目薬
理想通りのボールアクションで、この勝負の決着をつけるべき９番ボールが、ポケットへ向かって転がっていった。
あと２転がりで落ちる・・・というところで、無常にもボールの回転は止まった。
「うわーーーーーーーーーー。」
中居君は物凄く悔しそうなしかめっ面をして、叫んだ。
「何これ。ありえねーよ。」
今地震が起きたら絶対落ちる、というギリギリの縁。
「惜しいね〜。」
私は名残惜しそうにボールを見つめる中居君を見て、くすくす笑った。
「美味しい配置をありがとう。」
９番ボール、それから最初に当てるべき６番ボール、さらに手玉、という三つのボールが直線上に並んでいる。
しかも５番ポケットのすぐそば。
これはもう、いくら私がビリヤード下手でも、外さないでしょう。
キューを構えた私に向かって、中居君はカメハメ波でも出すみたいに両手を向けた。
「は段々手元が震えだす〜。」
なにやらブツブツ言っている。
「もーーー。集中できないでしょ？ 打とうとしてる時にうるさくするのはルール違反だよっ。」
でも、そんな呪いをかけても、これなら入るってば。
・・・・・・・ほらね。
「あーーー。いれやがった。」
口は悪いけど、別に本気で嫌がってるわけじゃない。
「中居様のおかげです。でも、勝ちは勝ち。私が賭けに勝ったから、今日の食事はイタリア料理〜！」
私は万歳をした。
「オレ今日、寿司って気分だったのにな〜。」
中居君は残念そうだ。
忙しい中居君の久しぶりのオフだから、好きな所へ行くのでも全然ＯＫなんだけど、
やっぱり私もたまには主張しないと。全部言い成りなんて私らしくないし。
でも、一応気を使ってビリヤード勝負にしたんだけどな。
まさか中居君が負けるなんて。
「打つ一瞬前、ちょっと目が霞んだんだよな〜。ぜってーそれが原因だって。」
中居君はポケットから目薬を取り出した。
「んーーー、気持ち良いーーー。」
大きな目をパチパチさせてる中居君は、とっても可愛い。
あれだけ目が大きいと、視界が広いんじゃないかって思ってしまう。
色々なものが見えるから、気配り上手なのかもね。
あと、ゴミ入りやすそうだし、きっと目薬の量も人より多く必要。
「ん？ 、何見てんの？」
その、ぱっちりした目で（しかも目薬直後で潤んでる）見つめられて、私はドキっとした。
「う、ううん。何でも無い。行こっか。」
私は慌てて、手に持っていたキューを片付けた。
中居君がボールをトレイに入れて、準備完了。
「なぁ、食事の後、またココ来ねぇ？」
一緒に歩きながら中居君が私に話しかけた。
「なに、そんなに私に負けたのが悔しいの？」
負けず嫌いなのは知ってるけど、なんか妙にこだわってるなぁ。
「そういう訳じゃねぇけど。なんかさ、二人で遊ぶのって久しぶりじゃん？
食事はさ、空いた時間でなんとかなるけど、ビリヤードてちゃんと時間がある時じゃないと楽しめないだろ？
お前下手だから勝負つくのに時間かかるし。」
確かに、まだ玉の行方が安定しない私は、とんでもない場所にボールを打つから、
自分も他人もやりにくそう。それでも中居君に教えてもらって、だいぶ上達したんだけどな。
「・・・ありがと。」
私は小さく呟いた。二人の時間をちゃんと考えてくれてる、中居君の気遣いが嬉しかったから。
「なーに言ってんだ。そうと決まればさっさと食事済ませるぞ。」
中居君は私の手を引いて、足早に歩き出した。
体は小さいけど、私の右手を引っ張っていくその手は力強くて、やっぱり男の人だよね、なんて変に感心した。
ほんの少し、中居君の手が冷たく感じるのは、私の手が火照っているせいだろう。
だって・・・。ねぇ？ 好きな人に手を引かれるのって、照れない？
「ほら、ちゃっちゃと歩く！」
きっとこれも、お互いの時間を貴重に思うがためのスピードアップ。
「はーい。」
私の声がやけに幸せ一杯だったからか、中居君は振りかえって私の顔をまじまじと見つめた。
「・・・やっぱっておもしれー奴。目が離せないよな。」
「それって、もしかすると誉めてる？ すごく微妙なんだけど。」
「ばーか。」
ちょっと困ったような、ちょっと照れたような、ちょっと優しい声で中居君は呟いて、また歩き出した。
握った手に力が込められた。
きっと想いは繋がってる。
私も中居君の手をぎゅっと握った。
何時の間にか、中居君の手も熱くなっていた。
2001.0522
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もちろんっ、某Ｆ様や、某Ｎ君をおとしいれるためのドリー夢ですわ（笑） |