ottavo sogno
前にディーノから送られてきた木箱を開けて、は一つずつ中身を確かめていた。丁寧に包装されたワインの瓶を揺らすと中から微かな物音がした。当たりだ。
nono sogno
台所に持っていって、流しにワインの瓶を寝かせると包丁の柄で思い切り叩き割る。
がしゃん、とガラスの割れる音の後にワインが流れ出て、排水溝に飲まれていった。そして残ったのはイタリア製ベレッタM950──通称ジェットファイアと呼ばれる小型の自動拳銃だ。が手元に持っている銃は、護身用のM92一つだけで、他には何も持っていない。前襲われたときは、完全に返り討ちに出来たので問題なかったのだが、銃を奪われることや銃が壊れたときのことも考えておかなければならない。一人が隠し持てたのは一つだけだったので、ディーノに頼んで送ってもらった。後はジェットファイアの弾とM92のパラベラム弾をいくつか頼んである。同じようにワインの中に仕込まれているはずだ。日本でも手に入れることは出来るだろうが、出来るだけ足がつくような真似はしたくなかった。防水のための包装を解いて、きちんと動くかどうか確かめる。
同じように物音がするワインの瓶をいくつか叩き割り、中からきれいに包装された弾を取り出す。ディーノは心配したのか、かなりの量があった。木箱の中には、何も仕込まれていない普通のワインも何本か入っていて、甘いヴィン・サントやバルバレスコの他にナポリワインのタウラージやスパークリングのカ・デル・ボスコが詰められている。赤が多いのはディーノの趣味だろう。はワインをワインセラーにしまって、もう空になっているはずの木箱に目をやると、そこには封筒があった。木箱を開けたときにも上に封筒が置いてあって、そこにはディーノの手紙が入っていたのだが、もう一通あったらしい。細長い封筒は封がされておらず(手紙には蝋で封が押されていた)、中を開けるとそこには一枚の航空券が入っていた。ナポリまでのオープンチケット。ナポリまでの直行便というのは日本から出ていないので、イタリア国内か欧州での乗り継ぎ便になる。一枚だけ入っていた便箋には、Attende a lungoの文字。ずっと待ってる
「ディーノ…」
航空券を指でなぞりながら、すっかり遠ざかってしまったナポリへ思いを馳せる。両親がいてファミリーがいて、大好きな人たちのたくさんいる場所。いつ戻れるのかは分からない。向こうで何か支障が出ない限り、しばらくはここにいることになるのだと呼び寄せられたときから分かっていた。この国はどちらかといえば平和で、出会った人たちは親切で明るい。けれど、どうしようもない空洞を胸に覚えることも確かだった。はマフィアだがヒットマンではなく、どちらかといえば守られてきた立場だ。自分を庇って被弾した部下を見たこともあるし、のために命を落としたファミリーもいる。ずっと守られてきたが、部下を伴っているとはいえ、矢面に立つ状態で日本に来たのは一種の賭けだった。リボーンとの。年老いた九代目の辺りを静かにしたいということもあったし、ボンゴレという大きな組織には敵が多すぎた。傘下にいてもボンゴレのことを快く思っていないファミリーはいくつもある。世代交代というのは、狙われやすい時期だ。
ボンゴレのプリンチペッサとして内外に有名ながツナを伴って本国に帰れば、ツナは正式な十代目として迎え入れられやすいだろう。九代目の意思を重んじる者ばかりがファミリーなのではないのだから。プリンチペッサがボンゴレを守ってきたことを知っているファミリーは大勢いる。同盟ファミリーはもちろん守られてきたのだし、抗争関係にあるファミリーとて、その事実を知っている。プリンチペッサとして小さな頃から外交をこなしてきたは、十代目ツナのいい後ろ盾になれるだろう。兄弟子のディーノももちろん後ろ盾の一人だ。
