quinto sogno
ツナたちは学校が始まり、沢田家はちょっとだけ静かになった。もともとうるさいのがランボぐらいなので、ツナや獄寺がいないぐらいでは、あまり変わり映えがしない。うるさいリビングの隣ではユリが台所に立っていた。すぐ横にはツナの母親がいる。
「ごめんなさいね、百合ちゃん。私、本物のイタリア料理って食べたことがなくて」
「あたしのはナポリ地方の料理なんです。気に入ってもらえたらいいんだけど」
「ビアンキちゃんが、百合ちゃんの料理はとっても美味しいっていうから、つい食べてみたくなって…」
そのビアンキはランボがおかしなことをしないか、目を光らせている。ランボは時々ビアンキにちょっかいをかけにいくのだが、ことごとく返り討ちにされていた。
「ユリの料理は本当に美味しいわよ、ママン。それにしてもツナ遅いわね」
「後はツナが帰ってきてからかな。良かったらレシピ書いておきましょうか?」
「助かるわ!ランボちゃんもリボーンちゃんもビアンキちゃんもイタリアの生まれだって言うし、イタリア料理食べたいときもきっとあると思うのよね」
ツナの母親からノートを手渡されたユリはすらすらとイタリア語でレシピを書いていく。まだ、日本語を書くことは出来ない。書ける漢字は自分の名前だけだ。
「あら、明日の朝のパンがないわ。ちょっとお買い物行ってくるわね。みんなでお留守番しててくれる?」
「分かったわ、ママン」
「ええ、大丈夫です」
ビアンキとユリが頷き、ランボは飴に夢中だ。ツナの母親は財布を持って出かけていった。
「ユリ!」
「ランボ、どうしたの?」
ランボはユリの足にがっしりとしがみついている。ユリはひょいと持ち上げて膝に乗せてやった。
「ランボさんはブドウが食べたいんだもんね。ブドウ、ブドウ!」
「ブドウ…って冷蔵庫にある?ビアンキ」
ビアンキはすっと立ち上がり、冷蔵庫の野菜室を覗いた。ブドウは入っていない。
「ないわ。だってアホ牛ったらずっとブドウ食べてばっかりなのよ」
「じゃあ、ツナのマンマに言って買ってきてもらえばいいんだわ。番号分かる?」
「しかたないわね」
ビアンキが廊下にある電話機に向かったとき、玄関のチャイムが鳴った。
「リボーン!お帰り!…ツナも」
「オレはおまけかよ。ってそんな場合じゃなかった!変なラクガキ落さないと」
ツナは急いで洗面所に直行する。リボーンも後ろをついていった。ビアンキはツナの母親に電話をして、受話器を元に戻す。そのとき。
「ビアンキちゃーん」
「……!!」
「やめてくれー!」
「死ね」
何かが倒れるようなものすごい音がしたので、台所からユリが洗面所からツナとリボーンが廊下にやってきた。
「ぐふっ…」
「な、何だ!?」
「だ……誰だよ…?ポイズンクッキングの餌食になってんのー!!」
玄関に仰向けで倒れる男と、顔面に受けたポイズンクッキングの跡。思わずツナは声を荒げた。当のビアンキはふっと笑いさえ浮かべている。
「久しぶりに世のためになる殺しをしたわ」
「ビアンキ、これって…」
ユリの言葉にビアンキは忌々しそうに頷く。ユリはそれを受けてため息をこぼした。なんとなく見覚えがないわけじゃない風体だ。
「ビアンキ!!お前、うちで殺しすんなよ!!」
ツナが怒っていると、倒れている男から声が上がった。
「あいかわらずのおてんばだなぁ」
「生きてる!!」
男の声にツナはびびり、ビアンキとユリはため息をつく。
「やっぱ女の子はそーでなくっちゃ〜っ」
立ち上がった男はぱらりと顔にかけていたスカーフを取り、にやりと笑みを浮かべた。
「ますます好きになっちった」
「なぁ!?」
一気に距離をつめて、ビアンキの頬にキスをしている男にツナは声も出ない。ビアンキは心底嫌そうな顔ですっと息を吸い込み、身体を反転させて回し蹴りを放った。
「死ね」
ビアンキの一撃で、男は廊下の奥まで転がっていく。
「な、何だ…この不法侵入者は」
「さっき話したドクターだぞ」
「はぁ!?」
ツナはリボーンの言葉に驚いて、開いた口がふさがらない。
