「ザフィーラさん、おサンポの時間です!」
と、元気いっぱいなリインフォースと共に、散歩に出たザフィーラであったのだが、
「…どうした、リインフォース?」
「なんでもありません!」
リインフォースが、ご機嫌斜めになっていた。
(リインがおサンポにつれていくはずでしたのに!)
今ザフィーラは子犬フォームではなく、朝からずっととっていた人間形態である。
無論それはリインフォースの安全の為であるのだが、心配されている本人としては、
主からの使命(とまで思っているのは本人だけだが)である『留守番』の仕事の内の一つ
であるはずの、『ザフィーラを散歩させる』という事が、このままでは成し遂げる事が
できない状況に追い込まれたと感じたのである。
別に人間形態であろうが子犬フォームであろうが散歩は散歩なのだが、リインフォース
の考える『おサンポ』とは、あくまで『犬の散歩』なのだ。
(何故リインフォースは機嫌が悪いのだ?)
もちろんザフィーラにそんな事が分かるはずが無い。
(そうか…)
ふと、ザフィーラに一つの考えが浮かぶ。
「リインフォース」
「なんです…わわ!」
おもむろにザフィーラがリインフォースを掲げ上げ、肩車をする。
「どうだ、リインフォース?」
「た、たかいです…」
魔法で飛ぶ時とは違い、何の制御も集中もしていない状態で、ここまで目線が高く
なる事など今まであるはずもなく、その衝撃で先ほどまでの不満が消え去る。
「怖くは無いか?」
「だ、だいじょうぶです!」
「そうか」
先日狼形態の状態で散歩に行った時に、背中にリインフォースを乗せた所、酷く喜ばれた
事を思い出したザフィーラは、リインフォースが今回もそうしてくれる事を期待していたと
考えたのである。さすがにこの場で変身するわけにもいかないので、肩車にしたのだ。
その考えは的を得てはいないのだが、
「ザフィーラさん、すごいです!たかいです!」
…まあ、些細な事であろう。
そのころ管理局では
「その本の作者を教えるんだから、約束をちゃんと守ってね…」
そう言って後ろにいるユーノとクロノに声をかけるシャマル。
彼女は己の保身の為に、大事な腐女子仲間を売る事に決めたのであった。
ひどい話ですね。
「それに、もう僕達の本は二度と書かないと約束してくれるなら…」
摂氏−273.15度の視線を投げかけながら答えるユーノ。
「……もちろんよ!」
「今の『間』はなんだ」
クロノも0ケルビンの視線を投げかける。
「じょ、ジョークよジョーク!」
「「ハァ…」」
その様子に、思わず二人そろってため息をついてしまう。
「………」
もちろんシャマルも、その様子を見て妄想宇宙へとロケットを打ち上げている。
「だいたいなんで僕達なんだ。例えば…アレックスとランディ達とかはどうだ?