ツナを守るため、九代目のためとは言え、部屋に一人でいるというのはほの寂しいものだ。は嘆息をついた。窓の外に目をやれば、大きな夕陽が落ちていくところだった。ナポリの夕陽はもっと赤かった。ディーノの手紙を手にとって、もう一度目をやる。「Carissima(親愛なる君へ)」で始まる手紙は、の忠告通りに事件が起きようとしていたことの報告、いつものようにファミリーを守ってくれたことへの感謝に続いて、本国の情勢や九代目のこと、の両親のことなどが詳しく書かれている。最後には、を心配する言葉で締めくくられていた。一番最後には「ciao Bacioni(さよなら、たくさんのキスをこめて)」の文字。 ディーノは癖のある字を書く。ボスになっても直らないらしい。
「会いたいなー」
ディーノだけではない。両親、残している部下、九代目、ボンゴレのファミリーすべてに。そしてナポリに。今はもう秋で、空は澄み切って高く、雲はおもしろい形をしているが、あのからりと晴れた空に会いたかった。
ビアンキから電話を受けて、は沢田家までビアンキを迎えにいった。なんでも相談したいことがあるらしい。
「ciao、ビアンキ」
「ciao、」
玄関で頬を寄せる挨拶をしていると、物珍しいのかツナの母親が目を瞬かせながら見つめている。
「じゃあ行ってくるわ、ママン」
「ええ。ちゃん、今度は家に泊まりに来てね」
「はい、マンマ」
沢田家を後にすると、ビアンキは物憂げな表情でため息をついた。ツナの母親の手前、何でもない風を装っていたようだ。
「どうしたの?ビアンキ」
「もうすぐなの」
「…?」
は小首を傾げた。もうすぐ、とはどういうことだろうか。
「は知らないかもしれないわ、もうすぐりボーンの誕生日なの」
「そうだったの?いつ?」
明後日、と付け足してビアンキはもう一度ため息をついた。大好きな人の誕生日なのに、なぜ浮かない表情なのだろう。
「は知っているでしょう?ボンゴリアン・バースディパーティのこと」
「……一応ね。リボーンはやる気なの?」
ボンゴリアン・バースディパーティは、掟の厳しさに最近あまりやっていないはずだ。もちろん、当事者(誕生日を迎える者)が指定すれば、行われることがある。の19の誕生日には行わなかった。自身が嫌がったからだ。掟とはいえ、祝ってくれた人を撃ちたくない。
「やるって言ってたわ。だから、何かちゃんとしたプレゼントや出し物をしないと」
「…って、あたしもやらないといけないわね、それ」
はびっくりして目をぱちぱちと瞬かせる。リボーンが喜びそうな武器を用意するには時間が無さ過ぎる。かといって、ディーノに送ってもらった銃ではリボーンには物足らないだろう。
「ビアンキは何をするつもりなの?」
「新技を披露しようかと思ったんだけど…。やっぱり、二人で組んで遂行してきた殺しの数々、あのスリルをまた一緒に味わいたいんだもの」
「そう。ってことはポイズンクッキングの新技ね。何がいいかな…」
二人はそのまま近くのスーパーに入って、必要そうな食材をありったけ買い込んだ。の家に入った。いつだったか、リボーンが愛銃で壊したオートロックのセンサーも、部屋のドアももう元通りだ。
「でも殺しに応用できるようなのがいいわよね。普通に料理をポイズンクッキングにするのはもうやっているんだし…」
「時間差ポイズンクッキングはこの前開発したし。そのときもリボーン褒めてくれたわ」
お菓子もポイズンクッキングになる。というか、ビアンキが作るものすべてがそうなる。
ああでもない、こうでもない、と二人で言っているうちに、お互い、少しお腹が空いてきた。
「あたしが作るわ、待ってて」
ビアンキが作ったら、もちろんポイズンクッキングになってしまう。簡単なものでいいか、とは小麦粉をこねはじめた。正式なピッツァはピッツェリアでしか食べられないが、は料理好きなのでピッツァも自前で作る。家ではちゃんとした窯で焼くことが出来ないので、ナポリピッツァとは認められないだろうが、それなりの味にはなる。こねてのばした生地に缶詰のトマト、モッツァレラチーズ、バジルをトッピングして、エクストラバージンのオリーブオイルをかける。暖めていたオーブンに生地を入れて、オーブンのドアを閉める。その過程を、じっとビアンキが見ていた。
