ゲートから所在無げに出てきた御剣。すぐにそれを見つけた糸鋸は胸を震わせる。
やっと帰って来てくれた、自分の全てを賭けて守るべき人。
コートを翻してあちこちに目を遣る御剣。その目が探しているのは自分だ。気がつくと糸鋸は駆けつけて、思いきり御剣を抱きしめてしまっていた。

スーツケースを放し、御剣は糸鋸のコートを掴んだ。
暖かい胸の中。あの頃のまま。だが知っている。私のこの気持ちと、キミの気持ちは重ならない。私はそれが…
「苦しい…」
「あっ!すまねッス!」
呻いた御剣を慌てて離す。
「おかえりなさいッス!御剣検事!」
糸鋸の曇りの無い笑顔。検事、御剣怜侍を待っているその瞳。
それに比べて自分はどうだろう。邪な想いを抱いたまま帰った自分。彼がそれを知った時の顔を想像し、御剣は沈む。
「刑事…」
結局こうして会ってしまえば、意識してしまう。そんな自分を御剣はなんとか奮い立たせる。
「大丈夫ッスか。長旅の疲れでも…」
「平気だ。行こう」
いつもの電話の時と明らかに違う儚げな御剣の様子を、糸鋸の刑事の鼻が嗅ぎ付ける。
だが答えを出すのが恐い。
糸鋸はスーツケースを持つと、駐車場へと向かった。

食事は大切だ。その事をすっかり忘れていた御剣は、久しぶりの糸鋸の豪快な食べっぷりに和み、満たされる。
「また一緒に仕事出来るッスよね?答えが見つかったなら…」
「そう、私が見出だしたその答え、キミにも見てもらう。だが、もう一つの問題には未だに決着をつけられずにいる。その答えが出せない以上、また私は向こうに戻らねばなるまい」
「ま、まだあるッスか…」
求めてはいけない真実。それは厳然と御剣の中にある。
「情けないが」
「そんな事…ねッス」
悪い予感の的中に糸鋸は俯いた。どうしてこういう時に自分にすがってくれないのか。
また一人で解決する気なのだ。自分を置いて。

御剣を家に送る車の中で糸鋸が、意を決して声を絞り出した。
「行かないで下さい」
「む」
走行音にかき消されたその言葉に、御剣が振り返る。
車を脇に寄せて止めると糸鋸は叫んだ。
「行かないで下さい検事!」
御剣が俯く。ざわつく心にめまいがしそうになる。
「御剣検事がいなかったら、自分、意味無いッス」
「それは違うはずだ。思い出してみたまえ、刑事になった時の気持ちを。まだ私と会う前、」
「検事だって、今までとこれからはきっと違うはずッス」
「そう…だ」
図星を突かれ、御剣は目を見開いた。
「自分、検事がいるから頑張れるッス。必ず戻るって信じてたから我慢出来たッス。やっと元に戻れると思ったのに、それなのにどうしてまた行っちまうなんて言うッスか!」
「真実が持つ残酷さ。それをキミも見てきたはずだ」
「う…」
御剣の言葉が糸鋸に銃弾のように撃ち込まれた。
ハンドルを握ったままの手が震えてくる。自分の横で街灯に照らされている御剣の横顔。その頬に触れたい。頬にかかる前髪から覗く瞳を、そして唇を自分の唇でふさいでしまいたい。そして…
確かにこの真実は御剣を永久に自分から失わせる力を持っている。
「真実はいつか顔を出す。私にそれを扱うだけの力があるか、確めに来たという意味もある。だが…」
「うう…」
糸鋸は唸る。彼の目には、御剣が淡々とそれを述べるように映る。それが苦しい。
「やってみなきゃ分からないッス。検事は天才ッス…だからこっちでやる訳には…」
無駄だと分かっているが糸鋸は尋ねる。黙って御剣が首を横に振る。そう、キミは…
「まだ忘れさせてはくれないようだ」
御剣の言葉に、糸鋸が顔を上げる。哀しい色を湛える御剣の瞳が自分を真っ直ぐに見つめていた。
御剣を揺るがしたあの事件。未だにそれは彼を苦しめているのだろうか。
それならばまた打ち明けてはもらえないのだろう。あの頃と同じに。
そして糸鋸はその瞳に降伏してしまった。エンジンを掛け、再び走り出す。

誰より大切な男を自分の言葉で傷つけた。
御剣は運転する糸鋸の横顔を眺める。間違ってはいない。そう自分に懸命に言い聞かせる。この先の事を考えれば必要なことだ。共にある。それこそが最優先事項なのだから。
だが運転する糸鋸の目の端が光っているのは。
本当に済まない。御剣は顔を背けた。
私が弱いからだ。この弱さ、この想い。私はきっと奥深く沈めてみせる。だから
「…許してくれ」
御剣の呟きは届いたが、糸鋸にはもう返事はできなかった。


出発の日、糸鋸は御剣を空港へと送った。御剣は一人で発ちたいと言ったが糸鋸は頑として聞かなかった。
「…無茶はするな」
御剣はそんな糸鋸の髪に触れ、その頭に巻かれた包帯に触れる。
「ハッ!」
直立不動の糸鋸。その両肩に手をかける。
「キミが居なければ、それこそもう戻る意味を失ってしまう」
「検事…?」
「誰か一人くらい、私を待っている者がいると信じさせてくれ」
「う…」
隠せない。
「ずっと待っているッス」
隠したくない。
「だから、必ず、必ずまた!」
だが失う訳にはいかない。
「また一緒に…仕事を」
歯をくいしばって糸鋸は耐える。御剣が糸鋸の肩を強く握る。
「また必ず、だ」

肩にかかっていた御剣の両手は離れ、その姿がゲートの向こうに消える。
行かせてしまった無力な自分。悔しさに糸鋸は拳を握り締める。
いつかきっと、共に苦しみに立ち向かう者として認めさせてみせる。

「このままでは…いないッス」





※失踪時はともかくこの時は海外研修の筈なので、イトノコさんも追いかけたらいいと思う。というかそのうち書きたい

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル