split the wind
結局、陸は盤戸戦に出ることは叶わなかった。試合前のように焦ったり苛立ったりなどせず、陸はそれをそのまま受け入れている。
「へえ、今度が決勝なのか」
朝練が基本だと本人から聞かされていた陸が夕方のグラウンドでも練習していたに声をかけると、はやや疲れた表情で微かに笑った。
「そうなんだよ、次の日曜が王城との決勝。去年はもうちょっとってとこで負けちゃったらしいんだけど、今年は勝つから!」
「またウチのグラウンドで試合するのか?」
「ううん、違うよ。どこだっけなぁ。うーん」
暮れかけた寮への帰り道、アメフト部の寮と女子の寮は少し離れているがもちろん方角は同じだ。考え込みながら首を傾げたの肩からずるりとバッグが落ちそうになり慌てて陸が片手で掴む。
「おいちゃんと持て、落ちそうになってんぞ」
「へ?あ、あー…ありがと」
よいしょと部活の荷物や勉強道具の入った通学バッグを抱えなおし、大事なスティックの入ったバッグもきっちり持ち直した。自分より小柄な身体で自分より大荷物(陸は通学バッグ一つだ)のから、陸は通学バッグを無理やり奪い取る。
「え、ちょ、甲斐谷?重くない?」
「いいから貸せ、寮なんてすぐだろ」
取り返そうとするの腕をかわして陸が答えると、はぱちぱちと瞬きをしてすぐ笑った。腕を引っ込める。
「うん、ありがとー。えっとね、試合会場思い出したらすぐ教えるから、…って明日土曜だ、学校無いよね」
「」
どうしよっか、比奈先輩ならキッド先輩とメールしてるから…と言い出したの言葉を不意に陸が遮った。
「ん?」
「……じゃあメアド教えるからさ、思い出したらメールくれよ」
「それもそうだね、わざわざ比奈先輩とかキッド先輩に手間かけさせちゃダメだよね。ん、バッグありがと」
女子寮の手前ではバッグを受け取り、携帯電話を取り出す。水色の携帯電話にはいくつかのストラップがついていた。
「これが俺のアドレス。明日中だったらいつでもいいからさ」
「ってことは甲斐谷、応援に来てくれんの?」
ようやくそのことに思い当たったが真っ直ぐに陸を見返して尋ねると、陸は気まずそうに視線を逸らす。あー、うー、と小さく唸ってからぼそぼそと答えた。
「いや、まあ、お前の走り一回しか見てねぇし…参考になるかもしれねえし、キッド先輩ちらっと行くとか言ってた気ィするし」
「そっかー、キッド先輩は分かんないけど、比奈先輩は来てくれるって言ってたよ。一緒に来てくれるのかなー」
いかにも楽しそうなの様子に陸は微かに眉根を寄せる。は井芹が言うまでもなくアメフト部の部員の中では一番キッドに懐いていた。というよりマネージャーでチアリーダーの比奈に懐いているのでその流れだった。
「一緒かは分かんねえけど、俺も、見に行くから。…頑張れよ」
ようやく目線を合わせた陸が小さくそう言うと、はぱっと顔を綻ばせる。落ちかかった夕陽の強い光が指して、陰影を濃く見せていた。
「ありがと!頑張るよ、絶対勝つから見てて!」
「ああ。じゃあな」
「うん!ばいばい!」
元気良く手を振ったが女子寮へ入り、寮生たちと話しているのを横目で見ながら陸はそのままアメフト部の男子寮へ帰宅する。が、今度はこちらでも寮生──つまりはアメフト部員に囲まれた。
「いやー陸とちゃんが通学路デートする仲になってたなんて俺知らなかったなー」
がしっと井芹が陸の肩を掴んで逃亡を阻止する。
「お前いつの間に上手くやったわけ?」
「さーさっさと吐けとっとと吐け」
「妹みたいで可愛い、つってるヤツいるんだよなァ結構」
「キャプのクラスにもいるんだ、オレのとこにもいますよ」
ざっとレギュラーメンバーに囲まれた(キッドと鉄馬は離れたソファから注視している)陸はたじろいでじりっと後退ろうとした。
「いや、ただ帰る時にたまたま見かけて…」
「たまたま見かけてメルアド聞くとかさすだだよなー陸」
逃がさないとばかりに井芹の反対側から波多がさらに肩を掴んで顔を寄せる。いささかうんざりした表情で陸はようやく口を開いた。
「……つーか先輩らどこから見てたんですか。それに聞いたんじゃなくて教えたんですよ」
「自分から教えるとか意外にお前アグレッシブだな」
「もっとこう…待ちの姿勢つか陸くんは硬派なのかと思ってたぜ」
「……意味不明なイメージ止めて下さいよ、つうかマジ、何も無いんで勘弁して下さい」
「何も無い、ねぇ。バッグ二つ抱えてなかなかのナイトっぷりだったみたいだけど」
今までずっと場を見守ってたキッドからぽいと爆弾が落とされて、陸はばっと勢い良くキッドと鉄馬のいるソファに向き直る。