「…」
「なぁに?」
「生地のこね方教えてくれない?」
「もちろん!分量はこうで…」
もう一度量りながら粉を混ぜていく。そして伸ばす段階になって、ビアンキが新技を開発した。ピッツェリアで見られるように、投げて伸ばしていたビアンキは、いつのまにか周りのものを切れるぐらいに生地を鋭く尖らせることに成功していたのだ。
「…ビアンキ!そろそろ止めて!」
ビアンキの伸ばすピッツァを避けながらがそう言うと、ビアンキは手を止めて、伸びたピッツァが床にくっつきそうになる。
「これ、リボーン褒めてくれるかしら」
「大丈夫だと思うわ」
台所の中でしかやっていなかったが、いろんなものが切れている。家の惨状を見ながらがうけあったとき、オーブンから電子音がした。ピッツァが焼けたようだ。
「それを片付けて、ピッツァを食べましょう」
「ええ」
ピッツァをつまみながら、ずっと長いこと二人は話し込んでいた。
リボーンの誕生日当日。午後になって、は用意したお菓子を持って沢田家を訪れた。
「ちゃん!いらっしゃい」
「こんにちは、マンマ。後で台所借りていいかしら?」
「ええ、もちろん。何か作ってくれるの?」
「お菓子をいくつか持ってきたわ。仕上げをしたいの」
はそう言いながら、ダイニングに向かった。ダイニングテーブルではハルがランボの世話をしている。
「ハル、久しぶりね」
「さん!お久しぶりです」
ハルの隣に腰掛けると、ランボがまとわりついてきた。足にまとわりついているので、抱き上げて膝にのせる。
「!ランボさんと遊べ!」
「いいよ、ツナとリボーンが帰ってくるまでね。ハルもどう?」
「いいですよ!」
三人が沢田家の中でかくれんぼを始める。鬼はだ。ビアンキは新技のピッツァをこねている。
「dieci…nove…otto…sette……」
ランボが騒ぎながら二階に上がったのがには分かった。もともと、ランボは生活雑音が大きい。
「…tre…due…uno…zero!さて、どこに行ったのかしら?」
ここで日本人なら「もういいかい」と声をかけるところだろうが、はそんなやりとりを知らない。そのまま、ランボとハルを探しに行く。はダイニングとキッチン、リビング以外の一階の部屋には行ったことがなかった。開けたことのない部屋のドアはなぜかドアノブがなく、手をかけて引く方法で開いた。の目には、見たことの無い緑色の床が映っているが、は耳を澄ましてじっとそこに立ち尽くした。人の気配がする。これが敵なら銃で撃てるが、そうもいかない。出来るだけ足音を立てないように歩いて、部屋の中にもう二つある引き戸に手をかけた。
「…ハル、ここにいるんでしょう?」
布団の間が異様に盛り上がっている。ランボが二階に行ったのだとしたら、ここにいるのはハルしかいない。
「もう見つかっちゃいましたか」
ハルは照れくさそうに頬を染めて、布団の間から這い出てきた。ぐちゃぐちゃになった髪を手で撫で付けている。手伝って髪を漉いてやった。
「どーしてすぐに分かっちゃったですか?」
「たまたま気配に気がついたの。偶然よ」
「そうでしたか。じゃあ次はランボちゃんですね!」
「あの子は二階にいるわ。二階のどこかは分からないけど」
がそう答えると、ハルはびっくりして目を丸くしている。
「何で分かっちゃうんですか!?さんすごいです!」
「ちょっと耳がいいみたい。あの子の小さな足音が聞こえたの。たんたんたんって、上がる音が。どの部屋に入ったかまでは分からないんだけどね」
二人でこっそりと二階に上がる。ツナの部屋を開けて中を探してみるが、布団の間にもベッドの下にもクローゼットの中にも机の下にも、どこにもランボはいない。
「別の部屋ですかね」
「そうみたいね」
ツナの部屋を出て、階段を挟んだ反対側にある部屋のドアを開ける。そこには大きなベッドが置いてあった。
「はひ…これはもしや…」
