Kの呟き
27 征服
そんな幸実を恥じ入らせることは、俺にとって大いに淫欲をそそらせた。
現金なもので、もう痛いほどズボンの前が突っ張っている。
自分の身体の回復力に、我ながら感心するやら呆れる思いだった。
抱き寄せて唇を合わせると、彼女は驚いた様子だった。
「だめだってば……だめよ……」
困惑して、俺から逃れようとする唇を執拗に追った。
幾度か軽く唇を吸うと、今度は深く舌を入れてみた。
「だめ……。ああ…………」
喘ぐ幸実を床に押し倒す。
「きっと……したおかげで、熱が下がったんだよ」
俺は笑いながら、彼女の感じる耳元に囁いた。
全身に、とりわけ下腹部を持ち上げるものに力が漲っていく。
「そんな……。……ん……」
抱きしめてキスを繰り返すと、幸実は目を閉じて軽く応じてくる。
「もっとセックスすれば、もっとよくなるよ」
幸実の乳房を優しく揉み、首筋に唇を這わせた。
ブラウスの前ボタンを外し、美しいラベンダー色のブラを押し下げた。
乳房の下半分だけが隠され、愛らしい乳首をのぞかせている様子が
なんとも色っぽい。
色白の素肌が興奮と欲情のために淡いピンクに染まる。
「いや……。だめ……。だめよ……」
拒む声も形だけのもので弱い。かえって俺の欲情を誘うだけだ。
ふわりとした柔らかなスカートをめくる。
ブラと揃いのショーツは、腰の脇でリボン結びをするセクシーなデザインの
ものだった。
きわどい形のそれは、かろうじて秘所を覆うだけの……男を惹きつける
ためのものとしか思えない。
「いやらしいの、着てるな……」
俺が呟いた言葉に、彼女は首を振って悶えた。
服を着たままで交わるというのは、全裸でいるよりも遙かに淫猥な
行為といえた。
普段は衣服で覆われている部分を、ほんの少しずらすだけで現れる
乳房も、秘所も卑猥な意味合いに変わる。
興奮の度合いも、こちらの方が格段に上だ。
レイプをしているみたいな、密かな暗い快感を得られる。
もちろん合意の上で、犯している気分に浸るだけだ。
乳首を丹念に舐めたあとで、ショーツをつけさせたままで秘所を舐めた。
既にそこは愛撫など加えなくても潤っていて、唾液と愛液が混じりあって
湿った音を響かせた。
腰を結び合わせている紐をほどき、ゆっくりと布をめくると幸実の
濡れた女の部分が光っていた。
柔らかな秘毛をおしのけ、閉じかけているはざまに舌先をすべり
こませると、幸実は高い声を放った。
同時に甘い蜜が溢れてくる。
正直な反応ぶりに気をよくして、たっぷりと唾液を塗りながら膨らんだ
クリトリスを責めると、幸実は達していったようだった。
まだ荒い息をつく幸実の顔の前に、俺はいきり立ったものを突き出した。
「ほら。しゃぶれよ」
「いや…………」
「こんなになってるくせに、いやなのか」
イったばかりで敏感になっているはずのクリを嬲ると、すぐにまた蜜が
溢れ出てきた。
「ああ……。あっ…………」
「気持ちいいんだろ?……もっとしたいだろう?なあ……」
指先で何度もこすると、幸実は小さく叫んで身体を反らせた。
すぐに愛らしい唇が先っぽを含む。
もう根元まで先走りが垂れているものを、すべて舐めとるようにして
上下に舌をからませ、吸いつく。
巧みすぎる舌戯に溺れかかり、彼女の乳房を揉んだ。
今度は彼女が喘いで口を離す。
「お願い……。ねえ。……飲ませて。あなたの、飲ませて……」
俺は耳を疑った。彼女が哀願している行為は、精液を飲むという
行為そのものだった。
「……飲みたいのか?……俺の精液、飲まされるのが、感じるのか?」
驚きと興奮に苛まれながら、俺は言葉で彼女を責めた。
性行為の最中、こんな淫らなことをねだってくる幸実にサディスティックな
激しい欲望を覚えた。
