学校が終わり、なのは、フェイト、アリサ、すずかの四人はアリサの家へ向かう。
今日は皆でアリサの家に遊びに行く約束をしていたのだ。
「フェイトはあたしの家に来るの、今日が初めてだったよね?」
「うん。楽しみだよ」
いろいろあって忙しかったフェイトは、今までアリサの家に遊びに行く時間が無かった。
だがそれも落ち着いたので、今日ようやく遊びに行くことになったのだ。
「あっ、うちには犬がたくさんいるんだけど、フェイト大丈夫?」
「うん。犬は好きだよ」
「あはっ、良かった。フェイトも犬好きなんだ」
「アリサちゃんもすごく犬好きなんだよ。家に10匹くらい飼ってるんだって」
すずかがフェイトに説明すると、フェイトは驚いたように言った。
「10匹…。大丈夫かな、私あんまり本物の犬触ったことないから、少し緊張する」
そんなフェイトの手を握って、なのはは明るい声でフェイトを励ます。
「大丈夫大丈夫。アリサちゃんちの犬はみんな優しいから、フェイトちゃんにもきっと懐いてくれるよ」
「そうかな。ならよかった」
フェイトの顔に笑顔が戻った。二人はにこにことお互いを見つめ合う。
「はぁ、まーたこの二人はー」
アリサはそんな二人を見て呆れたような声で言った。
「うふふ、でも仲良しさんでいいじゃない」
すずかがアリサをたしなめる。
もちろんアリサも二人が仲良くしているのはいいことだと思っている。
以前は本気で喧嘩し合うような関係だったことはもう二人から聞いていたし、実際にアリサはその当時の辛そうななのはの様子を知っていた。そしてアリサ自身もそのことで悩んだ。
だから二人が仲良く話しているのを見るととても嬉しい。どちらも大切な友達だ。
それはいいのだが…
「なのはの手、すべすべで気持ちいいね」
「えへっ、そうかなぁ。でもフェイトちゃんもこんなにきれいな手でうらやましいよ」
「ありがとう。あ、なのはは爪もつるつるだ。いいなー」
「フェイトちゃんだって、ほら」
これである。二人のラブラブっぷりはさすがのアリサも手に負えない。
「ま、いいんだけどねー」
しばらく歩くと、四人はアリサの家に到着した。
一足先に家に入ったアリサは皆を迎える。
「はい、みんないらっしゃい」
「おじゃましまーす」
そこへジョンソンがのそのそやってきた。アリサの飼う大型犬である。
「この子がアリサの言ってた犬?かわいい」
フェイトがゆっくりと側に寄る。
「ふふっ、そうでしょー。ジョンソンっていうのよ」
「ジョンソン…さわってもいい?」
「いいわよ」
フェイトがおそるおそる手をのばし、ジョンソンの柔らかな毛並みに触れる。
「あっ…ふわふわ」
ジョンソンはしっぽを振っている。どうやら喜んでいるようだ。
「どう?フェイト。怖くない?」
「うん、ありがとうアリサ。とっても気持ちいいよ」
フェイトはおとなしいジョンソンに安心したのか、両手で抱えるようにジョンソンを撫でた。
すると庭からどんどん犬がやってきて、フェイトの周りを歩き出した。どうやらフェイトに興味津々のようだ。
「あ、みんな集まってきた…。でも思ったより怖くないね。それどころかかわいいよ」
犬に囲まれてフェイトもご満悦。
「あははっ。フェイトちゃん良かったね」
そんなフェイトの幸せそうな様子を見て、なのはも心底嬉しそうだ。
しばらくすると、アリサが
「そろそろあたしの部屋いかない?」
と言った。フェイトはうなずいて名残惜しそうにジョンソン達から手を離す。
フェイトが立ち去ろうとすると、ジョンソンは舌を左右に振った。さようならの意味だろうか。
「うん、みんなまたね」
フェイトがそれに応え、四人はアリサの部屋へ向かった。
「じゃあ何してあそぼっか?」
部屋に着いてアリサが問う。
「うーん…そうだ、ここはやっぱりみんなでできるゲームはどうかな?」
なのはがそう提案する。
「賛成ー。あっ、でもフェイトちゃんゲームわかるかな?」
「そっか、フェイトちゃんゲームやったことなかったね。ごめん」