両親の寝室だろう。立ち入るのは悪い気もしたが(現にハルは顔を真っ赤にしている)、そっと入って、ランボの姿を探す。布団を上から叩いてみたが、どこにもランボが入っている様子がない。ベッドの下を覗いてみてもランボはいなかった。
「この部屋じゃないのかしら」
「あと他に部屋ありましたっけ?」
大きなクローゼットの中にもランボの姿はない。念のため、上の棚まで覗いてみたがいなかった。
「どこに行っちゃったのかしら、ランボ」
大人しく息を詰めてまで隠れようとしたハルと違って(息を詰めていたがために濃密な気配をまとい、それをに悟られたのだとハルは知らないが)、子どものランボはいつものように一人でおしゃべりをしているかもしれないのに、その小さな声さえ聞こえない。とハルは一度両親の寝室を出てみると、他に二つドアがあった。近いドアを開ける。そこはトイレで、上にある収納棚にもランボはいなかった。と、すると。
「ここにいるわけね」
残る一つのドアを開ける。物置として使われているらしく、小さな部屋は使わない季節家電や桐箪笥、昔ツナが使っていただろうおもちゃなんかでいっぱいだった。
「ランボ、出ておいで」
の呼びかけにもランボは姿を見せない。直に見つからなければセーフだと思っているのだろう。
「ランボちゃん、どこにいるんですか」
ハルと二人で部屋に入るには部屋は小さく、が中に入ってさまざまなダンボールや家電の隙間を見ていく。確かに気配はするのに、ランボの姿が見えない。
「…ぎゃ!」
「ハル!?」
入り口近くに置かれている桐箪笥の引き出しを開けたハルが声を上げたので、びっくりしてはそちらを見やった。上部に作りつけられている棚を指差している。
「どうしたの?」
真正面にあったのはランボの寝顔で、白目を開けて鼻をたらしている。いきなり見つけてしまったのでハルは驚いて声を上げたらしかった。
「ランボ、見っけ」
はそう言いながら棚からランボを引き抜いて捕獲した。ランボはまだ寝ている。確かランボはボヴィーノの刺客のはずだが、こうまでされて起きないのはどうだろう。
「けっこう楽しかったわね。ツナのお家を探検出来たし」
「そうですね。もうそろそろツナさんも帰ってくるんじゃないですか?」
二人揃って一階に下りると、先回りして帰ってきた山本がもうリビングにいた。寿司の桶を二つも持っている。
「お、さんにハルじゃねーか。あ、チビは寝てんのか」
「かくれんぼしてたんだけど、隠れてるうちに寝たみたい」
はランボをリビングのソファに寝かせてやった。ビアンキの生地は完成したようだ。
「、キッチン使うんでしょ?」
「ええ、ちょっとだけね」
寿司の桶が置かれているテーブルに置いたままだった、包みを解く。中から出てきたのは中身のないカンノーリ、スフォリアテッレ、カプレ。どれもナポリのドルチェだ。用意してきたフルーツチーズをカンノーリに詰めていく。
「さん、これ一人で作ったんですか?」
横に立ったハルが興味津々、という顔で見つめている。は頷きながら、カンノーリを手にとった。
「そうよ。あたしはほら、時間がいっぱいあるし、暇なの。ナポリのドルチェくらいしか作れないんだけどね」
スフォリアテッレとカプレはもう焼きあがっている。カプレを飾れば、バースディらしくなるだろう。
「すごいです!今度お菓子の作り方教えてください!」
「いいわよ。ハルはまだあたしの家に来たことなかったわよね、ぜひ来て」
「はい!」
「さん、一個もらっていい?」
山本がそう言いながら、既に手はスフォリアテッレに伸びている。
「一個だけね。後でみんなで食べるんだから」
「よっしゃ、ありがと。…やっぱ美味ぇなー」
「私も一個いいですか!?」
「いいわよ」
ハルがわくわくした顔でスフォリアテッレを一切れ、口に入れた。は作業を続けている。
「どう?」
「美味しいです!このクリーム、今まで食べたことない味がします。すっごく美味しい」
