【 花より色は11 】
さて、新之助が三治のために立会い、勝利を収めたことは使用人の間でも、あたかも勧善懲悪物語のように噂された。それが邪推を含む下卑た噂話にならなかったのは、新之助が勝った後も、必要以上に三治に対して親密さを表さなかったからである。あくまで主人と使用人以上の態度は決して取らなかった。三治も立会いのすぐ後こそ感動のあまり涙ぐんだが、そこから先は新之助の意を察して新之助との間に距離を保った。宗二郎が、新之助が自分と立ち会ったのは「お小姓のため」とその悪友に語った事を小耳にはさんだからである。三治は自分の新之助への思いが単に主人を慕う気持ちを超えていると自覚していたから、慎重に行動しなければならないと思っていた。自分の為に、新之助が疑いをかけられるような事になれば生きていられないと三治は思った。武士の家に生まれた新之助に課せられた義務を、三治もよく知っていたからだ。
そのようにして日々は平穏に過ぎていった。新之助は思慮深く成長し、学業にも剣の稽古にも精を出して打ち込んだ。藩校での成績が評価され、藩の優秀な子供を集めて新たに設立されたいわばエリート校への入校を認められたのも努力の賜物だった。そのような場所で出会い、学友となった新しい友達も新之助にいい影響を与えた。遠くなった藩校への行き帰り、未だ荷物持ちとして新之助の後を着いて歩く三治は、新之助が真面目な顔をして藩の未来を学友と熱く語り合うのを見て、ますます尊敬の念を深くしたものだ。
新しい学友は、真面目で優秀ではあるが面白みもある人間が多かった。使用人に対しても奴隷のような扱いはせず、いつも新之助について歩く三治に対してまるで友達のように親しげに話しかけてくる事もある。可愛い顔立ちの三治を時に「お稚児さん」と呼ぶ事もあったが、その言葉には軽くからかうような意味しかないことが分かるから三治も気にならなかった。
やがて新之助は15歳になり、元服した。門田宗二郎の父の具合が悪くなり、宗二郎が門田家に呼び戻されたのはその頃である。門田様も気弱になり、嫡男に家を譲るとはいえ最期には子供たちの顔を見ていたいと願ったのだろう。門田様が身罷ったのはそれから一年後だったが、宗二郎はその後も早川には戻らなかった。宗二郎は性格的にはともかくも、英知には長けていたので門田家の新たな領主の相談役になっているともっぱらの噂だった。門田の長男は、温厚だが逆を返せば気弱だったのである。
新之助が元服したからには、さすがに藩校の行き帰りに下男を連れて歩くことは体面が悪くなった。三治はそこで早川家へ来て四年の間続けてきた新之助のお供の任を解かれたのである。三治がそれを寂しいと思うと同時にほっとしてもいた。三治の早川家での仕事は日を追うごとに増えていた。それは三治が家のどこでも重宝がられ、今でも最年少者として使い走りから、下男がするべきあらゆる仕事に借り出されていたからである。遠くなった藩校への行き帰りの道は三治にとって楽しみではあったが、その間にできなかった仕事を夜寝る時間を削って果たしていたから、これで多少なりとも睡眠不足が解消されて、新之助に勉強を教わる楽しい時間に、つい眠くなって集中力が鈍る事もなくなるだろうと思ったのだ。それでも、もしそれだけなら寂しい気持ちが勝った事だろう。ほっとした一番の理由は、新之助の年長の学友にあった。新之助の学友の楠木平太郎という男は、新之助に大人の遊びを教えてやろうと色町に誘っている事を三治は知っていた。平太郎自身は悪い人間ではない、むしろ頭が良くて破天荒という、天才肌にはたまに見かけられる得がたい人物ではあったが、新之助を可愛がって年長ぶって色事を教えようという態度は三治には受け入れがたかった。もちろん新之助も男であり、いずれ嫁を取る立場であれば、房事の手順も知らずにいれば恥になる。どうしても通らなければならない道ではあるが、三治は自分の目の前で新之助が平太郎の誘いに乗る場面を見たいと思わなかった。いずれ新之助が平太郎の誘いに頷く時が来る、それを見ないで済むなら新之助を送り迎えする楽しみを引き換えにしても構わないと思った。