「キッドさん!?マジどこから見てたんですか……」
「いやいや、見てたわけじゃないよ。ちょっと重たそうなちゃんのバッグを陸が持ってあげてるところを見かけただけでねぇ」
「揃いも揃ってなにやってんですか、どんだけ暇なんだ」
「まーまーそう言うなって、な?……で、どうなの」
さらに追求しようと顔を寄せてくる井芹を両手で追いやった。陸ははぁ、とため息を一つ落とす。
「……言っときますけど、別にその…先輩たちが考えてるようなことは無いですからね。アイツは単なるクラスメイトですし」
「そりゃそうだ。そういやキッドもあの子と仲良かったよな、けっこう懐いてるっぽかったし」
「波多、お前まで何言ってんの。そりゃ相内が可愛がってるからよく話すけどねえ。ま、妹みたいなもんじゃない?」
おれ妹いないから、とさらりと返してカウボーイ・ハットを被り直した途端にピリピリと陸の携帯が鳴った。
「お?もしかして?」
「……そのもしかですけど」
送信者を確認した陸の声に再びレギュラ−陣が群がる。陸の両腕をがっちりホールドした後、携帯を取り上げた。もはや陸は諦めきった表情を浮かべている。さっきメルアドを交わしたばかりの相手、しかも最近少しだけよく話すようになった程度の間柄だ、見られて恥ずかしいメールが来るはずもない。
「えーっと…『試合会場は王城大学のグラウンドだって!時間早いけど大丈夫?八時だよ?もし来れそうだったら応援に来てね、絶対優勝するから!あと、キッド先輩来れそうか分かる?比奈先輩がメール来ないって言っててさ、甲斐谷なら分かる?』……確かにこりゃぁクラスメイトだわ」
「キッド、お前相内からのメールシカトしてんのか?」
「シカトって人聞き悪いな…あ、ほんとだ、来てるねえ。いっつも音とか鳴らないから気づかないんだよね」
のんびりとキッドは携帯を確認して悪かったかねえ、と呟く。
「陸」
「あ、はい」
「メール、返すんでしょ?おれも鉄馬も行くって言っておいて。あと相内のメールには今気づいたって」
「分かりました、伝えておきます」
ようやく解放された両腕を軽く振って、陸は携帯を取り戻した。
「陸ー」
「はい?」
一年の部屋がある三階に上がろうとした陸を呼び止めたのは井芹だった。陸が振り向くとにやりと笑う。
「進展あったら報告しろよー」
「無いです。つか万が一あっても報告なんてしませんからね」
「うっわ可愛気ねェな!ンなこと言って知らねえよ?おれら勝手に調べるからなー」
「そーそー追跡調査なっ」
「暇人め……」
陸はぼそりと言いながら階段を上った。部屋へと戻り、ようやくのことで直にメールを確認する。さきほど波多が告げていたメールのタイトルは『甲斐谷へ』だった。
「クラスメイト、に決まってンだろ」
誰に言うでもなしに呟いてぽちぽちとキーを押して返信メールを作る。そういえば同学年の女子にメールを送るなんて久しぶりだな、と思いながら。
甲斐谷と寮まで一緒だったことを寮生に尋ねられていたは相内の助けでその場から抜け出して、そのまま相内の部屋へと招かれていた。
「にしてもびっくりしましたよー」
「どうしたの?」
「甲斐谷ですよ甲斐谷!みんなに人気あるんですね」
「……みたいね」
すごいなーと無邪気に繰り返すに相内はふうと小さくため息をつく。
「はどうなの?」
「へっ?どうなのって?」
「陸のことよ。『みんなに人気のある甲斐谷陸』を、はどう思ってるの?」
きょとんと目を丸くしているの対面に座って、相内はミルクココアの入ったマグカップを二つテーブルに置いた。
「どうって…アメフト好きなんだろうなーとか」
「うん。それはすごく好きだと思うけどね、熱心だもの」
左手の指を親指から折って数えながらは続ける。
「頭良いから羨ましいなーとか、アメフト頑張ってるんだろうなーとか、あと何だろう…?」
「みんなみたいにカッコいいとか可愛いとか彼女になりたいとか、そういうのはないんだ」
「ええ!?それは無いですよ、だってあたしラクロスのことでいっぱいですもん。それに……」
大仰に手を振って恥ずかしそうにしたかと思えば、すぐさましゅんと俯いてしまった。相内が覗き込むようにして顔を寄せると小さな声でぼそぼそと続ける。
「可愛くもないし、女の子らしくもないし、男子より足速い女の子が彼女とか、何か嫌なんじゃないかな……」
「陸が?」
「甲斐谷とかじゃなくて、男子が。お料理とか出来ないし、可愛い格好とかもしないし、お化粧とかよく分からないし、全然女の子らしくないから」
ふむ、と相内は腕を組んで目の前で縮こまってしまった後輩を見下ろす。元がたいそう小さいので縮こまるとさらにミニマムだ。
