Kの呟き 昔語
13 shook me
身体を重ねたあとでも、……昨夜から5度の射精をしても
おさまりそうにない。
このまま肉の歓びに浸りきってしまうのも悪くない。
いや、許されるならずっとこのままでいたい。
そんな思いを抱いたまま、幸実の身体から離れる。
横になったままの幸実と顔を見合わせる。
ふふ、と彼女が笑う。
可愛らしい印象の顔が、妖しく笑み崩れる。
また唇を合わせていると、幸実が唇を外して「あ……」と小さく
呟いた。
「どうした?」
俺は少し上体を起こして彼女に訊いた。
「……シャワー、浴びてくるわ」
側にあったタオルを腰に当てて、小走りにシャワールームへ行った。
俺はどうしようかと迷ったが、幸実が戻ってから考えることにする。
もしもこのまま、彼女の中に注ぎ込んだものを舐めろと言ったら
どうするだろう。
互いの体液で濡れたままでいるものを、幸実はどうする。
俺はベッドに仰向けになったまま考えていた。
彼女は間もなく戻ってきた。
心なしか頬が赤く染まっていて、それがやけに色っぽい。
「……どうしてシャワー浴びてきたんだ?」
俺は幸実を抱き寄せながら囁いた。
胸から下をすっぽりとタオルで覆ってしまい、あの魅力的な裸身が
拝めない。
「どうしてって…………」
彼女の身体から布を奪い去る。
「あなたの、……が……こぼれてきた、から……」
俺が幸実の中にしたたかに注ぎ込んだ精液が、行為のあとで
流れてきたのだという。
そうか……それだからか。
俺はやっと納得した。
「だから、きれいにしてきたのか?」
「そうよ……」
彼女の頬から首筋にかけて、手で撫でながら唇を当てる。
すべすべとした艶やかな肌を、ずっと撫で回していると気持ちいい。
セックスというのは触感も重要なんだと改めて知った。
女性の肌がこうなのか、それとも特別に幸実の素肌が美しいのか。
「きれいな肌、してるんだな……男とは、全然違う」
「そう?ありがとう。……貴征さんも、男性の割にきれいだと思うけど」
彼女は俺の胸にもたれて、またも胸板の辺りを探りはじめる。
「……ここ、幸実がキスしただろう。痕になっちゃったよ」
俺は自宅で確かめた、左胸のキスマークを指さした。
「あ……」
幸実は今気づいたというような表情をした。
「ほんとだわ。赤くなっちゃってる……」
それでも幸実は笑っている。
「ごめんなさいね。……でも、いいでしょう?どうせ、誰にも見せないん
でしょうし」
「そりゃ、見るような女はいないけどね……」
口では謝っているくせに、幸実は相変わらず微笑みを浮かべている。
「道場では、着替えてる時にからかわれてる奴とかもいたんだよ。
首筋とかの目立つところにつけられたり」
「私のものよ、ってことでしょう。気持ち、なんとなく判る気がする」
微妙な会話がくすぐったい。
それに、彼女の指先は乳首の辺りを弄っている。
「……駄目だよ」
俺は幸実の手をそっとどかせた。
「どうして?……ここがいいんでしょう?」
やっぱり、気づかれていたか……
さすがに年上の女性だけある。
「我慢することないのよ。……いいんでしょう?そうしたら、声を
出して……。あなたの声、すごく……いいのよ……」
指先で乳首の先をこすられると、俺は声を殺すことが困難なほど
感じていた。
「……ああ」
俺は溜息混じりに肯定の意味でもそう言った。
「そう……その声よ。すごいの……すごく、素敵なの。ねえ、もっと
声を出して」
気のせいか、幸実の声さえも潤んでくる。
感じていて、かすれている声をあげているのは彼女も同じだった。
指だけでなく、彼女の舌が胸元を這い回る。
さらに、俺の股間で勢いを取り戻したものにも手が触れる。
「……うっ……ああ……」
俺は彼女の言うように、声を殺さずに絞り出すことにした。
こうなる前は、感じているからと男が声をあげるなど恥ずかしい、
そう思っていた。
だが、どうにもならない愉悦が自然と喉の奥を震わせる。
彼女の耳に俺の声が心地いいのなら、我慢しきれない、したくない