それでも三治が知る限り、その後一年新之助が夜出歩くことはなかった。藩校から戻ると道場で汗を流し、父母と共に夕餉を済ませ、もう一稽古してから風呂を使うか、または藩校での勉強のおさらいをする。夜は習字をするか、三治に勉強を教える。その日課は変わることなく続けられていた。その年の秋祭りにまた弟子や使用人が芝居をするのだと練習を始めても、新之助と三治はそれには加わることはなかった。ただ、祭りの当日恒例の「妹背近松」の素人芝居を見て笑い転げる客に混じって、新之助は笑いもせずただじっと芝居の舞台を見つめていた。二年前のお染役が原因で三治があのような目にあった事を思えば、二人にとっては楽しいよりも辛い思い出である。それでも新之助の前にはあの時の三治の姿がありありと蘇ってくるのだった。今でも、新之助の夢の中にはあの時のお染姿の三治が現れる。その姿が夢の中で成長した今の三治の姿に成り代わっても、新之助の衝動は尽きる事がない。千代との約束を守って現実の三治をそのような対象にしないと決意しているだけで、新之助の心は変わらなかった。
新之助が初めて遊郭の門をくぐったのはそれから一年後の事だった。何かの折りに新之助が、平太郎の誘いがあまり強引で困りますと千代にこぼした所、それは左衛門に伝わって左衛門からそろそろそういう所へも行って来る年だと逆に発破をかけられたのである。左衛門は家に遊びに来た平太郎にわざわざ会いに出て、晩熟な息子だから色々と教えてやって欲しいと手を付いて言った。こうなれば、逃れる手はなかった。新之助はせいぜい粋に見えるようにと平太郎に着物まで借りて、背中を押されるようにして見世に連れて行かれた。おしろいの匂いだけでむせ返りそうな見世だ。新之助は目を白黒させながらも、大きく肌を見せている女たちを見て頭に血が上った。新之助は三治の演じたような楚々とした、初心な少女にしか興味はないと思っていたが、見世の女のふくよかな体に惹きつけられる自分を発見して驚いていた。
新之助は初見だったが、平太郎の紹介で最初から奥まで通された。新之助も少しは酒を飲んだ事があったが、平太郎の飲み方は豪快だった。新之助も自分も勢いをつけようと酒を煽る。女たちがどっと沸いて、平太郎が三味線に合わせて踊りだしたのを女たちと一緒に手を叩いて眺めた。これが大人の世界だと思うと目がくらむようだったが、新之助は自分の心の一番底に浮かれきる事ができない硬い石があることを自覚していた。その石の存在を忘れようと酒を飲む。最初から計画済みなのか、いつの間にか新之助は女と二人だけになっていた。いかにも手慣れの女だった。隣の部屋に敷かれた布団に押し倒されるように倒れこみ、気づいたら勃起させられていた。初めて女の肉の中で達く感触は、一時胸の中の石の存在を忘れるほど強烈な絶頂だった。新之助は達しながら笑った。これで逃れられると思った。思う相手と肌を合わせることも、その体を抱く事も、触れることも許されない、一生続くのだと思っていた苦しみから逃れられる。
新之助はやたらに高揚した気分のまま笑いながら酒を要求し、女は手を叩いて酒を運ばせた。新之助は飲み、女を抱き寄せた。女に導かれるままその体をまさぐり、若い芽が再び首をもたげた時、新之助は自ら女を押し倒して再び抱いた。達くとまた酒を飲み、また抱いた。狂宴は朝まで続いた。
