白の舞姫 第三話
学校でルキアに会ってもルキアが塞ぎこんだ表情だったのが気にかかって、は一護の家を訪ねようかと考えていた。そこでならルキアとゆっくり話が出来るだろう。
「明日は委員会だし、今日行こうかな」
夕御飯を食べた後に家を出ようとしたが感じたのは、あまりに強く濃い霊気の固まりだった。二つ。近づいてきたわけではなく、突如として空座町に現れた霊気の固まり。人のようにも思えたが、気配が人のものではなかった。
「…」
玄関で立ち尽くしていたに祖父の勇人が声をかける。
「お祖父ちゃん、これって」
「おそらく、上位の死神が来たのだろう。仮面(虚)もいないのにこれほど力の強い死神が現世に来るなど滅多にないことだが」
死神。ルキアは空座町担当の死神で、一護に力を授与してしまったのだという。そしてルキアは力を失い罪人になった。
『このようなこと、ずっと続けてはいられない』
いつだったか、ルキアは変に明るい表情でにそう告げたことがあった。
『いずれは尸魂界にこのことは露見し、私を捕らえに死神が来るだろう』
今、このときがそうなのではないか?ルキアを捕らえに死神が来た?
そう思った途端、は家を飛び出していた。ただ、ルキアのところへ。
「…石田くん!?」
ルキアの傍にはさっきいきなり現れた霊気の固まりが二つあった。そしてなぜか石田の気配までもあったのだ。
『滅却師というのは死神を憎んでおるだろう』
勇人の声が脳内で響く。
『彼らは死神に滅ぼされた一族。死神と相容れることは…難しいであろうな』
滅却師に会ったことを話すと、勇人は滅却師の概要を話してくれた。彼らは死神に滅ぼされ、絶えたのだという。
そんな石田が死神の傍にいるとしたら、喧嘩を売りかねない。石田は普段大人しく頭が良いのに、こと死神に関するとプライドが擽られるのか、好戦的になることがあるのだとルキアは言っていた。
「自分を倒した相手の名前ぐらいは知っておきたいだろうからね!」
「…決定だ!てめぇーは殺す!!!」
「止せ!恋次!!石田!!」
石田とルキアの声、そして誰か知らない人の声。
が駆けつけたとき、石田は血を流していた。
「石田くん!」
「さん…なぜ…」
「ルキアに会いに来たの。ちょっと血止めするから横になって」
大きな刀傷を布で縛り上げて止血する。乱暴だが、血を止める方法が無かった。
「お前誰だ。なんでここにいる?俺たちが見えてるんだろう?」
石田の治療をするの喉下に刃が突きつけられる。は平然と刀を構える死神を見上げた。
「私は。ルキアに会いに来たのよ。あなたたちがルキアを連れて帰るだろうから」
「家の者か…」
白哉がかすかに眉を顰める。恋次はいらいらと髪をかきむしった。
「同級生とかいうのはそこまで情深いもんかね。お前も俺らと戦うつもりか?」
「…戦ってもいいけど、私の役目はあなたと戦うことじゃない。私たちの力は死神を倒すためには使わない」
「おいおい聞いてりゃ偉そうに言いやがって。なにか、お前は俺に勝てるつもりか」
刀の切っ先が喉の肌を破ろうとする。は冷ややかに恋次を見つめた。
「本当に勝とうとしたならば。でもそれは…」
一護の気配が近づいてくる。一護なら事情はすべて織り込み済みだろう。
「ルキア!!」
「一護の、役目よ」
は切っ先も構わず顔を一護の方に向けた。薄く血が流れる。
「お前がルキアの力を奪った人間か。お前を殺さないと俺の気がすまねえんだよな!」
恋次はターゲットを一護に絞り、刀を構えなおした。はその隙にルキアに近寄る。
「ルキア」
「お主、勇人殿が近くにおれば事情が分かったであろう。なぜ来た」
ルキアが細い手での喉下を撫でる。血がルキアの白い手についた。
「だってルキアに会ってさよなら言いたかったから。…行くんでしょう」
「というか、兄様にご足労頂いて私が逃げるわけには行かぬ。元より、この日までの命ならば」
「ルキアは大丈夫。この先もルキアの光は見えるから。最近、ルキアが塞ぎこむことが多かったでしょう」
「ああ…この日が分かっておったから、つい、な」