すずかの言葉になのはがしょんぼりする。フェイトはそんななのはを見ると、慌てて言った。
「ううん、大丈夫。説明書みればなんとかなるよ。それにゲームはやってみたかったし」
フェイトはゲームをやったことは無かったが、学校でゲームについて語り合うクラスメイトの楽しそうな声を聞くたび、自分もいつかやってみたいと思っていたのだ。それになのは達とやれば絶対に楽しいという確信もあった。
「そっか、良かったー」
「きっとすぐできるようになるよ。それじゃフェイト、何のゲームやりたい?」
「えっと…じゃあ戦いのゲームがいいかな」
「戦いっていうと格ゲーね。ふふん、負けないわよっ」
そう言うとアリサは、ゲームソフト置き場から一本のゲームを取り出した。
「これこれ。面白いのよねこのゲーム」
パッケージは真っ白で、表には「ストリー闘ファイター」と書いてある。その右下には小さく「(c)samejima」の文字。
いかにも怪しげであるが、誰も気にしていないので特に問題はなさそうだ。
「じゃあ始めるわよー。すずか、テレビつけてっ」
アリサは取り出したディスクをゲーム機に入れ、すずかがテレビのスイッチを付けた。
勇ましい音楽と共にタイトル画面が表示される。
「これがゲーム…」
フェイトは感動して画面に見入っている。アリサが慣れた手つきで操作し、キャラクター選択画面が出た。
「はい、好きなの選んでね」
「え、えとっ、どれがいいかな…」
アリサにコントローラーを渡されると、フェイトは困惑した顔でなのはを見た。
「あはは。強いキャラばっかりだから好きなのでいいんだよ」
「好きなの…えっと、じゃあなのは」
声が小さい。
「えっ?」
「な、なんでもないよ!えっと、なのは選んでくれない?」
「私が選んでいいの?じゃあ、そうだなぁ…この女の人なんていいかも」
「うん、それにする。なのはは?」
「私はこの人にしようかな。いつも使ってる人」
こうして二人のキャラクターは決まった。次はアリサとすずかである。
「すずか先に決める?」
「いいよ、アリサちゃんお先にどうぞ」
「んー、じゃああたしはこの人にしよっかな。動きが面白いのよね」
「じゃあ私は…この人。大きくてかっこいいんだよ」
全員決まったようだ。次の画面に進む。
「せっかく四人いるんだし、チーム戦にしない?」
「さんせー」
アリサの提案になのはが賛成の声を上げ、フェイトとすずかもうなずいて賛成の意を示す。
「じゃあチーム決めのグーパーしよっか。いくわよー、グーとパーでわかれましょっ」
なのはとフェイトはグー。アリサとすずかはパー。このようなチームに決まった。
「がんばろうねフェイトちゃん!」
「うん、一緒にがんばろう」
「よーし、あたしたちも負けないわよー!すずか、用意はいい?」
「うん、大丈夫。がんばろうね」
戦闘開始。
なのはがいきなり大技を繰り出した。わずか0.2秒での高速コマンド入力による全体攻撃だ。
為す術も無くアリサとすずかのゲージが一気に3/4まで減る。
「やったわねーっ!すずか、反撃いくわよ!」
「うん!」
体勢を立て直したアリサキャラが、なのはキャラに向かって突進し攻撃。ガードを破りパンチで少量のダメージ。
その間にすずかキャラは、うろたえるフェイトキャラに向かって中程度の技でダメージを与える。
「フェイトちゃん!大丈夫?」
なのはが心配して声をかける。
「う、うん…どうすればいいのかな」
「えっとね…あーっ、このキャラよくわかんないっ。適当にボタン押してればなんとかなるよ!」
「じゃあ、えいっ」
フェイトがボタンを連打。するとキャラクターが光り出した。
「な、なのは。どうしようこれ」
「あ、それは敵のそばでこのボタン押せばいいんだよ」
「わかった」
危険を感じ、アリサキャラとすずかキャラは一歩下がる。だが一瞬後、その背後になのはキャラが着地。
アリサキャラは強烈なキックで前へ飛ばされる。
「あっ、やば!」
そこにはちょうどフェイトキャラがいた。フェイトは言われたとおりボタンを押す。
