御剣検事はカッコいい、これには誰も異論が無い筈ッス。何しろあの若さで検事になった天才ッス。傍聴してるオンナのヒト達がウットリしてるの、自分も何度も見てるッス。そのキモチ、分かるッスよ。
けど、自分に言わせればッ! 御剣検事はカワイイッス! みんな知らないッスけどねー。むしろ怖がられてるくらいッス。それまでウットリしてたヒト達が激しい追及に眉をひそめたりして。けど、そんな怖いの仕事だからッスよ。完璧な立証のために妥協を許さないだけッス。当たり前じゃないッスか。ツミを憎んで人を憎まずッス。
あの髪の毛の手触り。ちょっと無い不思議な色で、サラサラでツヤツヤで気持ちいいッスよ。滅多に触る機会は無いッスが。
ほっぺとか二の腕なんか、コドモみたいに柔らかくてぷにぷにしてて。繊細で脆くて、コワレモノみたいに大切に扱いたい。そんな風に思えて。小さく震えて必死に苦しみに耐えてる検事を抱きしめてると、何かいい匂いがして、スゴい力が湧いてきて、そりゃもう無敵のヒーローにでもなった様な気がして、それが嬉しくて、腕の中にずっと置いておきたくなっちゃうッス。いつもはパッとしない自分もこの時だけは誰より強いオトコって事ッス。
細い腰に、スラリとした手足に、キラリと光りそうな切れ長の目は、そう、高級なネコちゃんみたいッス!
いつもツーンってしてて、つれないあのネコちゃんがいつか、自分に甘えてきたり……しないッスかねー……
糸鋸刑事は人好きするオトコだ。一見強面だが、どこかのんびりと和むその雰囲気に、進んで情報提供を行う目撃者達も多い。
だが、それだけでは済まないのも刑事が刑事たる所以で、何かウッカリやらかして小言をもらっては盛大にしょげて見せる。厳しく言い過ぎた気にさせられる程だ。私とて本意ではない。あくまで彼がウッカリしているのが原因であり、私は公正に判断させてもらっている。そうしてしょぼくれている彼にまたか、と浴びせられる苦笑。そう、まただ。良く分かる。
しかし糸鋸刑事こそが立派なオトコというものではないか。何故こんな当たり前の事が皆分からないのだろうか。
捜査中、そして被疑者逮捕の瞬間の刑事然とした凛々しいその風貌。低く穏やかな声。堂々として男らしい事この上ないではないか。
あごを覆うヒゲ。なんとなく伸びてしまったような不揃いなそのヒゲは見た目通りごわごわだ。だがあれが触れると不思議と心地好い事を知る者は私くらいだろう。そうであって欲しいと思う。
全てが誰かを守るために作られているかの様な、大きく温かな彼の体。不意に襲って来る過去を昔ほど恐れなくなったのは、気がついた私が目を開ければいつも、その温もりがそこにあるからだ。あれがあれば私は、まるで犯罪を立証するコンピュータの様な振る舞いしか出来ない自分に、人間らしい心を取り戻せる。
太く逞しい手足。頼もしい背中。その体を屈めて、くりくりした瞳で懸命に証拠を探している彼は、まるで森のくまさんといったところだ。
厶? ならば証拠を届けてくれる彼への礼に、私は歌わねばならないではないか。 ……バカな。