穏やかな休日
降り注ぐ暖かな光と心地よい風
気候に興味を持たない人間でも「今日は良い日になりそう」と思える、そんな日
そう、普段は冷静に職務に従事するクロノも、今日この休日だけはのんびりと過ごしていた
「ふわぁ〜ぁ・・・・・・昼食どうしようかな」
リビングのソファにもたれながら、読んでいた雑誌から視線を時計へと移す
午前11時30分
そろそろ体も空腹を感じ始めていた
「たまには出前を頼んでもいいか・・・・。」
今日は家にはクロノ1人だけ
手を抜いた食事も悪くない
出前のそば屋のメニューを開きながら電話に手をかける
そこへ・・・・
――――ピーンポーン―――――
インターホンに気付き電話から手を離す
「誰だ?一体?」
とは言っても、この家に来るのは時空管理局の人間かそれに関わる者しか来ない
―――――ガチャリ――――
「どちら様ですか?」
ドアを開けながら尋ねたクロノに、太陽のような笑顔が降り注ぐ
「元気〜?クロノ君!?」
「・・・・・・なんだ、エイミィか・・・」
「ひっど〜い!何だ・・・は無いでしょう!何だは!」
「あぁ、悪かった悪かった。・・・で、何か用かい?」
「う〜んん、特に用は無いけど。なんとなく暇だから遊びに来たの」
「暇だからって・・・・まぁ、いいや。あがってくかい?」
「うん!おっじゃましま〜す!」
勝手知ったる他人の家、エイミィは自分の家のように中に入っていく
エイミィはソファに腰掛け、クロノは台所でエイミィの紅茶の準備をしている
「砂糖は要らなかったよな?」
「うん。有難う」
テーブルを挟んでクロノもソファに腰を降ろす
「ちょうど今から昼食を頼むとこだったんだ」
「あれ?艦長は?」
「あぁ。母さんならデパートに買い物に行ってるよ。当分帰ってこないだろうな。」
「ふ〜ん。・・・フェイトちゃんは?」
「フェイトは学校のグループ研究で朝から裏山に野草の散策に行ったよ」
「グループ研究?」
「うん。なんでもグループ毎に研究したものをクラスで発表するらしい。張り切って出掛けて行ったよ。」
「へぇ〜、楽しそうだねぇ。・・・あれ?グループってことはなのはちゃんやはやてちゃんも?」
「あぁ。3人とも同じグループだからな。」
「じゃぁ、3人だけで?」
エイミィが聞いた途端、クロノの眉間に小さなしわが寄った
「・・・・・いや、あとは同じグループの男子3人が一緒だ」
少し不愉快そうに答える
「あ、あははは・・・・そうか、男の子も一緒なんだ・・・」
(あちゃ〜・・・・・完全に兄馬鹿になってるよクロノ君・・・・)
「で、でも!フェイトちゃん可愛いからもてるかもね!」
フェイトを褒めてクロノの機嫌を良くしようとしたが、これが大きな失敗だった
「・・・・・もてる?・・・・フェイトが・・・・?フェイトに近づく不貞な輩は許せんな。」
「あ・・・・・そ、そう。じゃ、じゃぁ良いの?その6人だけで行かせて。」
「心配要らない。その為にアルフを護衛に付けた。フェイトに良からぬ動きを見せたヤツには容赦なく噛み付けと言ってある。」
「そ、それはやりすぎなんじゃ・・・・?」
「フェイトの身を守る為だ。多少の犠牲は仕方ない。」
(こ、怖い!怖いよクロノ君!!)
エイミィは苦笑いをするしかなかった
「ふ〜ん・・・で、でも何だか話を聞いてたら、私もピクニックに行きたくなっちゃったな。天気もこんなに気持ち良いし。」
「ピクニック?今からかい?」
「うん!近場なら今からでも充分楽しめるよ!」
「そんないきなり言ってもな。・・・・準備もしてないし」
「あ〜あ、ノリが悪いなぁ、クロノ君。・・・それじゃ私1人だけで行ってこよ〜っと。
そうだなぁ・・・・場所は・・・・フェイトちゃんの居る裏山にしよ!うん!決定!」
その瞬間クロノが動いた!