「アリサちゃん!」
轟音が響き、すずかの叫びも空しくアリサのゲージは1/4にまで減ってしまった。
「な、なかなかやるじゃない。だけど、まだこれからよっ!」
窮地に立たされアリサが本気になった。
「うんっ、やっちゃうよっ!」
すずかもノリノリである。
「すずか、ちょっと聞いて。まず…」
二人はある作戦を練った。アリサキャラは左側、すずかキャラは右側へ移動し好機を待つ。
「どうしよう、なのは」
「そうだなー、じゃあフェイトちゃんはすずかちゃんをやっつけて。私はアリサちゃんを!」
「うん、わかった」
フェイトキャラがすずかキャラに向かっていき、強キック。だがすずかはガードで守る。
すぐさま反撃。ガードの弱いフェイトキャラをフィールドの真ん中に飛ばす。
同じ頃、アリサキャラはなのはキャラの攻撃を受けていた。強弱織り交ぜた絶妙な攻撃にアリサのガードも破れかける。
だが、一瞬の隙をついてなのはキャラの背後にジャンプで移動し投げ技。フィールドの真ん中に飛ばす。
「よし、いくわよすずか!」
「うんっ!」
二人のキャラの体が光る。アリサが素早くコマンドを入力すると、背景の色がガラッと変わり敵の時間が止まった。
同時にすずかもコマンドを入力。すると大きな火の玉が出現し、画面の中心で固まっているなのはとフェイトのキャラを直撃。莫大なダメージを連続で与える。なのはとフェイトのゲージはそれぞれ1/4、1/5にまで減った。
「アリサちゃん時間止めるなんてひどいー」
なのはが嘆いている。
「ふふーん、どうだっ。すずかの必殺技は普通だとすぐ弾かれちゃうからね。完璧な作戦よっ」
「うふふっ、私達勝っちゃうかも」
アリサとすずかが得意げに笑う。
「なのは、あれやろっ」
突然フェイトが言った。
「え、あれって何?」
「さっき少し説明書見てたら書いてあったんだけど…えっと…」
「うん?」
「ラ…」
「ラ?」
「ラ…ラブラブアタック!」
フェイトの声が部屋中に響いた。今度は現実の時間が止まったようだった。
「な…なに?それ…」
アリサが半分固まってフェイトに聞く。
「えっと、一つのコントローラーを二人で持って、重ねた手で出す技…だって」
「そんなのあったの…」
すずかも驚いている。
「ね、なのは。やろっ?」
「うん、いいよ!」
なのはは快諾だ。フェイトは嬉しくなった。
「ありがとう。じゃあ、なのはのコントローラーを一緒に操作するね」
そう言ってフェイトはなのはの背中から重なり、コントローラーを一緒に持った。
二人羽織の状態である。
「あはっ、フェイトちゃんあったかい」
「うん、なのはもあったかいよ。…くすぐったくない?」
「んー、ちょっとだけ。フェイトちゃんの胸のあたりかな?」
「あ、ごめん。もっときつくくっついた方がいいかな」
「うんっ、お願い…あっ、それくらいが丁度いいよ。フェイトちゃん気持ちいいなー」
「私も気持ちいいよ、なのは」
固まっていたアリサが
更に固まって
崩れ落ちて
復活した
「もうなんなのこの状況はー!すずか!こうなったらあたしたちもやるわよ!」
「え、えぇー?ラ、ラブラブアタック?」
「そうよラブラブアタックよ!」
そう言ってアリサはすずかの上に乗った。
「アリサちゃん、重いよー」
「あ、ごめん。…でも本当にあったかいのね」
「うん、アリサちゃんもあったかいね」
二人はまんざらでもないようだ。アリサは初めて知ったラブラブの感覚に心がときめく。
フェイトもこんな気持ちなのかな…とアリサは思った。
いつもはまたやってるーとしか思わなかったけど、なかなかいいじゃない…と。
「けっこう気持ちいいのね」
「柔らかくてふわふわだよ、アリサちゃん」
「えへへ、ありがと」
「あっ、アリサちゃんなんだかドキドキしてるよ?背中に胸があたってわかるよ」
「そ、そんなことないわよっ!」
知らず知らずのうちにアリサの胸の鼓動は速さを増していた。何故かドキドキしているのは自分でも感じていた。