あの二人は仲がいいだろう?」
さり気なく部下を売るクロノ。
ひどい話ですね。
「う〜ん、管理局のビッグ・ボンバーズは、私的に対象年齢外だから…」
「あの二人…そんな風に呼ばれてたんですか?」
気の毒そうにユーノがつぶやく。
「ええ、私が広めたんだけどね」
本当にひどい話ですね。
「ちょっと貴方…もっと家にいてあげる事はできないの?」
「そうよ…犬に貴方の名前をつけてるのだって、リインちゃんとヴィータちゃんが
寂しいからなのよ!」
「はぁ…」
ザフィーラは散歩の帰りに、近所の奥様達に捕まってしまっていた。
「そりゃまあ、いっぱい稼がなきゃならないからってのはわかるけどね…」
ちなみに家のすぐ前なので、リインフォースは先に家に帰らせた。
「それと貴方ね、いろいろと事情があるのは知ってるけど、いいかげんにリインちゃんに、
ちゃんと自分が本当の父親だって名乗りなさいよ」
「…その話は誰から?」
「シャマルさんに決まってるじゃない!あの娘だって辛いのよ?わかってやらなきゃ…」
「………」
シャマル、ザフィーラカウント+2 本日の合計3ポイント
その後、無事奥様方から解放され、何事も無く夕食も済み、これで一安心と言う時、
再びザフィーラに試練が降りかかった。
「おフロに入ります!」
リインフォースがアヒルの玩具と水鉄砲を手に抱えながら、食器を洗い終えたザフィーラに
向ってそう言い放った。
「そうか」
とりあえず風呂の準備も出来ているので、彼には他に言う事も無かった。しかし、
「…い、いっしょにはいらないんですか?」
彼女にとっては、予想だにしない答えだったようだ。
考えてみれば、リインフォースが一人で風呂に入った所をザフィーラは見た覚えが無い。
ほんの僅かの間ザフィーラは黙考し、そして口を開いた。
「リインフォース…風呂というものは、基本的に男女別で入る物だ」
注・ザフィーラは風呂が苦手です
「で、でも…なのはさんは、少しまえまでお父さまといっしょに入ってらしたと…」
再び沈黙、
「リインフォース…何事もいつかは一人で行わねばならぬ時が来る」
注・ザフィーラは風呂が苦手です
「で、でもリインは一人であたまをあらったことが…」
「まずは己の力で挑戦してみろ、誰もがそうしてきたのだ」
注・ザフィーラは風呂が苦手です
「は、はい…」
「…駄目な時は俺を呼べば良い」
リインフォースの不安を抑える為に、頭をなでてそう言ってやる、
「わ、わかりました。がんばります!」
リインフォースが風呂場に行き、ザフィーラに助けを呼んだのはちょうど10分後だった。
「お帰りなさいませ、我が主」
夜11時過ぎ、ザフィーラははやて達を玄関で出迎えた。
「ただいまザフィーラ、留守番ご苦労さんな」
「ザフィーラ、リインフォースは?」
自分の出来たばかりの妹が、気になって仕方が無いヴィータが、はやての後ろから
飛び出して聞く。
「もう寝ている…」
「そっか…面白い話があったんだけどなぁ」
「まあまあ、あの話は明日でもできるやん?」
「ん〜そうだね、明日でいいか。でも本当面白い話だったのに」
「そうやなぁ」
そう言って笑うはやてとヴィータを隣に、シグナムがザフィーラに話しかける。
「ずいぶん手こずった様だな」
「……ああ」
「それじゃあずいぶん苦労したザフィーラの、今回の留守番の感想は?」
シャマルが興味津々といった感じで聞いてくる、
「……悪くは無い」
ザフィーラは、ポツリとそれだけ言って背を向けた。
「ああ…それにしても今日は疲れた…」
そう言ってソファーに腰をかけるシャマル。
パッパッパッ
「………」
その頭に、後ろから何かが振りかけられた。
「シャマル、話がある…」
いつもと同じザフィーラの声、
「ざ、ザフィーラ…私に何をふりかけてるの?」
「塩と胡椒だ…」
「な、何故そんな物を?」
「………」
堪えきれずに後ろを振り向くと、すでにザフィーラは狼形態になっていた。
「シャマル、正直に話してくれ…」
「そ、そんな…酷いわ二人とも…内緒にするって約束だったのにぃ…」
「…その話も詳しく聞かせてもらおうか?」
「え゛!?」
シャマル、今日2回目の墓穴。
本日のシャマルのザフィーラポイント合計9 清算は当日中に終了。
「はやてちゃ〜ん…ザフィーラがぁ…」
色々なところから、血がでているシャマルがはやてに泣きつく。
「シャマル、ザフィーラをあんま困らせたらあかんで?」
「えええええ!そんな、はやてちゃん…なんでぇ!?」
注・日頃の行い
おまけ
「ザフィーラ、塩と胡椒はどうやった?」
「あまり、良いとは言えませんでした…」
「そっか、やっぱりふりかけのが良かったかな?」
「次の機会があれば、その時に…」