三治が新之助の外泊を知ったのはその日の内だった。新之助は夕げの席にいなかった。三治はいつでも新之助の給仕をしていたからこんな事は初めてだった。
「新之助は今日は帰りませんよ」
奥方に言われても、三治は表情を変えずに新之助の盆を下げた。こういう日が来ることは分かっていたのだ。それでも、その事実は想像以上に三治の心を揺さぶった。それから寝るまでの間、三治は気力だけで動いていた。ようやく仕事を済ませ、自分の布団に入った時はヘトヘトだった。だが、目がさえて眠れるどころではない。考えないようにしても、新之助が今どこかの知らない女を抱いている場面が浮かんで苦しくてたまらない。何度もこんな日が来ると覚悟していたはずなのに、何の役にも立たなかった。新之助の部屋でいつか新之助が三治の唇に触れてきた、その指の感触を忘れることはできなかった。もっと触れて欲しい、もっと敏感な所をと悶える様に願ったその指で、新之助は知らない女を愛撫している。眩暈がするほどその女が憎かった。一時でも、新之助と抱き合う事ができる遊郭の女が羨ましかった。その一時の為に、女に生まれ変わって一生を遊郭で過ごしてもいいとさえ思う。そんな自分の思考に嫌悪し、吐き気さえ上がってくる。
どんなに思っても、三治には新之助に触れることはできないのだ。ただ一生新之助の近くにお仕えする事が三治にできる唯一の道だ。新之助が遊郭へ行っただけでこれでは、いずれ新之助が誰かと夫婦になった時には一体どうなってしまうのだろう。この苦しみは、一生続くのだろうか。三治は暗闇に潜む絶望を見開いた目で見つめながら、その長い夜を耐え続けた。
まだ朝が明け切らぬ頃である。楠木平太郎の使いが早川家にやってきた。新之助の母、千代はまるで分かっていたかのように起き出し、使いに話を聞いてから三治を起こしに来た。
「三治、今から使いに行っておくれ」
「はい、奥様」
三治は一晩中目を覚ましていたから行動は素早かった。寝巻きを着替え、頬をパチパチと叩いてから裏口へと向かった。
「これを持ってお行き。支払いは、少し余分に渡すのですよ。新之助が歩けないようなら駕籠を頼んでもいいのでお前が連れて帰りなさい。場所は楠木どのの使いの者に着いて行けば分かるでしょう」
「かしこまりました」
三治は渡された金を懐にしっかりしまいこむとすぐに外へ出た。まだ外は暗く、夜明けまでに一刻ほどある。いつもなら、まだ眠っている時間だ。三治は使いの男について走り出した。
三治も色町へ来たのは初めてであった。平太郎の使いは慣れたように色町の門番に金子を渡し、三治を連れてそこを通り抜ける。そろそろどの見世からも客が帰り始めていて、男たちは女に見送られてにやけ下がった、独特の雰囲気を見にまとって通りを歩いている。新之助があのような顔で現れるのかと思うと三治は軽い恐怖を感じた。使いの男が立ち止まった見世の前で、三治も立ち止まる。見世の入り口は帰る客と「また来て」と男にしなだれかかる女が次々に現れる。三治はどこを見ていいのか分からずに体を硬くして下を見つめていた。三治には遠い世界だった。三治とて性欲を感じることはあるが、このような恐ろしい場所で、乱れた化粧、乱れた着物の女にやに下がる男の気持ちは分からなかった。もしもあえて三治が触れたいと思う女はどのような女かと聞かれれば、背中に肉のついていない、野の花のような娘と答えたであろう。それも、生々しい欲を伴うものではない。宗二郎とのあの夜のようなものが情事だとするなら、三治はそんなものは二度と知らなくてもいいと思う。ただ、新之助と肌触れ合う事ができるなら、それがただ指先を触れ合わせるだけだったとしても、三治には目が眩むような幸福だろうと思うのだった。
しばらく待っていると中から平太郎が出てきた。平太郎は三治を見るとニヤリと笑い、