ただ、なんとなくそれをすずかに知られるのは恥ずかしかった。頬が赤く染まる。
なんだろうこの気持ち。今まで感じたことのないこの気持ち。体がポカポカあったかい。
なのはやフェイトやすずか、みんなと一緒に過ごす時もあったかい気持ちになることはたくさんあったけど、そういうのとも何か違う。
わからない。わからないけど嫌じゃない。それどころかすごく嬉しくて幸せな気持ち。
アリサはしばらくすずかに重なってボーッとしていた。
「うふふ、アリサちゃんったらどうしたの?」
「えっ…あ!なんでもないなんでもない!んっと…はやく準備しなきゃねっ」
忘れていたが、今は勝負の最中だったのだ。
アリサはコントローラーの上のすずかの手に自分の手を重ねる。ふっと指先同士が軽く触れ合う。
「あっ…」
「ん、どうしたのアリサちゃん?」
思わず声が出てしまった。
「き、気にしないでっ!えっと…じゃあすずか、準備はいい?」
気を取り直して、というか気を落ち着けて、アリサは戦闘準備を整えた。
こうして二組のラブラブパートナーが出来上がった。後は戦うのみである。
「じゃあフェイトちゃん、いくよー!」
「すずか、いくわよー!」
重なり合った手でぐっと力を込める。
そして同時に掛け声を放った。
「「ラブラブアタッーーーク!」」
「んーっ、楽しかったー!」
アリサがぱたっとベッドに寝転んで言った。
「うん。引き分けだったけどすごく面白かった」
フェイトも満足そうに言う。
「フェイトちゃん、初めてなのにすごいね。あんなにできちゃうなんて」
「うん、私もびっくりしちゃった」
「フェイト才能あるわねー。絶対勝てると思ったのになー」
三人に褒められて、フェイトは少し照れながら笑った。
そんなフェイトを見つつ、アリサは小声で呟いた。
「でも、ラブラブって意外といいわね…」
幸い、その言葉は誰にも聞こえなかったようだ。
「お嬢様方、お飲み物はいかがでしょう」
そこへ鮫島が麦茶を持ってやってきた。
「ありがと。そこ置いといて」
アリサの言う通り麦茶をテーブルに置くと、鮫島は静かに部屋を去った。
「じゃあみんな、お茶にしましょうか」
「うん!」
アリサを先頭に四人はテーブルにつき、グラスを手に取る。
と、その時フェイトの手からグラスが滑り落ちた。
「あっ!」
驚くフェイト。とっさにつかみ直したためグラスは落ちず割れなかったが、傾いた拍子にその中身のほとんどはフェイトの服に降りかかり、服がビショ濡れになってしまった。
「フェイトちゃん!大丈夫?」
なのはが椅子から立ち上がりフェイトの側に寄る。
「なのは…うん、私は大丈夫だけど、服が濡れちゃった…」
うつむくフェイト。
「あっ、あたし着替え用意するね!なのは、フェイトお願い!」
「私も手伝う!」
フェイトの様子を見ていてくれるようなのはに頼み、アリサとすずかは部屋のタンスで着替えを探し始めた。
そして数分後、二人は着替えを持って戻ってきた。元の椅子に座り着替えを渡す。
「はいフェイト、これに着替えて」
「うん…ありがと」
着替えを受け取り、フェイトがボタンを外し始めた。スルスルと上着を脱ぐ。
「あっ…んっ…」
次にブラウスを脱ごうとする。だがひっかかってうまく脱げないようだ。
「どうしたのフェイトちゃん?」
「なのは…服が濡れてくっついちゃって…うまく脱げない」
フェイトが困ったような目でなのはを見る。
「うーん…そうだ、じゃあ私が手伝ってあげる!」
なのはが言った。
「あ、うん。ありがと。お願い」
フェイトはブラウスから手を離し、なのはの前に立った。
アリサはそれを見ている。
「はいフェイトちゃん、両手を上にあげてー」
フェイトが言われた通りにすると、なのははゆっくりとブラウスを上に引っ張ろうとする。
だがやはり濡れた部分が張り付いて動かない。なのははくっついている部分を確認すると、丁寧にはがし始めた。
「ひゃうんっ」
フェイトが体をくねらせる。
「あっ、くすぐったかった?」
