「そう、こういうのッス」
執務室の前に置き忘れられていた雑誌を見ながら糸鋸は呟いた。
【祝福大増量!二人のミラクルウェディング☆】
狩魔の衣装センスにはとうに慣れた糸鋸には前から思っていた事がある。
御剣の師である狩魔豪も、その娘である冥も、首に巻いているヒラヒラにブローチを着けていた。
なのになぜ御剣はヒラヒラのみなのか。
「納得出来ないッス」
執務室に入ってソファに腰を下ろすと、雑誌を閉じて冥の首元を飾るブローチが御剣の首を飾るのを想像してみた。
「ちょっと違うッスね」
あのスーツに合う色。形。
考えている内に、つい眠り込んでしまった。

執務室のソファでいつの間にか糸鋸が寝ている姿にももう慣れてしまった御剣は、微笑みながらそっとデスクに向かおうとして、いつもと違う部分に気づいた。
足元に落ちている雑誌。
拾ってみた御剣はその表紙を見て眉をひそめた。
軽いいびきを立てて幸せそうに寝ている糸鋸を横目で眺める。
仕事に追われる糸鋸が、様々な用にかこつけて、一時の休息を取る時にここを選んでくれる事は嬉しい事だった。
だがいつか、その休息を得る場所はここではなくなるのだろう。
嫌だ。
雑誌を机に置くと、御剣は紅茶を淹れる事に没頭しようと思った。キャニスターを手に取る。産地、歴史、関わった人間、それらのデータを反芻する。そうしなくてはならない。


「うー…」
糸鋸が目を覚まし、体を起こす。見ると、デスクの後ろから注ぐ光が座っている御剣の髪を輝かせていた。
「あ、また寝ちまったッス。済まねッス」
「刑事、紅茶はどうだろう」
「!頂くッス」
御剣からカップを受け取ってにっこりした糸鋸は紅茶に口をつけ、ほっと息をつく。
ふと、辺りを見回して雑誌がなくなっているのに気が付いた。
「検事ー、ここにあった雑誌知らないッスか?」
「これかな」
デスクに戻った御剣が表紙を向けた。
「あ、それッス」
「結婚を考えているのかね、刑事」
「いや、ちょっと検事に見て欲しいッス」
立ち上がると糸鋸は御剣の横に来て机に片手をついてまた紅茶を飲んだ。
「私は結婚など考えていない」
「そうじゃないッス。とにかく見て下さい」
御剣が折られたページを開くと、ティアラがいくつか並んでいた。
「検事、こういうの着けてないッスね」
憮然としていた御剣がさすがに吹き出した。
「わ、私をなんだと思っているのだ。こんなものをかぶって法廷に立ったら説得力がゼロではないか」
「そうじゃなくてデザインを見て欲しかったッス。狩魔検事はここに着けてるじゃないッスか」
そう言うと糸鋸は御剣の首元に手を伸ばした。御剣は突然跳ねた自分の鼓動に驚き、慌ててうつむいて雑誌に向かい、それを隠した。
「あ、ああ、」
「いつかプレゼントさせて欲しいッス」
「…何故だろうか」
「何故って、えーと、着けてないのはおかしいッス!検事の方がずっとずっと華麗な立証を披露してるッス!」
後ろを向いて軽くデスクに寄りかかった糸鋸は窓の向こうを眺めて赤くなってくる顔をごまかした。
「冥が着けているようなものは高価だろう。い…」
いつになることか。そう言い掛けて糸鋸の真剣な横顔を見た御剣は口を閉ざした。
振り返った糸鋸は不思議そうな顔で自分を見上げる御剣に、少し寂しくなった。
自分を信頼してくれるこの人にそんな思いを持つ事自体、その信頼を裏切っている。
だがこの人の真っ直ぐに光る瞳を見る度、思いは強くなってしまうのだ。
本当は大切な人に何か綺麗なものを贈って喜ぶ顔が見たいだけ。
それを振り払うように頭を掻きながら糸鋸は言った。
「本当に、いつになるッスかね」
そう言って、また真剣な顔で御剣を見下ろす。尊敬している。その言葉でこの想いを閉じ込める。
「でもそれが出来るようになった時、自分は御剣検事の名に負けない刑事になっているッス」
その言葉に御剣は目を丸くしたが、すぐにいつもの目を伏せた冷ややかな微笑みを取り戻す。そして静かに呟いた。
「待っている」
糸鋸は知っている。御剣はいつも自分を大切にしてくれる。こんな風に自分ががむしゃらな時、彼は決して茶化したりせず、何度失敗しても信じてくれる。
だから尚更思う。そんな彼にふさわしい男になる。


「キミもいつかは結婚するのだろうな」
ページをめくりながら御剣は呟く。
「自分は…仕事と結婚してるようなもんッスから」
伝わって欲しいとばかりに糸鋸は御剣を見つめたのだが、御剣は雑誌に目を落としたままだ。
だが、いつものようにふっと御剣の口に浮かんでいる笑みは、今はなんだか自分が結婚しない事に彼が安堵しているように見えて嬉しくなった。
「おかわり、下さいッス」
糸鋸はおずおずと空のカップを差し出す。いつかこの台詞が日常になることを願いながら。
「…ああ」
そして本当にその言葉にほっとしていた御剣は、笑みを浮かべたまま今度は取って置きの茶葉を取り出したのだった。





※冥ちゃんのは水晶らしいので、そこまで高いものではないでしょうが、そこは狩魔家に伝わる云々という付加価値で。

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