ロディとゲドの関係
ロディはほうきで空を飛べる日がくると信じて疑わない、天然に素直(騙されやすい?)魔法使い。
何故彼がエステラを師匠と仰ぐのか。それが目下の不思議所。
ロディにとって、自分より魔法力の高い人は、皆尊敬に値するんじゃないかと。
だから、ロディはゲドを純粋に「凄いなー」なんて思っていそう。
ゲドはロディを、変わった奴、と思っていそうです。
純粋なのは認めるが、いささか騙されやすすぎないか? くらいで。
魔力付加
「ゲドさんっ 僕とキスして下さい。」
ゲドの部屋を訪れたロディに突然そんなことを言われ、ゲドは固まった。
返事が無いのを了承と受け取ったのか、ロディはゲドの方へツカツカと歩いてきた。
ロディの手が自分に伸ばされた時、ゲドのフリーズが解けた。
「・・・・・・・・・・断る。」
他の意味に捉えようも無いくらい簡潔なゲドの答えにロディは意外そうに目を見開いた。
「どうして?」
「どうしても何も・・・」
男とキスする趣味など無い。
というよりも、恋愛感情や性欲に振りまわされるのはわずらわしい。
しかし、目の前のロディは、自分に恋愛感情を持っているようには見えないのだが。
「お願いです。ゲドさんの魔力を分けて欲しいんです。」
離身離さず持ち歩いているらしい箒をロディは握り締め、ゲドに懇願する。
「・・・どういうことだ?」
クリスの話では、ロディは何にでも思いこみが激しいというか、信じやすい性質で、初めて会った時にも箒で空が飛べると信じて練習していたとか。
もしかすると、また何か吹き込まれているのかもしれない。
「魔力の高い人の体液を受ければ、魔力が増大するんです。」
ロディは握りこぶしを作った。
「・・・」
「ゲドさんは真なる雷の紋章の継承者で、雷魔法に関する魔力が高いですよね。
だから、分けてもらおうと思ったんです。
本当は真なる水の紋章の継承者がいればいいんですけど、いないですし、火のほうはお師匠様が行かれるそうで。」
「・・・。誰がそんなことを言ったんだ?」
予想はつく。予想はつくが、一応ゲドは尋ねてみた。
「え? お師匠様ですけど・・・」
ゲドは小さくため息をついた。
ロディの師匠であるエステラは、口から出任せを言うことを趣味にしているとしか思えない。
魔力を高めるために臍の出る服を着ていると公言してはばからないが、それを素直に信じるのは弟子のロディくらいだろう。
「お前・・・」
騙されてるぞ、とはっきり言ったほうがいいのだろうか?
「だって僕、お師匠様とキスしたら、火魔法の魔力が上がったんです。これは確かです。」
興奮した様子のロディ。
「・・・」
鰯の頭も信心、というやつだろうか。
「だからゲドさん。僕とキスして下さい。」
にじりよるロディ。
「お前・・・それでいいのか?」
ゲドは矛先を変えることにした。
「魔力とは、己の修行の結果高まるものだろう?
それを安易に、人から得ていては、お前の成長にならないと思うが。」
師匠の言葉には盲目的で、魔法使いのくせに、ぬりかべの紋章球を身につけていたような奴だ。
下手に説得しようとするよりは、論点をずらすほうがいいだろう。
後からエステラに、この、ふざけた論理の訂正を求めればいい。
だいたい、素直そうなヒューゴにはロディを向かわせず、自分に押し付けてくるあたり、面白がっているとしか思えない。
「・・・・・・・」
ロディはうつむいて考え込んでしまっている。
「今まで辛い修行に耐えてきたのは何のためだ?
自分の力で実現するからこそ、夢は尊いのだと俺は思うぞ。」
普段口数の少ないゲドだが、ここは自分の危機だからなのか、立て板に水の勢いでロディの説得にかかる。
「それに、人からの評価も違う。所詮あれは借り物の力なのだと評されたいのか?」
「・・・そうですよね。」
ロディは顔をあげた。迷いの吹っ切れたような、清清しい表情をしていた。
「ええ。僕、今の、真の紋章継承者が身近にいるという状況に甘えていました。
真の紋章なんて関係無い。僕が、僕の力で強くならなければ意味無いんですよね。」
力強いロディの瞳。だが、どこか遠くを見つめているようにも見える。
「僕、がんばります。」
ロディは再び箒を握り締めた。
「ゲドさん、ありがとうございます。貴方の言葉で目が覚めました。
貴方のことを、師匠と呼ばせて下さい。」
ゲドを見上げるロディの目は、崇拝という色に輝いている。
「いや・・・それは・・・お前の師匠はエステラだろう・・・?」
「ええ。エステラ様は技の師匠。ゲドさんは心の師匠です。」
「・・・俺は・・・その・・・お前に稽古をつけてやることも出来んし・・・」
言いよどむゲド。見るからに困惑している。
「いえ、僕が勝手に想ってるだけですから。お気になさらずに。
お師匠様の在り方が全て、見本であり目標です。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
素直過ぎるのもタチが悪いのだと、ゲドは思い知った。
今さらどう言い繕ったところで、ロディに付いてしまったフィルターは壊せない気がする。
なにせ、あのエステラに長年付き添って修行してるくらいなのだから。
「・・・好きに呼べばいい。」
ゲドは諦めた。
大将と呼ばれようと、師匠と呼ばれようと、それは些細なことに違いない。
「はいっ。お師匠様。」
しかし、その響きに疲れるものを感じて、ゲドはロディに気づかれないくらいの小さなため息を落とした。
了(2003.0422)
ギャグになっちゃいました(苦笑) いや、落ちていないからギャグじゃ無いのか?(苦笑)
おやー、おやー、おやおやーーー? シリアスの反動ですかーーー?
そして私、ロディ誤解してますね。 間違い無く。
だってさぁ、あそこまでエステラの言うこと信じてしまうって、凄くありません?
お前、ちったー人の言うこと疑えや! とか思いません? 私は思いましたよ。
しかし、そこまで素直だからこそ、魔力の素質が高いのかなー。とも思ってみたり。
この後、ロディはゲドに付きまとうことに。なにせ心の師匠ですから。
エステラに報告したら、面白がって「ゲドの身近にいることが、今の修行。」とかしれっと言いそうですし。
地味にゲドの体液確保(をいをい)を諦めて無くて、隙あらば狙ってるってのも美味しいな。
なんにせよ、私の中のロディ君は、素直で思いこみが激しく、少し困った感じの押しかけ女房タイプ。(え?)
ゲド、既成事実を作られないように注意してね。(苦笑)