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[31]名無しさん@ピンキー 2006/01/26(木) 01:31:38 ID:RObqSdKf
[32]名無しさん@ピンキー 2006/01/26(木) 01:37:15 ID:RObqSdKf
[33]名無しさん@ピンキー 2006/01/26(木) 01:41:19 ID:RObqSdKf
[34]名無しさん@ピンキー 2006/01/26(木) 01:46:17 ID:RObqSdKf
[35]名無しさん@ピンキー 2006/01/26(木) 01:47:33 ID:RObqSdKf
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[38]名無しさん@ピンキー 2006/01/26(木) 01:52:33 ID:RObqSdKf
[39]名無しさん@ピンキー 2006/01/26(木) 01:55:05 ID:RObqSdKf
[40]名無しさん@ピンキー 2006/01/26(木) 01:56:59 ID:RObqSdKf

20歳のお花見



「クロノ、今度の日曜確かお休みだよね」

 夕食の席でそう訊ねてくるのは義妹のフェイトだ。

「まぁ予定ではそうだが…それがどうかしたのか?」
「それじゃあさ、お花見に行こうよ。みんな誘ってさ」

 笑顔で言うフェイト。隣に座る彼女の使い魔アルフと母親のリンディはすでに話を聞い
ているのかフェイトと同じようににこやかな笑みを浮かべている。
 二人の様子から見てなのは達にも話は通っているのだろう。

「…お花見」

 しかしクロノの顔は曇っている。料理を取る手を止め、しばし考え込んだあと

「僕は、いい」

 そう告げ再び料理に箸をのばす。

「どうして? せっかくの休みなんだから行こうよ。今日局に行く前に桜を見に行ったけ
ど満開で、綺麗だったよ」
「その様子じゃなのはやはやて達、エイミィも来るんだろう? 僕まで参加したらアース
ラはどうなる?」
「それなら心配ないわ。土曜からアースラは整備メンテナンスがあるからしばらく本局に
駐留するし」

 そう言ったのは砂糖入りのお茶をすすっているリンディだ。

「それは知っているよ。でもメンテナンスを行うんだから現場に僕がいないと細かい調整
や、重要な箇所の細かい指示が出せないじゃないか」
「それなら簡単な部位だけ先に割り出して、そこだけメンテするようスタッフに指示して
おけば? あとの重要な箇所は翌日にでもフェイトやなのはと一緒に指示すればいいんだ
し。どうせ一日でメンテ終わらないじゃん」

 骨付き肉の骨をかみ砕いたアルフが言う。

「どうしたのクロノ。やけに消極的じゃない」
「そんなことは…」
「じゃあ決まりね♪」
「ちょ…母さん、勝手に決めないでくれ! 僕にも色々と用事が…」
「用事って、何の?」
「そ、それは…まぁ、色々だ」

 戦闘訓練とか、資料集めといったら即座に花見に行くことが決まってしまうためか、口
ごもってしまうクロノ。
 何か上手い言い訳はないか考えていると

「彼女とデートとかですか? クロノ提督」

 面白そうに言うアルフ。クロノは席を立ち、叫ぶように言う。

「そんな相手はいない!!」

 その言葉になぜかフェイトは胸をなで下ろし、リンディは肩を落とし、

「そんなはっきり言わなくても…」

 と呟く。
 話が逸れつつあると感じるクロノ。しかし軌道修正していいものかと悩む。
 クロノとしてはお花見をすることは嫌ではない。むしろクロノは桜が好きだ。なのはの
世界で花見を知り、初めて花見をしたときに目にした桜の美しさは、今もなおクロノの心
にくっきり残っている。
 しかしクロノは今年はそんな風にのんびりと花を見る余裕があるのか、と思う。