「ん…ちょっと」
「ごめーん。でも我慢できる?ここはがさないと脱げないみたいなの」
「うん…がんばる」
なのはは再び、上に少しずつ引っ張りつつはがし始めた。
フェイトはやはりくすぐったそうだ。必死に我慢しているものの、体が時折ピクピク動く。
アリサはそれを見ている。
「あんっ」「ひゅんっ」「んんっ」
フェイトはかなりくすぐったそうだ。
その時、何気なくテーブルに置いたフェイトの手が、アリサの麦茶入りグラスに直撃した。
「うわっ」
とっさの出来事にアリサは反応することができず、アリサの服はビショビショになってしまった。
「あ、ごめんアリサ…服濡らしちゃったね…ごめん」
フェイトは必死に謝っている。アリサが怒っていると思ったのかもしれない。
だがアリサは別段怒る様子もなく、
「あははっ、いいのいいの。んー、でもあたしも着替えなくっちゃね」
と明るい声で言った。
「私、着替え持ってくるね」
二人のやりとりを見ていたすずかは、自分の役割を感じて立ち上がった。
「うん、おねがいすずか」
しばらくタンスをごそごそ探し、すずかは着替えを持ってきた。
「はいどうぞ」
「ありがと」
アリサはそれを受け取り、服を脱ごうとする。
が、フェイトの時と同じように濡れていてうまく脱げない。
「あーっ、脱げないっ!」
アリサがそう叫ぶと、すずかが言った。
「じゃあ私がお手伝いしようか?」
「えっ!」
その申し出に、アリサは驚いた声を出した。それはアリサの淡い願いだった。
なのはに着替えさせてもらってるフェイトを見ていたアリサは、少し羨ましさを感じていた。
自分も着替えさせてほしいなと、はっきりとではないが心の隅で思っていた。
けれど同時に、これもはっきりとではないが、諦めも持っていた。自分がそんな風に甘えられるわけはないという諦め。
アリサは人に甘えることが苦手だった。それは甘えるのが嫌だというわけではなく、ただ不器用だったのだ。
自分もあんな風に着替えさせてもらったらどんな気持ちだろう。嬉しいのかな?やっぱり恥ずかしいのかな?
そんなことを考えながらフェイトの着替えを見ていた。
だが。
だがまさか自分がそんな状況になるとは思っていなかった。
「い、いいわよー。自分でなんとかするからさっ」
だから思わず断ってしまった。
「そう?それならいいんだけどね」
だけどやっぱり…
「す、すずかっ!」
「ん?」
たまには甘えてみたい。そう思った。
「手伝って…くれない?」
「うん、いいよ!」
すずかがアリサの服を脱がせる。やはり濡れた部分が引っかかるので、少しずつはがしながら。
「アリサちゃん、もうちょっと手高くあげてくれる?」
「こう?」
アリサが腕を上げると、すずかがアリサのわき近くに手を添えた。
「あははっ、くすぐったいよすずかー」
「ふふっ、がまんがまん」
本当はそれほどくすぐったかったわけではない。ちょっとした照れ隠しで言ってみた。
やっぱり人に服を脱がせてもらうのは恥ずかしいかもしれない。でも…なんだかすごく嬉しい。
自然と笑顔がこぼれる。
「すずか…」
「うん?」
「ありがとね」
「ふふ、どういたしまして」
着替えさせてもらうということ。それは嬉しいことでもあり、ちょっぴり恥ずかしいことでもあった。
そんなこんなで、フェイトとアリサの着替えは終わった。二人とも新しい服に着替えてスッキリしたようだ。
「ねえフェイト、なのはに着替えさせてもらってどうだった?」
「なんだか…嬉しかった」
「えへへ、そうなんだ。あたしもすずかに着替えさせてもらって嬉しかったよ」
「アリサもなんだ。…なのは、今度は私がなのはの着替え手伝ってあげるね」
「えっ、フェイトちゃんが?うーん、それは楽しみ!」
「あはっ、じゃあ私はすずかの着替え手伝ってあげなきゃね」
「うふふっ、楽しみにしてるよ」
四人は再びテーブルに座り、夕方になり帰る時までそんな会話を楽しんでいた。
友情が更に深まった一日であった。
fin