「前にそういうことを誰かに言われたの?イジワルな男の子でもいた?」
「言われたわけじゃないですけど、周り見てると皆可愛いから…高校上がったらなんか皆急に大人っぽくなったし…」
相内の所属するチアリーディング部は西部きっての美女揃い、と自慢して憚らないほどレベルが高い。女子ラクロス部もレベルが高いとどうやら関東圏では有名で、女の子らしくないと縮こまっているの名前もそこそこ有名だった。西部のルーキーエース、という意味でもあったがどうやら上級生からの人気がやけに高い。
「そんなこと気にしないでのことを可愛いって言ってくれる子が必ずいるから、大丈夫よ」
少なくとも、数人に心当たりはある。相内がよしよしと頭を撫でてやるとは小動物じみた動きでそっと顔を上げた。
「うう…ミス西部に言われると嬉しいような慰めにあんまなってないような、複雑な気がします…」
「あはは、大丈夫、ホントだから。だって、可愛いもの。こんな可愛い子を放っとくなんてウチの男どもは馬鹿ねー」
相内が尚も頭を撫でて髪を梳いてやっていた時、携帯の電子音が鳴る。
「あ、甲斐谷かも。さっきメールしたんです」
拘り無く相内の前で携帯を開き、メールを確認する。ひょいと相内が覗き込むと差出人は確かに陸だった。
差出人:甲斐谷
件名:分かった
本文:王城大学のグラウンドで八時開始だな、分かった。キッドさんと鉄馬さんも行くって言ってる。比奈先輩のメールには今気づいたって言ってたぞ、サイレントだから分からなかったってさ。お前から謝っといてくれ。王城に八時ならけっこう朝早いんだろ、お前こそ間に合うのか?
遅刻常習犯の陸がこちらも寝坊常習犯のを心配している文面がおかしくて、相内は笑いを堪えて目をそらす。そういえばそんなところもこの二人は似ていた。
「間に合うのかっていうか間に合わないと今度こそキャプテンに殺されちゃうよ…」
「そうね、確かにそろそろヤバイわね」
「うッ……いっつも目覚ましはちゃんとかけてるし携帯のアラームも鳴らしてるんです、起きたと思うんだけど気づいたら集合時間とか過ぎちゃってて…」
王城大学のグラウンドで行われる試合は確かに八時開始だが、その前のウォーミングアップや整備の時間を含めて六時には学校の正門に集合することになっている。もともと応援に行く予定だった相内は全てスケジュールを知っていたし、を起こしに行くのも簡単なことではあった。が。
「そうだ、陸にモーニングコールしてもらったら?」
「え、そんなの悪いですよ、だって八時よりずっと早いし」
「大丈夫、私からだって言っておいて、ほら」
「え、ええー……ホントに平気かなぁ」
せっつかれるままには返信を打ち始め、相内のオッケーをもらってから送信した。
「陸もいい加減遅刻が多いからね、練習よ練習」
「練習に付き合ってくれるといいんですけど、甲斐谷」
そして試合当日、早朝。相内から事の次第を詳細に知らされたキッドは、何ということは無いのにとほぼ同じ時間に起きてしまった。
「困ったねぇ……いくら何でも早過ぎる」
さてどうしたものか、とキッドが身体を起こした途端。けたたましいアラーム音が何層と織り交ぜられて聞こえてきた。
「……なるほど、これでキャプを起こしちゃったのか」
部屋をいくつ挟んでいてもこの音量では起きてしまうだろう。少しだけならともかく、延々と鳴っていたのでは。陸の部屋には確か目覚まし時計が三つあったし、さらに携帯電話だの何だのとアラーム音を増やしているだろう、音色はなかなかにバリエーションがあった。
ベッドの上でキッドが様子を伺うこと暫く。ややあってアラーム音はぴたりと止んだ。牛島や他の誰かが怒鳴り込んだ様子も無い。
「これじゃおれの出番は無いかもねぇ」
相内がを通して陸に与えたらしい『練習』とやらの中身もキッドは知らされている。このタイミングでアラーム音が鳴って、すぐにぴたりと止んだなら練習の出来は上々だったらしい。
「まあ、良かったってことで」
ベッドに起こしていた上体を沈め、後頭部で手を組む。静かなアメフト部の寮内で何か話し声のようなものが聞こえ、そして止む。今はまだ朝日も昇っていない時間、八時前に王城へ着くなら遅くとも七時には起きていないと間に合わないだろう。おそらく陸はまた寝てしまうだろうから、今度が本当に出番なのだろうとキッドは苦笑いを浮かべながら軽く目を閉じた。
王城へと向かう電車の中、はついさっき受けた電話を思い出して小さく笑う。陸は相内の言う『練習』に付き合ってくれて、ちゃんと起きる予定の時間に電話をくれたのだ。