「クロノ、どうしても駄目なの…?」

 悲しげな表情で言うフェイト。うっと詰まるクロノ。その表情は反則だぞ、と心の内で
呟く。

「フェイト…クロノ、あんた兄として妹を悲しませていいのかい」

 フェイトを慰めるアルフが殺気じみた表情でこちらを向く。一方のリンディも悲しげな
表情で「ああ…あなた、クロノが家族の輪を壊そうとしているわ。どうしたらいいの…」
とのたまっている。
 クロノは大きく息を吐くと、疲れた声で言った。

「わかったよ…なにもなければ参加する」

 その言葉にそれぞれ異なった表情の三者が一斉に明るくなる。

「ありがとう、クロノ!」
「そうこなくっちゃ!」
「それでこそ、私の息子だわ!」

 喜ぶ三人を見て、クロノは再びため息をつくのだった。



 結局日曜日まで特に大きな事件もなく、アースラは本局に到着後、メンテナンススタッ
フにさして重要でない部位のメンテを指示。クロノには予定通りの休みが与えられた。
 そして日曜日、クロノ達ハラオウン一家と高町(ユーノ含む)、八神、バニング、月村
一家の面々は近くの地主が花見時期だけ開放している場所へ向かった。
 到着し、クロノの視界に入ったのは無数の桜の木と、そこから舞い散る花びらの雨だ。
幻想的なその光景にしばしクロノは見入り、ヴィータにけっ飛ばされてしまった。
 シートを引き、料理を並べ、お花見が始まった。始まって十数分の間は皆は各家々の料
理に舌鼓をうち、又はクロノ同様桜の咲き散る様に見入っていた。
 自分の心配は杞憂に終わりそうだな…とクロノが思い始めたとき、杞憂が現実となった。
 気がつけば目の前に座っているエイミィが真っ赤に顔を染めて酒を飲んでいる。その隣
に座る美由希も同様だ。
 二人はけらけら笑い、互いに酌をして酒を飲み続けている。

「ふ、二人とも、ペースが速いぞ。少しゆるめた方が」

 クロノの言葉に反応した二人はすわった目つきで

「なぁによぉ〜クロノくんの、くせに〜。あたしの、邪魔をしよおっていうの〜」
「そんな〜悪い子には、お酌を〜してあげます〜」

 同時にクロノのコップに酒を注ぐ。慌てて飲むが、注ぐ勢いの方が勝っておりたちまち
コップから酒が溢れる。

「二人とも、やめろ! 酒が零れる…ぐ」

 一気に酒を飲んだせいか、うっとなるクロノ。クロノは酒を頻繁には飲まない。つまり
酒に強くない。

「ホラホラクロノく〜ん、早く飲まないと零れちゃうぞ、もったいないぞ〜」
「エ、エイミィ…! 桃子さん、エイミィと美由希さんを…」

 と横を向くと桃子は桃子で頬を真っ赤に染めて隣に座る士郎といちゃついている。リン
ディはクロノの惨状を見てニコニコと笑っている(当然酒を口にしている)から戦力外だ。
へたをすると二人のように自分にちょっかいを出しかねない。
 他の大人達、恭也、忍は高町夫妻と同じで、ファリンはすでに顔を真っ赤してすやすや
と眠っており、ノエルは近くに住んでいるのか、野良猫たちに料理を盛っている。
 大人組は頼りにならないと判断したクロノは仕方なしになのはとフェイトを呼ぶ。

「クロノくん? …うわっ! お姉ちゃん!?」
「エ、エイミィ…」

 平穏なお花見の時間を過ごしていた二人は目の前の惨状に唖然となる。

「は、早くエイミィと美由希さんを!」

 クロノの声にはっとなった二人は慌ててエイミィ達の間に割って入り、クロノを救助し
た。
 そのまま二人はクロノを連れて子供側のレジャーシートにクロノを連れていく。
 こっちのシートでは実に楽しそうだ。ヴィータ、シグナム、シャマルはすずかと楽しそ
うに話すはやてを中心に笑ってたり、喋ったりしており、アルフ、ザフィーラの獣コンビ
は互いに肉を黙々と食べている。
 ユーノはアリサに料理を差し出され、なぜか苦しげで、困惑顔だ。まぁどうでもいいと
思い、シートに腰を下ろす。