「良し!行くぞ!エイミィ!」
「えっ・・・・・・・?く、クロノ君、行くの?」
「あぁ。こんないい天気だしな。・・・・・・言っとくが、別にフェイトの様子を見に行くんじゃないぞ。キミを1人で行かせるのはしのびないと思ったからだ。」
「あ、あははははは・・・・・・う、うん解った。ありがとうクロノ君・・・」
(神様、この兄馬鹿にご加護を・・・)
「じゃぁ、出発しようか」
「えっ!?クロノ君準備はや!!私まだ紅茶すら飲み終えてないよ!」
「エイミィ!急がないと日が暮れてしまうぞ!」
「まだ、お昼にもなってないよ・・・・・」
そんなこんなで裏山到着
「うわぁ〜・・・緑が綺麗だねぇ!!」
「あぁ。確かに、これは見事なものだ」
新緑が芽吹き、太陽の日差しが木々に彩りを与えている
「それじゃぁ、取り合えず山頂目指してしゅっぱ〜つ!!」
「元気だな、キミは・・・」
張り切って遊歩道を歩いて行くエイミィに引っ張られながらクロノも続く
途中途中で草花や小川のせせらぎ等、クロノもそれなりにピクニックを楽しんでいた
「あっ!そろそろ山頂だね!」
「あぁ。どうやらそのようだな」
歩き始めて1時間弱 山頂に無事到着
街の全景が見渡せ、平和な景色にほっとする瞬間
「うわぁ〜・・・良い眺めぇ・・・・・」
「こうやって歩いて山頂まで来ると、景色も一段と感動的だな。」
「でしょう〜!来て良かったでしょ!?」
「あぁ。今回は素直にエイミィに感謝だ。」
「うんうん。素直でよろしい!」
「ん?あっちには展望台があるようだな?」
「あっ本当だ。行ってみようよ。」
「うん。行こうか。」
少し丘になってるところに綺麗な展望台がある
ベンチやテーブルが用意されており、そこではフェイト達がグループ発表に使う草花を選んでいた
「あっ!フェイトちゃん達だ!
おぉ〜い!!フェ、むぐぅ!!」
エイミィがフェイトを呼んだ瞬間、クロノがエイミィの口を塞ぎ茂みへと飛び込んだ
「んんん!!うん!!」
「ちょっと黙ってくれエイミィ」
エイミィに諭すように言うとクロノはエイミィの口から手を離す
「ぷはぁ、はぁ、い、いきなり何すんのよクロノ君!」
「静かに。フェイトにばれると良くないだろ。」
「はっ?何で?別に一緒に居たって問題ないでしょ」
「問題大有りだ!!これでフェイト達と合流したら、いかにも妹が心配で様子を見に来た兄馬鹿全開じゃないか!!」
(い、いまさら何を言ってるんですか?この人は・・・・・?)
エイミィは軽い頭痛を感じながら黙ってるしかなかった
「そっと様子を見よう」
幸いフェイト達は気付いていない様子だった
「ここからだと少し声が聞き取りにくいな」
「そ、そんな、盗み聞きは良くないよ・・・・」
「これもフェイトの為だ、きっとフェイトも解ってくれる」
「そ、そうかな・・・・・・」
(だ、駄目だ・・・・もうクロノ君は暴走してる。フェイトちゃん、ごめん・・・私には止められなかったよ・・・)
フェイトはグループのメンバ―と上手くやっているようで、時折笑い声が聞こえてきた
「なんか楽しそうだなぁ・・・・・。ねぇ、クロノ君、もういいんじゃない?帰ろうよ」
「いや、エイミィ、あの黒髪のはやての隣に座ってる男子を見てみろ」
「えっ?はやてちゃんの隣の・・・あぁ、あのちょっと顔立ちの整った子だね。」
「あぁ。あいつはさっきからフェイトの顔ばっかり見ている。ほら!また見た!」
「えっ・・・・・?く、クロノ君、そりゃグループで作業してるんだから顔くらい見るんじゃない・・・?」
「いや、あいつだけ見てる回数が断然に多い。」
「そ、そうなんだ・・・・・。」
(あぁ・・・・・クロノ君がもう遠い存在に・・・・・)
「次にあいつが動き出したら、一瞬にして永久凍土に埋めてやる」
「えっ・・・・・?って何でデュランダルが起動してるの!?」
「だ、駄目だよ!クロノ君!それだけは駄目だよ!!クロノ君犯罪者になっちゃうよ!!」
「フェイトの為なら許される!」
「ゆ、許されないから!!それだけはお願いだから踏みとどまって!!!