「イタリアから呼んどいてやったぞ、Dr.シャマルだ」
「ったく照れ屋だなビアンキは」
即座に復活したシャマルはビアンキにキスをせがんでいる。
「よるな!」
「見てのとおり、女好きのキス魔だ」
ビアンキのポイズンクッキングを慣れたそぶりでかわしたシャマルは、廊下で立っているユリに目を留めた。わきわきと手が動いている。
「あれ、ユリ!?好きだー!」
いきなり飛び掛ってきたシャマルに踵落し一撃を加え、廊下に這いつくばらせる。
「シャマル…あんたの病が治る薬はないの!?」
「ないね、残念ながら」
だってオレ、既に病に冒されまくりだもん、とシャマルは唇を尖らせた。
「ユリ、ジャポネに仕事で来たとは聞いてたが、こいつンとこにいたとはな」
「リボーンに呼ばれたのよ」
踵落しの足をどけていないので、さながらユリがシャマルを踏みつけているような状況だ。
「プリンチペッサに踏まれるのも悪かないが…」
「!」
シャマルは踏んでいるユリの足を掴んで、ぐいっと身体をユリの足元にすべりこませようとする。ユリはスカートを履いているので、少しでも顔を上に上げればスカートの中が見えかねない状況だ。
「シャマル!」
掴まれた足をぐっと持ち上げ、足を掴んでいるシャマルの腕を逆に掴み、思い切り投げ飛ばした。シャマルは身体を玄関のドアにたたきつけられる。
「痛って…。ユリちゃんは本当に容赦しねーんだから」
ユリにはビアンキのように特殊な殺人術はない。マーシャルアーツを基本とした格闘術とある程度の射撃能力があるだけだ。
「容赦してたらスカートの中見てるでしょ!」
「まぁ…否定はしねぇなあ」
ビアンキがすっとユリとシャマルの間に立ち塞がった。
「ビアンキ?」
「シャマル、あそこであんたがユリのスカートの中なんて覗いてたら、あんたの命無いわよ」
「……まぁな…」
「ボンゴレ9世に目をつけられたら、いかにトライデントシャマルでも生き延びられないでしょうよ」
それぐらいで済んでありがたいと思いなさい、とビアンキは言ってリビングに戻っていった。リビングからランボの泣き声がしていた。
「シャマル、こいつがドクロ病にかかったツナだ」
「え、ツナドクロ病なの!?」
リボーンの言葉にユリが驚いて目を見開いた。シャマルがいるからには、助かるだろうが…。
「ん?あー、そーだったそーだった。それでオレはおまえさんに呼ばれたんだったな」
シャマルが診察を始めたようなので、ユリは安心して台所に戻った。シャマルは男を診察しないことでも有名だが、リボーンにも何か考えがあるのだろう。
「ユリ〜」
診察しているはずのシャマルに呼ばれて、ユリは顔だけ廊下にひょっと出した。
「なに」
「今晩さあ、久しぶりに飲まねぇ?」
「…今晩はダメ。ツナと一緒にお夕飯なの」
「ケチ」
シャマルはつまらなそうに唇を尖らせる。ユリはしかたないな、と笑った。これではどっちが年上か分からない。
「いつか付き合ったげるから。ツナのことちゃんと治してあげてよ」
「んー…ユリが言うなら仕方ねーなー」
「え、そんな理由!?」
ツナがドクロ病から治って後、数日。ユリは沢田家で朝を迎えていた。ビアンキはさっきから上機嫌だ。獄寺の誕生日なのだと言う。
「隼人のお誕生日を祝うなんて、すごく久しぶりだわ」
獄寺が八歳まで2人は一緒に城に住んでいたが、獄寺が家出した後は、ずっとバラバラだった。最近ようやく再会したのだ。
「そっか、そうよね。いろいろ作ってお祝いしてあげましょう」
「…あら?」
ユリがいかにポイズンクッキングを防いで獄寺の誕生日を祝おうかと考えていると、ツナの母親の声がそれを遮った。
「マンマ?どうしたの?」
「ママン?」
2人の声に、ツナの母親は、ほら、といって弁当箱を見せた。
「ツナ、お弁当忘れて行っちゃったみたい…」
「じゃあ、あたしが届けに行ってくるわ。一度、学校に行ってみたかったし」
「そう?じゃあ百合ちゃんお願いね」
「はーい」
ツナのお弁当箱を片手に、ユリは沢田家を出た。学校までの道のりは、なぜかビアンキとランボが一緒になって教えてくれた。2人とも行ったことがあるのだという。