「じゃあ、飲めよ。俺が残らずおまえの口に出してやるから、飲み干せ。
出したあとでも、また俺のを固くさせるまでしゃぶれ。いいな」
「いいわ……」
幸実の舌が何度も幹をこするたび、絶頂感が増していく。
「出すぞ……ほら。飲め!」
押し殺した声で射精を告げると、ピンクの唇に大量に注ぎ込んだ。
俺が注いでも、舌での刺激はやまない。
吸い上げ、締め付け、根元から先端までしごくようにされる。
うっとりとした表情で幸実は俺の汁を飲む。
しかも、自分から精液を飲ませてくれと懇願してきた。
今度はこのことを責めてやる。またたっぷり言葉で嬲ってやれる。
そう考えただけで、すぐに固くそそり立っていくのがわかった。
先っぽを音がするまで吸われ、時には軽く歯を立ててこすられる。
幸実の舌の愛撫は絶妙というよりほかになかった。
他の女は知らないが、娼婦顔負けなのではないか。
何分もこれを繰り返していて、しかも同じ技巧ばかりではない。
緩急をつけて俺を飽きさせないように、長々と奉仕を続けていくのだ。
言い換えれば、よほど俺のが魅力的だとでもいうのか。
そう自惚れたくもなる。
もう充分に固くなり、そろそろ幸実を愉しませてやるために挿入したく
なってきた。
「もう口はいいよ。……バックになれよ」
幸実は俺の命ずる通り、獣の体位をとった。
うつぶせになり、腰だけを高く掲げる淫らな姿勢。
スカートをまくり、ショーツを、ブラをずらして衣服を着たまま性器だけを
露出させている。
レイプもどきの体位と、幸実の服従ぶりが、興奮度を高めている。
後ろから尻の肉を掴んで、先端だけを秘所に当て、こすった。
「あんっ…………」
何度も擦りつづけ、決して挿入はしてやらない。
互いの分泌液でぬめる部分が、こすれる刺激と焦らしだけで快楽を
増幅させていく。
「欲しいか?」
俺はゆっくりと擦り続けながら訊いた。
「ああん……お願い、……ちょうだい……ねえ…………」
鼻にかかる、甘えた声が愛らしい。
「なにが欲しい?……言ってみな」
猥褻な言葉を言わせるつもりでいた。
もちろん、ちゃんと言いきるまでは許さない。
こちらは一度射精したばかりで、まだまだ余裕がある。
「いやっ……いや、恥ずかしい…………」
「言えないのか?」
俺は腰を引いた。
「あ…………」
幸実は明らかに落胆した様子だった。
「こいつの名前、ちゃんと言ってみな?欲しいって。入れてほしいって
俺にお願いするんだよ」
「ああ……いや……」
「さっき、飲ませてくれってちゃんと言ったじゃないか。スケベなことなんて
言いません……なんて顔してさ。幸実が言えないなら、また入れないで
口に出して、たっぷり飲ませてやろうか。俺は、そうしてもいいんだぜ……」
俺は嗜虐的な気分に酔いしれていた。
黒い愉悦が俺の中に潜む淀んだ欲望を掻き乱し、掘り起こし続ける。
心の闇の中、奥底に抑えつけてきた、俺を悩ませるほどの禍々しいなにかが
俺を衝き動かしていた。
ぐい、と腰を押しつけてさらにたたみかける。
「ほら。なにが欲しいんだ」
「…………あ……なたの…………」
幸実は、両手で顔を覆いながら、男性器の俗称を切れぎれに口にした。
女からこんな言葉を言わせるのは、こんなにいいものなのか。
俺は支配欲が満たされていくのを感じた。
つつましやかな彼女が乱れるだけでもギャップに驚くのに、ついにこんな
ことまでさせてしまった。
この前まで未経験だった、この俺が。
一度試してみたいことだった。
女性から欲しがらせ、挿入をねだらせるというのをずっとしてみたかった。
「おまえが欲しがってたものを、たっぷりやるからな」
薄く笑いを浮かべながら、ごく浅く入れていった。
すぐに引き抜き、次にはもう少し深く入れてやる。
ゆっくりと、時間をかけて奥まで挿入してゆく。