『…もしもし。甲斐谷、だけど』
「あー…うん、おはよう甲斐谷」
『お前眠そうだな、電話切ってまた寝るなよ?』
「うん…頑張る……」
『決勝なんだろ。俺はラクロスのことあんまり分からねえし相手チームのこともよく分からねえけどさ』
「……うん?」
『お前がこの前みたいに走ってりゃ、勝てるって思うからさ。遅れねえように頑張れ』
「うん……ありがと甲斐谷」
『…別に。比奈先輩が遅刻癖無くせって言うのも当然だしな、応援してやるって言ったの俺だし』
「でもありがとう。なんかね、目が覚めたし元気出てきた」
『単純なヤツだな。…まあいい。目ェ覚めたんなら切るぞ。とっと用意しろ』
「はぁーい。ホントありがとう、試合見に来てね、絶対勝つから!」
女の子らしくないだの何だの、相内に愚痴を思わず言ってしまった一昨日のことなんて、もうどうでもよくなっていた。可愛いとか可愛くないとか、そんなことよりもっともっと大事なことを陸は に教えてくれたのだ。
ラクロスの試合を見て、 の武器である足の速さを体感して、そして陸はにお前の力があれば勝てると言ってくれた。今まで頑張ってきたことをストレートに肯定されたのが嬉しくて、しかもあのキッドたちが一目置く後輩の陸が認めてくれたのだから、単なるクラスメイトに徒競走を褒められるのとはワケが違う。
「、どうしたの?なんか嬉しそうね、朝に弱いアンタが」
「んー今日は調子良いんですよ、あたし。まだ走ってないけどそんな気がするんです」
一年エースの頼もしい言葉に車内に詰まっているラクロス部員がどっと沸く。
「そりゃ頼もしいわね」
「今なら大学生相手でも点が取れそうなぐらいですよ」
半ば本気だったの言葉にまたも車内は沸いて、そのままにぎやかに王城大学前へと到着した。大所帯の西部ラクロス部は試合に参加できるメンバー、三十名ほどが移動中だ。応援部隊である二十数名は後からやってくることになっている。その際、相内たちも来るらしい。
「おっきなグラウンドだなー。うー走りたいっ」
うずうずし始めたの首根っこを掴んだのはキャプテンで、ウォーミングアップが先!とそのままを引っ張っていく。そんなにぎやかな王城大学グラウンドの外周を、走っている集団があった。
「ずいぶん賑やかですね」
「今日は女子ラクロス部の試合らしいよ。なんでも決勝で西部と当たるらしくてね、同じクラスにキャプテンがいるんだが張り切っていたな」
「へえ……」
桜庭は高見にそう相槌を打ちながらグラウンドを見やる。確かに大学グラウンドにはたくさんの女子が集まってきていた。
「強いんですか、ウチの女子ラクロス部。決勝って都大会とかじゃないですよね」
「関東大会の決勝、だね。去年の春大会はウチが優勝したらしいんだが、去年の秋からすごい選手が出てきたって言ってたなぁ。小さくてすごく足が速いんだってさ。まるでどこかの誰かさんみたいにね」
「泥門のアイシールド21のことですか?まさかあれほど速い女子なんていませんよ」
「確かにね」
そう笑いあった、一時間後。休憩がてらに女子ラクロス部の試合を校舎からぼんやり眺めていた桜庭は忙しなくまばたきを繰り返す。
「高見さん、ちょ、双眼鏡持ってません、オペラグラス!」
「え?部室に戻ればあるけど、どうしたんだい?」
「さっき高見さんが言ってた女子、多分あの子だと思うんですけど、すごい速いんですよ、アイシールドかってぐらい」
「ええ?…………ホントだ。進、背番号とか見える?」
休息もそこそこに校舎の壁で筋トレをしていた進に高見が選手を指差した。進は微かに目を凝らし、やがて目を見張る。
「走るのに必要な、無駄の無い素晴らしい足をしている。泥門の21番よりは少し骨が細そうですが」
「いやいやいや体格じゃないよ進、背番号。ユニフォームに書いてない?名前とか」
「女子にそれ言ったらセクハラぎりぎりじゃないかなあ」
「背番号は10、名前らしいものは書いていないようです」
っていうかよくこの距離で番号とか見えるよなぁ…と感心しているのか呆れているのか分からない桜庭の声をよそに、進はじっとグラウンドに目を凝らした。アイシールドと速度は似通っているが走法があまりに違う。ただ、初速の速さは近い気がした。
「あれ、そういえばあれって西部の早撃ちキッドじゃないですか?ほらあれ、あの帽子」
「……何しに来てって応援か。へえキッドも女子の応援に来たりするんだねえ。桜庭、進、ちょっとグラウンド行ってみるかい?」