並盛中までは難無く辿り着いたのだが、ツナのクラスが分からない。何時が休み時間なのかも。
「あ、どうしよ…」
校舎入口の昇降口で佇んでいると、腕に腕章をつけた生徒に呼び止められる。
「おい」
「あ、はい」
「お前、部外者だろう。学校に何の用だ」
「ここに通ってる子の親戚なんですけど、お弁当を届けにきたんです」
「…そうか。ひとまずこっちに来い。部外者は委員長に会わせる決まりだ」
生徒に先導されるまま、ユリは学校に入って廊下を歩いていく。一階の隅の部屋で生徒は立ち止まって、ノックをした。
「何」
「部外者を発見しましたので、つれて参りました」
「そう。入れて」
「入れ。くれぐれも粗相のないようにな」
ユリには、生徒の喋った単語の意味が分からなかったのだが、とりあえず開けられた扉の中に入った。一人の生徒がソファに腰かけている。
「君は何をしにきたの?」
「サワダツナヨシの親戚です。お弁当を届けにきたんですけど…」
「ふぅん…?あの子の親戚…」
雲雀はすっと目を細めて、ユリを見やった。沢田の親戚というのなら、あの赤ん坊とも繋がっているかもしれない。沢田は生粋の日本人のはずだが、目の前にいるのはどうみても外人だ。
「ちょっとここで待ってて。沢田なら呼んであげる」
「ありがとうございます」
ユリは指し示されたとおり、応接間のソファに腰を下ろした。雲雀は部屋に置いてある電話で誰かと話し、すぐにその電話を切った。
「君が沢田の親戚だって言うのなら、あの赤ん坊について何か知ってるんじゃない?」
「赤ん坊?リボーンのこと?」
ツナと一緒にいる赤ん坊といえばリボーンしかいない。ランボは幼児だしツナといつも一緒にいるわけではない。
「リボーンって言うの。あの赤ん坊、何者?ただの赤ん坊じゃないでしょう?」
マフィアの一流ヒットマン、とは言えない。目の前の少年は確かに強そうだったが、裏の世界の人間ではなさそうだった。ならば仲間内のことは話せない。掟だ。
「…ちょっと変わった赤ん坊よ」
ユリがそう言った途端、ユリの前をひゅっと風が過ぎった。ユリは微動だにしない。自分のところまでは届かないと判断したからだ。
「嘘はよしなよ。僕は群れるやつが嫌いだけど、嘘をしゃあしゃあとつくやつも嫌いなんだ」
ユリは眼前にトンファーを構えられても、ゆっくりまばたきをしただけだった。
「あたしに言えることはないわ」
応接間のテーブルに弁当箱を置き、ユリは少しだけ腰を浮かせていつでも動けるように準備した。いくら相手が一般人とはいえ、だからこそ、やられるわけにはいかない。
「沢田の周りってのは、つくづくおかしなヤツらが多いらしいね」
雲雀はユリの眼前からトンファーを引き、構え直した。そのとき、外から人の声が複数聞こえてくる。
「やばいよー、やっぱ絶対目ぇつけられたんだって!」
「大丈夫ですって、今度はオレがぶっとばしますから!」
「まーまー、とりあえず行きゃ分かるって」
ユリにも雲雀にも聞いたことのある声だった。がら、とドアが引かれる。
「…百合さん!?」
3人揃って声が上がった。雲雀はにっと口の端を上げる。
「そう。百合って言うの、君」
「あなたは?」
「僕?僕は雲雀恭弥」
「キョーヤ、ね」
雲雀はこだわらずに自分の名前を名乗り、トンファーを構え直した。その動きを見て、獄寺と山本が戦闘態勢に入る。
「ハヤト、タケシ、だめよ」
「百合さん」
「ユリさん!」
ユリは3人の前に立ち塞がるように移動して、軽くジャンプを繰り返した。身体の無駄な力を抜き、自然体の構えを取る。
「あたしが相手なんでしょう?キョーヤ」
「そうだよ」
分かっているね、とばかりに雲雀は頷いてみせる。獄寺はまだ手元からダイナマイトを離さない。
「2人とも、手出ししちゃだめだからね」
「ンなこと言ってもユリさん…!!」
獄寺が喋っている最中に、雲雀が素早くユリに近づいてトンファーを振り回す。ユリは紙一重のところでそれを避けながら応接室の中を移動する。
「我流ね。悪くないわ」
