PM9:00 八神家
「あ〜いいお湯だった〜」
「はやて〜次入っていいぞー」
シャマルとヴィータがバスタオル姿で居間に出てきた。
「はやても一緒に入ったらよかったのに」
ヴィータがふてくされ気味にはやてに言った。
「さすがに中学生で体も大きなってしもたからな〜。三人はさすがに無理やろ。今度二人で入ろな」
「おー!」
はやてが入れ替わるように風呂場に入って行った。
居間ではシグナムが本を読み、子犬フォームのザフィーラが足元で眠そうに丸くなっていた。
テーブルには十字架のアクセサリーとなっているデバイスが置いてある。
「アイス、アイス〜♪」
ヴィータがアイスにスプーンを突き刺そうとした瞬間、テーブルのデバイスから半透明の少女が浮かび上がった。
『騎士のみなさん!』
ちょっと強めのその口調にシグナムは本から顔を上げ、ザフィーラは重たそうにまぶたを持ち上げた。
「んだよ。なんかよーか?」
目の前のアイスへの集中を妨げられたヴィータが少し苛立ち気味に言った。
『あの、騎士のみなさんに相談があるんですが…』
恥ずかしげにそう言うリィンフォースに、4人の騎士達は不思議そうにお互いを見合わせた。
リィンフォースの憂鬱
「実体化の方法を教えてくれ〜!?」
ヴィータがスプーンをくわえながら大きな声で言った。
『あ!!し〜!し〜です!!』
指を一本立て口元に当てながらリィンフォースは必死にヴィータに注意した。
「でもどうして急に?はやてちゃんにも聞かれたくないみたいだし…」
シャマルが濡れた髪をタオルで拭きながら尋ねた。
『こほん!』
それを聞いたリィンフォースは一息ついて騎士達を見渡しながら言った。
『プログラムである騎士さん達が実体化できて、わたしが実はわからないなんて
マイスターはやてに知られたらはずかしーじゃないですか。それに…』
元々小さいリィンフォースがさらに小さくなりながら続けた。
『わ、わたしだってマイスターはやてと一緒にお風呂に入ったり、一緒に寝たりしたいんです…』
もじもじしながら小声で話すリィンフォース。
「そんなこと言われてもな〜。意識してねーからわかんねーよ」
ヴィータがアイスの最後の一口を放り込みながら言った。
『ええぇぇ!?』
リィンフォースはショックで蒼天の魔導書を落としそうになった。
「前のリィンフォースは普通にできてたよな?」
ヴィータがシャマルに尋ねた。
「そういえばそうね。……そうだ!」
ポンッと手を叩きシャマルがひらめいた。
「自分で魔力を込めてみたら?」
それを聞いたリィンフォースは目が点になる。
『そ、そういうものなのですか…。ようし、むむむむ…』
さっそくリィンフォースが魔力を込め始める。どこにどんな風に魔力を込めているのかは本人にしかわからない。
「テレビでも元気があればなんでもできるってあごの長いおっさんが言ってたしな!」
「頑張って!リィンちゃん!」
『はぁぁぁぁ!!』
ヴィータとシャマルが応援し、リィンフォースがその応援に答えるように声を上げる。
その様子を眺めていたシグナムが呆れ気味にザフィーラに言った。
「主はやてが承認しなければ駄目なんじゃないか?」
ザフィーラが目を伏せながらそれに答えた。
「その通りだ。我々騎士達は主の魔力を元に存在しているのだからな。
そもそも、融合型デバイスのリィンフォースの様子は主に筒抜けのはずだ」
「アハハハハ」
耳を澄ますと風呂場から笑い声が聞こえてきた。
「まったく、最近お前達の騎士としての自覚が薄れて困る…」
「少女漫画を読んでいるお前もな」
憤慨するシグナムにザフィーラがすかさず突っ込んだ。
『たぁぁぁぁ!!!』
「頑張れ頑張れリィン!」
「だっしゃーー!気合だーー!!」
相変わらず力むリィンフォースと応援するシャマルとヴィータ。
八神家は今日も平和である。
追記:リィンフォースは風呂から上がったはやてに実体化させてもらってその夜一緒に寝たそうです。