友人としてお願いする。
そう言って御剣が頭を下げた。
美雲の記憶は戻り、一柳万才の罪は暴かれたのに、御剣のバッジだけが戻らない。
それがまるで御剣の決意を意味しているかのようで、糸鋸は不安になっていたところだった。
友人
その言葉を、その姿を目の前に突きつけられ、糸鋸は唇を噛む。
ただの部下のままではいたくない。そう思った矢先の出来事。だが友人として認められたかった訳では決してない。
そして頭を下げてまで助力を求めてきた事が、一層の悔しさを彼に与える。
いつもの優雅なお辞儀ではなく、真っ直ぐに下げられた頭から必死さが伝わってくる。
そこまでしないと自分が動かない。そう思ってるッスね。
そんな事させるために、証拠を洗い直したんじゃないッス。
自分は検事のためならなんでも出来る、検事のためだけに生きる。そう思ってずっと追いかけて来たのに。
真実を追い続ける検事にとっては、自分は刑事の一人に過ぎないって事ッスね。
検事が検事でいてくれないのに、自分には刑事でいる事を要求するッスか。
あの時の捜査は検事のためッス。
今まで自分は検事の命令を確実に遂行する、そんな相棒としてそばに置いてもらえればいい、そう思ってたッス。たくさんドジって迷惑かけてばかりだったッスけど。
けれどもし、その命令がまたついて来るなとかそんなので、検事がここを離れるような事があったら…自分はその命令をきっと聞けないッス。
検事がいなくなる。それに怯えるのはもうゴメンッス。
相棒ってだけじゃいつまでも不安なままだって気づいちまったッスから。
前みたいに、どうしてもダメだというならその時は…そんな風に頭を下げたら聞いてもらえるッスか?自分のお願い。
友人だって言うなら、自分の助けに頭を下げる程の価値があると言うなら、自分は、検事がまた消えようとしたら、恩着せがましく今日の事を言ってしまうかも知れないッスよ?
それでも糸鋸には愛する人の意志を突っぱねる事は出来ない。
信じて、いいッスね…?
そう願いながら糸鋸は重い口を開く。
「分かったッス…」