クロノ君が犯罪者になるところだけは私は見たくないよ!」
「・・・・・う、うぅ〜ん。エイミィがそこまで言うなら・・・」
デュランダルを待機モードに戻したが、まだ納得できてない様子だ
(あ、危なかった・・・・・え〜ん、もうこんなのやだ〜・・・・早く無事に帰りたいよぉ・・・・)
エイミィの願い虚しく、この後1時間茂みの中でクロノの暴走を阻止しなければならなか
った
1時間後
「あっ!そろそろ帰るみたいだよ!!(喜)」
「うん。そのようだな。あいつめ、結局フェイトを179回も見ていたな。
次に会う時は容赦しないからな・・・」
「そ、そうだね!さ、さぁ!私達も帰ろう!!」
(た、助かった・・・・もう、2度とフェイトちゃんの後を尾行するのは止めよう・・・・)
エイミイもホッと胸をなでおろし、フェイトたちとは違うルートで下山する為の準備をし
はじめた
無事に終わるはずだった
最後に自然のいたずらが起きなければ・・・・・・
――――ゴウッ――――――
っと一瞬の突風が山頂を吹きぬけた
「きゃっ!」
「うわっ!」
思わずクロノとエイミィも突風に煽られ、茂みからフェイト達の居る展望台のほうへ飛び
出してしまった
しかし、もっと起きてはならないことが起きていた
「きゃぁぁぁぁっ!!!!!」
突風はフェイト達にも襲い掛かり、フェイトの裾の長いスカートが風によってフワリと舞
い上がった
何故山登りにロングスカート!?
誰もが不可思議に思う瞬間
そのロングスカートの中から覗く健康的な素足と純白の布地
それを見てしまったはやての隣の男の子
――ブチッ――――
なにかが切れた音がしたと解った瞬間、怒りに目を血ばらせた漆黒の一陣の風が通り抜けた
「終わった・・・・・」
風の正体を知ったエイミィはその場に崩れ落ち、これから起きるであろう惨劇から目をそむけた
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
デュランダルを起動させまっしぐらに男の子に向かって行くクロノ
全てが終わる
誰もがそう思った瞬間
―――ゴンッ!――――
鈍い音が辺り一面に響いた
――数日後
ミッドチルダ高等裁判所
「これより判決を言い渡す。被告人クロノ・ハラオウンは、
民間人に対し攻撃を行おうとしたが、その場に居合わせた
フェイト・テスタロッサ・ハラオウンに返り討ちにあい、結局攻撃は失敗した。
しかし!民間人への攻撃意思は許されない行為である為、今後6ヶ月間の減俸を申し渡す!」
「兄さんの馬鹿・・・・・」
「ば、馬鹿って・・・・僕はフェイトを守ろうとしたんだぞ・・・」
「あれはただの事故なのに、いきなり襲いかかるなんて、どうかしてる」
「い、いや・・それはだな・・・」
「何を言っても言い訳にしか聞こえない。」
「う・・・・・・す、すまん・・・・」
「ダメ。許してあげない。」
「そ、そこをなんとか・・・・」
「じゃぁ、今度の休みになのは達と水族館行くから、全部おごってね♪」
「あぁ、わかった・・・・・って、なのは・・達・・?」
「うん。なのはとはやてとアリサとすずかとアルフとユーノとエイミィ」
「ぜ、全員分・・・・?」
「当然」
「って、なんでフェレットもどきとエイミィまで!?」
「だって今回のことで一番苦労したの私なんだからね!クロノくん!」
「わ、解った!全部払う!払うから!!」
「うん!よろしい!」
「な、なんでこんなことに・・・・」
「自業自得だよ。クロノ」
「黙れフェレット。キミを凍らせてやろうか?」
「兄さん!!」
「は、はい!・・・・すみません・・・・・・」
その後、減俸+フェイトからの要望によってクロノは超節約生活をしいられることとなった・・・・・・・
fin