獄寺は自分が避けきらなかった雲雀の攻撃をことごとくユリが見切っていることに驚き、山本はユリの余裕ある態度に乾いた唇を舌でなめた。ツナは恐ろしさのあまり2人の影に隠れている。
ひゅっと自分に向かってきたトンファーを避けたユリは、トンファーごと雲雀の片腕を掴んだ。
「!」
驚いた雲雀は一瞬のためらいの後に、もう片方のトンファーをユリに向かって伸ばす。
「甘いわ」
そのトンファーを避けずに、雲雀の腕をぐっと自分に引き寄せて、雲雀の体勢が崩れたところに足を払って雲雀の身体を床に叩きつけた。
雲雀は尚も攻撃しようとしたが、ユリの指が頚動脈に当たっていることに気づき、両腕から力を抜いた。
「僕が動いたら頚動脈を極める気かい?」
「そう」
雲雀はふっと笑う。
「降参だ。悔しいが、敵わないみたいだね、君には」
「あなたがまっすぐにあたしを攻撃してきたから、助かったわ。人を守ることには慣れてないから、あたし」
ユリは獄寺や山本と違い、人を守る戦いというものをほとんど経験していない。ユリが守るべきボスは9世だけだったし、9世にはユリよりよほど強い者たちが周りにいる。ユリの親もまた強い人々に守られていたし、ユリは9世が年を取るにしたがって、狙われる標的と化した。自分を狙う者たちを倒す術は学んだし経験も積んだが、誰かを守りながら戦うということはしたことがなかった。
雲雀がもしツナを盾にとったり、獄寺や山本を先に攻撃していたら、ここまできっちりと勝てたかは分からない。
「だから言っただろ、ユリはお前たちより強いって」
「リボーン!」
「赤ん坊、何しに来たの」
窓から姿を現したリボーンに雲雀は身体を起こした。
「ユリの気配がしたんでな」
ぴょ、と窓から応接室に入ったリボーンはとてとてと歩いてユリの身体によじ登った。ユリは腕で抱える。
「どうだ雲雀。ユリは強ぇーだろ」
「お前が自分の手柄みたいに言うなよ!」
ツナは雲雀がもう攻撃する意思がないと知って強気だ。
「確かに強いね。ますます何者か知りたくなった」
「それは追々な。ユリ、何で学校に来たんだ?」
「あ、ツナにお弁当届けようと思って。忘れたでしょう?」
「そう言えば…」
ツナはテーブルに置いてある、見覚えのある弁当箱に目をやった。
「もうそろそろ昼休みだ、ついでにユリも食っていけ」
「え…あたしお昼持ってきてないよ?」
リボーンの提案にユリは首を傾げた。財布と携帯は持っているが、弁当は持っていない。日本の学校にもカフェテリアはあるんだろうか。
「大丈夫っす、オレが購買で買ってくるんで。何がいいっすか?」
「コーバイ?」
「生徒に必要なものを売る商店だよ。勉強道具から食事まで売ってる」
ユリの声に雲雀が答えた。獄寺は未だに雲雀を警戒して眉間に皺が寄っている。
「いつもハヤトたちが食べてるものが食べてみたいわ。同じものを頼んでいい?」
「もちろんっす!」
「あ、オレも今日購買だった」
気の早い獄寺と山本は、一足先に購買に出かけていった。応接室をツナ、リボーンと一緒に出て屋上に向かう。
「あー気持ちいいー」
未だ熱を孕む空気が勢い良く流れていく。ユリは髪を手で押さえながら、フェンスによりかかって辺りを眺めている。
「百合さんって何でそんな強いんですか?あのヒバリにも勝ったし…」
「…ボンゴレ9世に男の子が3人いたのは知ってるでしょう?」
ツナはこっくりと頷く。最初にリボーンに見せられた写真の3人だ。
「あの3人が狙われて、末の妹の子どもであるあたしも狙われた。小さいときからずっと狙われてはいたけれど、3人がいなくなってからはひどくなったわ」
「そんときボンゴレは、お前を探してる途中だったんだ。一世が日本に渡った後の血筋をずっと辿っていた」
ユリの説明にリボーンが付け足す。
「生き残っていくうちに…っていうか、単純に場数を踏んだからだと思うわ。あたしはハヤトやリボーン、ビアンキみたいに誰かを殺す仕事をしたことはないけれど、殺そうとする人たちから自分の身を守ってきた」
結果として死んだヒットマンももちろんたくさんいるけどね、とユリは付け足した。決してこの身がこの手が汚れていないわけではない。