「お前の主人は男になったぞ」
と言った。三治の気持ちなど分かろうはずがない、三治はお世話になりましたと言う様に深く頭を下げた。
「それじゃあ、俺は先に帰るとする。新之助はすぐに来るだろう、だが辛そうだからな、二日酔いだよ。駕籠を呼んでおいてやろう」
その後姿に、三治は再び頭を下げた。すぐに見世の上の方から「しっかり、新之助さまあ」という声が聞こえてきて、三治はそちらを見上げた。
新之助は女に抱えられるようにして階段を下りてきた。新之助は青ざめ、口元を押さえたままおぼつかない足取りで降りてくる。三治は思わず
「新之助様!」
と声をかけた。新之助が顔を上げて視線を彷徨わせた挙句に三治を見つける。
「三治・・・」
声にならない声を上げた途端、う、と言って口を押さえた。周りの女が慌てて盥を差し出す。新之助は億劫そうにそれを押しのけると、ようやく階段を降りきって草履を履いた。
「新之助様、しっかりなさってください。平太郎様が駕籠を呼んでくださいました。今払いを致しますからその間に駕籠へ」
「三治、気分が悪い・・・」
「大丈夫ですか?そこにお座り下さい。今肩をお貸ししますから」
三治が番台に向き直ると、女主人が勘定書きを差し出してきた。三治は奥方に言われたようにそれに色をつけて支払う。それを見た女主人は満面の笑顔になり、
「またいらっしゃいませね、新之助様」
と愛想を振りまいた。新之助に付き添って降りてきた女もまた、座り込んでいる新之助に纏わり付く様にして
「またいらしてね、新之助さま。お待ちしてます」
と言っているのを、三治は複雑な思いで見つめた。この女を、夕べ新之助が抱いたのだ。そう思うと胸の奥から暗い、熱い塊が上がってくる。思いで人が殺せるなら、三治はこの女を殺せただろう。それ程に三治は女が憎かった。だが、三治はそんな内心などかけらも出さずに新之助の腕を取った。
「新之助様、帰りましょう。駕籠まで歩けますか」
「三治、頭が痛いんだ・・・」
「お酒を過ごされましたね。さ、新之助様、私の肩に掴まってください」
三治は新之助の脇に腕を差し込んで新之助の体を持ち上げた。新之助は三治に体を預けてどうにか立ち上がる。
「三治、三治・・・」
「大丈夫ですから、ゆっくりでいいですから一歩ずつ」
新之助は顔をしかめながら言われるまま足を出す。新之助の顔は吐息がかかるほど三治に近く、その口から酒と、白粉の匂いが鼻に付く。三治は何も考えないように、何も感じないようにと自分に言い聞かせながら足を進めた。
ようやく新之助をかごに押し込むと、三治は見世の女主人に頭を下げて駕籠かきに合図をした。
「ゆっくりやって下さい。止めてと言ったらすぐに止めて下さい」
「分かりました」
駕籠かきは勝手知ったるとばかりに駕籠が揺れないようにゆっくりと進みだした。三治は女主人に押し付けられた盥を持ってその横を歩く。新之助はすっかり駕籠の背中に寄りかかり、ぐったりとした顔で目を閉じている。こんな主人の姿を見たのは初めてだったが、それでも三治の主人に対する思慕が減じることはなかった。ただ、お可哀相にと思っただけである。三治、三治と甘えるように言ってくる新之助が愛しくもあった。初めて、三治は自分が新之助の保護者であるかのように思えたのだ。考えてみれば、半年ほどとはいえ三治の方が年上なのである。新之助は乳兄弟と言ってくれるが、その兄弟の兄は自分であると今更ながら自覚した三治だった。
途中何度も駕籠を止めて、盥に胃の中身を吐き出す新之助の背中をさすってやったが、それでもどうにかして駕籠は屋敷に辿り着いた。屋敷からはすぐに下男が飛び出してきて新之助を抱えて部屋に運んだ。左衛門は既に役所へ出かけており、幻刀斎が新之助を迎えて渋い顔で言い放った。