「ありがとう二人とも…助かったよ」

 心底安堵し、ほっと息をつくクロノ。

「こうなるから来たくなかったんだ…」
「こうなるって…クロノ、わかってたの?」
「まぁね…。君たちは眠ってて覚えてないだろうけど、昨年の僕の誕生日と正月も似たよう
な状況だった…。
 母さんやエイミィが無理矢理酒を注いだり…酔った恭也さんや士郎さんがなぜか勝負を
挑んできたり…」

「…あ、あはははは」

 乾いた声で笑うなのは。

「ご苦労様やな、クロノくん」

 目の前に色とりどりの料理が盛られた皿が出される。差し出したのははやてだ。
 クロノは礼を言って皿を受け取り、料理を口にする。

「美味いな…」

 思わずぽろりと口から出る。途端にはやてが嬉しそうな顔になる。

「ありがとなー。まだまだあるでー」
「あたしの作ったのも食べてみてよ」
「わたしのもあるよー」

 すずか、アリサが同じように料理を盛った皿を持ってくる。なぜかアリサは迫るような
姿勢だ。

「どう? おいしい?」
「…ああ。しっかり火が通っているし、食感もいい。少し味が濃いとは思うが、まぁそれ
は個人の好みの問題だろう」
「はやてと比べてイマイチな返事ねー。…まぁユーノよりはましか」
「ユーノ?」
「どうかって聞いてもおいしいの一点張りなんだもの。もうちょっとクロノみたいに品評
できないのかしらね」
「本当に美味しかったから、そう言ったんじゃないかな…」

 やれやれといった表情のアリサに、すずかが苦笑気味に突っ込む。
 ユーノを見やると、苦しげに呻いているユーノの姿がある。どうやら味のことを聞くた
めに結構な量の料理を食べさせられたようだ。
 ユーノにほんの少しだけ哀れみの視線を投げると、クロノも食事を再開する。少女達の
料理を食べながら、クロノは目の前に立つ桜の木を眺める。そよそよと緩やかな風に煽ら
れて、桜の花びらが舞い落ちる。
 春の風情を静かに楽しんでいると、横から声をかけられる。

「クロノくん、桜好きなの?」

 横を見ると笑顔のなのはがいる。片手にはお茶があり、クロノに差し出す。

「…そうだな、好き…なんだろうな」

 お茶に軽く口をつけ、ほぅと息を吐き出す。

「どうしてここまで気になるのか…自分でもよくわからないんだが。…でも嫌いじゃない。
桜は綺麗だけど、儚げな感じもする。…でも弱々しいって言う感じじゃなくて…」

 ただ桜には―あの色には、なぜか惹かれる。癒される。励まされる。

「なんて言ったらいいんだろう…ご免、自分で言ってなんだけどよくわからないな」
「ううん。私も好きだもん、桜。綺麗だし」

 にこっと笑うなのは。明るく、柔らかい笑顔に、クロノも思わず微笑む。

「…そうだな、桜は綺麗だ。それでいいか、好きな理由」

 手元の皿に目を向けると、いつの間にか料理が無くなっている。それに気がついたなの
はは立ち上がり

「料理無くなったったね。ちょっと待ってて、取ってくるから」
「いや、それくらい自分で…」

 立ち上がりかけたクロノの肩になのはは手を置き

「今度は私やフェイトちゃんの料理を食べて欲しいから。―すぐ持ってくるね」

 そう言うと重箱の元へ行き、新しい紙皿に料理を盛る。
 クロノは微笑し、お茶に口を付ける。するとお茶の上に桜の花びらが一枚、浮いている。
一瞬取り出そうと思ったが、やめ、そのままお茶と一緒に桜の花びらを異に流し込んだ。
 不思議と美味く感じた。




