「いいかげんにしろよクロノ!」
「ゆ、ユーノ?」
「いつもいつも僕にきつく当たって…僕の何が気に入らないんだ!」
「いや、その…」
「僕がいつもどんな気もちでいるか、考えた事があるのか!?
自分がやられたら…好きな人に…そんな態度をとられたら…」
「ユーノ、お前!?」
「そうさ、僕はずっと君の事が…自分でもおかしいと思う、けどどうやっても止められないんだ、
クロノを想う事が…軽蔑しただろ?」
「軽蔑なんてするものか…僕だって…」
「え?」
「そうさ、僕だって…だから君に辛辣な態度をとって遠ざけようとした…すまない」
「クロノ…ごめん…僕は自分のことばかり」
「僕だってそうさ」
「クロノ…」
「ユーノ…」
「ふぅ、今回もいい作品が出来そうね…」
そう言ってから、シャマルは手にしたペンを傍らに置き、大きく伸びをした。
机の上には自分の知人をネタにした、少年同士の愛を題材にした作品というか、いかがわしい
妄想の産物というか、ほとばしる乙女のリビドーの結晶とでもいうか、まあとにかくそんな漫画が
書かれた原稿が置かれてる。
たまたま買った漫画のなかに、そういう種類の物が入っていた。そんな些細なきっかけから、
この世界にのめりこみ、僅か数ヶ月の期間で己自身で創作を行う域にまで達してしまったのだった。
「あの子達も新刊を楽しみにしてたし、早く仕上げよっと」
あの子達とは同僚の時空管理局員の、同じ趣味を持つ女性局員達である。
同じ職場の年端の行かぬ上司達の、あられもない姿が書かれた本を買う彼女達も大した度胸だが、
それを売りさばくシャマルのほうも、どえらい神経である。
「う〜ん、でも最近ちょ〜っとマンネリ気味かしら…」
書き上げた原稿を見ながら、そんなことをつぶやく。
「なにか新しいネタはないかしら…責め手と受け手を逆にするのはもうやったし…そうだ」
ひとしきり考え込んだ彼女の頭にあるアイデアが閃いた。
「愛する二人の前に突如あらわれる、年上のナイスガイ!大人の魅力になびいてしまうユーノ君は
ついついザフィーラに体を預けて…そして…ああん、もうザフィーラったらケダモノなんだから!
アニモー!英語で言うとアニモー!!」
自分の仲間をダシにした妄想にすっかり興奮し、脳内麻薬がでまくったシャマルはすぐさま筆を執る。
「ザフィーラの筋肉は抑え目にして、ちょっとスマートにした方がいいわね…
ああ、それにしても筆が進むわ!」
「良かったな」
「ええ、これもザフィーラのおかげね!」
「礼には及ばん」
シャマルの動きが完全に止まる、そして返事の聞こえた方向にゆっくりと、まるで油の切れた
機械のようにぎこちなく顔を向ける。
「・・・」
そこには盾の守護獣ザフィーラが獣の姿でたたずんでいた。いつもの無表情が今は無性に怖い。
「いや、その…ザフィーラ、これは…」
必死で言い訳しようとするシャマルに、ザフィーラは一言だけ告げる。
「左腕と右腕、どっちが良い?」
「え、え〜と…どういう意味?」
凄まじい量の汗をたらしながら、シャマルは(答えは予想できたが念のため)質問の意味を問うた。
「どちらを噛まれたい?」
「いや…その…ごめんさい!ちゃんと実物に近づけるように筋肉の量は少ししか減らさないから。
あ、それとも相手はユーノ君よりもクロノ君のほうがよかっ」
「わかった、両腕だな…」
「冗談!冗談よ!」
引きつった笑顔でなんとか答える。
「二人一緒に相手にするようにってきゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
頭にかぶりつきますた。