「ユリはボンゴレにあって、シンボル的な役割を果たしている。ボスはもちろん九代目だが、九代目の姪として他のファミリーにも知られている存在だ。だから、狙われることも多かった」
「っていうか、そんなに有名で狙われている百合さんが、ここにいるんじゃ、ここでも狙われるってこと…?」
「まあそうなるな」
「ええー!?」
ツナが叫んだとき、屋上の扉が開いた。獄寺が駆け込んでくる。
「どーしました十代目!!」
「あ、獄寺くん…」
「百合さん、昼飯買ってきたぜ」
「タケシ、ハヤト早かったわね」
山本は手に購買の袋を持って掲げて見せた。獄寺はツナの前に膝をついている。
「十代目、何かあったんですか」
「ううん、大丈夫。ちょっと驚いたっていうか怖くなったっていうか…」
「こいつはな、ユリが狙われる分自分も危険になると思ってビビってんだ」
リボーンは山本の肩に飛び移り、購買の袋を覗き込んで漁っている。山本は笑ってばかりでそれを止めない。
「大丈夫っすよ、十代目とユリさんはオレが守りますから!」
「……獄寺、ユリのほうが何倍も強ぇーぞ」
購買の袋から、お気に入りの卵サンドを取り出して、リボーンは食べ始めている。
「…そ、それでも死ぬ気で!守りますから!」
「う、うん…死ぬ気で済むならいいけど」
本当に死なれてしまうと寂しいし悲しい。そうは思っても照れくさくてツナはそれ以上なにも言えなかった。
「百合さん、いろいろ買ってきたけど何がいい?」
山本は卵サンドをリボーンにやって、残りのパンを並べた。あんぱん、焼きソバパン、ミックスサンド、メロンパン、全部で四つもある。
「残ったやつオレが食うからさ。好きなやつ取っていいっすよ」
「どうしようかな…」
「ちょ、ユリさん!」
山本が並べたパンをためつすがめつしていたユリだが、獄寺に言われて向き直った。
「なぁに?」
「オレも買ってきたんで!好きなもの取ってください!」
焼きソバパン、クロワッサンサンド、チェリーデニッシュ。元々小食の獄寺は買ってきた数も少なかった。
「えっとね…これとこれ」
ユリは獄寺のから一つ、山本のから一つ選んだ。焼きソバパンとチェリーデニッシュ。
「パスタをパンに挟むってのが斬新ね。日本のパスタを食べて見たかったの」
焼きソバパンのラップを取ろうとしているユリの前に、紙パックが並べられる。カフェオレ、いちごみるく、オレンジジュース。カフェオレは獄寺が、いちごみるくとオレンジジュースは山本が差し出した。
「飲み物もいるっしょ?」
「…ありがとう、2人とも」
ユリはにっこり笑ってカフェオレとオレンジジュースを手に取った。山本はいちごみるくと自分の分の牛乳を手元に引き寄せる。獄寺はコーヒーの紙パックにストローを差す。
「…日本のパスタってずいぶん柔らかいのね」
焼きソバパンを食べたユリの第一声はそれだった。
「ああ。日本にはアルデンテの習慣はねえ」
リボーンは卵サンドの次に、山本のミックスサンドからやっぱり卵サンドの部分を引っ張り出して食べている。
「でもアルデンテだとパンには合わないか…うーん」
ユリがついつい料理が気になってしまうようだ。焼きソバパンを咀嚼しながら首を傾げている。
「味つけは大丈夫っすか?」
「…?うん、平気。このsalsa(ソース)面白い味ね」
獄寺の言葉にユリは頷いて、最後のひとかけらを口に入れた。カフェオレを飲んで、チェリーデニッシュの袋を開ける。
相変わらず、熱を孕んだ風が、屋上に吹いていた。
sesto sogno
いかがだったでしょうか。シャマル&ヒバリさま編。雲雀にはなぜか様をつけたくなってしまう…。
焼きソバパンって、今でも購買のヒット商品なんでしょうか。中学高校とも女子校だったので、私は買ったことがないです。食べたこともない…。三巻で獄寺が持っていた、ソーメンパンが気になって仕方ありません。何味だ…?めんつゆ?
獄寺のお誕生日話は、またいつか。
お付き合い有難う御座いました。多謝。
2006 2 11 忍野桜拝