「嘘だろ…」
 異変に気がついたときはもう遅かった。なぜ気がつかなかったのだろうか。
 目の前にいる少女達と使い魔三匹、そして守護騎士達四人。そのほぼ全員の顔が真っ赤
になっている。
 そして彼らの手元には見間違う事なき缶ビールの缶が、ある。先日の買い出しの時にエ
イミィが買っていたものだ。

「…な、なぜ…ビールが…」

 絶句しているとふらふらのヴィータが未開封のビールを手に取る。はっとなったクロノ
は彼女に駆け寄りビールを奪う。

「なにすんだよぉ!!」

 まるで戦闘時の時のような、すわった目つきで叫ぶヴィータ。

「子供が酒を飲むんじゃない!」
「あんだとぉ!! あたしは子供じゃねー!!」

 今にもグラーフアイゼンを発動しかねないヴィータ。と、両者の間に割って入る影があ
る。
 同じ守護騎士のシャマルだ。

「駄目れすよ、ヴィータちゃん、喧嘩しりゃ〜」
 
ろれつは回っているが意外としっかりしたことを言うシャマル。するとヴィータはなぜ
か両目に大粒の涙を浮かべて

「だって…あいつが、あたしのジュースを取ったんだ!」

 と、クロノを指差す。

「これはジュースじゃない! ビールだ! 見ればわかる…だろう?」

 こちらを向いたシャマルもなぜか戦闘時のような目つきだ。

「クロノ提督…いけませんよ。……ヴィータちゃんに意地悪しちゃ」
「は!?」
「さ、そのジュースをヴィータちゃんへ、返してあげてください」
「だからこれはジュースじゃ…」
「うぁあああーん! クロノがいじめる、はやてーっ!!」

 泣き出したヴィータはタックルするようにはやてに抱きつく。はやては赤い顔でヴィー
タの背中を撫でると、やはり戦闘時のような目つきでクロノを睨み

「クロノくん…こないな小さな女の子、いじめて楽しいんか」
「いじめてない!!」
「最低やな…やっぱりまだ昔のことでヴィータ達のこと、嫌ってるんか。
 そないにこの子達が嫌いか。確かに昔は色々やっとったけど今はみんな頑張って管理局
やクロノくんに協力してんのに…ぐすっ」
「そ、それについては本当に感謝してる…て、何で泣く!?」
「はやてぇ〜」
「ええよ…私の胸で思いっきり泣き。安心し、クロノくんが敵でも私は一生ヴィータの味
方や」
「はやてぇ〜〜」
「ありがとう、はやてちゃん…」

「主はやて…我らは幸せ者です…ううう…」
 いつの間にかシャマル、そしてシグナムまで泣き、はやてにすがりついている。唖然と

その光景を眺めていると突如首に腕が回される。
「だ、誰だ…って、フェイト!?」
「…お兄ちゃ〜ん」

 滅多に聞かない呼称と甘い声でフェイトはクロノの胸の頬をよせ、スリスリする。たち
まちクロノの顔が瞬間沸騰する。

「フェ、フェフェフェフェイト! 酔っているんだな、君も酔っているんだな! そうだ
ろう? そうだよな!?」
「酔ってないよぉ〜…いつもの、フェイト・T・ハラオウン、15歳だよぉ…。
ちなみにクロノお兄ちゃんは20歳だよ〜」
 
 完全に酔っぱらってる事が解り、少し正気に戻るクロノ。しかし頬はリンゴ色のままだ。

「ぼ、僕のことはどうでもいい! それよりも説明してくれ、いったい何でみんな酒を飲
んでいるんだ!?」
「お酒じゃないよぉ…これはぁ」
「じゃあ何だと…」
「これはね…ビール、です。お酒じゃないよぉ」
「ビールはお酒だ!!」