「勝手に悪いとは思ったけど、ルキアのことを占ったの」
は巫女だ。占いは得意技に入る。護摩を焚く占いから水鏡の占い、夢占いまで、なんでもやる。
「オレンジ色の光がルキアを助けるから。それって…一護のことみたいじゃない?」
そう言っては悪戯っぽく笑った。オレンジ色の光。は水鏡の占いでルキアを照らすオレンジ色の光を見た。同時に藍色の濃い影も見たのだが、それは言わないでおく。自身にも意味が良く分からなかった。
「そうあってはならぬ。一護はこれ以上私に関わって危険な真似をすべきではない。この地区も別の死神の担当になるだろう。全ては決められたことだ」
「…そうかな」
とルキアの向こうでは恋次と一護が戦闘している。
「決められた運命を覆すために、みんな足掻いて生きるんだと思う。人であっても、人でなくても」
ルキアは何も言わず、ゆるく首を振った。一護が恋次を押して戦っているように見えた次の瞬間、一護の斬魄刀が折れた。
「一護!」
そしてその次の瞬間白哉に身体を貫かれ、一護は崩れ落ちた。慌ててが駆け寄る。息はあった。
「行くぞルキア」
「はい兄様」
ルキアは一護をを振り向かずに歩いていく。こちらへ来たら許さない、そう言い置いて。
「ルキア」
の声に少しだけルキアの肩が揺れる。
「少しだけだけど、一緒に過ごせて嬉しかったよ。私たちはまたきっと会えるから。ルキア、信じて。それが力になる」
言い終わるより前に空間の歪みが閉じ、三人はいなくなった。
「ちくしょう…」
一護の声を、残して。
その後、一護とは話をしていなかった。学校で会えば普通の話はするけれど、込み入った話が出来なかった。一護はの顔を見て、あることを言わないようにずっと堪えているのだった。
一緒に来てくれ。
そう言えたらどんなに楽だろう。特訓中の疲れた身体を引きずって、手を空に翳す。
は強い。今の一護なんかよりずっとアテに出来る戦力だ。だから、ともすれば一緒に来てくれと言いそうだった。しかし。
『空座神社のお嬢さんに関わるのはよしなさい』
『なんでだよ!?あいつ俺なんかよりよっぽど強ぇよ』
『だから、です。アナタは誰かを頼っちゃいけない。アナタが誰からも頼られるぐらい強くなくては、向こうに行っても無駄でしょう』
『そりゃそうだろうけどさ…』
『それに、あの一族は死神と戦ったりしませんよ。他人をアテにする暇があったら強くなんなさい』
浦原がそう説得して、と関わるなと言ったのだ。友人付き合いはいい。けれど、尸魂界へ連れて行ってはならない、と。
空座神社では夏祭りに向けて準備が進んでいた。空座神社の夏祭りは七月二十日に行われる。夏休みの始まりと重なることもあり、なかなかの人出だ。
「、今のところをもう一度舞ってみなさい」
事務方の母は出店の管理や設えの準備に忙しく、権禰宜の父は御札を書くのに忙しい。そしては祭りで披露する舞の練習に忙しかった。先生は祖父の勇人だ。
「はい」
舞扇を右手でぴっと持ち、それをゆるやかに上下させる。空座神社に伝わる、七夕の舞だ。祭りがあるのは二十日だが、時期的に一番近いということで七夕の舞が披露されることになっている。
「しかしこれは…」
祖父が俯いて考え込んでしまったので、はなにを間違ったのかと自問しながら一人で舞い直しては足運びを確認していた。祖父は舞によって、自身の、ひいては神社の霊気の集まり具合の激しさに悩んでいた。
元々舞によって場の霊力が上がったりすること自体はよくあることだ。清浄を一とする一族はみな舞えて一人前となるが、舞そのものにも霊的な力が込められていた。足捌きが反閇になるものや、足運びによって封印をなせるようなものもある。しかし、の今の舞はあまりにも霊力を高めすぎる。自身の霊力も常より高まり、舞の場の霊力も高まってしまっては、余計な仮面(虚)などを呼び寄せないとも限らない。
「結界を張るのが先か…」
「どうしたの?」
あまりに祖父が考え込んでいるのでは舞を止めて祖父に近寄ってきた。
「の舞はあまりにも場に影響を与えすぎるでな、結界を張らねばならん」
「え…、私普通に舞ってるつもりなんだけど、どこか変?」
「いやいやおかしいことはない。自身の霊力が高いことと、祓えを頻繁に行っておるから霊力の高まりも早いんじゃろう。先に結界を張るからお前も支度なさい」
「はい」
は舞の練習用衣装のまま神社の境内に出た。空気はじっとりと汗を呼ぶ。手の甲で汗を拭ってから和室に向かった。和室は祖父が書斎としているが、他にも祓えに必要な道具が全て置いてある。棚から清めの塩を取り、三方と懐紙を取った。
「おじいちゃん」
神社の一角に当たる草むらに祖父が立っていた。塩と三方、懐紙を渡す。祖父は三方を半分埋めるようにして固定し、その上に懐紙を敷いた。清めの塩を山形に盛り、両手を翳す。
の目には祖父から流れていく光の帯が見えていた。祖父の霊力が流れて塩へ入っていく。
「次は反対側じゃの」
そうやってと祖父は神社自体に結界を張った。最後、中央に当たる本殿で祓えの祀りを行って結界完成である。
結界が張られてから十日後、空座神社では夏祭りが始まった。の出番である舞は夜八時に行われる。いつも遊びに来ている一護たちは用事があって来られないとかで、たつきたちだけになった。
夏祭りの宵宮が佳境に差し迫った頃、舞台袖ではの舞の準備が行われていた。巫女としての舞なので、あまり着ない巫女装束に表着を羽織り、髪を垂髪にしてから額に釵子を当てて三箇所の髪を後ろで結ぶ。巫女舞なので面をつけたりはしない。
「さんキレイです!美しいっ」
感じ入っている浅野を放ってたつきたちもそれぞれにを見上げる。
「格好良いよ」
「ほんと可愛い」
は元がいいので、雰囲気と合わさっていつもよりかなり美しく見えた。
「一護いたりしたらヤバいよ、絶対惚れてる」
「そんなことないよ」
一護はルキアのために今戦っているのだから…。は友人の言葉に首を振り、弱く笑った。
「出番です」
楽の担当から声が掛かる。そしては舞台に上がった。
七夕の舞が終わりにさしかかろうとした頃、が祖父と張った結界の上部に亀裂が入った。小さな裂け目から、溢れるようにの霊力が流れて行く。さながら澱みない川のように。
「こりゃあ…すごいっスね」
一護たちを送ってから夏祭りに遊びに来ていた浦原が空を見上げる。上空の裂け目から際限なく流れ出て行く霊力。
この事態に気付いていたのは舞い手の、祖父と父母、浦原、そして――ソウル・ソサエティ。
「恋次さん、現世が妙なんすよ」
「あー?妙なのはいつもじゃねーか」
「ある座標点に集中して霊力が集まって溢れ出してるんです!」
理吉の力いっぱいの説明にも恋次はイライラと眉上を掻いただけだった。
「そんなの、放っておきゃ上が調べるだろうよ」
「僕もそう思います。でも、それが朽木ルキア虜囚を恋次さんが連れ帰った座標に近いんで、気になって…」
ルキアを連れ帰ったときに現れた妙な人間の女。ほとんど武器が見当たらなかったくせに霊力は隊長クラスで、静かな霊圧の持ち主だった。そして恋次に向かって勝とうと思ったならば勝てる、と言い放ったのだ。顔のきれいな女。
「おい、現世任務はあるか」
「えっと魂葬がいくつか。席官がいくほどのものではないので、下に任せましたが」
「そいつらの代わりに俺が行って、ついでに様子見てくる」
「え、ちょ、恋次さん!?」
理吉が慌てている間に恋次は斬魄刀を手に出て行った。朽木隊長への説明は自分がしろということだろうか。理吉は思わず溜め息をついた。
「解錠」
斬魄刀を空間に差し込み、ぐるりと半回転させる。開いた空間の歪みに恋次は入って行った。恋次が現世に着いた頃、の舞はラストだった。織姫が牽牛と一年隔てる部分だ。
「あれか」
丸い空間の上に何か亀裂が入っていて、そこから霊力が溢れ出ている。人間のものらしい、白く強い霊力。
