正直、糸鋸刑事は頼りない。好きこそものの上手なれ、と言うが、刑事に関してはどうなのだろう。
そんな危なっかしい男だが、私は彼を側に置いておきたい。
あれで捜査を離れた普段の顔は、なかなか頼もしいのだ。
いや、何か根本的にムジュンしているようだが…

まあ失敗してもめげずに努力するところが刑事の持ち味であるし、それが捜査において幾度も功を奏したことも知っている。
困るのはそのデカダマシイとやらで私を陰になり日向になり、支えようとするところだ。
刑事には悪気も他意も無いのが余計腹立たしい。
私は刑事の好意に触れる度、のぼせ上がる自分を抑えているのだ。
私の身にもなって欲しい。たとえば…

執務室を居心地良く整えてくれたり…そう言えばその後執務室に入り浸るようになって、菓子と茶を出せと無言のプレッシャーをかけてくるような…いや、そんな事は。
私の帰りを誰よりも早く迎えてくれたり…そう言えばあの後レストランに直行されて、ここぞとばかりに大量の注文を完食していたような…気のせいだろう。
それに私達には固い信頼関係があるなどと言って憚らなかったりする…そう言えば、私を助けるためとはいえ、いやにあっさりクビになっていたような…


そう、何か不本意な気分になってきたが私は彼に好意を抱いている。
隠し事には慣れているし、刑事は想像もしないだろう。これからも気づかれる心配は無い。
大体、大人の男が子供のように抱かれて落ち着きを取り戻すなど、おかしいと思わないのか!?…思わないのだろうな。
そのおかげで私はいまだに彼の検事殿でいられる訳だが。

給与査定を行使し過ぎたおかげで、私は上司としての責任という名目で堂々と刑事を食事に誘えるが、私にとってそれは本当に大切な時間だ。
一心不乱に食べるその顔に見とれていて、食が進まない私を刑事は叱る。
その顔は存外に凛々しくて、私は素直に食事を続ける事になる。
刑事には悪いが、もうしばらく査定を上げるつもりはない。


刑事は自分の後輩だった女性を憎からず思っているらしい。
刑事とて普通の男なのだから当たり前だろう。
もし私がその…だっ、ダメだ!さすがの刑事でもこれは、
『できないモノはムリ』
などと言って逃げて行くに決まっている!
…面白くない。

面白くないが私は子供ではない。誰より大切な刑事の幸せを応援しようではないか…

「検事!お待たせしたッス!こっちが報告書…検事?」
「プランA:著名なブレンダーを招いてのアフタヌーンティー。B:トノサマンの世界展。C:日帰りで楽しめる神社、仏閣めぐり。そしてそれぞれのプランに合わせ、ディナーにオススメのレストラン…これらから導き出されるのは…スズキさんが薄給の刑事を思いやったという事だろう?私が同行するなら心配はない訳だ」
「違うッス!マコクンには仕事漬けの検事を連れ出せそうなヤツを調べてもらっただけで…ホラ、これッス!明日ッス!」
「うっ…」
「これ取るの結構大変だったッスよ?お願いッス!」
「うぅ…」
「…検事?」
「…貴様はどうしていつもそうなのだ!」
「えっ?えっ?」
「もういい!明日は正午に迎えに来たまえ!私はもう行く!」
「あ、ま、待ってくださいッスー!」





※イトノコさんが取ってきたチケットはティーパーティ。予習も頑張ったと思われる

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