校舎からそんな会話が交わされているとは知らない、グラウンドの隅ではキッド・鉄馬・陸が女子の集団に押されながら試合を見守っている。相内は共にやってきたのだが張り切って他のラクロス部員と共に応援しているので、男子三人にはちょっと近づきがたかった。
「に、してもすごいねえちゃん」
「ホント誰も止められないってあーいうことを言うんでしょうね」
陸が慣れない早起きをして起こしたは、それはもう楽しくてたまらない、という表情で相手陣内のグラウンドを駆け回っている。走り始めてからスピードに乗るまでが他の選手とは格段に違うので、捕まえるチャンスが相手方の誰にも訪れないのだ。
「キッドさん」
「うん?」
「俺、この間の盤戸戦前にどうしてもアイツみたいに走れるようになりたくて、馬鹿やったんですよ」
「……ああ、うん」
「本当に馬鹿ですよね。たった五日かそこいらであんな走り、出来るわけないのに。俺だって今みたいに走れるようになるまで研究したし練習したってのに、何で忘れてたんだろ」
キッドは陸の言葉に何も答えなかった。ただ自分の被っていたステットソンを脱いで、ぱさりと陸の頭に乗せる。
「キッドさん?」
「あの子が今もそのことを気にしているとは思わないんでしょ、陸は」
「それは、そうっすけど。アイツ本当にころっと機嫌変わるっつーか…なんつーか」
肩に力が入っていたら速くなんて走れない、甲斐谷は頭が良いんだから普段じゃそんなこと言わないはず、焦る気持ちは分かるけど、と怒った直後に陸を気遣ったのは当のだった。秋の空と比べ物になどならない、変わり様だ。
「女の子だからねぇ。ま、陸もあんまり気にしなくていいんじゃない?ああまで楽しそうに走ってるの見てたらそんな必要ないって分かるだろう?」
「……そうですね。ホント、アイツすげーな…」
楽しそうにスティックを操りながら走る。点を次々と決めては嬉しそうに他の選手とクロスを交えて打ち鳴らす。先々週に陸が見て驚いたあの強烈なチャントさえ、今はもう選手たちのBGMにしか思えない。西部の女子ラクロス部は中高合同、高校生でトップチームは構成されているが高校一年で出ているのはだけだ。一番下のはずなのに、堂々と、楽しそうにプレーする姿が羨ましくて陸はキッドのステットソンを自分から深く被った。
「よ、キッド。盤戸戦は見させてもらったよ」
「……おたくらかい」
「……!」
王城のレギュラーメンバー、QBの高見、WRの桜庭、LBの進が揃ってやってきて陸はぴくりと背を正す。キッドはのんびりとした表情を崩さない。
「面白そうなものをやっているようだからちょっとね。そちらは応援に来たのかな」
「まあ、ウチのマネージャーが女ラクと親しいってのもあるし、たまには別のスポーツを見るのも悪くないんじゃないかな」
「そうかもしれない。にしても、そちらにすごい選手がいるね。背番号10、知ってる子?」
高見が細長い指ですっと示したのはの背だ。また点を決めて、仲間と喜び合っている。
「さて…マネージャーは詳しいんじゃないかな。呼ぶかい?」
陸がキッドの台詞に驚いてキッドを見上げた。高見はその様子をつぶさに見やって、首をすくめた。
「いや。それには及ばない。春大会の決勝、これが前哨戦になりそうだね」
「……対戦カードだけなら、そうだろうねえ。結果が同じようになるとは思えないけれど」
対戦結果。もう後半の残り五分に差し掛かっていたが、西部の圧勝と言っていい。
「進?さっきからどうしたの、そんなにあの選手気になるの?」
桜庭の少し高い、何やら暗雲垂れ込めているQB同士の会話とは全く違う柔らかな声に陸はすっとそちらを見上げる。王城の進清十郎。高校アメフト界で知らぬ者などない、超高校級プレーヤー。
その進は陸の目の前で、試合中のグラウンドをじっと見つめていた。ただ一点、の背だけを。
「泥門の21番とは走法が違いすぎるが、速度は似ている。初速がそもそも速い上に、トップスピードに至るまでが速いのだろう、おまけにあの棒」
「あークロスね、あれはクロスっていうラクロスの道具」
「棒を左右に振る上体の運動そのものが、上手く腰に回転を与える役割を果たしているのだろうな。なかなかに興味深い走りだ」
「へえ。進がそこまで言うなんて初めてかもね、おまけに女子スポーツで」
「女子?」
「……いや女子だよ、女子ラクロスだってば!周り皆女の子でしょ」
今気づいた、という風に進は周りを微かに見て、そうなのか、と低く漏らした。
「いやお前…あからさまに違うでしょ女の子と男だったら。そりゃあの子はそこらへんの男より足速そうだけど、普通に女の子だよ?ぱっと見ちょっと可愛いしさ」