結界に入れるのか、恋次は結界の壁を触ったり蹴ったりしていたが、害を為さないようだと分かると一気に突き抜けた。今の恋次は霊体なので見える者はわずかしかいない。と家族、浦原商店の面々、遊びに来ていた夏梨。夏梨は真っ赤な頭に激しい刺青姿の恋次を見て関わり合いにならないほうが良いと察して見ぬふりを通したし、浦原も死神に見つかっては面倒とばかりにスルーした。まともに取り合ったのはと家族だけだった。は舞を終えて舞台から下がる。そのまま控え室を通り過ぎて着替えるために家に向かおうとしたら、祖父の勇人に腕を掴まれた。
「おじいちゃん?」
「会わせたいお人がおるんじゃ。少し待ってなさい」
そう言うと控え室のテントを出て、祭りの人込みに紛れて行った。
勇人が向かったのは恋次のところで、祭りの雰囲気を楽しんでいた恋次はまっすぐ自分に向かってくる人間を訝しげに見た。副隊長クラスの霊力があるといっても現世に来るに当たって五分の一にまで抑えられているし、さらに自分で霊圧を抑えてもいる。なのに気付いた風なのはどういうことなのか。
「お前さん、尸魂界のお人じゃろう」
「……」
恋次が訝しみながら対峙する相手の霊圧を探ると、相手もそれなりに霊力があることが分かった。格好が昔現世に居るときに見た神主に似ている。
「もしこの…溢れる霊力を調べに来なさったんなら、原因をお教えしよう」
「…原因が分かってんなら対策をしろよ」
「対策がこの結界じゃて。しかしあの子はそれをやすやすと超えおった」
勇人は笑って恋次に着いてくるよう言った。恋次が半信半疑で着いていくと、その霊力の源にじょじょに近付いていくのが分かった。天幕の中に引き入れられて見れば、そこに居たのはあの女だった。恋次に向かって勝とうと思うならば勝てる、と豪語した女─―である。
「お前っ」
恋次は斬魄刀に手をかけたが、抜かずに相手を見やった。この前とは違う、やたら晴れやかな着物を身につけている女は久しぶり、と言って小さく笑った。身体からはものすごい霊圧が流れて来る。
「この子が原因じゃ。さっきまで舞を舞っておったでな、霊力が際限無く上がっておった」
結界の隙間から溢れ出していた霊力と目の前の女の霊力は確かに同じ霊圧のもので、攻撃性は全くなかった。
「だだ漏れの霊力を静めろ。虚が呼びよせられかねねーだろ」
「そうなったら祓うけど…確かに静めたほうがいいかもね」
そう言うとは手を組んでその場にあぐらをかいた。床には畳が敷いてある。手で印を組み、手を上下させた。
「ひふみよいむなやここのたり ふるべゆらゆらとふるべ 」
しゅうしゅうと辺りに溢れ出していた霊力がに集まっていく。その様を見ながら恋次は思わず口に出していた。
「すげぇ」
隊長クラスもかくや、と思われる霊力に静かで力強い霊圧。
「この子のことを調べに来たんじゃろ?」
「調べにってわけじゃねえ。現世で不可思議なことがあると聞いたから見に来ただけだ」
「さようか。古参の死神に聞けば分かるじゃろう。家の舞姫がおった、と」
恋次は片眉をつり上げる。確かルキアを迎えに行ったとき、隊長はの名を呟いていなかったか。だとしたら何か知っているのだ。
「…分かった。そう報告するぜ」
頷いて霊力を静めたを見やる。晴れの着物が似合って、美しく見えるが、どこか神々しくて近寄りがたい感じもする。
「原因も分かったし、俺は帰る。ありがとよ、じーさん」
「良かったらまた来なされ。今度は茶でも出そう」
「義骸に入ってねえと飲めねえよ。まあいいや。じゃあな」
「待って!」
魂鎮めを終えたが帰ろうとした恋次を呼び止めた。
「なんだよ」
「ルキアは元気にしてる?」
「…あいつは尸魂界じゃ罪人扱いだ。あんま元気は無さそうだな」
恋次は他人事のようにそう語ってため息をつく。
「大丈夫だから信じるよう伝えて。自分が信じられないのなら、私を信じて欲しいと言って」
「注文の多い野郎だな。まあ……伝えといてやるよ」
「ありがとう」
はさっきと違う、心からの笑みを見せる。恋次がの笑顔に釘付けになった。さっき小さく笑ったのとは印象の違う笑顔。大輪の牡丹が咲いたようだ。
「……別に大したことじゃねー。じゃあな。邪魔したぜ」
恋次は空中に斬魄刀を差し込み、半回転させる。空間の歪みが生じ、恋次はその中に入っていった。