 クロノの叫びにフェイトは一瞬、ぽかんとなり、再びにっこり笑うと

「そっかぁ〜お酒なんだ〜。ありがとうお兄ちゃん、また一つフェイトは賢くなりました
〜」

 そう言うと、フェイトはなぜか頭を差し出してくる。

「……フェイト?」
「頭がよくなったから、ご褒美のいい子いい子…」
「い、いい子いい子? なんだそれ…」
「えとね…いい子いい子って、言いながらぁ、頭を優しく撫でるの。こんな感じで〜」

 顔を上げたフェイトはクロノ頭を2、3度なでる。そしてにこっと笑うと、再び頭を突
き出してくる。
 ―何というか、酔っているとはいえ、ここまでキャラが変わるものなのか…?
 戸惑うクロノだがとりあえず大人しく言うことを聞いていた方がいいと思い、2、3回
優しく撫でる。
 するとぱっと顔を上げたフェイトはにっこりと笑いクロノに抱きついてくる。

「フ、フェイト! 離れるんだ!!」
「や〜だ〜」
「ふふふ…」

 何やら地の底から響くような声が聞こえ振り向くと、やはり顔を真っ赤にして、何やら
妖しい笑みを浮かべているユーノがいた。

「ユ、ユーノ…」

 真っ赤だったクロノの顔が、さーっと青くなる。よりにもよってこの男にこんな場面を
見られるとは…!

「クロノ…やはり君はシスコンなんだね…このシスコン提督」
「違う! てか誰がシスコン提督だ!!」
「否定しなくていいよ…なのはのことは安心して僕に任せて君はフェイトと…」

 ユーノに最後まで言わせず、クロノは近くに転がっている空き缶を、ユーノの額めがけ
て蹴る。缶は見事に狙った部位に命中、甲高い音を立てて缶が宙に浮き、ユーノは倒れる。
 しばらくユーノを見ているが立ち上がる様子はない。気絶したようだ。

「今の一撃でこの光景を忘れてくれるといいんだが…」

 安堵の息を漏らすクロノ。しかし周りの惨状を見て、再び鬱になる。
 泣いているはやてに、それに泣きついているヴィータ、シグナム、シャマル。カエルが
ひっくり返ったような姿勢で気絶しているユーノ。
 唯一の救い(?)はアリサとすずか、ザフィーラとアルフの獣コンビだ。アリサ達は実
に仲むつまじくすやすやと健やかな寝息をたてており、子犬形態の二人も静かに木陰で眠
っている。
 と、そこまで見て気がつく。この場に一人足りないことに。

「…なのははどこに行ったんだ?」

 と呟いたその時、なぜか結界が展開される。それもクロノの背後で。
 何事と思いきやなんと後ろにはなぜかレイジングハートを構えているなのはの姿があ
る。

「…な、なのは……?」
「…クロノくん」

 いつものなのはとはまるで違った、低く、重い声だ。

「な、何だ…?」
「あのね、私はね、別に、二人がどういった関係になっもね、いいと思うの。お互いが納
得しているんなら」

 ゆっくりと、なのははレイジングハートの先端をクロノに向ける。

「なのは…な、なにを言って…」
「でもね…だからってね……こんな場所での、そういうことは、やっちゃ駄目だと思うの」

 そう言われ、思い出す。自分の今の状態を。

「こ、こここれは違う!」
「違わへんよー!」

 叫びと共に何かが腰に当たる。後ろを振り向けばなぜか先程まで守護騎士達と一緒に泣
いていたはやての姿がある。

「女の子いじめて…こーんな、公衆の場で、妹やからて、そんなことして…。
 本当に、クロノくん、さいてーや」

 すわった目つきで言うはやて。レイジングハートの先端に桜色の光が収束されていく。

「や、やめろなのは! フェイトとはやてまで巻き添えを…」
「大丈夫…全力全開だから……」

 顔を上げたなのはも顔が真っ赤だ。目もはやてのようにすわっている。

「いっくよー…レイジングはー…とぉ」
『All right』.
「『All right』じゃないー!」

 叫び、クロノははやて、フェイトにしがみつかれながらもなのはに駆け寄り、肩を掴む。
 その衝撃になのはの体勢が崩れ、こちらに倒れてくる。レイジングハートに収束してい
た光も消え、地面に転がる。

