳。
フェイトである。
「ばれんたいん……か」
よもやなのはの世界にそんな行事があろうとは。来年はぜひとも自分も参加しないといけない。
「でもまだ間に合うよね……」
まだ今日は終わっていない。今からすぐ家に帰ってチョコを溶かして、多少の手間は魔法で省略すればできるはずだ。
「うん、そうと決まれば急がないと」
踵を返すフェイト、と足元に転がる人物を思い出す。
懐から覗く一枚のカードに目が止まった。ちょうどいいものを持ってるじゃないか、この人は。
「兄さん、そういうわけだからデュランダル借りるね」
「ちょ……ま、待てフェイト……話が見えなぐふっ!」
思い切り背中を踏みつけて既にフェイトの姿は消えていた。
調べ物で無限書庫に行ってみればなにやら入り口にフェイトの姿。声をかけようとしたら突然サンダーレイジで黒焦げにされた。
何が何だか分からぬままにクロノは廊下に転がっている。自分の非なんてどこにもないはずだ。なぜだ。
「僕はなんで……こんな目に」
「あ〜クロノ君発見!」
これはエイミィの声か。なにか急務でも入ったのか、それなら通信してくれればいいのに。
「ほぉら、今日はバレンタインデーなんだから私のチョコを食べないと」
自分の体が動き出す。顔が擦れて少し痛い。
「艦長も腕によりをかけて作ったんだよ。こんな所で黒焦げになって遊んでないで、さっ、行こっ」
段々勢いが増していく。襟首を掴まれて連行されるクロノ。自分が何だか珍しい動物にでもなった気分だ。
「エイミィ特製一ガロンチョコ! 私の気持ちと一緒にちゃんと食べてクロノ君」
なんだろう、その一ガロンというのは。気にはなったが考えるのはやめた。
まるで伝染病だ、バレンタインデーというものは。誰かが聞きつけ次の日にはアースラ中で持ちきりなのだから。
「そういえばロッテとアリアも遊びに来てるんだった」
「え……」
いや〜な予感が悪寒と共に全身を這いずりまくった。
「ちょ……まって……やめてエイミィ」
「はいはい、まずはアースラに帰ってからね」
こうしてアースラに強制連行されたクロノを待ち受けていたのは
リンディの糖度無限大のチョコレートらしきものとか。
リーゼ姉妹のチョコ塗れスキンシップとか。
エイミィの一ガロン、チョコ拷問パーティーとか。
これ以後クロノはバレンタインデーが一年でもっとも嫌いになったとか、ならないとか。
「ユーノくん、好きだよ」
「僕も好きだよ、なのは」
そんなことは露知らず、ますますお暑い二人なのでした。
そういえばなんであのレシピにあんなことが書かれたメモが挟まっていたのかというと。
去年のバレンタインデー、兄の恭也の恋人である月村忍が桃子からレシピを借りた頃に遡る。
桃子から見れば亀よりも鈍い二人の恋にちょっとしたキューピッド気分で自分がバレンタインデーに士郎へ実践したことを書いて挟んでおいたのが始まりである。
忍がそれを試したのかは定かではないが、それからというもの二人の中は急激に深まったという。
そしてメモは挟まれ一年の眠りの後、こうしてなのはに出会ったわけである。
高町桃子のあらゆる技は娘にしっかりと伝承されていくのだった。