桜庭と進のやりとりを聞いていた陸は何となく気まずさを覚えてそっと輪から離れる。高見は呆れたように笑った。
「桜庭、進にそんなことを期待しても無意味だぞ?」
「ですよねー」
軽い笑い声から尚も遠ざかった陸は鉄馬と同じ位置まで下がる。鉄馬は一瞬不思議そうな表情をしたが、ぽん、と陸の頭を帽子ごと叩いただけだった。
「……当たり前、だよな」
誰に言うでもなく呟く。桜庭のさっきの言葉が、耳から離れない。『普通に』『ちょっと可愛い』女の子。陸は詳しく知らないが、桜庭はプロダクション所属のアイドルらしい。妹がいつだったか大騒ぎで陸に聞いてきたので覚えていた。
ファンがたくさんいるらしいアイドルだという桜庭から見て可愛い女子、なのだという。陸にとってはすごいスポーツ選手、ただのクラスメイトにしか思えないが彼にはそう見えるらしい。あの走りを見てもなお。
「そりゃ、そうだけど」
アメフト部の先輩部員たちのように容姿や肢体の好みがはっきりしているわけではないから、陸から見ればもその隣の席に座っている女子も同じクラスメイトの女子に過ぎない。どちらが可愛いだの何だの、考えてみたことは無かった。けれど言われてみれば確かに可愛い…のかもしれない。決してブスだ何だと言われるような顔でないのは分かる。一昨日寮でからかわれたように、可愛いと思う上級生だって本当にいるのだろう。
「………ありがとうございましたッ!」
けれどその人たちはの走りも、それに至るまでの努力の片鱗も、何も知らないのだ、きっと。そう考えると何となく嫌な感じがした。外側だけを見て可愛いだの何だのと盛り上がる、その気持ちを理解できないわけではないが、それではとても不十分で失礼な気さえする。
──何に?
思わず浮かんだ自問に陸はびくりと身体を揺らす。何、を考えていたのだろう。桜庭の言うことがどこか引っかかって、ついついいつもの癖で追究しようとしていただけだったのに、今なにかおかしなことを考えそうになってはいなかったか?
陸が慌てて顔をグラウンドに戻すと、試合はとうに終わっていた。西部高校の、圧勝だ。歓喜の輪の中には満面の笑みを浮かべるがいて、近くに相内もいる。
「良かったな」
素直に、そう思う。いつごろからがあんな風にエースとして信頼される走りを見せていたのかは知らない。知らないが、あの走りにはの練習が積み重なっていて、そしてチームの練習が折り重なって、今の笑顔がある。それだけははっきり分かる。関東一、だという称号もきっとこのチームやに相応しい。
「そうだねえ」
「っ、わぁ!?キッドさん!?」
「おや驚かせちまったかな。そうそう、陸」
「はい?」
いつの間にやら隣に立っていたキッドが嬉しそうに眦を細めてそっと陸に耳打ちした。
「まだ内緒らしいんだけどね、ちゃんMVPじゃないか、って相内が言ってたよ」
「すげ……」
「まあ、あの活躍だったら当然だよねえ。得点王なのは確実らしいから」
のほほんと言いながらキッドは陸からステットソンを回収する。ラクロス選手たちが互いのベンチを行き来して挨拶している間、相内がキッドたちの方へと戻ってきた。
「ねえ見てた!?ほんとすごいんだからあの子!」
「今その話をしてたんだよ、すごいねえって」
そうなの、と興奮気味だった相内は唐突ににやっと笑い、陸に近寄る。
「え?比奈先輩?」
「陸もやれば出来るのね、早起き。安心したわ。今朝ねが言ってたらしいのよ」
「何をですか?」
確かに言われるままにモーニングコールをして、励ましみたいなことを言ってはみたが女子が喜ぶことを言ったわけではない…と陸が訝しむと相内は綺麗に笑った。
「自分の力を誰かが信じてくれるってすごく嬉しいことだったんだ、ですって。はそれを聞いてすごく嬉しくて、今日はいくらでも走れる気分になったって言ってたわ。これ、陸のことでしょ?」
「──ッ、あ…いや…えーっと」
かあ、と顔が赤くなっていくのが陸は自分でもよく分かった。何かよく分からないが、とても恥ずかしい気になって、思わず駆け出そうとした、が。
「比奈先輩!あ、キッド先輩、鉄馬先輩、甲斐谷!」
声に縫いとめられたように、足がそこで止まってしまう。
「比奈先輩、応援ありがとうございます!キッド先輩も鉄馬先輩も来てくれてありがとうございます!」
「頑張ってたわね〜〜えらいっ」
「きゃあ!比奈先輩、苦し、苦しいですよう」
ぎゅうぎゅうと相内に抱きしめられたはやはり疲れた顔をしていたが、とても嬉しそうで、陸と目が合ってほにゃんと笑う。
「あ……」
可愛い、という意味がようやく分かった気がした。直視しづらくなって目線をそらす。
「甲斐谷、甲斐谷っ」
