警察局と検事局で同時に起きた殺人事件は解決した。
いくつかの波紋を残して。
「御剣検事…」
法廷を後にした御剣の表情はあれから変わらない。それが糸鋸の不安を煽った。悪夢から醒めた時と同じ顔。魂をどこかに置いてきたような。
「笑いたまえ、刑事。私はずっと、他の誰かの書いた筋書きのままに生きていた。本物は奪われ、残るのは紛い物。そして消えていく。いつもそうだった」
「笑えないッス。そんな事に慣れちゃ…ダメッス」
最後の言葉は御剣に静かに睨まれ、小声になる糸鋸。
「まだ私は生きている」
自嘲気味に御剣は呟く。
「それがどんな生き方だろうと、失いたくないものが生まれるのだな。業が深い」
天を仰いだ御剣がまるで涙を流したように見えて、糸鋸は慌てた。
御剣は泣いてなどいなかった。白い息を吐いて顔を戻す。
また振り出しに戻った。幼い頃と同じ。だがその時とは一つだけ違うものがあった。目の前に、泣き出しそうな顔で立ちすくむ糸鋸。
「糸鋸刑事」
真っ直ぐ見つめる御剣の目に心をわしづかみにされて、糸鋸は息を呑む。
「…感謝している」
「ハ、ハッ!」
「これからもその力、罪を逃さぬように存分に奮いたまえ」
「けど自分は…」
「…なんとかしよう」
御剣は目をすがめた。突然目の前の刑事の視線が、自分が闇に隠したものを照らしたように感じたからだ。彼が動けば、どんな捏造も隠蔽も無力となる。先ほど証明されたばかりだ。
「キミの捜査への熱意が真相を明らかにしたのだ。キミは刑事であるべきだ」
「そんな事ないッス。アレは成歩堂弁護士の…おかげッス。それより我々警察は御剣検事に本当に申し訳ない事を…」
糸鋸がうつむいた。視線から解放された御剣が大きく息をつく。
「私が未熟だった。それだけだ」
未熟。その言葉を御剣は噛みしめる。その未熟な自分が隠す罪を、いつかこの刑事は見つけてしまうだろう。そう御剣は思った。
「あの事件の捜査にキミが加わっていたなら、きっと…いや」
糸鋸は御剣の称賛の言葉を素直に喜べないまま、青ざめた彼の横顔に心の中で頭を下げ続けた。
突然御剣が目を上げる。遠くを眺めたような虚ろな視線。
「私は何者だろう」
彼からの評価を密かな想いの代わりにして糸鋸は刑事としてのこれまでを生きた。その仕事が否応なしに結びつけてくれていたのに、結果、裏切っていた事が悔しい。
思わず御剣の冷え切った指を手にしていた。
「御剣検事は御剣検事ッス!自分は検事の法廷に紛い物なんか持ち込ませないッス!絶対!」
「戻ろう」
その手を払うと御剣は歩き出した。糸鋸の熱いその手に自分の罪の証拠を掴ませないために。
そして払われた手の強さに反して、御剣のその背中がやけに儚く見える事に、糸鋸は傷つくよりも不安を覚える。
その不安の事をもっとよく考えるべきだったのだ。すぐに糸鋸は後悔する事になった。



御剣の失踪の知らせは糸鋸にも届いた。
書き置きを前に、糸鋸はそれまでの生涯で最大の叫びを放つ。
“私は何者だろう”
あの呟きに用意されていた答え。
「どうして!どうして死ぬなんて!」
飛び出して、糸鋸は闇雲に走り出す。
溢れてくる涙を腕で拭い、そして知った。自分がどれほど彼を恋うていたかを。

「検事!どこッスか…御剣検事!!」

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