Il rispetto è indicato nell'amore.

 

 

「なー、まだあんの?紙の仕事」
「ありますよ。あとこれだけ」
ロマーリオの言葉に、ディーノははぁっと心からのため息をついた。ロマーリオが示して見せたのは、書類で出来た山だった。
「サイン形のスタンプ作ろうぜ?そしたらお前らが押しても平気だ」
「…そんなことしないためにサインがあるんでしょうが。第一、スタンプだったらバレますよ」
筆跡鑑定のプロなんていくらでもいるんですからね、とロマーリオは釘をさした。
「うっ…そうか」
ディーノは諦めたようにサインを繰り返している。と、その執務室のドアが開いた。
「ハイ、ボス!」
ぴょこん、と顔を出して見せたのはユリだった。
「ユリ!!」
ディーノは書類をばたんと机に押し付けて立ち上がり、部屋に入ってきたユリを抱きしめる。
「今帰ったのか!?どこもケガしてないか!?」
「仕事の報告ぐらいさせてよ、ボス」
ユリはキャバッローネのカポだ。孤児だったのをキャバッローネ九代目が拾って育てた。
「…ターゲットは即死。こちらのメンバーに負傷者なし。任務完了です」
ぴら、とユリはポラロイドを取り出してディーノではなくロマーリオに手渡した。そこに写っているのはターゲットの死に顔だった。瞳孔が完全に開いているし、脳天に銃弾の跡がある。
「確かに成功したようだな」
「はい」
「ご苦労だった」
「いいえ。他のメンバーを労ってやってください」
「分かった。少し休む時間がある。三日ほどだが」
「ありがとうございます」
ここまでのロマーリオとユリの会話の最中、ディーノはユリを抱きしめたままだ。抱きしめているというか、張り付いている。
「なー三日お休みがあるんならよー、オレとデートしよー?」
「……ボスには仕事がありますぜ」
「だめよ、ボスお仕事サボっちゃ」
「っていうか、なんでオレはタメ語なのにロマーリオには敬語なの?ユリ」
長年の疑問をディーノが口にすると、ユリはぺりっとディーノを剥がしてにっこり笑った。
「あたし、尊敬する人にしか敬語を使わないって決めてるの」
「へー…ってええ!?オレは!?オレ、ボスだよ!?」
ユリの答えにふんふんと頷いていたディーノは、はっとしたような顔つきになって、おたおたと慌てだした。
「ボスはボスなんだけど…。ねぇ、ロマーリオ?」
「ユリの言いたいことはよく分かるぜ」
ロマーリオとユリはうんうんと頷き合っている。仲間はずれにされた上に、ユリから尊敬に値しないと評されたディーノは床に座りこんでしまった。
「ユリとロマーリオがいじめる…。オレ偉いのに…頑張ってるのに…」
座り込んだディーノはむぅっと唇を尖らせて、指で絨毯をいじっている。ロマーリオは大きなため息をついた。
「ボス、二時間後に仕事再開しますからね」
そう言い残したロマーリオは、他に控えていた部下を連れて部屋を出て行った。
「ねえ、ディーノ」
相変わらずいじけているディーノの前に膝をつき、ぎゅっと抱きしめる。
「尊敬も大事だけど、愛のほうがもっと大事だと思わない?」
「…ユリ」
ディーノの声は小さい。
「あたしのボスはあなただけ。あたしが愛してるのもあなただけよ、ディーノ」
ちゅ、と髪の上から頭にキスを降らせた。
「ユリ!!」
がばっと身体を起こしたディーノがユリを抱きしめようとして、力余って床に押し倒す。ちゅ、とキスをユリの顔に降らせた。
「やっぱオレのこと愛してんだな〜!」
「ええ、愛してるわ。でも」
ユリがそこで言葉を遮ったので、ディーノは不安そうに瞳を揺らす。ユリはきゅっと口の端を上げるように笑った。
「背中が痛いのは嫌よ。ベッドまで連れていって」
「scusa,mio principessa」ごめんよ、オレのお姫様
ディーノは笑ってユリを抱き上げた。部下がいないときでも、ユリがいるときは(そもそもユリも部下だが)しゃんとしている。男としての矜持なのだろう。
仮眠用として執務室に置いてあるベッドは、ディーノの主寝室のベッドよりは狭いがそれでもダブルサイズだ。そのベッドの上にユリをゆっくり恭しく乗せた。
「ti amo」愛してる
ディーノはユリにキスをして、服のボタンに手をかけた。








きっちり二時間後、ロマーリオたちは戻ってきた。ユリは既に服を着てソファでカフェラテを飲んでいる。
「ユリー、もっと余韻楽しむとかさー」
「ダメ。仕事が先よ」
「ユリの言う通りですぜ、ボス。そーいうのは休みにやってください」
「とか言って、ユリの休みにオレの休み合わせてくんないんだろー?」
さっきロマーリオに仕事があると言われたディーノはいじけ始めた。いじけつつ、手はサインを記していく。
「…ごほん」
ロマーリオはわざとらしく咳払いをする。ユリはくすくす笑いながら、カフェラテをゆっくりすすっていた。
「それを終わらせたら、明日の夜まで休んでいいですよ。明日の夜は会合がありますから、それには出て下さい」
「いいの!?これ終わったら休み!?」
「そうです。頑張れば今日の夜までには終わるんじゃないですか」
ロマーリオは頷いてみせ、ユリにウインクをした。ユリもウインクで返す。
「やった!頑張っちゃう!」
途端に笑顔になってサインのスピードを上げるディーノを見ながら、ロマーリオはやれやれとため息をついた。ユリは笑っている。
「愛のために頑張ってね、ボス」





ディーノ初個人夢。キャバッローネヒロイン。
ディーノは典型的なイタリア人だといいなーと思っていて、カンターレ、マンジャーレ、アモーレの人だと良いと思ってます。今回はアモーレの話。ヒロインは部下だけど恋人。愛人かもしれないけど…(笑)。

お付き合い有難う御座いました。多謝
2006 2 12  忍野桜拝



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