「な、なのは…ちょ…!」

 慌てて受け止めるもフェイトとはやてがいるためめか、上手くいかない。反射的になの
はの頭を右腕に置き、腰にしがみついているはやてに乗らないよう横向きに地面に倒れる。
 体に衝撃が来るのと同時に、頭に何か硬いものがぶつかる。それが何か確認する前に、
クロノの意識は闇に落ちた。



「…う」

 うめき声を上げ、目を覚ますクロノ。起きた彼の視界には何故かキリンの絵柄が描いて
ある空き缶がある。
 なぜこんなものがあるのかと思い、気絶する前のことを思い返す。そしてこれが気絶の
原因だと気付く。
 何となく腹が立ち、どかそうとするがなぜか右腕が重い。怪訝に思い右腕を見ると

「なっ、なの…!」

 すやすやと穏やかな寝息を立てて、眠っているなのはの姿がある。
 ―なんだこれは!? 一体何故??
 混乱するクロノ。と、腰と体の上にも何やら妙な感触がある。視線を向けるや体の上面
にはフェイトが、そして腰の辺りにははやてがしがみついてる。
 両者を見たクロノの脳裏に、先程の惨状が蘇る。

「そうか…魔法の発動を止めたときになのはが倒れ込んできて…」

 原因がわかりほっとするクロノ。しかししばらくしてこれがいかなる事態かを自覚し、
青くなる。
 大変まずい状況である。年頃の女の子に抱きつかれている青年。これを第三者が見たら
どう思うか、そして自分がどんな目に遭うか。

「こ、これはまずい…」

 と呟いたその時だ。右腕に頭を乗せているなのはが小さく、可愛らしい声を上げて目を開
ける。

「…ん〜…」
「…!!」

 なのはは無反応。目を2、3回閉じたり自分の頬をつまんだりする。
 それから数秒後、火がついたように真っ赤になる。

「あ、あわっ。あわわわわ…!!」
「な、なのは! これは違う。いいか、落ち着いて聞いてくれ―」

 この状況を説明しようとしたその時、体の上にいるフェイト、腰にしがみついているは
やてが動く。
 ―目を覚まさないでくれ!
 心の中で必死に懇願するが、それはかなわない。フェイトの目が開き、先程のなのはと
同じ理悪書を取ったかと思えば、フェイトの顔が瞬間沸騰し、硬直する。
 そして腰の辺りから「なんやぁ…?」と声を上げたはやてと視線が会い、彼女の顔も同
じように真っ赤に染まり、叫ぶように言う。

「な、何? どないなっとるん? 何で私がクロノくんに抱きついとるん!?」
「落ち着くんだはやて! 静かにしないと…!!」
『静かにしないと…なんだって?』

 殺気の籠った二つの声。おそるおそる上を向くと無表情の士郎と恭也の姿がある。

「―!!」
『クロノ…貴様…』

 二人は全く同じ口調で、静かに腰から小太刀を抜く。二人の脇には唖然とした様子のエ
イミィと顔を真っ赤にした美由希に忍、そして顔面蒼白の母親二人の姿がある。

「ち、違うんです! これは…!」
「これは…なんですか? クロノ提督…」

 二人に負けず劣らない殺気が今度は足下から発している。ゆっくりと視線を向けると甲
冑姿のシグナムとヴィータ、そしてボキボキと指を鳴らす人型形態のアルフの姿がある。
 そしてその横では目を伏せ、倒れかかっているすずかとシャマル、それを支えながら軽
蔑の色が籠もった視線を投げかけるアリサとザフィーラ。

「違う…これは、違うんだぁーーーーーー!!!」

 夕暮れの海鳴に、クロノの絶叫が響き渡った。

END


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