美雲が言った、検事の助手という自己紹介に糸鋸は我を失った。

検事の相棒の座。それすら危ういものだったとはそれまで思いもしなかったからだ。
それはヒーローのようだった父の姿に憧れる女の子の無邪気な言葉だった。だがその時糸鋸にはどうしてもそんな風には思えなかった。


そばにいられればいい、そう思っていた。
天才と呼ばれる検事、御剣怜侍。彼に恋心を抱いて何年経っただろう。
想いを告げる事など出来ない糸鋸としては、彼が自分を片腕として認めてくれる事だけが何よりの喜びだったし、自分の存在を認めてもらおうと仕事に打ち込んできた。

強引なまでに有罪をもぎ取る御剣。その姿は多くの誤解を招いた。
それすらずっとそばで御剣を見てきた糸鋸には好ましく映る。
強引さを発揮するのと同じその心で、御剣は被害者を、残された人を悼む。
その無念を受けて被告の罪を立証していく強さに驚いた。
そこから生まれただろう、様々な苦しみを乗り越えて帰った御剣。
それでも検事でいる事を諦めなかった御剣を糸鋸は尊敬している。

辞める事は簡単だったはずだ。ここから離れる事も。だが自分と交わした約束通り、彼は有罪判決を勝ち取るだけだったそのやり方を昇華して帰って来た。

糸鋸にとっていつしか彼は全てとなった。その想いを御剣がはからずも守ってくれた事に、糸鋸は感謝している。だが。

審査会が御剣に近づいた事で、不安は現実のものとなった。
相棒の座どころか、御剣が検事である事自体危うくなった。
二人の間にあると信じていた信頼関係。
検事と刑事という事実が消えると、それは途端にただの思い出に変わる。
本当は二人の間に確かなものなど何一つ無かった。
それが怖くて、糸鋸は一緒に仕事が出来なくなるのは嫌だと何度も御剣に訴えた。

そして今、検事、御剣怜侍は消えようとしている。
一人の少女の無実を証明するために。

御剣は糸鋸に、ついて来るなと命じた。
刑事である自分を守るための言葉。それは分かる。
だが糸鋸にとってそれは、以前御剣が呵責に耐え兼ねて去った時と同じ悔しさを与える言葉だった。
それにどれだけ傷つくか。それすら言えない事が糸鋸の悔しさを増してゆく。
もう二度とそんな事が起きるはずがないと悠長に思っていた自分が恨めしかった。

御剣が検事でなくなった途端、自分が刑事である事にも意味が無くなるほどの彼への憧れ。
御剣が検事バッジを返却した、あの時まさにそれは行き場を無くした。

このまま縛られたままでいいッスか?

「絶対ダメッス!…けど…」

想いを伝えたら終わり。だが伝えなくても終わりそうになっている。それならいっそのこと。
自分のロジックの帰結に糸鋸は愕然とする。

「そ、それより今は、ミクモちゃんの無実を検事が証明できるように動かないと」

だが隠し続けた想いは、この危機にはっきりとした形をとって膨れあがる。

自分は御剣怜侍と共に。いつまでも一緒に。いたい。

「…検事」
糸鋸は顔を上げ、真っ直ぐ前を見る。
「伝えたい事があるッス」
見据えた先。それはまだ分からない。
「だから待ってて欲しいッス。絶対に助けるッスから」

そして糸鋸は走り出した。愛する人を救うために。





※「真相」でちょっと無謀だったイトノコさんの理由付けをしてみた

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