「良かった、気に入ってもらえて。中に入ってるのはリコッタチーズとアーモンドクリームに、カスタードがちょっとだけ入ってるわ。あたしが住んでる南イタリアでは、リコッタチーズとアーモンドをよく食べるの」
はカンノーリを作り終え、皿に並べている。カプレをどう飾ろうか、眺めながら思案していた。生クリームやフルーツで飾ってしまってもいいが、シンプルにこのままでもいいかもしれない。可愛い蝋燭を見つけたので、一本買ってきてある。
「ちゃん、ビアンキちゃん、これ持って」
ツナの母親から渡されたのはクラッカーだった。山本もハルも持っている。
「もうすぐ帰ってくるわ、リボーンちゃん」
玄関に向かう前に、はランボをゆすり起こした。起きただちのランボは、目を手の甲でくしくしとこすっている。
「ランボ、もうすぐリボーン帰ってくるから起きて。今日、リボーンお誕生日なの」
「お誕生日?」
「そう。だから、みんなでお出迎えするの。ほら」
ランボの分のクラッカーを手渡して、一つだけあまったので、もう一つもランボに与えた。ランボは両手にクラッカーを持ったまま、に連れられて玄関にやってきた。もう、全員が揃っている。
がちゃり、と玄関のドアノブが回った。みんなで顔を見合わせる。もクラッカーの糸に手をかけた。そして。
ドアを開けて姿を見せたリボーンに、みんなでクラッカーを浴びせた。ツナが驚いている。
「ええ!?」
「誕生日おめでとー!!」
なぜかあっけにとられているツナを尻目に、リボーンはさして驚きもせずに、玄関に立っていた。
「サンキュー。今日はオレのために集まってくれて感謝してるぞ」
「は?え?」
「オレもこれで一歳だぞ」
「なっ…え…!!まさか…じゃあ誕生会って…」
「そうだぞオレのだ」
ツナはなぜかショックを受けた表情で立ち尽くしている。
「てっきり自分のだと思って…バカみたいだ…」
「え!!あら!」
ツナの母親が、はっとしたように表情を変えた。勢い良く両の手を顔の前で合わせる。
「いけない!ツナの誕生日明日じゃない!すっかり忘れてたわ…」
「そーだったんですかー!?」
ハルをはじめとして、全員驚いている。もびっくりしてツナを見つめた。
「よく言ったわツナ」
「じ…じゃあ、今日一緒にやりませんか?」
「そーだな」
話がまとまり、みんなはダイニングからツナの部屋へ、食べ物や飲み物を運んでいる。なんだか落ち込んでいるツナに、は近寄って声をかけた。
「明日でいくつになるの?」
「…13だけど…」
ツナはすっかりいじけている。
「13歳ね。もうすぐ大人じゃない」
「え…」
「イタリアではね、5歳から13歳までが義務教育なの。13歳なんて、ずいぶん大人なのよ」
だからしっかりしなさい、とが言外に励ますとツナは照れたように頬を指でかいた。
「あたしがファミリーとして本格的に仕事を始めたのも13ぐらいからだったわ。ツナももうすぐ一人前ね」
「そうかな…」
二階から、ツナとを呼ぶ声が聞こえる。ツナは慌てて靴を脱ぎ、二階に上がっていった。はダイニングに移動して、残っていたお菓子の飾りつけを終わらせて、二階に上がる。が二階に上がったときには、既に誕生会は始まっていて、寿司が取り分けられていた。
「さん!これさんの分です」
「ありがとう、ハル」
取り分けられた皿を受け取り、お茶の注がれているグラスも受け取って、はテーブルの隅に移動した。部屋の片隅で倒れている獄寺とビアンキの間に入る格好になる。リボーンはボンゴリアン・バースデーパーティの説明をツナにしていた。
「そして最下位は殺されるんだ」
「んなーっ!!」
「なんだよそれ!なんで祝いにきて殺されなきゃなんないんだよ!!」
「掟だからだ」
「納得できるかー!!」
ツナはくるりとの方を向いて、恐る恐るといった態で話しかける。
「本当?さん」
「…残念ながら本当よ。あたし、実際に参加してるし、何回も」
の言葉にツナは顔色を変えて、リボーンを見るとリボーンはすまし顔で説明を続けた。
「みんなこの日のために極秘で用意してきたんだぞ」
「それで態度がおかしかったのか…」