「おじいちゃんが会わせたかったのってあの人?」
「そうじゃ。名前は知らんが、副隊長級の力じゃの」
確かルキアは恋次と呼んでいた。燃えるような赤い髪に激しい刺青。
「恋次…」
は名を口にして小さく、笑った。
一方、尸魂界。恋次が現世から戻ってきて、白哉に報告に出向いた。
「隊長」
「なんだ恋次」
「現世で不可思議なことがあったので出向いたところ、この前の人間の女に会いました」
「家の者か」
「はい。一緒にいた老人の話だと家の舞姫だとのことです。隊長クラスの霊圧の持ち主でした」
恋次の報告に白哉は考えるようにじっと黙り込んだ。
「……私から総隊長に報告をしておく。あれは家の舞姫だったと。現世にいるには大きすぎる力だ」
白哉はその足で山本総隊長のところへ出向き、報告を済ませた。そして慌しく一つのことが決定した。
人間、の招来である。
「山爺、生きとる人間連れてきて平気なん?」
三番隊の市丸がそう発言すると、十二番隊の更木が続いた。
「殺しちまえば早いだろうが」
「黙らっしゃい!」
総隊長の山本が口を挟んだため、他の全員が黙る。
「ともかく、これは総隊長・六番隊隊長の連名による、第一級厳命じゃ。義魂丸を使えばその人間の霊体のみを連れてくることが叶うじゃろう」
「誰が行くんだよ」
十番隊日番谷が訊ねると、山本は指で日番谷を指し示した。
「お主じゃ」
「朽木が言い出したんなら朽木が行けばいいだろ!」
「ぺい!黙らっしゃい!…日番谷が行くことに否やのある者は」
山本が周りを見回すが、日番谷自身が不満そうに唇を尖らせていること以外、誰も異を唱えない。
「決定じゃの。十番隊隊長日番谷冬獅郎に人間・の招来を命ず。詳細は追って地獄蝶で知らせる」
「……承知しました」
渋々、といった態で日番谷が招来の命を受け、隊首会は解散となった。
「隊長、隊首会いかがでしたか」
執務室の前で副隊長の松本が日番谷の帰りを待っていた。日番谷は面倒くさそうに顔を顰めてみせる。
「いかがもこうもねえよ。朽木と阿散井が接触した人間の招来が決まった」
「ええ?だってそれ普通の人間でしょう?」
松本は驚いて肩を竦めた。伝聞でだが、話は死神たちの間で遍く伝わっていた。隊長クラスの力の持ち主が現世におり、それは女であると。接触した朽木が自ら総隊長に進言したとも伝わっている。
「朽木が言うには隊長クラスの霊力を持った人間らしいがな。義魂丸を使って霊体を連れて来いってのが命令だ」
「隊長が命じられたんですか?隊にじゃなくて?」
松本は他の隊員でも出来るのでは、と暗に促したが日番谷は首を振った。
「だめだ。俺に命じられてる。供を選ぶぐらいは出来るだろう。来るか?」
「ちょっと興味ありますね。あんま現世に下りてないことだし、行こうかな」
その答えに日番谷が頷いたとき、地獄蝶がやってきた。
『特級の義魂丸を用いてを霊体にし、尸魂界へ招来せよ。日時は一週間の後』
「じゃあ一週間は書類仕事になりますね」
「はぁ!?」
松本の提案に日番谷は声を荒げる。
「だって招来に行ったら一日仕事になるかもしれないんですよ。一日分早めて仕事しないと間に合いません!大丈夫、隊長仕事速いからすぐですよ」
「はぁ……」
日番谷は大きなため息をついた。とんだとばっちりだ。
→第四話
ちょっと長かったですかね。あれよあれよという間に話が進んでしまいました。これで恋次夢っつったらJAROですかね。笑。
ついにヒロイン尸魂界へ。次回からはやっとこさ尸魂界です!恋愛要素もガンガン入れていきたいと思います!そして日番谷隊長もいっぱい出ます…(好みの問題じゃねーか)。
ヒロインが唱えている呪文は「布留の言霊」と呼ばれるものです。鎮魂の儀式と関係が深いものと思われています。実際、神道の儀式などは仏教と同じように流派が違えばかなり違うことが多いので、ヒロインの流派はこういうのも使う、程度でオッケーです。書いてる本人がオカルト好きなだけです。
お付き合い有難う御座いました。多謝。
2005 10/14(明日は誕生日だ!岩鷲と一緒) 忍野さくら 拝