時の声はあげてしまえ。そう思った。
「すごいわ……もう、こんなになってる……」
嬉しそうに、笑い混じりに幸実が囁く。
彼女にリードされて、されるがままになっているのもいい。
「やっぱり、若いのね……それに、鍛えてるからかしら」
幸実の手が、柔らかく天を突くものを握りしめ、しごく。
俺は息を乱し続けながら、彼女のしたいように任せている。
「昨日から……ねえ、何度したのか覚えてる?」
「……5回……した、ところだ」
俺は徐々にこみあげてくる高ぶりに加えて、幸実の言葉にも
酔っていた。
こんなにいやらしいことを言いながら、しながら俺を攻め続ける
幸実はまるで別人のように淫らな美しさを備えていた。
「そうよ……これで、6回目ね。……ここを触ってもいないのに、胸を
触ってただけで、こうよ……」
彼女は俺の股間に顔を近づけていった。
「ねえ……ベッドのふちに、座って」
幸実はベッドから降りて床にしゃがむ格好になった。
どうするつもりなのだろう……
俺は彼女の所作を訝しんでいると、幸実は俺の足元にひざまずく。
「脚を……開いて」
とうに固くそそり立つものにそっと手を触れ、ひどく色っぽい
目つきで俺を見つめた。
「しゃぶれ、って命令して。……そうして欲しいの」
俺は彼女の意外な要求に驚いた。
命令をしろというのが彼女の望みだとは。
「……そうされると、いいのか」
俺は、まさかと思いながらも疑念が確信に変わりつつあるのを知った。
幸実はやはりマゾの気があるのだと。
俺自身、性嗜好においてサディスティックな傾向があることに
気づいていた。
それに目をつぶり、無理矢理に否定し続けていた。
それが度を超し、自己嫌悪に繋がるほど認めたくなかった。
俺の身裡に潜む、暗い欲望の翳を……。
思いがけなく幸実と愛し合うようになり、そして彼女を抱いた。
愛情を満たしあえる関係、それで充分に幸福だった。
なのに今、彼女はそれをも超えようとしている。
義理の姉弟という禁域の垣根を踏み越え、そして今また激しい
恋情とともに、歪んだ性愛の茨に進んで囚われようとしていた。
黒い罪の淵に立ち、そして身を投げ入れようとしている。
闇夜の底に黒い業火が待ち受けていようとも、戻る道はない。
「それじゃ……しゃぶれよ」
下腹部を焼き焦がすほどの欲望が急激に襲いかかる。
粘液にまみれたままのものを、彼女の方から舐めたいと言うのだ。
俺がさせてみたいと思っていた行為を彼女の方から望んでいる。
それなら今、その願いを存分に叶えさせてやる。
幸実の顔をぐっと股間に寄せるようにさせ、奉仕を強制させる
真似をする。
急にサディスティックに振る舞えというのなら無理だが、俺には
隠されていた性向があった。
その素地を、きっと幸実には見破られていたのだ。
想像の中の女に繰り返し行わせた口腔性交。
してもらうのではなく、させる。
女は従順に、俺の性欲のために仕える。
しかもその女は、俺が惚れている幸実なのだ。
幾度も夢想した行為を現実にできる歓びに、ますます猛り狂っていく。
俺も、彼女はMの傾向を持っていると思ったのは間違って
いなかったのだ。
幸実は頬に降りかかる髪をよけると、恥じらう素振りを見せながらも
俺のものを唇に含んだ。
先端だけ、幾度も軽く口に入れながら、すぐに離す。
それを何度も繰り返される。
快感は短く、持続しない。焦れる。
「もっと、ちゃんと舐めろよ」
彼女が俺に言わせたがっている言葉を口にする。
赤い唇が根元近くまでを含み、舌先が裏筋を這う……
さすがに、これにはたまらなかった。
「……ああ……」
もう、彼女のフェラチオの巧みさに溺れかかっている。
男の、俺の感じる部分をこんなにもよくわかって攻めてくる。
「……いい?」
幸実は俺に訊いてくる。
「……ああ、いいよ……気持ちいい。出しちまいそうだ。……このまま
幸実の口に、出していいか?」
実際にはそこまで切迫していないが、彼女がどう反応するのか試しに
そう言ってみる。
「いやよ……」
幸実は唇から俺のものを外した。
「イクんなら……私の中に、入れてちょうだい……」
上目遣いに、俺の目を見上げてそう言う。
俺はことさらに意地の悪いことを言ってみたくなる。
「嫌だって言ったら?」
幸実は潤んだ瞳で俺を見つめた。
「口には何度も出したから、今度は胸にも出したい。……そう言ったら?」
やや芝居がかっているような科白でも、淀みなく口を突いて出る。
サディスティックな言動をする自分に酔う。
「………………」
幸実は少し黙っていた。
なにか考えているのだろうか。
「あなたがそうしたいなら……いいわ」
そんな答えが返ってきた。
「でも、……次には……ちゃんと、私の中に入れて。それならいいわ」
こう返されるとは意外だった。
けれど、次に言うべきことは既に頭の中でできあがっている。
「その時には、ちゃんと口で大きくしてくれるよな?」
幸実はうなずいた。
「そうするわ……何度でも。あなたがもういいって言うまで、好きなだけ
してあげる……」
彼女の言うように、何度もそうされたいというのはおそらく本当に
幸実の望むところなのだろう。
「もう、口はいいよ。上がれよ」
俺は幸実の手を取り、ベッドの上に来るように言った。
命令口調でいる方がいいのだろうか。
俺は幸実を仰向けにさせ、乳房を掴みながら吸った。
「ああ…………」
たちまち彼女は艶めかしい声をあげる。
「胸に、キスマークつけたらどうする」
俺はそんなことを言った。
「いや……つけないで」
幸実は首を振りたくりながら言う。
「幸実も、俺の胸にたくさんつけてくれたじゃないか。なのに、自分は
嫌なのか」
口先だけでなく、本当に彼女の肌に赤い刻印を残したかった。
色白の素肌にさぞ映えることだろう。
ただ、彼女が本気で嫌がるとしたら絶対にしない。
否定しぬかなければ、それは彼女も望んでいることではないか。
そんなふうに試したい気持ちもあった。
「胸がいやなら……ここはどうだ」
俺は幸実の太腿に手を当てた。
「この内側の、目立たないところ……。嫌か」
これでも嫌がるなら、やめておく。
逆に肯定されたならどうか。
兄に抱かれないつもりなら、それもできるかもしれないが。
「……そこなら…………」
幸実はやや震える声でそう言った。
「……いいのか」
俺は彼女に聞き返した。
「つけるぞ……いいんだな」
幸実はこっくりとうなずいた。
俺は彼女の抜けるように白い内腿に、唇で吸いついた。
ライトの灯りに照らされ、彼女のそこはほの白く輝いていた。
その場所に、きつく吸いながら唇の痕を残す。
じわりと赤い花が広がり、柔肌の真珠のような色合いと絶妙な
対比の妖しい美しさを湛えていた。
俺の唇が吸ったその痕の痣は、小さな紅薔薇を思わせる。
こんな場所に、男の痕跡を残している女。
淫らな行為をそのまま示す印をつけられている。
それを隠しながら振る舞う彼女を思うと、またも欲望の激流に
呑み込まれていく。
「ついたぞ」
俺はキスマークを指でつついた。
「どうするんだ。こんなところにこんなものつけて……」
幸実に軽くキスをしながら、首筋にも唇を移す。
「ここにも、つけていいか」
「いやっ……ここは、だめ」
幸実は激しく頭を振った。
軽く首を吸うと、幸実は泣きそうな声をあげた。
「嘘だよ、つけないよ。……幸実の嫌がることはしない」
そう言うと、彼女は俺に抱きついてきた。
そんな彼女を可愛らしいと思ってしまう。年上の女なのに。
俺のものだ…………
何故か唐突に、そんな考えが湧いた。
参った……完全に、独占欲に捉われてしまったようだ。
今こうしている時だけは、幸実は俺の女だ。
それでもいい……それでいいのだと思っていた。
二人のこうしている時間を楽しめばいい。
この腕にしっかりと抱きとめている幸実の身体を愛おしむ。
まだまだ、俺と彼女の欲望は尽き果てそうになかった。
14 all night long へ
幸実と黒澤のH画像へ……
12 欲望 へ
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