相内のハグから逃れたはぱっと陸の前に現れて、やはりさっきと同じように幸せそうに笑った。かあ、と体温が上がる気がして陸は思わず目線をまた逸らしてしまう。
「…お疲れ。頑張ってた、な」
「うん、甲斐谷のおかげ!」
「別に…お前とチームが頑張ったから、だろ」
チームの勝利は個々の努力とチーム全体の努力の結晶だ。そう思っている陸がぶっきらぼうに言い返すと目の前では結わえている長い髪を振るように、首を横に振った。
「ううん、朝起こしてもらっちゃったし。元気もらったし。頑張れたの甲斐谷のおかげだから、ありがとね」
ホントありがとう、とは唐突に腕を伸ばしてスティックを握ったままの腕で陸の手を取り、一方的に掴んでぶんぶんと振る。
「あ、ああ……」
「甲斐谷が出る試合、あたし絶対応援に行くから!朝だってお返しに起こしてあげるから!」
「それは助かるわ、ねえキッド?」
「確かにね。頼むよ、ちゃん」
「はい!任せて下さい」
知らず、解かれていた手がぼんやりと熱を残していた。陸は解かれたまま、開いている手に目を落とす。いきなり自分の手を握った の手はプレイ中につけているオープングローブのままで、指先だけがひどく冷たかった。
「そういえばキッド先輩、ひょっとしてあの人たち…またアメフト部の人ですか?王城の?」
「おや、よく分かったねえ」
「…前の巨深戦でも似た感じの人たちがいたんで。あの人たちよりでかかったですけど、筧って人と水町って人は」
突然水町に担ぎ上げられたことが不服なので、どことなくの言葉はそっけない。キッドは苦笑して相内と目線を合わせた。
「いやさっきね、あちらさんに紹介しろって言われてるんだよねえ。どうする?」
「どうするも何ももうバレバレじゃない、呼んだら?」
「はいはい。ちゃん、もうちょっといいかい?君のプレーに興味あるっていうヤツらがいてね」
「大丈夫、王城なら大体のメンバーは紳士だから」
微かに戸惑うの両肩を相内がぽんぽんと叩き、そっと鉄馬が寄り添う。陸も慌てて傍に寄った。
「甲斐谷、知ってる?あの人たち」
「一応名前とプレースタイルなら知ってるよ。こないだみたいなことにはならねえと思うけど」
「そっか。にしてもアメフトの人たちって随分研究熱心なんだね。やっぱ足が速いのってアメフトでもすごい武器になるんだ」
が安心半ば、感心半ばで頷いていたときキッドが三人を連れて戻ってくる。
「初めまして。王城ホワイトナイツの高見伊知郎です。試合、お疲れ様」
「あ、はい…はじめまして。西部ラピッドファイアの、です……」
差し出された手におずおずとは手を重ねた。
「試合で疲れているところに済まないね。それにしても本当に君のプレースタイルは興味深いよ。おれよりずっと足が速そうだ」
「ね、俺よりも速そうですよ。進なんか泥門のアイシールドぐらい速いつって大変で…。ああ、ごめん、王城の桜庭です。桜庭春人。こっちが進清十郎、俺たちは二年で高見さんは三年なんだ」
「ああ。良ければ、40ヤードのタイムを教えて欲しいんだが」
またそれだ、とはやや眉を寄せる。巨深の筧といい、王城の進といい、全く同じだ。本当にアメフト部員というのは変わり者揃いなのだろうか。
「あたしは40ヤードって単位で計ったこと無いんで、50メートルでよければ。クレードルしながらだと6秒4です。してなかったらもうちょっと遅いですね、多分」
「40ヤードだとおよそ4秒8、だね」
キッドが横から換算して教えると高見は驚きのあまり眼鏡を掛けなおし、桜庭は膝をつくようにして屈んでまじまじとを見つめた。
「4秒8!?俺と0.1しか変わんないの!?…こんなちっこくて可愛いのにすっごいね!」
「え、あ、……可愛くとかないです、ホント、えっと」
いかにも王子様然とした桜庭に正面切って言われたは大慌てで両手を振り、固辞するように首をぶんぶんと振る。うっすらと頬が赤い。
「可愛いのにそんなこと言ってたらもったいないよ、ってそういう話じゃないや。でも本当にそのタイムすごいね、そりゃ誰も止められないわけだよね」
桜庭の言葉にはうっすらと赤らめた顔を俯かせて、きゅっと手を握りしめた。
「……あたし、小さいから力も弱くて。後ろからチェック入れられたらボール落としちゃうんです。足だけは元々速かったから、誰もチェック入れられないぐらい速く走れば、誰もあたしを止められない。そしたらシュートだってパスだって出来る。あたしには本当にそれしか無いの」
「己の特性を鑑みてそれを伸ばすのは重要なことだろう。お前の選択は間違っていない」