「まーまー、子どもの遊びだつきあってやれよ」
しょげるツナを山本が山本節で励ます。はスシに夢中だ。
「また山本は…」
「ちなみに山本はスシ持ってきてくれたから80点だぞ」
「点数はボンゴレジャッジボードに貼られるからな」
「いったいどこからこんなものを…」
「80点ならなかなかなんじゃねーの?」
「つーか何なんだこの状況は」
「ツナさん元気だしてください!ハルもマフィアのボスの妻になるために、こういう行事に慣れていきますから。ね」
今度はハルが励まそうとしたが、思わず夢を口にしたためにツナに呆れられた。
「何言っちゃってんだお前…」
「はひ」
照れているハルは、照れ隠しにバッグから洋服を取り出した。
「ハルはプレゼント作ってきました。いつもリボーンちゃんは黒いスーツなので、白いスーツを作ってきました。…ターゲット柄です」
「狙われまくりじゃん!」
ツナの適切なツッコミにハルが思わず動揺する。
「はひ…そーいわれてみれば…」
リボーンは気にせずハルから服を受け取った。
「サンキュー、ハル。オレはこういうスリリングな服は好きだぞ」
「リボーンちゃん…」
優しいリボーンの言葉をビアンキが微笑みながら聞いている。スシを食べ終えたは一階に下りて、お菓子を持って上がってきた。
「あたしはお菓子を作ってきたわ。どうぞ」
大皿にスフォリアテッレ、カンノーリ、カプレが乗せられている。カプリの上には可愛らしい蝋燭が一本。
「せっかくだから火をつけましょう。ハヤト、ライター貸して?」
「…はい…さん、どうぞ…」
「ありがと」
ぶっ倒れていた獄寺が、ゆっくりした手つきでにジッポライターを差し出した。は受け取って親指でライターを開け、火を点す。カプレに刺さっている蝋燭に火を点けると、ツナの母親が部屋の電気を消した。
「ハッピーバースディ・トゥ・ユゥー…」
全員で歌を歌い、歌い終えるとリボーンが一息で蝋燭を吹き消す。
「おめでとう、リボーン。何のお願いごとをしたの?」
イタリアでは、一息で誕生日の蝋燭を吹き消せると願いが叶うという言い伝えがある。リボーンはにやりと笑ってツナを見た。
「もちろん、ツナがりっぱな十代目になるように、だぞ」
「その願い、永遠に叶わなくていいよ…」
「やっぱりそうなんだ。今度はツナの番よ」
「え、いいよ!切り分けちゃって!」
ツナは恥ずかしがって手を横に振る。自分から誕生日を教えた格好になってしまったことを気にしているのかもしれない。
「そう?分かったわ」
は全く気にせずに、カプレにナイフを入れた。スフォリアテッレとカンノーリを添えて、一番最初にリボーンに手渡した。次にツナに。
「ありがとな」
「ありがとう、さん」
「ケーキ!ケーキ!」
はしゃいでいるランボにビアンキが一瞥を投げかける。とたんに静かになった。びくびくしているランボにはケーキを差し出す。
「ほら、ランボの分だよ」
「…ケーキだ!」
三つもお菓子が乗った皿にランボは夢中になって、がつがつとお菓子を食べ始めた。全員にお菓子を渡すと、一瞬静かになった。そしてその後、さまざまに声が上がる。
「さすがだわ。美味しい」
「本当です!どれもすっごく美味しいですね」
「ありがとう」
ビアンキとハルに褒められ、は柔らかに笑ってみせた。後ろにうずくまったままの獄寺に近寄って、顔を寄せる。
「ちゃんとハヤトの分はあるからね。後で食べてね」
「ありがとう、ございます…」
獄寺はいくぶん頬を染めたが、それでもやはり顔色は悪い。
「やっぱのドルチェは美味ぇな。95点だぞ」
「ありがとう、リボーン」
次に披露したビアンキの新技によってツナの部屋が壊滅状態になったり、死ぬ気でツナがマジックを披露して入院するのは、これからすぐ後のことだった。
さん、いかがだったでしょうか。リボーンのお誕生日編。次はいよいよ跳ね馬の出番です!あー楽しみー。
カプレってのは、ナポリ地方のチョコレートケーキです。食べてみたい。
お付き合い有難う御座いました。多謝。
2006 4 12 忍野桜拝