「しっかりせんか、新之助。酒に飲まれおって。それでも侍の子か」
「申し訳・・・ありません・・・」
新之助は必死で頭痛と戦いながら頭を下げる。途端に吐き気が上がってきて手で口を押さえるとすぐに三治が盥を差し出して背中をさすった。
「情けない。これからは少し酒を鍛えてやらねばならんな。だが首尾は平太郎殿から聞いておる。そなたもこれでようやく男というわけだ。あまり過ぎてはいかんが、たまに行って遊んできなさい。それ位の息抜きは必要じゃ」
幻刀斎は言うだけ言うとさっさと立って行ってしまった。新之助は部屋に敷かれた布団に横になる。どれだけ気力を振り絞っても、頭がガンガンして何も考えるどころではない。少しでも動けば吐き気が上がってくるし、どうにも動けない。三治はさっきから細々と動き回って、新之助の額に濡れふきんを乗せてくれたり盥を洗いに行ったりと忙しく動いている。新之助の部屋の雨戸を半分閉め、眩しい光を遮ってくれたのも三治だ。新之助はようやく少し恥じ入るような気分になってきた。三治の顔をまっすぐに見られないような破廉恥な事をしてきたのである。自分がいかにも薄汚れてしまったような気がした。遊郭の女の手管は、新之助が想像した事もないような事ばかりだ。新之助は頭痛に耐えながらつい赤らんだのを、三治が敏感に察して
「新之助様、熱が上がりましたか」
と気遣ってくる。
「何でもない」
つい素っ気無く返すと、三治は新之助が話をするのも辛いのだと察して黙って部屋を出て行った。新之助は布団の中から黙って三治の行った先を見つめる。そして、新之助はしばらくの間眠った。
新之助の具合がよくなったのは昼を過ぎてからだった。病気ではないと、どうにか起きられるようになったらすぐに床を上げた。普段伊達に精神を鍛えているわけではない。吐き気と頭痛が少し治まれば、後は気力でどうにかできるのが新之助だ。すぐに幻刀斎のもとへ行き、自分の不甲斐なさを詫びた。幻刀斎はカラカラと笑って言った。
「よい、誰でも通る道じゃ。そなたの父は、夜半までうなっておったぞ。これは左衛門には秘密だぞ、いいな」
「はい」
新之助は藩校を休んでしまったので本を開かなければならないことは分かっていたが、今の状態では何も頭に入りそうになかった。新之助はまだ少し残る酒を抜くために体を動かす事にした。幸い、幻刀斎が年長の弟子たちに稽古をつけていたので新之助もそれに混じって剣を振るった。
幻刀斎の打ち立てた幻刀流の免許皆伝者は弟子の中に二人いた。幻刀流は型と言うよりはその動きの俊敏さで相手を撹乱する技である。構えは一見隙だらけの八双だが、その実隙はどこにもなく、八双から繰り出されるその刀筋は、それこそ幻刀斎とその免許皆伝者しか知らぬ筋で、目のいいものがどれだけ目を凝らしてもその筋を見破ることはできなかった。八双から刀がふらりとゆれ、刀がまるで何本もあるように見えたその瞬間には切られているのが、幻刀流と呼ばれる由縁である。これまでに新之助はその技を二度ほどしか見せてもらった事がない。必殺の剣は、おいそれと人に見せるようなものではないのであった。
年長の弟子たちと対等に打ち合う新之助を見て、幻刀斎は目を細めていた。弟子の一人は、「免許皆伝も時間の問題ですな」と幻刀斎に言ったほどである。幻刀斎も年が年だけに、新之助に幻刀流を伝授しなければならないと思っていた。左衛門は剣の腕の方は全く話にならなかったし、新之助は真面目で筋もいい。少し早くても血の繋がった者に伝えなければ、幻刀流は早川家の手を離れてしまう。それだけは避けなければならないと幻刀斎は考えていた。
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