「進の言う通りだとおれも思うけどね。何物にも触れられない、速さってのはそういう強さを持つんだ。君の走法についてもっと詳しく聞きたいところだけれど、そろそろバレそうだし、今日のところはこれで」
「バレそう?」
が不思議そうに尋ねると、桜庭がハッと表情を硬くする。
「いやこっちの話、じゃあまたねっ」
言葉尻を途切れさせながら桜庭は即座に走ってグラウンドから出て行ってしまった。後を負うように、桜庭くーん!と黄色い声の集団が続く。
「……すごい、何アレ。有名人?王城のアメフト部ってファンクラブとかあったりするの?」
隣にいた陸には驚きいっぱいで尋ねたのだが、答えたのは高見だった。
「ジャリプロっていうとこに桜庭は所属しててね、アイドル…みたいなもんなんだ。コアなファンじゃなくても、ああいうことは多くてね」
「へー…アイドルでアメフト選手。なんだかすごいですね。アイドルの仕事とアメフトの練習、両方やってたらすごい大変そう」
「だと思うよ、おれも。じゃあおれたちもこれで。ラクロスは春大会の次は秋大会だったよね」
「ええ。オータムカップが本番です」
「了解、今度の試合もぜひ見に行くよ。じゃあね」
高見とともに進も去っていく。すっかり人の少なくなったグラウンドで、相内がぱちんとの両頬に手を当てた。
「ほら言ったでしょ、は可愛いって!ちゃんと分かる男には分かるのよ。はああいうのどう?桜庭くんみたいなの。アイドルとかそういうのは置いておいて」
「え、えええ!?比奈先輩、こないだからそんな話ばっかり!…だってあの人芸能人だから、そういうの慣れてるんですよ、多分。それに、別にそういうの要らないって分かったんです、あたし」
「要らない?」
「可愛いとか女の子らしいとか、そういうのとりあえず別にいいやって。だってあたしが頑張ってきたこととか見ててくれて、あたしの力を信じて応援してくれる人がいっぱいいてくれるの、すごーく幸せなことなんだなって分かったんです。それに応えられるようにもっと頑張りたいから」
外見や歳相応の女らしさ、そんなものが全く欲しくないわけではない。でも、そんなものよりもっと大事なものを今自分はもらっているのだと、思う。
自分の走りを認めてくれる人たちがいる、別スポーツの男子選手でさえ手放しで褒めてくれるその力をもっと磨くべきで、外見を繕うことなんて今は要らない。相内のように親身になって応援してくれる人がいて、陸やキッドたちのように実力あるスポーツ選手たちが認めてくれる、その事実が嬉しくて。
「……」
相内はの両頬からそっと手を離し、ぎゅむっと抱きしめる。女子スポーツ選手なら、誰だって揺れることだ。可愛くありたい、でも強くなりたい。それはなかなか両立しない問題で、挫折の一端になることさえある。チアリーディングはある種の美しさも問われるから辛うじて両立しやすい方ではあるのだが、大きなフィールドを所狭しと走り回るラクロスというスポーツはそうではない。
「比奈先輩?」
「はすごいね、ホント、強い。おまけに男前だから、私が男だったら絶対惚れてるわよ」
「あはは……比奈先輩みたいな美人さんが彼女とか楽しそうですね」
いや何か噛み合ってない、と陸は心内でツッコミを入れながらふうとため息をついた。が陸の言葉を最大限に受け取ってくれたのは本当に嬉しかったし、それで元気になったと言ってくれたのも嬉しかった。けれど桜庭の前で見せた照れた姿、さきほど相内に抱きしめられてこぼした笑顔。
女の子なのだ、とようやく思った。
クラスメイトの女子なのだから当然だが、QBの高見と握手していたときに露骨だった手の小ささ。線の細さ。陸にとって今までも女性は守るべきものだったし、その筆頭は妹だった。妹と同じではなくとも、同じように彼女は小さくて細くて、守る必要のある女の子なのだ、とはっきり思った。
守りたい、泣かせたくない。
妹と同じようにそう思う一方で、妹とは違うベクトルで確かに可愛いとはっきり思う。これはもう、認めなくてはならないのかもしれない。
「でもホント、当分は恋とかそういうの要らないです」
──恋、なのかもしれない。
「だってラクロスしてたら三年間もあっという間ですもん、きっと。そしたら大学でラクロスしたいし、社会人のチームにも入りたいし。代表にも選ばれたいし」
が延々と未来予想図を語る中で、陸は静かに口の端を上げた。これは恋なのかもしれない。たった今、本人が要らないと捨てた、恋、だ。
とりあえず気づいたのは陸が最初。王城メンバーの参戦予定は未定。高見か桜庭、かな…?
お付き合い有難う御座いました。多謝。
2009 12 20 忍野桜拝