幸実は泣き声に近い、可愛らしい声をあげて悶えていた。
バックからの姿勢は、濡れすぎるくらい濡れていても彼女の内部をきつく
させている。
幸実が腰を揺らしたら、思わぬところが締められて当たる。
逆に俺から動くと、彼女はたまらない声をあげてよがる。
単純に突いて、そして俺が感じすぎてしまわないように、ゆっくり引くという
行為が幸実を燃え上がらせているらしい。
「どうだ……いいだろう。こうされているのが、いいんだろう?」
「ああ……。いいの……。いい、とっても……。ああんっ…………」
とろけそうな口調と同時に、腰までも粘りついている。
「後ろから……服着たまま。おっぱいとあそこだけ出されて。……犯されてる
みたいじゃないか?」
「あっ……。あ……」
瞬間、幸実の中がすぼまる。
俺の淫らな言葉に反応したのは間違いない。
「まるで、レイプしてるみたいだ……。でも……これが、気持ち
よくてたまんないよ……」
乳房を掴み、乳首をいじる。さらに指でクリトリスをこすると、幸実は
大きく喘いだ。
「あ……!イクっ……イッちゃう!ああだめっ、ああ、ああっ……!」
幸実のひくつきに合わせて、俺も急激に迸らせた。
柔らかな腰を抱きしめ、欲望の液をありったけ彼女の中へぶちまける。
気持ちいいだろう。もっとよがれ。もっと俺に狂え。
俺から離れられなくしてやる。
俺を忘れることなどできなくしてやる。
心の中で、呪文を唱えるようにそう叫び続けた。
まるで淫魔に取り憑かれたように……というのが大袈裟ではないほど
俺は、彼女に溺れかかっていた。
進言に従い、今度は欲望を無理に抑えたりはしない。
男同士の猥談で、一日に何度射精したことがあるかという話題が
出た時、自慰でなくセックスで七回と言うと驚かれる。
一日で三回、四回、あるいは五回というのはいても、さすがに
ここまでの奴はなかなかいないらしい。
ひとりで手軽にできる自慰なら十回以上というのもいたが、相手が
あって歓ばせなければならないセックスとなると、さすがにそう何度も
できはしないようだ。
得々と自分の性体験を語る奴らの側で、殆ど遊んでなどいない俺の
話は意外だったようだ。
つきあっている相手が誰とは言わなかったが、女のマゾ性と男の
サド性に少し触れた。
勿論その逆の例もあるだろうが、俺にサディスティックな傾向がある
ようだと言ったら、それについては納得だと口々に言われた。
普段堅そうに見えるだけに、その反動で凄そうだとも。
武道をやっているから生真面目だなんて奴は、そう多くはない。
むしろ遊んでいる奴は遊んでいるし、男同士の間柄では信頼できても
女をとっかえひっかえして、女に対しては暇潰し程度にしか思って
いないようなのもいる。
武道は性欲を昇華できないが、試合前日のセックス、あるいはオナニー
だけはしないという男はやはり多い。
武田さんの言う「溺れるな」という助言も、おそらくこのあたりからきて
いるのだろう。
前日、あるいは直前にセックスは論外だろう。力が抜けてしまうに
決まっている。
禁欲を続けた方が闘争心が高められていくのは、これまでの経験から
わかっていることだ。
正確には欲求不満からの苛々が、暴力的な衝動に置き換えられて
いるんだろうが。
次の試合に、俺はもう幸実を遠ざけるようなことはしない。
会場に観に来られることだけは気恥ずかしいので嫌だが、彼女にも
過度の抑制を強いたりはしない。
愛おしいのなら、触れあえばいい。抱き合えばいい。
暖かな情交を求めるままに、そして淫欲の導くままに。
このままでいいのかという、疑問を胸に封じ込めるようにしながら。
<28へ続く>
26 熱騰
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