それはまだ、2人だけで旅をしていた頃。


「おい。」
 ワイアットがゲドの右斜め後ろから、ゲドの右肩に自分の左肘を乗せた。
 自然と、ワイアットの顔はゲドの顔に近くなる。
 そのまま、耳元に声が落とされる。
「3人ずつだな。」
 端目には、今夜の宿でも相談してるようにしか見えないだろう、何気ない表情と何気ない口調。
 乗せられた腕からも緊張は伝わってこない。

 ワイアットがゲドの死角である右側に何気なく回るのは、いつものこと。
 背中を預けられる存在が出来るとは、想像だにしなかったことだが。
 この男は何でも無い風に、それこそ、水が流れ込む自然さで自分の場所を作った。

「ああ。」
 短いゲドの答え。
 目的が金か紋章かは知らないが、こんな、殺気もあからさまな輩など、10人いようと問題は無い。
「上等。」
 右側は見えずとも、隣の男が薄い笑みを浮かべた事が判る。

「じゃ、始めるか。」
 そっと腕が降ろされる。


 軽くなった右肩に、なんとは無しに物足りなさを感じた。


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